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1-3

「は、放してよ!」


「ほら、猫みたいに暴れない」


「こら、桃。だったら人様を猫みたいに掴まない。穏便に済ましたかったのに、まったく…」


菊次郎が桃に指定された場所に行ってみれば、先ほどの少年が彼女に首根っこを掴まれていた。男の子とは言え、細身の少年では、体育会系の桃の拘束を振りほどけないようだった。


「それで菊ちゃん、とりあえずこの子を捕まえたけど、どうするの?」


「えぇ、なにそれ?この人、理由もわかってないのに、いきなり俺を掴まえたの?」


桃の拘束下で、少年が呆れた声をあげる。まだ声変わりを経ていないこの時期の少年特有のソプラノ。


「いや、なに、取って食おうってわけじゃないし、もちろん人さらいでもない。さっき喫茶店で一緒にいた外人さんから受け取っていたもの、それを俺たちにちょっと見せてほしいだけなんだ」


「…それ、俺が従う必要ある?このまま、大声出してもいいんだけど」


警戒した目で菊次郎を睨みつけながら、自分の腕の中のカバンをきつく抱きしめる。


「なかなか肝が据わった少年だな…。さて、どうしたもんか」


今はたまたま周りに人がいなかったからよかったものの、今の時代、通行人に写真でも撮られてSNSに上げられでもしたら大事になってしまう。


「あーっ!」


「「!」」


いきなり甲高い大声を出したのは少年ではなく、桃。耳に入ってきた予期せぬ叫びに菊次郎と少年は顔をしかめた。


「君、どっかで見た顔だと思ったら、サッカーで有名な子でしょ?ニュースで見たことあるよ。菊ちゃんも知ってるでしょ?」


「っ!」


「いや、あんまりサッカーは詳しくないんだけど…。少年の反応を見る限り、そうみたいだな」


「確かヨーロッパのどっかの国のクラブチームに留学してるんだよね?あれ、けど、その制服って、”四中”のだよね?ここら辺の子だとは知ってたけど、今は日本の学校に通ってるんだ?」


「…」


「なるほど…なんとなく察しはついたな。少年、べつにそのカバンの中を見せなくていい。けど、さっきの喫茶店の会話を当てて見せようか?」


「なんだよ、それ?どうせ店で盗み聞きしてて、それを言うだけなんだろ」


「ははっ、頭もよく回る子だ。 まぁ聞いてくれよ。…そうだな、君は何かしらの理由でサッカーを続けられなくなった。けどあの外人さんにそんな理不尽をなんとかできる”奇跡”があると紹介された」


「っ!」


歳の割には肝が座り、利発な少年であるが、年相応に素直で、まだ腹芸などは出来ないらしい。先ほどから言葉にせずとも、答えが顔に出てしまっている。


「当たりのようだね」


「えーっ!なんで菊ちゃん分かったの?」


「まぁ、こういう話の常套句だな。カバンの中の物が本物であれ、偽物であれ」


だが、菊次郎には目の前の少年が手にした物が本物であるという確信があった。


先ほど喫茶店で桃から相談を受けた女子高生の行方不明事件。これを聞いていなければ、中学生の子をからかったタチの悪いジョークだと思っていたに違いない。


逆にこの少年と会わなければ、行方不明もただの家出だと決めつけていた。


だが2つの出来事が、同じタイミングで、同じ場所で菊次郎の耳に入った。


偶然、桃の同級生の行方が分からなくなり、

偶然、怪しげな道具の受け渡しに鉢合わせ、

偶然、それをあの喫茶店、「Indiana」で聞いたのだ。


『偶然が重なっていいのは2回まで。3回重なったら、ろくなことにならないから気をつけな』


思えば、この言葉をしつこく聞かされたのも菊次郎が、少年と同じ歳の頃だったか。 目の前の少年は、会話の内容を当てられて呆気にとられたのか、それとも桃の雰囲気に当てられて毒毛が抜けたのか、すっかり大人しくなっている。


「まずは自己紹介からしようよ!私、西田桃(にしだ もも)!」


蘭丸(らんまる)…、紅蘭丸(くれない らんまる)


やはり根は素直な子なのだろう。会ったばかりの女子高生と中年に差し掛かった男に、自分の名を名乗った。


紫菊次郎(むらさき きくじろう)だ。よろしく、少年」

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