殴り殴られ、星が散る
小学6生のとき、奈良・大阪へ2泊3日の修学旅行へ出かけた。
初日の夜、大阪にある宿泊施設で泊まったときだった。例によって小学生なら誰もが経験するであろう枕投げをやることになったのだ。
ただし二手に分かれ、ただ枕をぶつけ合うだけではつまらないと誰かが言い出し、暗闇の中でやろうということになった。
しかも両手で枕の端をつかみ、相手に殴りかかかる白兵戦をやることに決定した。――なるほど、それは白熱しそうだ。
部屋のスイッチが消され、真っ暗闇の中、いざ敵陣に忍び足で攻め込む。
みんなのクスクス笑いが聞こえる。
枕を真横に振りかぶり、眼の前の気配めがけてぶん殴る。
バカ――――ン!
ヒットすると相手がひっくり返ったらしき確かな手応えがあった。ざまあみろである。こんな気持ちいい感触はない。
ところが油断していると、いきなりどこからともなく、顔面を思いっきり殴られた。こちらが受け身を取る暇もなく、突然やられるのだ。
いくらフカフカの枕でも、遠心力をつけてぶん殴られれば、かなり痛い。
そのとき、興味深い現象をよく憶えている。
というのも、顔面にヒットした瞬間、視界に『星が散る』のである。あのスター――黄色だか白色だかの五芒星の記号が散り、クルクル回るのだ。
漫画でダメージを受けたときの手法や、格闘ゲームでピヨる現象は、殴られた体験者でないとわからない表現だということに気付いた。
野蛮な白兵戦は続いた。
みんなケラケラ笑いながら殴り合った。かなりバイオレンスな勝負なのに、なごやかな雰囲気だった。
バカ――――ン!
ボコッ!
バコ――――ン!
ボスッ!
バカン!
殴り殴られ、星が散る。
暗闇だから、敵味方の区別もつかず、しまいにはみんなで手当たり次第、相手めがけて枕を叩き込んだり叩き込まれたりをくり返した。後半はしっちゃかめっちゃかである。
部屋の灯りをつけてみて、びっくり。
遠心力を利かせた渾身の一撃なので、なかには鼻血を流している者もいる。
昭和はおおらかな時代だった。
そしてみんなで報告し合った。――顔面にヒットした瞬間、星がクルクル回る現象を言うと、みんなが口をそろえておれもだ!と、大笑いした。
どうやら人体はそのようにできているらしいことを共有し合った熱い大阪の夜だった。
了




