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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

婚約者様、それはパワハラ・モラハラというものです

作者: よぎそーと

「ショーワル侯爵令嬢。

 お前との婚約を破棄する」

 そう告げる王子は手にした剣の切っ先を突きつける。

 侯爵令嬢の喉にピタリと。



 告げられた侯爵令嬢はさすがに震えてる。

 顔も青ざめている。

 切っ先はまだ突き刺さってないが、鋭さは感じる。

 王子が本気なのは疑いようがない。



 というより、周囲の状況を考えれば戯れでないのは明らかだ。

 貴族学校の卒業記念パーティ。

 その会場であるこの場は、既に死体が転がってる。

 いずれも、卒業予定の貴族子女と。

 来賓であるその親。

 それらが積み重なっている。



 そうしてるのが王宮の近衛兵であるのも一目瞭然だ。

 なにせ、近衛兵の戦闘服を身につけてるのだから。

 しかも、易々と卒業パーティに入り込んでる。

 となれば確実に有力者の手引きがある。

 この国一番の。

 それが誰かなど考えるまでもない。



「いったい、なぜ」

 震える声で尋ねてしまう。

 そこに普段の威厳はない。

 威厳というより、威張りちらしてる傲慢さと言うべきだが。



 こんな状況なのだ。

 王子が突きつけた切っ先がいつ突き刺さるか分かったものではない。

 婚約者だった侯爵令嬢もバカではない。

 それくらいの事を今の王子はやる。

 そう察する事は出来た。

 自分が危機に立ってるという事を。



 ただ、なぜなのかが分からない。

 どうしてここまでするのか。

 貴族を親子共々殺している。

 そこまでするだけの理由はいったい何なのか?



 そう思った侯爵令嬢は尋ねずにはいられない。

 なぜなのか?

 死ぬにしても理由くらいは知っておきたかった。



「なぜ、か────」

 侯爵令嬢にとってありがたい事に、王子はお喋りに付き合ってくれた。

 その時間の分だけ侯爵令嬢は生きていられる。

 しかし。

「そうだな」

 言いながら王子は剣を振った。



 喉から離れた切っ先が侯爵令嬢の足を突き刺す。

 それから腕を。

 逃げたり何かが出来ないようにしていく。

 急所を貫かれたのか、侯爵令嬢の手足は動かなくなった。

 それだけで侯爵令嬢は察する。

 王子が自分を生かしておくつもりがないと。



「理由なら簡単だ」

 床に這いつくばり血を流す侯爵令嬢。

 出血によりいずれ死ぬだろう女に、王子は説明をしていく。

「パワハラにモラハラ。

 お前のしてる事はあまりにも酷い」

 それが王子が行ってる殺戮。

 否、断罪の理由だった。



「この学校に通ってる平民。

 彼らへの態度があまりにも酷すぎる」

「え…………?」

 予想外の理由だった。

 侯爵令嬢には言ってる意味が分からなかった。



「彼らは平民とはいえ、学校に通って教育を受けてる者達。

 それを無教養な獣扱いとは」

 王子はため息を吐いていく。

「ですが、それは────」

「身分の違いをわきまえろ、というのか?」

 言いたいことを先取りされ、侯爵令嬢は黙ってしまう。



「まず、彼らは平民だ。

 貴族ほど礼儀作法は習わない。

 だからこそ、彼らには簡略化された礼儀でかまわないとしている。

 それを彼らはしっかりと守ってる」

 事実だ。



 平民は子供の頃から入念な躾を受けてるわけではない。

 ここが貴族とは違う。

 そもそも、礼儀作法などを学ばせる余裕がない。

 今は現国王の政策により教育も普及してきている。

 それでも、学校で学べるのは平民の一部だけ。

 比較的裕福な者達などに限られる。

 あるいは、何らかの幸運を手にした者だ。



 そんな者達に貴族と同等の礼儀作法を身につける時間などない。

 だからこそ、簡略化された礼儀作法で良しとされる。

 そして、貴族学校にやってきてる平民はこれらをしっかりこなしてる。



「それを貴族と同等に出来ないからと責めるのはどういうつもりだ?」

 王子からすれば、まずここが理解できない。

 する必要もない。

 やるべき最低限を貴族学校に通う平民生徒はこなしてる。

 それ以上に何を求めるというのか?



