90.最後の町
次の町は翌日の夕方についた。
「ヤダ!もう寝る!絶対寝る!!」
さすがの私もかなりイラついていた。ご飯は何とかトイレ休憩の時に家から持ってこれたが、それも違和感が出ないように果物を丸ごととか丸パンとかだったので、ちゃんとした食事もしたい。
「うるさいわね。わかったわよ。」
やっと宿屋に泊まれたので、一階の食堂で食事を頼む。
ありがたいことに、ちょうど街道と交差する箇所だったために、この町はちゃんとした大きさだった。
なので、食事はがっつりとしたものを買い込んで、部屋に持ち帰った。そして、それを置いて即寝た。
本当に一瞬目を閉じただけだった。
目を閉じて開けただけだったのに、外が明るくなっていた。
そして、部屋の中にある椅子にあきれ顔のピナさんが座っていた。
「やっと起きた。ゆすっても叩いても起きないなんて。しかもこれ、食べてなかったのね。」
そう言って、テーブルの上に置いてある夕飯を見る。
「あー……勝手に入ってこないでくださいって言っても無駄だと思いますけど……。まぁ、それは起きたら食べるつもりだったんですよ。朝と夜とじゃメニューが違いますからね。」
「もう昼よ。」
「ヴェ。」
外がやたら明るいと思えば、もう昼になっているのだった。
「人間って本当に面倒。これ、食べるの?食べに行くの?」
「食べますし、食べに行きます!」
私が元気にそういうと、ピナさんはため息をついた。
いい宿に泊まれたものの、昼になってしまってはお風呂にも入れず、チェックアウトして外に出た。
「延長料金かかっちゃってすみません。」
「それは別にいいわ。で、まだ食べるの?」
「食べるっていうか、買っておいて後で食べるんですよ。だって、もう町はないんですよね?」
「ないわね。」
「あとどれくらいなんです?」
「あと二日はかかるわね。思ったよりもかかったわ。」
やっぱり買っておかないと死ぬ。
現在はベリンダールに入っている。ベリンダールは東西に長い。王都は北に行ってから東に曲がっていく。
オスカラートも領土の北側に王都があるのでこの短時間で来たが、同じくらいかかるのを考えると、魔境は結構近いようだ。
「魔境ってどんなところなんですか?」
「見方によって変わるわね。」
何もわからない返答である。
「やっぱり瘴気が満ちてるとかそういう?」
「一か所そういうとこもあるけど、ほとんどはきれいな場所よ。」
「きれいなんですか……。」
北極のようなところを想像していたし、少なくとも永久凍土のようなのだと思っていたのだが、違うのだろうか?それとも、そういうのがきれいという感覚なのだろうか?
まぁ、一面の銀世界はきれいかもしれない。
「そういえば、半そでで来ちゃったんですけど、寒くてやばいです?」
「寒い?寒くなんてないわよ?」
「え……。」
予想しているものとだいぶ違うようだ。
「聖女って、精霊と仲がいいんじゃないの?」
ピナさんは眉をひそめてそう聞いてくる。あまり精霊が好きではないのかもしれない。
「まぁ、そうですね。」
「なのに聞いていないの?」
「何をです?」
「魔境が精霊の住処だってことよ。」
「えっ?!」
聞いてない。聞いてないぞ!
そんな私の反応に、ピナさんはあきれ顔になる。
「聖女ってもっと色んなことを知ってるんだと思ってたわ。何も知らないのね。」
「まぁ、聞いたこともないですし、教えてももらってないですね。」
なんとなくだけど、あまり本質に結びつくようなことは疑問に思ったり興味をひかれたりしないようにできているんじゃないかと思う。
精霊王たちは恐怖の感情をコントロールしているようなことを言っていたが、他にも知らないところで感情のコントロールをされているのかもしれない。
それとも、精霊王たちが言うように、そういうことにこだわらない人間を選んだ結果なのかもしれない。
うーん。後者な気もしなくもない……。わからん!
「今からでも勉強すればいい事ですよ。魔境が楽しみです。」
「のんきね。」
ピナさんはバカにしたようにそう言った。
でもまぁ、知らないものは知らないんだし仕方ない。それにしても、精霊王達ってどこから来てるんだろうとは思っていたが、魔境にいたとは知らなかった。
精霊王はよく交流があるのは十人くらいだが、その他にもかなりの人数がいる。多分あったことない精霊王もいると思う。
精霊の数はそれこそ無限に思える。私は普段あえて会話をしていない。だって、かなりの数がいるので、全員と話をしていたらこっちの精神が持たないのだ。
それに、彼らは簡単なお願いは聞いてくれるが、複雑なことはできない。水の精霊に飲み水を出してもらうことはできるが、水の精霊に雨を降らせることはしてもらえないのである。
精霊魔法を使えばそれも可能だが、実際は数種の精霊を複数使って、適切に配置して効果を得なければならない。
普通の魔法よりも難しく、魔力を分けるために多くの力を使う。私が精霊魔法をほぼ使わないのにはそういう理由もあるのだった。
まぁ、簡単なお願いなら魔力の消費もなく効果を得られるので、使えるときに使うといった感じである。その場合は精霊魔法ではなく、精霊にお願いになる。
「魔族と精霊って仲が悪いんですか?」
ピナさんの表情から感じた疑問を聞いてみる。
「仲が悪いわけじゃないわ。というか、私には見えてない。精霊が見える魔族もいるみたいだけど、そこのところはよく知らないわ。」
「え?見えてないんですか?なのに、精霊の住処だって何で知ってるんです?」
「そう聞いたからよ。」
「誰に?」
「……マザーよ。」
「マザー?」
「そういう名前の魔族がいるの。今からあんたが会いに行くのはマザーよ。」
「そうなんですか。その人は精霊が見えるんですね。」
「どうかしら。マザーは私の何倍も生きてるから、経験でそうわかっているだけかもしれない。」
「経験……。」
「魔王は出現したとき、周りの精霊や魔族を吸うの。それを教わりながら見ていたのよ。」
精霊だけでなく、魔族も吸うのか。まぁ、一体化して邪神として復活したいそうだし、ドラゴン五体分が邪神一体分だと思えば、精霊王全員を吸いつくしてもまだ足りないのかもしれない。
「見ててどうでした?」
「どうって……。まぁ、怖かったわ。自分も吸われるんじゃないかって。」
「マザーさんとは仲が良かったんですか?」
「……若い頃、一緒に暮らしていただけよ。
そんなことより、早く買ってくれない?さっさと魔境に行きましょ。」
「はーい。」
あまり話したくないのか、マザーさんの事を思い出して魔境へ行きたくなったか。なんだかピナさんにもいろいろとありそうだなと思いつつ、私はおいしそうなものがないかと探すのだった。
そして、本当に二日後、魔境にやってきた。
そこは、私の考えていた魔境とは、まったく違う世界だった。
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