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天使はヤツを殺せない!

 私は天使だ。神に仕える天使だ。仕事は死者を導くことだった。今は別の仕事をしている。異世界転移をさせるために転移者候補をぶっ殺すことだ。


 そもそもなんで異世界に人をぶっ飛ばさなきゃいけないのか? その理由は異世界に魔王とかいう世界を滅ぼす存在が現れたからである。まあよくあることだ。


 そいつを倒すために一刻も早く転移者をぶち込まなければならない。適当なやつを転移者にするわけにはいかない。なぜなら我々が与える力は強力すぎて素質を持つ者でないと魂が壊れてしまうからだ。


 素質を持つ者の傾向はよく分からない。うだつの上がらないニートだったり、いじめられっ子だったり、格闘家だったり、自衛官だったり、過労死したおっさんだったりと不規則だ。とにかく素質を持つものを見つけ出し、それを殺すのだ。


 殺す手段は人為的なものに限られる。ようするに地震とか火山の噴火みたいな自然災害は使えない。その理由は神様が人一人殺すために無関係な人まで巻き込んではいけないとか主張しているわけではない。


 あの神さまにそんな優しさは残ってない。神界から戦争を観戦して大笑いしているぐらいだ。人が死ぬところが面白いのだという。


 やばい神様だ。そんな神様が自然災害をわざわざ起こさない理由は自然災害を起こすのには膨大な力を消費するかららしい。神様は力を消費したくないし、ついでに戦争を見るのに忙しい。


 なので私が人間を操って転移者候補を殺さねばならないのだ。でもそれには制限があり、私たち天使が操れるのは人間が正気を失ってる間だけだ。例えば酒に酔っていたとかな。あとは薬物乱用しているとか。そんなのしか操ることはできない。もっと力が欲しい。


 まあぶつくさ文句を言ってるわけにはいかない。やっていこう。私はでかい魔法の水晶玉を使って現世の転移者候補を覗く。転移者候補は家を出る。今日は学校なのだろう。こいつは高校生だ。見た目は中肉中背で見た目は普通としか言いようがない。


 歩いて最寄りの駅まで向かっている。私は薬物乱用で気が狂ってしまった廃人を向かわせる。この廃人は薬物を吸いまくって人と目の焦点も合わなくなっている。


 この廃人くらいになるとかなり自由に操れる。最寄り駅の近くで廃人を待機させる。そして転移者候補が近くを歩いている。


 今だ。廃人が私の指示通りに包丁を腰だめに構える。柄にはしっかりと手を添えている。よし。任侠映画で見たとおりだ。これぞ鉄砲玉。一回やってみたかったんだ。


 行け。私の指示に従い鉄砲玉が正面から突っ込んでいく。転移者候補は鉄砲玉を見た。そしてとっさに腰を落とす。鉄砲玉の包丁を避けた。そこからすぐに鉄砲玉の腰を掴んだ。バンザイするように鉄砲玉を持ち上げた。そのままの勢いで鉄砲玉を後ろに放り投げた。


 噓だろおおおおおお。鉄砲玉あああああああ! いくら鉄砲玉が薬物の吸いすぎで不健康でも、不意打ちまでして、そんなに簡単にやられるなんて。いやまだだ。立て。立つんだ! 鉄砲玉あああああ!


 鉄砲玉は私の期待に応えて立ち上がった。転移者候補は駅構内に逃げ込んだ。水晶玉で確認済み。あたりの人に通報もされている。しょっ引かれるまでに殺すんだ。鉄砲玉。


 鉄砲玉は薬物で体の制限が解除されている。まあまあな速さで鉄砲玉は走る。駅の改札を飛び越えて走る。当然、駅係員はそれを許さない。駅係員も警察に通報した。駅係員はさらに駅構内にいる他の駅係員に包丁を持って走る不審者の存在を知らせる。


 鉄砲玉はエスカレーターを駆け上がる。私は警備員やさす股を手に取った駅係員の様子を逐一確認した。よしあの転移者候補がいる駅のホームにはまだ警備員とかがいない。


 やっちまえ鉄砲玉。しかし鉄砲玉は転移者候補を殺っちまうことはできなかった。駅のホームでぶっ倒れたからだ。様子を見るに、これはスタミナ切れだ。鉄砲玉は薬物のせいで不健康だから、持久力がないのだ。薬物で体の制限を取っ払ってもこの程度ということだ。