「のみならず、平民生徒は貴族に失礼にならないよう常に気をつけている。

 それこそ、少しでも貴族の礼儀作法を知ろう、身につけようと励む者もいる。

 たとえ動作が伴わなくても、貴族への敬意を示そうとしている」

 これも事実だ。

 多少なりと何かを学んできた者達だ。

 自分達と貴族の間にある差など理解している。

 だからこそ、少しでも非礼無礼にならないよう努めている。



 更にいえば、貴族学校に通わせてるのは、そういった素養のある者達だ。

 成績優秀でも礼儀作法などがどうしても苦手な者。

 何より心遣いが出来ない者。

 こういった者は排除している。

 いらぬ問題が発生する事を恐れてだ。



 言ってしまえば、貴族学校に通ってる平民生徒は選ばれた者達だ。

 貴族と無駄な軋轢を生まないように。

 そういう気配りが出来る者が集められている。



「そんな者達をことさら詰るとは。

 どういうつもりなのかさっぱり分からん」

 分かりたくもない、王子はそう心の中で続けた。



「ですが、あの者達のしようは────」

「調べた限り、問題はない」

 再び王子は声を遮る。

「聞き取り調査もした。

 記録用の魔術監視装置も調べた。

 そのどれもで、平民生徒に問題は無い」



 記録や聞き取り調査ではっきりしたのだが。

 平民生徒は彼らの知る限り丁寧に行動していた。

 簡素化された略式の礼儀ではあるが、貴族の子女にしっかりと示していた。

 そこに一切の問題は無い



「問題があるなら、平民生徒達のしようを認めないお前らだ」

 そう言って王子は言い分けを断ち切る。

 聞くに値しない妄言だと。



「しかも、平民生徒に日常的に嫌がらせを仕掛けてる」

「そんな事はしてません!」

 さすがに侯爵令嬢は反発した。

 やりようが無いのだから。



 平民生徒の通う教室に上位の貴族はいない。

 さすがに一緒にさせると問題が起こるという配慮からだ。

 なので、平民生徒は下級の貴族と一緒になる。

 侯爵という上位貴族の令嬢が日常的に接点を持てるわけがない。



 そんな事は王子も承知している。

 だが、糾弾の声を止める事はない。

「そうだな、直接はしてないな」

「……どういう事ですか?」

「配下や傘下の下級貴族に嫌がらせをさせてる。

 よくやるもんだ」

 王子はあきれ果て、そして憤りを更に募らせていく。



 直接手を下せない。

 ならば部下や手下を使う。

 よくある話だ。

 上位貴族ならば特に。

 人を使ってナンボのお仕事である。

 手足の如く動かせる者などいくらでもいる。



「そんな手足になる輩を使っての嫌がらせ。

 直接手を下してないからと言い分け出来ると思ってるのか?」

 既につながりは把握している。

 平民生徒に嫌がらせをしていた者達を締め上げ、証拠は手にした。

 自白剤すら用いて徹底的にやった。

 もちろん、魔術による記録装置も用いてる。



「まあ、全員が好んで実行していたわけではないが」

 それだけがささやかな救いだった。

 貴族であっても平民を虐げる事を良しとしてる者ばかりではない。

 侯爵令嬢やその他の貴族が行ってる平民虐待を苦々しく思ってる者もいる。

 全体の一割にもみたない小数であるが。

 この学校でも数人くらいしかいなかった。



「お前の命令で仕方なくやってる者もいた。

 そういう者達はさすがに多少の恩情はくれてやるが」

 それでも降格などは免れない。

 爵位を落とし、領地の縮小や剥奪もある。



 その程度で済まそうというのが恩情だ。

 それ以外はもっと酷いのだから。



「何故、そこまでやるのか分からんが。

 やらかした事の償いはしてもらうぞ」

 その結果がパーティ会場の惨劇である。

 転がる死体に流れでる血。

