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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
92/102

92.実験

 部屋にはマザーの高笑いが響き続ける。その間もどんどんと魔力が吸われていく。

 ピナさんを見ると、何やらキョロキョロとまわりを見ている。

 私も部屋を見てみるが、おかしそうなことはない。なんだろう?


 そう思ってじっくりあたりを見ていると、ふとマザーの高笑いが止まっていることに気が付いた。

 じっとこちらを見ている。

「あなた、これは何?」

「何って言われましても。」

「聖女の魔力って私たちと違うの?」

 お、ようやく来たようだ。

「いえ?一緒ですよ。」

「でもこれ……。」

 そう言うと、木の人形の腕がボトリと落ちた。

「あー、あなた、吸った魔力を自分の魔力と混ぜちゃいましたね?その魔力、ドラゴンの魔力なんです。」

「ドラゴンの?」

「そう。ドラゴンの。で、ドラゴンの魔力って、私たちには毒みたいです。」

「毒……?」

「っていうか、人質とったくらいで私に勝てると思ってたんです?」

 そう言って、私は巻き付いてた木の枝を振り払った。

 初めから払えたけど、毒が回っている枝はすでにもろくなっていたので、力もいらなかった。


 魔力を吸われ始めた時、とっさに自分の魔力は護った。だが、美代さんから吸った魔力は放置しておいた。

 私には関係ない魔力だし、あの白い空間で聞いたことが本当か確かめたかったのもある。

 そして、結果本当だった。あぁ、混ぜなくてよかった。



「なっ……。」

 私が木を振り払ったのにピナさんが驚いてる。

「いや、普通にあなたたちよりも強いの確定なのに、なんでこんなことで勝てると思うのか不思議です。」

「でも、人間はそういうの大切にするじゃない!」

 ピナさんが叫ぶ。

「まぁ、そうですけど。それ、多分サブマスター……あなたの息子さんも同じだと思いますよ。命令してみたら?」

「っ!」

 私に驚いたのか、私の後ろのマザーの力に驚いたのか、ピナさんは目を見開いた。


「許せない!人間ごときが!!」

 そうマザーが絶叫したと同時に、轟音と激しい振動が起きた。

「その人間ごときに負けるんですけどね。」

 私の目の前には、真っ二つになった木の人形があった。そして、同じように巨木も真っ二つに割れ、外が見えている。

 落雷を落としたのだ。所々木が焦げている。

 さすがに枯れていないので、炎が燃え上がることはない。


「うーん、まだか。」

 私は下を見た。どうやら地中をマザーの気が移動している。弱って逃げるのに必死なんだろう。もう駄々洩れる気を隠せないでいる。

 私は移動している方に飛び出した。後ろからピナさんもついてきているようだ。



 マザーは地中を這って、ベリンダール側にどんどん移動していく。やがて、地上に出る。私はその時に追いついたが、遅かった。

「あら、とどめさしましたか。」

「君が魔境なんかに来たから魔王だと思ったのに。」

「いや、違うってわかってましたよね?」

「はは。」

 そう笑ったのは、フィアルさんだ。

 実は、魔境に入るよりも前に、近づいてきているのはわかっていた。私の移動を察知して、帝国から飛んできたんだろう。ご苦労なことである。

 その腕には、どろりとしたものが垂れていた。多分、マザーのなれの果てだろう。


「で、そいつも殺す?」

 フィアルさんは私の後ろに目線をやる。その先にはピナさんがいる。

「いや、殺さないですよ。知り合いの家族なんで、怒られちゃいますし。」

「ふーん。」

 つまらなさそうに返事するフィアルさんに近づく。

「帰り、送ってくれません?転移できるって知られたくないんで。というか、転移できましたっけ?」

「私はできない。飛んでいくよ。これは貸しだな。子供作るか?」

 そういえば、ベイダルさんたちも知らなかった。

「嫌です。でも、送ってくださいよ。正直疲れてるんです。ドラゴンならそれくらい簡単でしょう?」

「はは。仕方がない。」


 アホなやり取りに区切りがついたので後ろを見ると、ピナさんはへたり込んでいた。

「すみません。あなたの育ての親みたいな感じなんですよね?」

 多分、そうやってる自分に酔って、マザーなんて名前を付けたんだろう。でも、英語なのが面白い。

「違う。魔族にそんなのはない。」

「だったらなんでそんな……。」

「そいつしか知らないのに。もう……取り戻せない……。」

 ピナさんはうつむいて静かに泣き出した。


