95.武闘大会2
二周目。またディアの出番だ。
「ディア君よ!」
我が姉上は大興奮だ。多分、ディアの強さを知らないのだろう。だから不安にもなっていただろうが、本当に強いのを見た後だと、期待が上回るのだろう。げんきんなやつである。
そして、期待を裏切らずに、またも圧勝で終わった。
今回は相手が警戒していたのだろう。打ち合いもあったにはあったが、二回で剣が吹き飛ばされ、その後には本人が吹き飛んでいた。
特に休憩時間があったわけではないので、騎士団長の後の試合だったのにもかかわらず、やはり一番の歓声に包まれた。
多分、一般市民から出てきた子だと思われているのだろう。
まさか、隣の国の第一部隊のようなとこで騎士をやっていただなんて、誰も想像できないし。
「このまま勝って大丈夫なんかねー。」
アマンダさんにそっと言う。姉には聞こえていないのをチラリと確認する。ディアに向かって手を振ってるので大丈夫だろう。
「ベリンダールとの関係的にも、兵士なら大丈夫だと思うんですけどね。ただ、ここまで強くてベリンダールの竜騎士だったのを考えれば、諜報員だと思われても仕方ないかもしれません。」
だよねー。
「ディアさんの事情を誰にどこまで話すかにかかっていると思いますけど、そこはハルドリック様と話し合った方がいいと思います。」
「私もなんか書いた方がいいかな?」
「事実確認をされたら応じるくらいでいいとは思います。メリル様もオスカラートに好意的とは言い難いですし……。」
あああ。こんなところでツケが回って来るとは。ディアゴメン。とはいえ、そういう態度でもなければ、ディアがここに居ることもなかったしなぁ。難しいところだ。
王子と護衛騎士の戦いは、今までで一番長かった。
二人の実力は均衡しているようで、両者手を抜いている様子はない。
会場はシンとなり、二人の様子を見入っている。
長引く戦いの中、だんだんと二人の表情が変わっていく。最後の方は楽しくなっていたのだろうか?二人とも口角を持ち上げて戦っていた。
そして、ようやく王子の勝利で幕を閉じた。
よろめいた護衛騎士君の腕を取り、支える王子。そして握手を交わし、肩を組んで観客にそれぞれが空いた方の腕をあげた。
歓声と拍手が沸き上がり、二人の良い戦いを称賛する。
王妃は涙をそっとハンカチで拭いている。自分の息子の成長を感じたのだろう。
ゲーム視点でいっても、とてもいい演出だったと思う。
ずっと一緒に過ごしてきた王子と護衛騎士。二人は良い友であり、ライバルだ。それを間近で見ていて知っていたが、やはりどうしても好きな王子を応援してしまう聖女。
そして、互角の戦いを経て勝ち残る王子。きっといい場面だ。
まぁ、その二人よりもはるかに聖女の方が強いのを除けば……だが。
結局ゲームでも陳腐だと思うんだよね。なんだかなー。
そして、見たままを楽しむでもなく、そんなことを思ってしまう私が聖女なのもなんだかなー。人選間違ったよねぇ。
それに、私は次に出てきたシュレインさんと金髪ドリルちゃんのおにーさんとの戦いの方が興味があったから、王子の余韻になど浸る気はないのだ。
一周目では目立った戦いをしなかったシュレインさん。例年の優勝者だという嫌なやつに勝てるだろうか?
試合が始まる時、嫌なやつがシュレインさんに何かを言ってニヤリと笑った。聖女イヤーでも流石に聞こえなかったが、あの表情を見るに、何か嫌なことを言ったのだけはわかる。
対してシュレインさんは、いつものように無表情だ。それを見て、相手は一瞬ムッとした表情になるが、また不敵な表情になる。
この場面を切り取っただけでも、本当にあいつは嫌なやつだっていうのがわかるのは逆に凄い。
こんな奴が騎士団長候補でいいのだろうか?
