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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
98/102

98.魔王

「うっ!これ、凄く近いです!」

 私は王都の一角にある、レストランに来ていた。

 ここのオーナーは、私とアマンダさんだ。そう、オムライスのお店である。


 今、フィアルさんとこから持ち帰ったスパイスを使って日本式カレーができないかと頼んでいたものの試食会をしているのだ。

 で、できてきたのが当たらずとも遠からずといった感じだった。ここまで来るのに、結構な試作を要した。

 さすがに全く同じものを作るのは無理だ。なので、これくらいでもう十分だった。


「凄い凄い!お米と食べたいです!」

 私が舐めるように皿についたルゥをスプーンでこそげ取っているので、厨房を任せているおばさまたちは苦笑して出してくれた。

「わあああああ!ありがとうございますううううううううう!」

 私がカレーをガツガツと食べるのを、おばさまたちは微笑んでみている。


「私たちも試食して、これはおいしいって思いました。でも、メニューに出せないのが寂しいですね。」

 そう言われてしまって、私も申し訳なくなった。

「すみません。お店を閉めることになっちゃって……。」


 そう、このお店は今年いっぱいで閉めることになった。

 なぜなら、魔王討伐やアマンダさんについて行くことを考えたら、材料の仕入れが不可能だからである。しゃーない。


「でも、本当にいいんですか?パンの方は引き継いじゃって。」

 アマンダさんがそう聞くので、頷いた。

「パンの材料はアマンダさんちからの仕入れだからね。真っ白に小麦粉作れるの凄いし、皆さんの腕をこのまま腐らせるわけにはいかないですよ。」

 この店は、来年からはアマンダさんのおかーさんがオーナーとなって、パンのお店をやるのだ。

 ここのスタッフは引き続きそっちで働く予定である。


「私たちとしては本当にありがたいです。女で料理人だなんて、自分の家で食堂を開くとかなければできないことですし。」

 おばさまたちの一人がそう言う。

 この国の女性の働き口は、まだそんなに多くないのだ。でも、家庭料理は毎日作ってる腕だよ?もったいないよね。


 だが、結局お米や魚介を毎日のように仕入れるためのルートは確保できなかった。

 まぁ、お米を国のどこかで作るとかしない限り無理だし、やっぱり海は遠かったのだ。

 初心忘れるべからず。私がいなくなった後もまわるものを作らなければいけないのだと学ぶいい機会だった。

 そんなこんなで、カレーのレシピも手に入れたし、私がやるべきことはほぼ終わったような気がする。


 時期はもう年末。この世界にはクリスマスが当然ないのだが、一年の終わりを感謝する日がある。

 まぁ、日本と違って家族と過ごすのが一般的だし、クリスマスとはまた違った雰囲気だが、独り身としてはこちらの方がありがたい。


 とはいえ、家族が王都にいないので、我々は通常運転だ。

 さすがにアマンダさんは実家に帰るが、シュレインさんはこっちにいる。

 そうなると、男女四人なので、なんとなく気が重い。おねーちゃんとディアは恋人だしね。


 しかも、あれからシュレインさんの態度が、微妙に変なんだよね。

 なんか考え込んでると思ったら、こちらをじっと見てたり。

 言いたいことは言え!というのは伝えたので、何かを言いたいとかそう言うのじゃないとは思うのだけど、若干面倒くさいやつだからなぁ。


「なんだか、年末って感じですね。」

 私がぼんやりと歩いていたら、アマンダさんがしみじみとそう言った。

 アマンダさんはこっちで送る年末が最後かもしれないから、感慨深いのだろう。だからこそ、今年は絶対に実家に帰れと言ってある。

「そうだね。上野に行ってタコとかいくらとか鮭とか買う時期だわ。あ、マグロの刺身もか。」

「え?」

 意味が分からず聞き返すアマンダさんを見てニヤリとする。


「その国その国で色んな風習があるよね。ベリンダールの年末は、どんな感じなのかな?」

「そうですね……。あちらは雪深い時期ですし、こういった感じではないんでしょうね。」

「そうか。じゃぁ、楽しみだね。」

「はい。」

 転移の使える私と違って、アマンダさんは行ったらそのままなのが普通なのだ。帰りたくなっても、私に言わないだろうし。

 だから、寂しいじゃなくて、楽しいにしたい。少しでもアマンダさんの負担が軽くなるように。




 感謝の日当日は、やはり姉ディアペアはデートに出かけて行った。

 なので、ディアンガさんとこにあいさつに行く事にした。あっちでベイダルさんたちもくだを巻いているはずだし、シュレインさんの事をお願いしないといけない。


 午前中は我々も挨拶用の手土産を買い、夕方前にトウワへ行く。時差が六時間あるので、面倒くさい。


「というわけで、シュレインさんを見ててほしいんだけど。」

「よろしくお願いいたします。」

 魔王の出現場所に連れて行くので、シュレインさんだけは護って欲しいと、ベイダルさんに折り菓子を持ってきたのだ。

 あ、もちろんディアンガさんたち用には別なのを渡してます。


「ふーん。まぁ、いいよ。」

 お菓子をもってしても渋るかと思いきや、あっさり承諾されて、逆に心配になる。

 一応グレンドさんとディアンガさんの事も大丈夫なのかと見たが、特に何も言われないので、倒すのには手は貸さないけれど、それくらいならいいよってことなのだろう。知らんけど。


