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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
93/102

93.親と子

 フィアルさんに王都に送ってもらったが、シュレインさんはやっぱり家にいなかった。

 ピナさんとギルドに行くと言うと、フィアルさんは興味がなさそうに帰っていった。ありがとうね。


 ギルドに行くと、シュレインさんは試験場でヴァスカマス父娘にしごかれていた。

 その様子を、ギルマスに案内してもらった部屋の中から見る。

「開放していいって伝えたんじゃないんです?」

「伝えた。」

 頭蓋骨の入った箱を持ちつつ、ピナさんは三人の方をじっと見る。


「大切な人が人質に取られたら、逆らえないですよね。」

「……。」

「人間はそういうのに弱いの、本当ですよ。実際、私はそれが一番怖いです。

 でもそれって、マザーみたいに嫌なやつに取られた時には。なんですよね。」

「……。」

「息子さんもビレートさんもそんなに良く知ってるわけじゃないです。でも、二人が悪い人だとは思えないんですよ。」

「……。」


「息子さんから、私の事、何か聞いてます?」

「……仲間思いの、普通の娘。ただ、聖女としての実力は十分以上にあると。」

「他には?」

 私の問いに、ピナさんは首を振った。

「命令したら聞くって言ってましたけど、シュレインさんを殺す可能性があるのは言ってあったんです?」

 私の問いに、今度は頷いた。


 やはり、サブマスターは私の事をちゃんとピナさんに話していないのだ。

 転移ができると伝えるだけで、この計画は成り立たない。

 でも、そのまま送り出した。それだけでも、サブマスターがピナさんの言う通りに行動するとは思えない。

「まぁ、保証なんてどこにもないですけどね。でも、やっぱり信用しちゃうんですよ。ここのギルマスが信用してるみたいですし。」


「俺がどうしたって?」

 ギルマスが箱を抱えて部屋に入ってきた。

「サブマスターの事、信用してますよね?」

「信用しているも何も、ここのボスはあいつだからな。でもまぁ、やることに不備はないし、困ったらあいつに頼めば間違いはない。

 で、これでも大丈夫か?」

 ギルマスはテーブルに箱を置いた。


 中を見ると、ツボが入っている。

「密封できます?」

「保存容器だし、作ってる職人がそれこそ信用できるやつだ。魔物の貴重な部位なんかを持ち運びするための物なんだが、大丈夫か?」

 飾り気のない蓋つきの白いツボなので、まんま骨壺に見える。

「これにいれましょう?」

 私が促すと、ピナさんは木の箱を置いて、大事そうに頭蓋骨を手に取った。


 愛おしそうにその頭蓋骨をなで、ツボに収める。

「残念ですが、取り出さない方がいいと思います。それに、たとえこの中に入れていても、永遠にこのままってわけでもないです。」

 骨壺の中の骨が溶けるって聞いたことがあったが、焼いてない骨も溶けたりするんだろうか?


「皆土にかえる……。そう言ってたから。皆いつか世界に溶け込むんだって。私も寿命が来た時に、世界に溶け込むから。その時また一緒になれるって。」

「ベ……旦那さんが言ってたんですか?」

 ピナさんは頷く。


「お、終わったみたいだぞ。」

 ギルマスの言葉に外を見ると、三人が屋内に入ろうとしている。

「あっちに行きましょうか。」

 私たちも、合流することにした。



「おばあ様!」

 私たちを見ると、まずビレートさんがすっ飛んできた。

「無事に帰られて、何よりです。」

「うん。」

 はたから見ると、姉が妹の帰りを喜んでいるように見えるが、孫と祖母なのが不思議である。

  