試合が始まっても、さっきの試合の話をしているのか、会場のざわめきは消えていなかった。
どうせ嫌なやつが勝つんだろ?とばかりに、試合に注目していないのだろう。
しかし、時間がたつにつれ、そのざわめきは消えた。
シュレインさんが無表情のまま、健闘しているからだ。
騎士の表情も、だんだんと焦りが出てきた。なぜ勝てないのか?そう思っているのだろう。
実際、私にもそう見える。
シュレインさんは騎士が出す攻撃を受けているだけだ。なので、状況は押されているように思える。
しかし、シュレインさんは平然とただ受け流している。
「何を考えてるの?」
思わず私がそう言うのと同時、騎士の方の動きに乱れが出た。そのタイミングで、シュレインさんは騎士の剣を自分の剣でうまく絡めとる。
騎士は不意の行動にあっさりと剣を落としてしまった。
シュレインさんはその剣を足ではじき、そのまま踏み込む。
はじかれた剣は舞台の端まで滑っていく。そして、騎士の喉元にはシュレインさんの剣が突き付けられていた。
状況が飲み込め、決着がついた。誰もがそう思った時だった。
ボンと音がし、シュレインさんと騎士が煙で見えなくなる。
騎士が魔法を放ったのだ。
騎士はその隙に剣を取ろうとしたのだが、舞台の端っこにあった剣がはじけ飛んで場外へ落ちる。
それを見た騎士が振り向いた時には遅かった。
シュレインさんが騎士に突進しており、間近に迫っていたのだ。
そしてそのまま吹き飛ばされ、舞台の端側に来てしまっていたためにその勢いで場外に落ちた。
ぽかんと見上げる騎士。舞台上のシュレインさんはそれを見ることもなく、舞台中央に戻っていく。そして、審判が場外と叫びながらシュレインさん側の腕をあげた。
一拍おいて、会場に歓声が沸き上がる。それは称賛というよりは、今まで優勝してきた騎士が場外という無様な負けをさらしたことによるものだっただろう。
騎士の顔も憎々しげに歪み、剣を取ってさっさとはけていく。誰もがしていた最後の礼すらしなかった。
正直、騎士の戦いではなかった。
騎士も、シュレインさんもだ。
私は困惑してアマンダさんを見たが、アマンダさんは気が付いていないのか、満面の笑みだ。
「勝ちましたね!凄いです!」
「そうだね。」
私の視線に気が付いたアマンダさんにそう言われ、私はあいまいに返すしかできなかった。
次の試合は団長だ。やはり圧勝だった。
「次、ハルドリック様と団長が当たるんですよねぇ。大丈夫でしょうか?」
「だねぇ。」
アマンダさんは心配そうだが、私は初めの頃とは違って、勝つとは言えなくなってしまっていた。
そして、ついにディアと王子の戦いだ。
二人の入場で、今日一番の歓声が上がる。
圧勝続きのディアに、意外に強かった王子。
「さぁて、ディアは忖度するのかな?」
「どうでしょう。」
私とアマンダさんは違う意味で面白がっているが、横にいる姉は心配そうにこちらと舞台上を交互に見る。
「どっちがいいの?」
「どうだろうね?王子の強さを見せたい思惑が国にはあると思うんだけど、今まで圧勝してきたディアが負けるのは不自然でしょ。」
そんな話をしている間に試合が始まり……そしてすぐ終わった。
「忖度しなかったーーーーーー!」
ディアは躊躇などすることもなく、今まで通り一瞬で勝負をつけてしまった。
私はゲラゲラと笑い、アマンダさんも苦笑している。
姉はソワソワしながらも、引っ込んでいくディアをまっすぐに見つめていた。
王族席をちらりと見れば、苦々しい顔の王族たち。まぁ、そりゃそうだよねぇ。
しかし、そんな王族の思いとは裏腹に、会場は悲喜こもごもの声が響いている。
「ディア君は大丈夫?勝ったけど喜んでいいんだよね?」
「うーん、難しいところだねぇ。」
「騎士に志願しても無下にすることはできないでしょうが、ベリンダールの騎士だったということがネックになりそうですね。ディアさんが王都で働くとなれば、警備の穴なんかも作れますから。」
先ほどからの感想を姉にも伝える。
「そ、そんなぁ。」
「なっても辺境に飛ばされる可能性はありそうだね。そしたらついてくの?」
「えっ……。」
私の問いに、姉はひるんだ。
「わ、私は……仕事があるし、ディアが飛ばされるってなってから考える……。」
「……。」
思ったよりも冷静というか、先延ばし思考というか……。即答でついて行くとは言わない程度なのかと思ってしまうが、普通はそんなものだろう。
「飛ばされるとなったら、騎士にならないんじゃないでしょうかね?」
「あぁ……。」
そっちの方があり得る。ディア、ご愁傷さま。
「あ、ハルドリック様が出てきましたよ!」
団長とシュレインさんが入ってくる。シュレインさんは今までと違い、小さな盾を持っている。
「勝つといいですね!」
「うん。」
ワクワクとしているアマンダさんとは違い、私は心配になるのだった。
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