「にしても、もう年末だけど、そろそろじゃないのかなぁ。」

「そうなのか?」

「来年って言われたからなぁ。」

 と、そこまで言ってシュレインさんを見る。そういやそこまで話してない。

 が、別に素知らぬ風でお茶を飲んでいる。連れて行ってくれるのなら、皆まで言わぬともいいということなのか。よくわからんなこの人も。


 と、そんなことを考えて、私もお茶を飲もうと手を伸ばした時、この世の終わりかというような悲鳴が響いた。



 精霊の悲鳴が伝染している。あぁ、きたのだ。


「魔王が復活した。」

「え?」


 私の言葉に、シュレインさんだけが聞き返した。ドラゴンたちはわかっているようだ。


「行かなきゃ。じゃぁ、シュレインさんをお願い。」

「おう。グレンド、お前はルーシルを連れてきてくれ。」

「わかった。」 

「美代さん、ディアンガさんも借りるね。」

「はい。お気を付けて。」


「さ、行くよ。」

「はい。」

 私はシュレインさんの手を取り、転移した。




 魔境。冬でもなお緑豊かで暖かい。

「ここは……?」

「魔境だよ。あっちにいるね。掴まって。」

 私はシュレインさんを抱きしめるように持ち、全速力で飛んだ。

 今もなお、精霊たちの壮絶な悲鳴が聞こえる。頭が割れそうだが、精霊たちは今どんどん死んでいってるのだ。そんなことを言っている場合ではない。


 そして、現地に着いた。


 眼下に広がる森。その中を、横一文字に何かが移動していく。その部分の木々はしおれ、倒れていく。


「遅くなりました。」

 私がそう言うと、精霊王たちが私を見る。

「本当に?」

 未だ訝しげに、セラが聞く。

「できるはずです。」

「そう。じゃぁ、はじめましょうか。」

 ドラゴンがそろっていないが、精霊たちを吸収されているのだから、精霊王たちは待ってくれないだろう。


「おい、そいつはこっちに。」

 ベイダルさんがそう言うので、未だにシュレインさんを抱きかかえていたことに気が付いた。すっかり忘れてたわアブナイアブナイ。

「何が起こって……。」

 小さくそう言うシュレインさんには精霊王たちが見えていないから仕方がない。説明している暇もないから困る。

「私が見えるようにしてあげるわ。」

 後ろから声が聞こえたので振り返ると、闇の精霊王ダーラがいた。私はあまりなじみがない精霊王だ。


「あなたの大切な人なんでしょう?」

 ダーラが私にそう言うので、困惑した。

「うふふ。自分の理性を取り払って、ただ純粋な欲望で見てごらんなさい。あなたは考えすぎるの。

 さ、その子の目を、あなたにリンクしてあげる。今、手をつないでいる間だけ、私たちが見えるわ。今だけよ?」

 そう言って、ダーラはシュレインさんの目に手をかざす。


「シュレインさん、私と手をつないでいたら、今だけ精霊王が見えるって。」

「えっ。は、はい。」

 シュレインさんも何が何だかわからないが、私と手をつないだとたんにダーラが目に入ったのだろう、びくっとする。


「説明はあなたがしてあげなさい。」

 そう言って、ダーラは精霊王たちの方へと帰っていった。


「今のが、精霊王ですか?」

「そう。あそこに並んでいる人たち全員ね。」

 今は二十人くらいの精霊王がいる。なぜかまだ始めていないので、若干不安になる。


「精霊王も戦うんですか?」

「いやぁ、それがね、精霊王たちに、魔王を吸収してもらおうと思って。」

「は?」

「なんか、結局、ドラゴン以外の生物は、皆起源が一緒なんだって。で、魔王って魔素の塊だって言うから、吸収しちゃえばいいってことだと思うんだよね。」

「は、はぁ……。え?」

 うん、よくわからないよね。私たちも割と行き当たりばったりだしね。


「連れてきたぞ。」

 グレンドさんが合流して、ルーシルさんとフィアルさんもなぜかいる。

「飛んでいたから拾ってきた。」

 いい仕事だと言うべきか、余計なものを連れてきたというべきか。


「なんだ。失敗したのか?」

 何も変わらず下には魔王がいるので、時間差的に失敗したと思ってフィアルさんがウキウキしている。

「待って!まだ始めてないの!」

「はぁ?もう結構たっただろう。」

「まだ数分じゃないですか!」

 と、そう言った時、精霊王十人ほどが、魔王に近づいていく。始まったようだ。


「残ってる方に行こう。」

 私はそう言って、残っているダーラたちの方に合流する。ベイダルさんもついてきてくれる。


「皆で行かないんですか?」

 ついダーラに聞くと、ダーラは愉快そうに笑う。

「だって、気持ち悪いじゃない?あんなのの魔力を吸うなんて。だから、今まで誰が行くのか決めてたのよ。」

 何たる……。そんな理由なんかい!


「始まった。」

 火の精霊王リーカーがつぶやいた。魔王吸収作戦が本当に始まったのであった。



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