「なんで、まだやってるの?」

 ピナさんがサブマスターにそう聞く。

「武闘大会で優勝を狙おうとしてますからね。まだやるべきことが残ってますから。」

「そんなこと言ってるんじゃない。」

 静かにだが、威圧的に問うピナさん。

 サブマスターはため息をついた。

「はじめから、母さんの言うことを聞くつもりはありませんよ。」

 その返答に、ピナさんはスッと目を細め、ビレートさんとシュレインさんはよくわからず二人を見比べている。


「私もビレートも、これは母さんのわがままに付き合ってもらったお礼だと思って取り組んでるんですよ。それ以外の意味はありません。」

「私に逆らうの?」

「……母さんはそういう世界に生きているのはわかっています。ですが、私は人間たちと暮らしています。

 そして、責任がある地位にいる。人は信頼関係を重んじます。それを裏切ると、それは自分に返ってきます。

 私は、聖女もギルドも裏切る気はありません。」

「……。」

 ゆらりとピナさんの髪の毛が揺らぐ。怒っているのだろう。魔力がピナさんの周りで渦巻く。


「母子の絆は一生きれません。しかし、子は必ず巣立つのです。

 たとえ母でも、間違ったことをするのなら、それを許しはしない。むしろ全力で止めるものなのです。

 それに、ギルドを守るのは、父の意思でしょう?」

 サブマスターの最後の言葉を聞くと、ピナさんが発していた魔力が霧散した。


「これ。」

 ピナさんは、持っていた骨壺をサブマスターに差し出した。

「取り返せたんですね?」

「うん。私が持ってると、また利用されるかもしれないから。あんたが持ってて。」

「……いいんですか?」

「うん。崩れるから触らない方がいいっていうし。」

「……そうですね。」

「私が死んだら、一緒に埋めて。」

「わかりました。それまで預かります。」

「うん。じゃぁ、私は行くね。」

 そう言うと、ピナさんは練習場へ出て、そのまま飛んで行ってしまった。


「お家がどこかにあるんですか?」

 サブマスターに聞くと、サブマスターは少し笑って頷いた。

「父と暮らした場所があるんです。母はずっとそこで寝ています。」

「それだったら、骨を持って行けばよかったのに。」

「いいえ。家はとっくに崩れて無いんです。雨ざらしの中、ずっと懐に抱えていたんですが、昔一緒に暮らしていた魔族が訪ねてきて、その時に盗られてしまったようで。

 もうそんなことになりたくないんでしょうし、さっき崩れると言ってたので、それを間近で見るのが怖いんだと思います。

 魔族は人間よりも強いですが、すぐに殺しあいます。だから、自分の身を守ることにものすごく気を使います。

 母もああ見えて、とても小心者で臆病なんです。」

 骨を盗っていったのはマザーの家で暮らしていた時に出会った魔族だろうか?。

 そういえば、あれだけ部屋が見えていたけれど、誰かが住んでいる気配はなかった。

 他の魔族をつなぎとめておけるほどには、強くなくなってしまっていたのかもしれない。


「なんか、魔族はそういうのないような口ぶりだったけど、旦那さんの事は愛してるんですね。」

「そうですね……。母は私やビレートの事はどうでもいいんです。思いのまま動かせる駒だとでも思っているでしょう。

 でも、父の事だけは、本当に愛していたんだと思います。まぁ、母はそれを理解していないかもしれませんが……。」

 糸目で表情が読みにくいけれど、サブマスターの物悲しそうな口調と、ピナさんが飛んでいった方をじっと見ているビレートさんがすごく寂しそうで、なんだかやるせない気持ちになった。


