87.真夜中の出立
結局、ギルマスとサブマスが離れることがなく夜になってしまった。
なんだか二人で移動しており一か所で止まったので、多分飲み屋にでも行ってるっぽい。うまく話を聞き出せそうにないと思いつつ、私は目の前の深刻そうなアマンダさんを見た。
アマンダさんは言いにくそうに、こちらを見返す。
「まだ予定でしかない事なので、お話すべきではないと思っていたのですが、魔境に行くなんてことになるのでしたら、ちゃんと言っておかないといけないと思いまして。」
そういったアマンダさんは、小さくため息を吐いた。
「私、結婚してもオスカラートにいるつもりでした。そうしてもいいと言われていましたし。
しかし、話を聞くに、多分彼はベリンダールを変えたいと思っているのだと思うんです。
政治に口を出すことは今現在できませんから、国民のためにできることを自分の角度からと思って、周辺諸国との貿易と外交を考えて商会を作ったようなんです。」
ディアも前は産業にテコ入れしてたとか言ってた気がする。
「でも、そうなるとベリンダールにいた方がいいんです。しかし、私への風当たりが強くなるのがわかっているので、こちらに置いておきたかったというのが本音だったようで。
でも、そうわかってしまえば、私はあちらに行くべきだと思うんです。
ベリンダールの事をもっと勉強して、手伝えることは手伝いたい。」
アマンダさんはうつむきがちにそう言うが、それはその通りだと私も思う。なので、胸を張って言ってもいいことだ。
「私はメリル様にもこちらにいるって言ってしまいましたし、ディアさんのために家を用意することも言いました。なのに、自分は結局ベリンダールに行こうとしているんです。」
「最近挙動が変だったのは、それでなの?」
「普通にしていたつもりなんですけれど。あ、ディアさんの方は、ディアさんから断られちゃったんですけどね。」
「え?」
「ディアさん、色々考えたみたいなんですけど、戦うことしかしてこなかったから、他の仕事ができるか不安だっておっしゃってて。それで、ソフィアさんに話したら、やっぱり兵士になるのが一番なんじゃないかって言われたそうなんです。」
「じゃぁ、兵士目指すんだ?」
「そうみたいです。ディードは岩山の家の気候が合ってるらしくて、のびのびとしているそうですし。」
元から寒冷地方の岩山にいたのだし、岩山が好きなのだろう。ここには岩山なんてないし、暖かいからなぁ。爬虫類なのにどういうことなんだろうとは思うが、そういうものなんだからそういうものなのだろう。
ちなみに、ディードもトウワにも行けるようにしてあるので、王都以外は不便はないのである。
「まぁ、そういうことで、色々と後ろめたかったんです。言ったことが守れなくてすみませんでした。」
「いやいや、人生色々あるしさ、思い描いたことと変わるのなんて当然なんだから大丈夫だよ。」
「すみません。」
「いや、ホントいいって。で、いつ頃行こうと思ってるの?」
「まだ彼に伝えてないんです。こっちにも拠点を作るのは本当なので、今はそれに忙しいですから。立ち上がりがうまくいったのを見ないといけないですし、今年中とかはないです。
来年にキアッフレード殿下の結婚式があるので、その頃に行けたら行こうかと。」
「じゃぁ、その時はついてくね。」
「へ?」
「私もベリンダールに行くよ。ちゃんと幸せになったの見ておかないといけないじゃん?国つぶすなら協力するし。」
「えっ?いや、でも!」
アマンダさんはあたふたしているが、こちらとしては第二王子と話した通りなのだから問題はない。
「別にこの国にいることにこだわりがあるわけじゃないし。」
「でも!ソフィアさんやハルドリック様の事は?!」
「え?おねーちゃんはディアがいるし、シュレインさんは仕事があるからこっちにいるでしょ?」
私のあっさりとした返答に、アマンダさんは変な顔になる。
「あ、あの、ハルドリック様と離れても大丈夫なんですか?」
アマンダさんが言いにくそうにそう言うので、今度は私が変な顔になった。
「え?別に。シュレインさんは仕事で一緒にいるだけだし。そもそも、迷惑かけっぱなしだったし、私がいなくなったらほっとするんじゃない?」
そう返答すると、アマンダさんは頭を抱えた。
「あの、ハルドリック様はそんな風には思っていないと思いますよ?」
