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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
96/102

96.武闘大会3

「勝つといいですね!」

「うん。」


 私たちの視線を受ける騎士二人は、美しいお辞儀をし剣を構える。

 そして、見本のような打ち合いが始まった。

「騎士って感じですね!」

 アマンダさんがニコニコと言うので、私も頷いた。

 先ほどとは変わって、シュレインさんも攻撃に出ている。彼が何を考えているのかはわからないが、先ほどは様子見といったところだったのかもしれない。


 しばらく打ち合った後、団長が大きく剣を振りかぶる。シュレインさんはそれを盾でガードする。

 その時の体の沈み込みで、剣の重さがわかる。しかし、シュレインさんは受ける瞬間に魔法を使っていた。守護魔法だ。


 その後も、大きな打ち込みがあるたびに、一瞬守護魔法が発動する。

 うまいが、もっときっちりかければいいのにと思いもしなくもないし、何ならドリルちゃんのおにーさんみたいに攻撃魔法を使えばいいのにとも思う。

 しかし、試合は淡々と剣の打ち合いが続く。

「なんていうか、武闘大会って地味だね。」

 ついポロリとこぼしたその言葉に、アマンダさんは変な顔を向ける。

「これって、地味ですか?」

「なんかこう、魔法をバンバンうつとかさー。」

「いえ、そんなことできるのって、宮廷魔術師のかなり強い人だけですよ。それだって、詠唱している間に攻撃されちゃうじゃないですか。」

「あー。」

 そういえば、ゲーベリオンやワイバーンのところでも、剣士が魔法を使っている場面を見ることは少なかった。

 というか、ゲーベリオンのギルマスやシュレインさんが剣に魔法をまとわせていたくらいしか見ていない。

 

「とすると、今シュレインさんが剣を受けるときに魔法使ってるのってすごいの?」

「そんなことしてるんですか?!凄い事ですよ!」

「さっき、ドリルちゃんのおにーさんが魔法使ったのも?」

「そうですね。凄いことだと思います。」

「そっかー。」

 返事をしつつ舞台を見ると、二人の打ち合いは続いている。

 自分がいかにチート性能を持っているのかを今更感じたが、私のような能力の魔王が出てくる世界で、よくもまぁ人間は平和に暮らしているなとも思える。

 下級ではない魔族が来たら、国くらい簡単に滅びそうだ。

 そう考えると、ベリンダールがどうしてそこまで防衛費を大きく設けていたのかがようやくわかった。


 そういえば、どうしてベリンダールだけがあそこまで魔族の脅威にさらされていたのかがわからなかった。

 もしかして、マザーが魔族を人間界に送っていたから?

 他の地域では縄張りを持ってる魔族が逃がさないのかもしれない。

 すると、あそこに生まれた魔族は多くても、現存する個体数はそう多くないのだろうか?

 それに、新しくあそこに縄張りを張る魔族が他の魔族のように他の魔族を殺すのなら、ベリンダールには今後魔族が流れてくることが無くなるのだろう。そうしたら、国の根本が変わることになる。

 あの騎士団のままならば、余った軍事力がオスカラートに向くことだってあるかもしれない。

 ピナさんにちゃんと聞いておけばよかった。


 ぼんやりとそんなことを考えていたら、ついに二人の打ち合いの流れが変わった。

 騎士団長の剣がシュレインさんの盾にはじかれたのだ。

 ドリルちゃんのおにーさんとは違い、団長は剣を落としはしなかったものの、隙ができる。その隙は流石団長というべきか、ものすごく小さなものだった。

 しかし、そこにするりとシュレインさんが飛び込んだ。まるでディアのような動きだ。

 シュレインさんの剣は団長の首元に突き付けられ、二人の動きが止まった。

「あ、また!」

 さっきはその間に、ドリルちゃんのおにーさんに反撃されたのだ。同じことを繰り返してどうするんだ!と思ったのもつかの間、団長は潔く負けを認め、両手を軽くあげた。

 これによって、またドリルちゃんのおにーさんの見苦しさが浮き彫りになる。あの人、次期団長になれるんだろうか?


 大きな拍手の中、またも美しいお辞儀で終えると、二人がはけていく。その後ろ姿にも、拍手が送られた。

「凄い!勝ちましたね!」

 アマンダさんがはしゃいでいるが、決勝はディアとだ。どっちを応援すればいいのか?

「ディアが勝つわよ!」

 姉が不意にそう言ってこっちを見る。両手を握り、真面目な顔をしてこちらを向いているが、そう言われても困る。

「ハルドリック様だって強いですよ!ね?!」

 なぜかアマンダさんも両手を握ってそう返す。そして、同意を求めてこちらを見るが、それもまた困る。


「まぁ、どっちが勝ってもいいじゃない。二人とも応援しようよ。」

「えぇ?シュレインさんを応援しないの?」

「そうですよ。ハルドリック様を応援しないんですか?」

 私の無難な返答に、二人は何言ってんだとばかりに返してくる。

「いやまぁ、二人とも仲間だし。」

「は~。メリルは本当におこちゃまね。」

「そうですね。」

「えええ?」

 正直、私とシュレインさんをくっつけようと思っているようなのは気が付いている。少なくとも、私とシュレインさんはペア扱いなのは確実だ。それはディアも思っているだろう。

 シュレインさんも私を嫌ってはいないのはわかっているし、初期に比べればかなり親しくなっただろう。

 