 自分のそのあとを追うのだろうと侯爵令嬢は察していた。



「馬鹿なことを」

 侮蔑の思いを隠しもせずに言い放つ。

「平民生徒達は、いずれ貴族と接して仕事をする事になる。

 だから事前に研鑽をつんでもらうためにここにいるのだ」

 これは現国王の行ってる国策でもある。



 とりあえずではあるが、平穏と平和が長く続いている。

 そうなると身分を超えた人材の登用も必要になる。

 別に大きな地位につけるわけではなくてもだ。

 官公庁や役所で働く平民も増えている。

 一般の職員やそれらを束ねる地位や立場に平民が付くこともある。

 そうしていかないと今後の国政運営が滞る。



 そもそもとして、貴族は全人口の数パーセントだ。

 これだけの人数で政治の運営が出来るわけがない。

 中枢は王侯貴族が担うにしてもだ。

 末端の業務などの実務は平民を登用していかねばならない。

 単純に頭数が足りないからだ。



 人数を補う事だけ考えても平民の登用は避けられない。

 また、才能や能力という部分でも平民を使わねばならなくなる。



 教育環境が整ってる貴族は、全体的に見れば平民より優れた者が多い。

 だが、平民にだって素質や才能を持ってる者はいる。

 そういった者達に適切な教育を施し、高度な人材を確保する。

 そうして、優れた人間を増やして国力を底上げする。



 現国王はそこを見据えて行動している。

 その成果はまだ小さいが、確実な結果を出している。

 これを今後も更に拡大していこうとしていた。



 とはいえ、さすがに平民をすぐに大臣に据えるというわけではない。

 それだけの才能や能力があればともかくだが。

 まずは官公庁や役所の末端の作業をこなしてくれれば良い。

 教育を受けた平民は、そういった者達の上に立ってもらいたいのだ。



 貴族と平民には考え方に違いがある。

 それまでの経験が違うのだから当然だ。

 学んでる事も違う。

 貴族は読み書きや計算に始まる学問を。

 平民は生まれた家の仕事にかかわる技術や知識を。

 それぞれ違った事を学んでる。

 どうしてもそこに違いが生まれてしまう。



 この違いによる衝突や摩擦がそれなりにある。

 こういった事態を防ぐために。

 起こってしまった場合にすぐに解消できるように。

 貴族との接点のある者達が欲しいのだ。



 平民生徒が貴族学校に通ってるのはこの為でもある。

 貴族学校で貴族が学んでる事を知り。

 ある低度接触を持つことで対話の仕方を身につけてもらいたい。

 今後を見据えた施策の一つだった。



 その邪魔をしてるのが貴族だ。

 王子の婚約者だった侯爵令嬢のような。



 平民というだけで生理的に嫌悪感を持つ貴族は多い。

 そういった者達は平民の登用もやむなしという現実を見ていない。

 自分達の職分であり特権である政治に携わる事。

 貴族だけしか事実上不可能だった学ぶ機会を得る事。

 そこに平民がやってくる事を認めなかった。



 そうでなくても、平和で平穏な世の中だ。

 こういう時に力を付けるのは、生産や商業などだ。

 これらを生業とする平民の生活は豊かになってきている。

 だからこそ、平民の中にも学習の機会を得る者が増えている。

 衣食住に困らない生活が出来てなければ、学ぶ時間を確保する事など出来ないのだから。



 そういった者達に自分達の立場や特権を奪われるのではないか。

 そう心配する者が出て来るのも当然だ。

 没落する貴族もいるから、あながち見当違いというものでもない。



 だが、貴族とてもとを辿れば平民である。

 その中で研鑽を積み、功績を挙げたものが取り立てられて貴族となったのだ。

 世襲で親から子供へと受け継がれる地位ではあるが。

 それとて、初代となった者が成り上がった結果だ。

 種属がそもそも違うというわけではない。