「そうかなー?はじめから迷惑そうだったよ?」
「はじめはそうだったかもしれませんけど……だからはやくしろって言っておいたのに。」
最後の方は若干イラついた顔でうわごとのように言ったので、何かあったのかもしれない。私はとくに何か言われてたわけじゃないので、シュレインさんにでも言ったのだろう。
「もしかして、シュレインさんに何か言った?最近シュレインさんも挙動不審だったんだけど。」
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。私が言うことではありませんので。」
今までの流れと違い、はっきりきっぱりと言い切るので、多分シュレインさんの挙動不審の原因はアマンダさんに何かを詰められたことによるのだろう。アマンダさん変なとこで異様に強いからなぁ。
でもまぁ、今の会話で何となくは見えた気がする。
多分、シュレインさんがこっちについてくるかの話があるのだろう。
アマンダさんの状況によっては、向こうに永住もあり得る。
フィアルさんの件では私を手放すのも有りと考えていたようだし、今後は私が向こうへ行くと言えば手を引くだろう。
そうなると、シュレインさんはこちらについては来れないだろう。
冒険者も有りと考えていたようだから、そういうことだとは思うんだが、ギルマスに置いてくって約束しちゃったからなぁ。
あ、でも、もしかしたらアイス屋の件でついてこようとしてる?ベリンダールじゃアイスは売れないからやらないって言った方がいいかも。
あれはもっと先の話だと思ってたから、つい誘っただけなんだよなぁ。
というか、シュレインさんよりもアマンダさんの家族が腹をくくる必要があるような気がする。
私を手放すときに帝国に何か条件付けようと思うくらいなら、私がついて行こうとしているアマンダさんに何かを言うに違いないからだ。
割と簡単に移住を考えていたけど、周りにとっては面倒くさいのかもしれない。
そこはまぁ、第二王子に頑張ってもらうしかないよなぁ。付いてきて欲しいって言ってた本人なんだし、そこは想定内だと思っておきたい。
アマンダさんとの話を終えて部屋にかえると、結構いい時間になっていた。
朝五時起きと考えると、寝なくてはいけない。ギルマスは明日隙があったらにでもしようと思って布団に入った。
真夜中、私は目が覚めた。何かが近づいてくる。
まぁ、相手はわかっているので、服を着替える。
着替え終わったところで、窓の外に来客が来た。
「朝五時にって約束だったと思うんですけど。」
私が窓を開けてそういうと、相手は顔をしかめた。
「人間の挨拶とやらは済んだんでしょ?ならいいじゃない。」
不機嫌にそう言う相手はピナさんだ。気配はきれいに消しているが、空を飛んできていたので索敵に引っかかって分かった。
本当ならちゃんと行ってきますって言いたいところだが、早く済ませて帰って来るに越したことはないので、その提案に乗っかって出ていくことにする。
「荷物持ってきますから、ちょっと待ってくださいね。」
「だから、買ってあげるってば!」
「そうはいっても、他で手に入らない必要なものがありますから。」
おねーちゃんも言ってたけど、化粧水なんかは自前のものがいい。まぁ、たっかいのをベリンダールで買ってもらうのもありだと思うけど。
ついでに、出かける旨をメモに書いて扉の下に挟んでおいた。アマンダさんなら気が付くだろう。
「最低限の荷物しか持ってないので、旅費は本当に出してくださいね。私、お金持ってませんよ?」
オスカラートのお金はあるが、ベリンダールのお金はない。両替する時間なんてなかったからだ。
前回みたいに、ちゃんと資金力あるアマンダさんが先に工面してくれていたようには過ごせないだろう。
だって、ピナさんも小さなポシェットみたいのしか持ってないんだもん。
「大丈夫よ。まぁ、そんなに人里になんて行かないけどね。」
不安しかないことを言う。
「それより、どの程度で飛べるの?」
「求められてるスピードがどれくらいなのかわからないので何とも。でもまぁ、人並みです。」
「人間は飛べないじゃない。まぁいいわ。ついてきなさい。」
そう言って、ピナさんは飛んでいく。私は小さくため息をついて後をついて行った。
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