 それはわかってはいても、私は今後どうなるかわからないし、なにより、若すぎるんだよなぁ……。

 シュレインさんも私も若すぎる。確か十歳違いなので、シュレインさんは二十八。私は十八だけど、中身がおばさんだ。

 私はオタクだけど、夢女子とかではなかった。

 しかも、歳をとるにつれ、キャラクターに入れ込むことが少なくなってってたんだよね。

 これが歳をとるってことなのかなぁ。


 そんなわけで、私は恋愛感覚が薄れている。そうなると、若い子に興味持つとかできないんだよー。

 とはいえ、別におじさんが好きなわけでもない。

 こちらで重ねた年齢よりは少なめで、なんとなくアラサーからアラフォーくらいの気持ちなのだ。

 だから、せめて三十超えていて欲しいんだよね。こういうの、伝えようがないからなぁ。


「私、貴族みたいな暮らしできないよ。社交界とか絶対やだ。」

 私が急にそう言ったので、二人はちょっと驚いた。

「いえ、貴族の出ではありますけど、爵位は継げないので、社交界からは出ますよ?」

 アマンダさんがものすごく言いにくそうに言ってくる。

「聖女と結婚しても?功績をたたえて爵位与えられない?」

「う。」

 私の返しに、アマンダさんがのけぞる。ほれみろ。


「それにね、シュレインさんがこの国の騎士であるなら、私はシュレインさんを選ばないよ。聖女っていうのはね、一国のものになっちゃダメなんだ。」

 私の言葉に、アマンダさんと姉は黙った。


「ほら、出てきたよ。」

 何とも言えない沈黙を破ったのは、二人の登場だ。


「休憩とかないのね。ディアが優勝間違いなしじゃない。」

 姉が呆れたように言うが、確かにそうだなと思う。シュレインさんは団長と結構打ち合っていた。一方ディアは一撃で試合を決めてきている。どちらが有利かは明らかだ。


「それでは、ここで聖女様による、スタミナポーションの差し入れがあります!」


「「「は?」」」


 突然会場にそんなアナウンスが流れたので、私たちはあほ面で同じ反応をしてしまう。


「え?メリル様?」

「えええ?知らないよ?!」

「でも、なんかこっち見てるよ?」


 確かにシュレインさんとディアだけでなく、レフェリーの人もこっちを見ている。

 なんとなく王族の方の方を向くと、王はこちらの視線を避けるかのごとく、あらぬ方向を見ている。

 王妃なんて扇子で顔隠してるし。あいつらー。


「あの、こちらを。」

「おおおおお父様?!」


 我々のテントを、アマンダさんのお父さんがひょいっとのぞき込む。その手には二本のポーションがあった。

 お前かあああああああああああ!


「いやぁ、王から直々に依頼が来ちゃってね。断れないよ。」

「すみませんんんんん!」


 お父さんがテヘペロするのを見て、横のアマンダさんが土下座になっている。


「アマンダさんいいよ。しゃーない。きっと王子が決勝に出る予定だったからだわ。」

「うわー。」


 おねーちゃんが私の言葉にドン引きしている。でも、多分そういうことだろう。

 だからこんな席をつくって呼んだのだ。


「じゃ、行ってくるわ。」


 もうこうなったら仕方がないので、アマンダさんのお父さんからポーションを受け取り、私は舞台へ飛んでいった。



 私の登場の仕方に、会場がざわついた。

 飛んでいくとは文字通り、浮遊していったからだ。


「お前、メリル……だよな??」

「……。」

 ディアが目を見開いてこちらを見る。シュレインさんも困惑顔だ。

「そうよ!これが私の本当の姿!美しさにひれ伏すがいいわ!」

 私は舞台に降りると笑みを浮かべた。


 今、私は金髪でボインの美女になっている。


「いや、それはないだろ。」

 ディアが真顔で突っ込む。なんでだ。

「まぁ、幻術だよ。流石に怖いからね。」

 私がそう言うと、二人も納得する。

「まぁ……。」

「それはそうですね……。」

 近くにいるレフェリーさんは意味が分からず困惑顔だ。


「さ、ポーションポーション。はい、これ私が作った本物だわ。」

「なんでそんな微妙な言い回しなんだよ。っつか、声がメリルなのなんか気持ち悪いな。」

 ディアはポーションを受け取るが、眉をしかめている。なんてやつだ。


「こんな出番があるなんて知らなかったんだってば。ポーション自体はアマンダさんのとこに出してたやつだから、毒とかないから飲んでね。」

「俺はいらないけどなぁ。」

「まーね。ほら、シュレインさんも。マナポーションも必要だったりする?」

「いえ、これだけで大丈夫です。」

 シュレインさんも受け取ってくれる。なんか顔が嫌そうなのは気のせいだろう。


「多分王子が出てたから、ここで団長と王子の戦いになるって思ってたんだと思うわ。」

「あー。」

「確かにそれはありそうですね。」

「でもまぁ、順当に二人が勝ち上がってくれてよかったわ。」

「ん?」

 ディアがいぶかしげな顔をする。


「だって、二人に賭けてるんだもの。」

「あー……。」

 うわぁという顔になるディアと、無表情でこちらをじっと見るシュレインさん。

「な、なによ。一般市民は皆賭けてるよ。あ、ディアは勝たないとおねーちゃんに殺されるよ。」

「え?」

「だって、おねーちゃん最低限の生活費だけ残して全財産賭けてたもん。」

「ばっ!あいつ!」

「シュレインさんもギルドの面々が賭けてたから、勝たないと怖いよー。特にビレートさん。」

「頑張ります。」

 焦っておねーちゃんを見いているディアと、苦笑しつつスタミナポーションを飲むシュレインさん。


「じゃぁ、二人とも頑張って。」

「おう。」

「はい。」


 私はまたも飛んで、自分のテントに移動した。その間に、観客席に手を振ったので、歓声が上がる。ははは。美人の威力は凄い。



 こうして最後の試合が始まった。

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