 ある意味、基本に立ち返ってるだけだ。

 才覚あるものを取り立てるという。



 それを侯爵令嬢の他、様々な貴族は邪魔をした。

 放置が出来ないほどに大きく。

 現国王が始めた平民の取り立ては、それなりの成果を出している。

 一部の官公庁や役所では平民出身の役職者も出てきている。

 それらは職務を誠実にこなしている。

 滞りがちだった仕事が滑らかに動きだしてるという話も出てきている。



 貴族達の邪魔は、この動きを妨げるものだ。

 許されるものではない。

 政治の動きに滞りを発生させかねないのだから。



「だから一掃する事になった」

 出血多量で床に伏せた侯爵令嬢に王子は説明を続ける。

「今日ここに集まってるのは、お前と同じ平民排除派の貴族だけだ。

 一網打尽にするためにこのパーティを使った」

 それだけではなく、王都にいる貴族も多くも成敗されていっている。



「特にお前の実家とその傘下の貴族は酷いものだ。

 領地で凄惨極まる統治をしてるからな」

 王家の調査で判明している事だ。

 侯爵令嬢の実家では民が困窮し、逃亡する者も出て来ている。

 令嬢の手下となってる者達の実家も同じだ。

「それらは全て潰す。

 民を救うためにな」



 その為の端緒として王都における貴族の始末が始まっている。

 ここを起点として、国内各地の掃除をしていく事になっている。



 当然、貴族の数は大幅に減る。

 国政を担う者達の多くが消える。

 政治の運営に滞りが出る事になる。

 これも覚悟の上だ。



 だが、問題はさほど大きくは無い。

 貴族は平民排除派だけではない。

 現実を見て平民の登用もやむなしと妥協する者。

 積極的に歓迎する者。

 そういった者達もかなりの数がいる。

 これらの貴族が空いた穴を埋める事になる。



「さいわい、彼らは優秀だ」

 実際に実務をやらせてみると、上手くこなす者が多かった。

 これは嬉しい誤算だった。

 国を傾けずに済む。

「むしろ、お前らの方が問題だった」



 平民排除派のほとんどが様々な問題をおこしていた。

 国税以上の税負担を領民に強いて、差額を懐に入れていたり。

 必要の無い事業や、架空の事業で国庫から金を引き出したり。

 要職を自分の派閥だけで固め、有利な条件を引き出したり。

 邪魔な者達を左遷、場合によっては暗殺していたり。

 この他にも様々な問題をおこしていた。



「そんなお前らを処分することで、もう少し政治は良くなるだろう」

 百害あって一利無し。

 それが平民排除派の貴族だった。

 いっそ、国政独裁派といっても良いかもしれない。

 政治を独占していたのだから。



「清濁併せのむならまだしも」

 そんな覚悟や胆力からの行動ではない。

 あくまで自分の利益だけしか考えない。

 そんな連中だ。

 居ない方がよっぽど良い。



「それにだ」

 王子にとって一番大事なのはそこではない。

 政治を蔑ろにするつもりはないが、もっと重要な事がある。

「お前との付き合いも嫌気がさしてたからな」



 もともと王子は侯爵令嬢を嫌っていた。

 子供の頃から傲慢で横柄な態度が目についていたからだ。

 王子に対しても様々な嫌味をぶつけてきたものだ。

 成長してからは慇懃無礼というものになり、最悪さに拍車をかけていた。

 そんな人間と婚約したのは、宮廷内の政治力学によるものだ。

 王家も好んで侯爵令嬢との婚約をしたわけではない。



「この悪縁も今日で終わる」

 すがすがしい気分を王子は味わっていた。

「だから、さっさと死ね」

 それが侯爵令嬢に放った最後の言葉になった。

 床に倒れる侯爵令嬢、その頭に剣の切っ先がめり込む。

 続いて、心臓などの急所に。

 魔術による治療のある世界だ。

