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CASE10 押井早苗の場合

 6人の被験者の元に行った結果は今まで記した通りだ。私は自分の時代に帰り、絶望の中に立たされた。そこに早苗は居なかったからだ。未来は、0の言う通り、変わらなかった。

 私は早苗が生前大切にしていた本を手に取って、床に叩きつけた。こんなもの、なんの慰めにもならない。早苗は居ない。何をしても戻ってこない。

 大学と出版社に迫られて渋々書き上げた私の初めての出版書籍『精神世界の科学的解剖』というお粗末な紙の本は、無様にもバラバラに散らばった。

 その拍子に、外れたハードカバーの裏側が不自然に盛り上がっていることに気がついた。手に取ると紙の端部分が少しめくれている。指で剥がすと簡単に取れてしまった。一度剥がしてから軽く糊付けされていただけだったらしい。そこには手紙があった。彼女のこれまでを告白した、私宛の手紙だった。



『菊埜先生と出会った時のこと、今でも鮮明に思い出せます。自分の運命に、未来に、世界に絶望していた私にとって、先生の「幸せになっていい」という言葉は何よりも求めていた言葉でした。思わず泣いてしまった私を、先生は本気で心配してくださいましたね。

でも、私のせいで日に日に先生が病んでいく様を見るのはとても心苦しかったです。というのも、私の病気は絶対に治らないと、私が一番よく知っていたからです。もっと言えば、私は病気ですらありません。

少し私のことを話します。先生のことですから、私が死んだ今、きっと私のことなど調べ上げてくださっているでしょうけど、私から見た私のことを話させてください。

私の両親は大変な見栄っ張りで、世間体を気にし、そして地元では高金利で有名な金融業者、いわゆる金貸しでした。ヤクザまがいの取り立てて苦しんでいた人が多く居たのも物心つく頃には知っていました。だから私には友だちなどできませんでした。

そんな私と友だちになってくれたのが、愛川ゆりかさんです。

小学校で筆舌しがたい思いをした彼女は、中学に入学するも、そこでもいじめに遭い、彼女は姿を消しました。

誰も彼女を助けようとしなかった。なんとかしてほしいという私たちの声を聞こうとしなかった。親には、そんな子と付き合うなと強く脅されました。いつもなら従いましたが、私は初めて反発しました。両親は激高し、私は寝食も削って勉強させられるようになり、その間に愛川さんは消え、私は中高一貫の私立中学へと編入させられました。それから私の人生は狂ったのです。

私の家庭教師をしていた人や高校生の時にこっそり付き合っていた男の子、大学の先輩、父の繋がりで仲良くなったどこかの社長のお姉さん、私の親の会社から借金して苦しいはずなのに、嫌味を言いつつも私を他のみんなと同じように扱ってくれたおばさん。私と親しくなった人はみんな不幸になって、壊れたり死んだりしてしまった。たぶん、私の両親が裏で手を回していたのでしょう。全員が押井金融と関わりのある人でしたから。

私その時思ったんです。『私が疫病神で、死神なんだ。じゃあどうして私の両親はのうのうと笑って生きてるの』って。

それから私は、親の人生をめちゃくちゃにするにはどうしたらいいかだけを考えるようになりました。世間体を気にする親が一番困ること。私は病気になることにしました。それも原因不明の治らない病気。つまり仮病です。

全ての病気を治せると言っても過言では無い現代の医学でも原因がわからない病気の娘と知ると、みんな恐れて段々と離れて行きました。親の夫婦仲も険悪になっていくのは、見ていてちょっとスカッとしました。仮病だから、薬を飲んだり検査をしたりは少し辛かったけど。無駄なのに大金を使う親を見て、ざまぁ見ろとは思いました。

そうして数年経って、病気のふりにも生きることにも疲れ切ってしまった頃、出会ったのが先生でした。

いっそ先生にはすべて話して協力してもらおうか。それとも先生のお陰で治りましたと言おうか。そうすれば先生とこれからも仲良くすることを、きっと親も許してくれるだろう。それもいいかも。

しかし私の淡い期待は見事に打ち砕かれました。両親が先生を罵っているのを聞いてしまったからです。先生のことまで私は不幸にしてしまう。

たくさんの人を不幸にしたツケもやってきたのか、それからの私の体は仮病ではなく、本当に動かなくなっていきました。きっと何年もそう装っていたから脳がおかしくなってしまったのでしょう。もしかしたら両親が何かしたのかもしれません。それも私にはわかりません。

急激に衰える体に、自分の寿命を悟りました。だからこの手紙をこっそり残すことにしたのです。先生が手紙を見つけても見つけなくても、これでスッキリできました。

先生には迷惑をかけました。最後の最後まで事情を話すかどうか悩むくらい、私は先生のことがとても大切でした。来世では、もう一度先生に手を握って貰えますように。


                           未来の貴方へ 過去の私より』



『CASE11 原沼宗太の場合』に続く

次が最終話となります。お楽しみに!

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