 ディアンガさんと美代さんみたいに長い時を一緒に暮らしていける二人もいれば、種族差の前に儚くとも別れることになってしまったピナさんたちもいる。

 そんなピナさんを、家族として愛しているビレートさんたちもいる。

 すべての人が幸せであり続けることはできないとわかっていても、そうであって欲しいと願ってしまう。


「いつか、ピナさんが二人の愛に気が付いてくれるといいですね。」

 そう言った私に、サブマスターは少し口角をあげただけだった。

 かなわぬことだと思っているのだろう。それもまた、もの悲しかった。



 また明日に修行をすると約束をし、私たちはギルドを後にした。

「なんか、すごく難しい問題を見た気がする。」

「どういうことです?」

「なんかさ、もしかしたら、魔王に勝たない方がいいのかもしれないって思っちゃった。」

「は?」

 何言ってんだこいつって目で見ないでほしい。


「皆一緒に死んじゃえばさ、ピナさんみたいに苦しまないで済むんだよなって。」

 こういう思想の悪役がいるゲームや小説、あるよなーと思う。

 その否定が結局勝つってことも知っているけれど、悪役の言うことも一理ある気がしちゃうよ。

「……皆、明日があるから頑張れるんだと思います。」

 シュレインさんのその発言を聞いて、なんとなくおかしかった。

「シュレインさんは、主人公気質だね。」

「は?」

 今度は困惑の顔だ。


「修行はどうよ?」

 私はすっぱりと話題を変えた。

「え……。あ、そうですね。お二人ともすごく強いですし、私の悪いところを的確に指摘してくださいます。

 ディアンガ様とは違った切り口で、また新しい方向から自分が見れたなと感じました。」

「なんちゅーか、小難しい感想を述べますね。」

 なんだか苦笑してしまった。その様子に、更に困惑顔のシュレインさん。

 私の周りはこんな感じでいいと思えて、ちょっと安心した。


「で、また来たけども。」

 後ろを振り返ると、ビレートさんがこちらへやって来る。私たちは立ち止まった。


「ちゃんとお礼が言えなかったから。」

 そう言って、お茶に誘われたので、ついて行くことにした。



 前にシュレインさんに連れてきてもらった、個室になってるお店だった。金持ちご用達のようだ。

 ビレートさんは改めてお礼を言ってくれて、そのあと何があったのか教えて欲しいと言われた。こっちが本題なんだろうな。

 シュレインさんも気になるだろうと思って、シュレインさんが人質だったくだりとフィアルさんのことは言わずに説明した。


「そう。それで……。」

 凄くしんみりとするビレートさん。美人なのもあって、憂い顔がものすごい色気を放ってる。

 チラリとシュレインさんを見るが、いつも通りの無表情だ。

「ビレートさんは、ピナさんの事好きなんですね。」

「もちろんよ!小さな頃は一緒に暮らしていたからね。あの頃は家族で楽しく過ごしていたの。もちろん祖母はちょっと変わっていたけれど、祖父がそれをうまくフォローしていたし。」

「え、待って?ビレートさんってそんな昔から生きてるんです?」

「そうよ。祖父が、孫が見たいって言ったみたいで。」

 その言葉の後には、祖母が作らせたって続きそうな気がするの怖い。


「そ、そういえば、ピナさんがマザーから別の名前で呼ばれてたんですけど、ピナさんもサブマスみたいに偽名なんですか?」

 怖いので話題を変える。

「え?ピナって名前は祖父がつけてくれたんだって。それまでは名前がなかったって聞いていたんだけど、そうじゃなかったの?」

「はい。リリーナとかリリーネとかそんな風に呼ばれてたような……。」

 そういえば、さっきピナさんと話してた時も、旦那さんの名前が浮かばなかった。私、本当に名前覚えるのだめなんだなぁ。短い名前だった気がするんだけどなぁ。はぁ……。

「そう。まぁ、祖母が本当に祖父が好きっていうことにつながるんでしょうね。」


「ビレートさんはお子さん産まないんです?」

「祖父も母もすぐいなくなったからね。

 父は今ではあんなふうだけど、昔はもっと魔族よりだったのよ。だから、母の死を悲しまなかった。でも、私は悲しかったのよ。

 人間はすぐ死んじゃうから、私は絶対に結婚しないって、その時に思った。」


「魔族だったら?」

「祖母だって、あれでかなり人間側よ?

 私、人間型の魔族に二回あったことがあるけど、話はできるけど、会話が成り立たないのを感じたわ。自分の欲にしか興味ないの。

 だから、魔族の方が恋愛感情を持たないと思うわ。」

「でも、ダクテオンは男好きでしたよー?」

 シュレインさんの方を見ながら言ってみる。

「あぁ、そういえばそんな奴いたわね。あれだって、自分の欲にしか興味がないでしょ?男側がどう思うかなんて考えないわ。

 多分、男好きっていっても、一緒に暮らそうとか恋愛しようなんて考えてないんじゃない?自分のやりたいようにじゃれついて、殺しちゃうってオチだと思うわよ。」

 そう言われるとそんな気がする。知らんけど。


「だからよ。絶対的に強くて長生き!ドラゴンが最強よ!」

 あ、そういう着地点なんだ。

 ドヤッた顔で胸を張って言いきるビレートさんを残念な子を見る目で見つつ、私は運ばれてきたお茶を飲むのだった。




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