「えっ、ちょっ。なんか取られてたんです?」

 私がそう聞くと、ピナさんは頷いた。

「何を取られたんです?」

「……ベルバ。」

「べるば?」

 さっきそんな単語を聞いた気がする。

「ベルバの頭蓋骨を取られた。私が言うことを聞かなくなったから。」

「あー……。」

 この流れ、多分ベルバってのはピナさんの旦那さんだろう。

「それで、それを隠してる場所がどこか、マザーしか知らなかったと。」

 ピナさんはこくりと頷く。


 私はあたりを見回した。

 後ろには急速に枯れていく木々たち。

 多分、マザーの魔力が通っていた木だろう。その反面、フィアルさんの向こうの木々は青々としており、精霊がたくさんいる。多分ここがマザーの縄張りの端なのだ。

 そして、マザーのいなくなった縄張りに、精霊がなだれ込んでいく。

 この木や大地もやがては精霊の力によって修復されるのだろう。

 だから、簡単だ。精霊に人間の頭蓋骨を探して欲しいと頼む。


 しばらくすれば、そのありかがわかる。

「ピナさん、こっち。」

 へたり込んで泣いているピナさんを立ち上がらせると、私はその手を引いてマザーの大木へときた。


 精霊の指し示す場所をほじくってみると、空洞が中にあり、そこに頭がい骨がコロリと転がっている。

「ピナさん、ほら。」

 中の頭蓋骨を指すと、ピナさんは勢いよくそれに手を伸ばした。

 しかし、寸ででそれを止める。暴れて取ろうとするピナさんだが、それはさせられない。

「ダメですよ。多分、触ったら崩れます。」

 私がそう言うと、ピナさんはまたも崩れ落ちる。

「やっと……やっと見つけたのに……。」

 この骨がいつここに入れられたのかは知らない。でも、何百年も前の骨なのだろう。

 ちゃんとした管理がされていればもっただろうが、こんな湿気のある場所に無造作に置いてあったのだ。今形が崩れていないのが奇跡レベルだ。

 

「……ディダには開放していいと伝えた。あんたは帰っていいよ。」

「ピナさんは?」

「私はここに残る。」

「ここの新しい主になるんです?」

 私がそう聞くが、ピナさんは反応しない。代わりにフィアルさんが答えた。

「この魔族じゃ無理だ。すぐ殺されるよ。」

 マザーの話からもそう伺えたが、やっぱりそうなのか。

「はぁ、もうしょうがないですね。パケマネさん、お願いします。」

 私の呼びかけに、パケマネが姿を現す。

「……。」

 パケマネはいつもとは違い、ピナさんとフィアルさんを嫌なものでも見るように見ている。

 私の知っているパケマネとは違うその表情に心でため息をつきつつ、お願いしてみる。


「嫌だろうけれど、この木の空洞が残るように、木を切り取ってもらえないですかね?」

「いいけれど、これは木じゃないよ。木に見えてるけど。」

 あー、それもちゃんとマザーが言ってたな。

「あああ、すみません。でも、できるならお願いします。」

 パケマネは木に手をかざすと、木の空洞の周りが四角く箱状に切り取られる。ありがてぇありがてぇ。


「これ、ちゃんと入れ替えないともう崩れるよ。少し猶予を持たせたから、すぐにやりなさいね。」

「ありがとうございます。」

「いいよ。私はここの魔族が凄く嫌いだったから。だから、呼んでくれてよかった。この手で切り刻めたからね。」

 そう言うと、パケマネは消えた。あの温和な見た目から、こんな発言が飛び出すとは思わなかった。

 精霊王たちも、この前の事件以来、やっぱり私にも思うとこがあるのだろう。

 今までのように、優しい面だけ見せてくれるわけにはいかないと感じた。


「さ、ほら、帰りましょ。」

 木の箱をピナさんに渡すと、大事そうに抱えて頷く。

 それを見て、私もフィアルさんに頷いた。

 フィアルさんはパケマネがいた場所を一瞥し、光を発する。ドラゴンに変形だ!


 まぶしさにつむっていた眼を開けると、割と小さ目のドラゴンがいた。

「あれ?小っちゃくないです?」

「本来の大きさになったらこんなとこじゃ狭いだろ。」

 変なとこで常識人である。

「背中で寝てていいですか?あんまり寝てないんですよ。」

「いいが、すぐ着くぞ。」

「大丈夫です。あ、落とさないでくださいね。」

「落ちたとこで死なないだろ。」

「いや、寝てたら死ぬと思いますよ?」

「はは。じゃぁ、少しゆっくり飛ぶか。」

 こうして黄龍に乗って、帰りは超特急の旅になった。



 超特急すぎて、三十分でついたんですけど……。ドラゴン怖い。こりゃ転移なんていらないよね。


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