 少しでも生きかえる可能性を残すわけにはいかない。

 確実に仕留め、決して蘇生しないようにせねばならなかった。



 それが終わり、王子はようやく肩の荷をおろす事が出来た。

 己の利しか考えない連中が消えた事で。



「終わりましたよ、父上」

 パーティ会場での殺処分が終わり。

 王宮に帰った王子は報告をする。

「ごくろう」

 短く、だが柔らかく国王はねぎらった。



「それで」

 簡単ながら報告が終わったところで、王子は砕けた口調になる。

「とりあえずこれで一息つけるのかな」

「さあなあ。

 さすがに簡単にはいかんだろ」

 国王もざっくばらんな調子で応じる。



「けどまあ、厄介なもんだね、貴族ってのは」

「そんな貴族と俺は何十年もやりあってきたんだよ。

 少しは分かってくれ」

「心中お察しします…………って言えばいいのかな」

「そう言ってくれるだけでも救われるよ」



 王子と国王は親子の間柄すら取っ払って語り合っていく。

 そこには、王と王子という身分もない。

 父と子という関係もない。

 いっそ、同年代の同士というような気安さがあった。



「お互い苦労するな」

「まったくだ。

 異世界転生なんて、やるもんじゃない」

 同じ境遇に陥った二人は苦笑しながら互いにいたわりあっていく。



 この王子と国王。

 言ってる通りに異世界転生をしてきた元日本人である。

 そのため、この世界の常識とは違った考え方を持つ。

 それが原動力となって、国政改善に励む事になった。

 このままでは国が崩壊すると見ての事だ。

 それだけ平民排除をうたう国政独裁派の存在は脅威だった。



 増え続ける税金と借金。

 その全てが国政独裁派の贅沢と支配の為に用いられていた。

 これをどうにかするべく、先に生まれていた国王は少しずつ行動を起こしていった。

 幸い、同じように転生してきた者。

 ひょんな事から日本から異世界転移してきた者。

 これらと出会う事で派閥を形成。

 国内の正常化に勤しむ事になる。



 その集大成がこの日の貴族学校卒業パーティでの貴族処分であり。

 王都にいる貴族の大粛正だった。



「それで、地方の方はどうなってるの?」

「国軍が動いてる。

 潜伏してる工作員と接触して、あとは現地で行動を起こしてく事になる」

「上手くいくといいけど」

「ま、どこかで少しは漏れが出るだろうな」

 こればかりは仕方ない。

 完璧にこなせれば良いが、そうもいかないのが世の中だ。



「まずは半分くらいは上手くいけば御の字」

 それくらいに考えてないといけない。

 シクジリはどうしてもどこかで発生する。

 出来るだけそれが小さなものであるよう願うだけだ。

「まあ、失敗は補えばいい」

 それくらい気楽に構え、出来るだけの備えをしておくしかない。



「あとは立て直しをがんばるしかないか」

「これからも大変になる。

 がんばってくれよ、王子様」

「出来る限りの事はしますよ、王様」

 そう言って二人の転生者は笑い合った。



 その後も国内で様々な騒動が起こる。

 だが、入念に準備した国王の策は上手くいく。

 地方の制圧と掌握は順調に進み、悪政を敷いていた者達は首をさらす事になる。



 この動きに多国も介入の機会を伺うが、国境は軍が展開。

 守りを固めて介入を阻んだ。

 国外に成敗するべき貴族が逃げる事を阻むためでもある。

 実際、逃亡をはかる貴族が何人も捕まった。



 それでも何人かの貴族は国外に逃亡し。

 それを抱えた他国が侵略の材料にしようとした。

 だが、そういう国には外交で糾弾。

 確保してる貴族の身柄を要求。

 返還しないなら、それを理由に侵攻していった。



 どうせもともと侵略の意思をもってた国だ。

 攻めこんで国土を荒らし、すぐには攻めこめないようにしてやった方が良い。