 私ががっかりしていると警察がやってきて鉄砲玉をパトカーに乗せた。そしてそのまま走っていった。とりあえず殺害が失敗した。次の作戦を考えねばなるまい。


 数日たって次の作戦の準備が整った。自動車を持っている薬物中毒者を見つけた。今回はこの鉄砲玉二号を使って行う作戦だ。作戦は単純だ。自動車で転移者候補をぶっ飛ばしてしまおうという作戦だ。


 スタントマンだって耐えられないように速度は自動車が出せる限界まで出す。よし青信号を転移車庫候補が渡ろうとした。今だ! 鉄砲玉二号。


 鉄砲玉二号がアクセルを踏む。加速できるよう少し離れたところから走り出す。転移者候補に鉄砲玉二号の自動車が勢い良くぶつかろうとする。行けええええ! 私は思わず叫んだ。


 転移者候補の顔は青ざめている。いい顔をしておるわ。このまま死んでしまえええええ。そう思ったときだった。とっさに転移者候補は前傾姿勢を取り勢いよく前に跳んだ。


 自動車は転移者候補にぶつかることはなかった。代わりに赤信号の前で待機していたトラックに衝突した。すぐさま周辺の人が警察やら救急隊やらに通報した。すぐに周囲は野次馬であふれた。


 またしても私の作戦は失敗した。もうこうなったら手段は選ばない。もう十分選んでいないような気がするが、気にしたら負けだ。何に負けるのかはわからないがね。


 次の廃人に爆弾を闇市に買いに行かせた。やっぱ薬物中毒者は闇市につてを持っているから便利だ。とても天使が言うようなセリフじゃないが、それはもう今更だ。


 そもそも人間たちが天使に抱いているイメージがおかしいんだよ。どこの世界にあんな優しいのがいるんだよ。知り合いの天使どもは神さまと一緒に戦争を見ながら大笑いしてんぞ。


 とりあえず廃人を爆弾魔に任命して、家の前で爆弾を起爆させる。時限爆弾なんて言う時間のかからないものは使わない。すぐに爆発するのを使う。逃げる暇など与えない。爆弾魔も死ぬだろうが、そんなの構わない。


 ここで死ぬのだ。転移者候補は死ぬのだ。ようやくだ。爆弾魔は爆弾を家の前に置いて起爆ボタンを押そうとする。


 家の扉がいきなり空いた。どういうことだ。転移者候補が家から素足で飛び出てきた。爆弾魔が反応する前に後ろに回り首を強く絞めた。爆弾魔は必死に振りほどこうとする。


 しかし絞め技から逃れるコツを知っているわけでもなく、絞め技を力任せに外せる筋力もない爆弾魔には暴れることしかできなかった。爆弾魔は意識を失ったまま、転移者候補が呼んだパトカーに乗せられて旅立っていった。


 どうしよう。もう殺害方法が思いつかない。今日はもう寝よう。現実から逃げるために私は夢の世界に旅立っていった。


 夢から覚めた後に水晶玉を覗き込んだ。転移者候補は今どうしてるのかな。こんにゃくゼリーを食べていた。目が怖い。もし今の転移者候補の食事を邪魔する奴が噛みつかれるのではないか?


 このままこんにゃくゼリーを喉に詰まらせて死んでくれたらいいのに。まあそんなわけないか。そう思ったとき、何かが倒れた音がした。


 気になって水晶玉を覗き込むと、転移者候補が横たわっていた。ピクリとも動いていない。あまりのことに理解が追い付かなかった。


 包丁を避けて、自動車も避けて、爆弾の存在まで察知した転移者候補が、まさかこんにゃくゼリーで死ぬなんて。


 しばらく私は転移者候補の死を認められなかった。まあ死んだことには変わらないし神さまに報告しに行った。


 「神さま。転移者候補殺しました。これで魔王討伐の準備ができますね。」


 私の報告を聞いて、神さまは何かを思い出したように言った。


 「魔王もう死んでる。」


 私はしばらく頭が回らなかった。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。


 とりあえず話を聞こう。少し私は落ち着いた。そして出来るだけ声が裏返らないように聞いた。


 「何があったんですか? 」


 神さまは面倒くさそうに話し始めた。今にもあくびしそうな顔だ。


 「えっとね。現地の英雄一行が決死の覚悟で刺し違えた。だから魔王死んでる。もう転移者いらない。」


 今までのは何だったんだあああああ! 私はしばらく寝込んで仕事に出れなかった。でもいつまでもへこたれていられない。神さまが持ってくる面倒な仕事はまだ終わらない。私のお仕事は始まったばかりだ!




 


 

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