私は誰なのか
私はどこから来たのか。
此処はどこだ。ひぐらしの声で目を覚ます。
薄暗い。木々の酸素を吸い込む。
今何時だ、携帯を持っていない。
カバンの中には手帳と万年筆。
手帳には「午後七時、喫茶テルーズ」と書いてある。
喫茶から此処までどうやって来たのか。
夕焼けを見ていると水の煌めきが見えた。
滝だ、少し歩いてみよう。自分の足で。
叩きつけられる水音を聴く。
後ろからシャツの裾を引っ張られる。
「あなたは清四郎ですか?」
小さい子供が話しかけて来ている。
「違います、あなたは?」
子供は悲しそうな顔を見せる、十歳ほどか。
「僕はお兄ちゃんを探しています。」
「お兄ちゃん、いつから?」
「ずっと前から、だから僕は此処で待ってる。」
「お父さん、お母さんは?」
「いません、僕はずっとお兄ちゃんと一緒でした。」
私はどうしたらいいのかわからない。
この子供を放っておくこともできない。
「君、どこで生活しているの。」
「そこの滝の裏、洞窟の中にいる。来て」
「ところで君、名前は?」
「僕は五郎。あなたは?」
「私は照夫。何とでもお呼び。」
私は五郎に手を引かれる。傷だらけの手だ。
「ここ、僕の家だ。落ち着くでしょう。」
反響して恐怖を感じつつ中を見る。
薄暗い、でもひんやりとして落ち着く。
「五郎くん、食べ物はどうしているの。」
「この森では食べるものはたくさんあるよ。木の実、動物とか。」
「自分で採って、食べているの。」
「そうだよ。お兄ちゃんがいつ来るかわからないから。」
確かに華奢ではあるが、健康的ではある。
「お兄ちゃんはどうしてみつからないの?」
「わからない、僕がこの洞窟で目を覚ました時いつも隣に居るのに
その日はいなかったの。雨がすごい日だった。」
「何も言わずに出て行ったの。」
「そうだよ、でも此処にメモがあったの」
五郎くんは私に紙切れを見せる。
「午後七時、喫茶テルーズ」