 そう考えた国王は、容赦なく逃亡貴族を囲ってる国を蹂躙した。



 これが功を奏して、周辺国は侵略を断念。

 外交的な糾弾に行動を留めた。

 また、要求されていた逃亡貴族を呆気ないほど簡単に送り返しもした。

 手枷足枷付きで。



 そうして捕らえた貴族は老若男女の区別無く断首。

 貴族の周辺の取り巻き共々この世から退場させていった。



 その間に国内の立て直しも進めていく。

 当初は幾らかの問題も発生したが、2年か3年も過ぎる頃にはそれも消えていき。

 5年も経つ頃には以前よりも過ごしやすい世の中になっていた。



「これで国政独裁派の残した借金が無ければねえ」

 国王と共に国政におわれる王子はぼやく。

 憂いが消えても残された問題はそのままだ。

 独裁派の贅沢に使われた借金はまだ残ってる。

 これらの返済には、まだ10年20年という時間が必要になる。



 だが、余計な負担が消えた事で先行きは明るい。

 出費は大幅に減らす事が出来た。

 その分だけ税金も下げる事が出来た。

 おかげで国民の負担も減っている。

 豊かというほどではなくても、困窮する者は減った。



「まあ、まずまずってところかね」

 年々減っていく国の借金。

 着実に上がっていく、国冨。

 それを示す資料や図表を見ていると安心する事が出来る。



「我が子が王様になるくらいには、借金も消えてるかな」

 油断は出来ないが、その頃くらいには国政独裁派の残した傷も消えてる事だろう。

 そうなるように頑張っていかねばならない。

 ただ、無理をしてでも、というわけではない。

「嫁さんと子供の顔を見る時間は確保しないと」

 その為にも仕事漬けになるつもりはない。



 婚約者だった侯爵令嬢を始末したあと。

 王子は別の娘との交際を始めていた。

 平民生徒だったものだ。

 聡く、気立てのよい娘で、一緒にいると心がなごんだ。

 もともと日本で生きていた頃は一般人だった王子だ。

 貴族よりは平民の方が馴染みやすい。



 ただ、娘は平民だったのでさすがに正室は難しい。

 なので、側室という形で王子と結婚する事になった。

 身分という面倒なもののせいではあるが、これは仕方ないと王子は割り切った。



 ただ、他に女は必要ないので、妃は元平民の娘だけとなる。

 側室だけになるが、それでも問題はない。

 歴代の王にはそういう者もいた。

 正室を下手にすえると、宮廷内の政治権力の均衡が崩れるからだ。

 今回も似たようなものだと思ったので、正室や他の側室は作らないことにした。



 そんな王子と側室となった娘の間には子供が二人生まれた。

 三人目も腹の中にいる。

 このままいけば、四人目や五人目も授かるかもしれない。



 そんな家族との時間が王子にとってもっとも大事なものだった。

 その為に仕事を片付けていく。

 なお、本日の仕事はまだまだ山積みになっている。

 簡単なものは既に片付けているのだが。

 そうでないものがどうしても残ってしまう。



「なんとか定時までには帰りたいなあ……」

 ぼやきながら書類を引っ張る。

 次の案件を片付けるために。

 そして、ため息を吐いていく。



 そんな毎日が続いている。

 大変ではあるが、国は概ね平和で平穏だった。

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FANTIAもやってるので。

良かったらこっちもおろしく。


小さな話も幾つか置いてもいるので。



FANTIA【よぎそーとのネグラ 】

https://fantia.jp/fanclubs/478732

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