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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
84/102

84.カレーを食べる

 ジュディアル帝国は、予想と違って緑豊かな国だった。なんとなく砂漠とかそういうのを想像していたのだ。

 そういえば、隣国を乗っ取ったと聞いているので、こっちはその領土だったところなのだろう。


「思ったより暑くないね。」

 眼下に街並みを見下ろしながら、私はつぶやいた。


 今、我々は城下町の上空にいる。ベイダルさんの記憶で飛んでもらったが、街中はやばいということで、空に出るようにしてもらった。

「こっからどうするんですか?」

 アマンダさんがごもっともなことを聞いてくる。

「透明になって、人気のないところに降りるしかないね。そこで姿を出して……。」

 と言ってるいる間に、下からフィアルさんが飛んできた。わお。


「来たか来たか。さ、このまま城に降りよう。同じルートで来るといい。人目につかないように施してある。」

 愉快そうに笑いながら、すいっと下に降りていく。私たちは言われた通りについて行くことにした。



 上空からではよく見えていなかったが、城は宮殿というのがふさわしい、素晴らしい作りだった。

 人々はゆったりとした服をまとっている。いわゆるアラブ系統だ。

 いつもは軍服で来ていたフィアルさんも、今日はそんな服を着ているが、薄紫の生地に金糸で刺繍されていて、一目で高価そうなのがわかる。

 対して私は普通にワンピースである。この格差よ。


 城の一角の庭に降りる。周りには人がいたが、ここは誰もいない。

「ここが私の区画だ。人はほぼいないから気にしないでいい。お腹は空いているんだよな?」

「はい。」

「では、すぐに運ばせるから、あちらの部屋で待っていてくれ。用意ができたら呼ぶ。靴はそこに脱いで。」

「予定を変更してもらった上に大人数ですみません。ありがとうございます。」

「かまわないさ。」


 フィアルさんがどこかへ行き、我々一行は言われた通りの部屋に入った。

 中はとても広く、総勢七名でやってきていても十分にゆとりがある。

 ソファもあるが、中央にはラグに低いテーブルと座布団があるので、そちらでくつろぐタイプなのだろう。


「ちょっと!ここって城じゃない!私マナーなんて知らないわよ!っていうか、ここどこよ!」

 小声で姉が文句を言ってくる。姉には、珍しいご飯食べに行くとしか言っていなかったのである。てへ。

「ここはジュディアル帝国ってとこだよ。マナーは気にしないで大丈夫でしょ。私も知らないし。」

「俺も知らないよ。」

「そ、そう。」

 私とディアがそういうので、渋々納得する。ソワソワとしながら、端の方にあるソファに腰かけた。ディアもそちらへ行くので、私は生温かい視線で見ておく。


 ベイダルさんはさっさとテーブルに置かれているお菓子を食べ始めているし、もちろんグレンドさんもその横に座っている。アマンダさんはこれまたテーブルに用意されていたお茶のセットでお茶を入れていた。

 私の横に立つシュレインさんを見ると、視線に気が付いてシュレインさんもこちらを見る。私は肩をすくめた。

「私たちも座ってよ。」

「はい。」

 どこへ来ても、結局は通常運転な気がする。姉だけが落ち着かない雰囲気だが、そのうち慣れるだろう。



 ほどなくして、きれいな女性が呼びに来た。

 ついていくと、大きな白い部屋に通された。

 天井が高く、二面がガラス張り。天窓もある。室内なのに多くの植物が植えてあり、部屋をぐるりと水が流れるようになっている。

 元砂漠の国家なだけあって、多分こういうのが贅沢なのだろう。


 部屋の中央には大きなテーブルがあり、所狭しと料理が並べられていた。

 床で食べる形式じゃないので驚いたが、全部が全部地球を模してるわけじゃないのか、それとも気を使ってくれているのか。

 ……気、使うかなぁ?


「さぁ、座って。食べよう。」

 とても愉快そうにそう両手を広げるフィアルさん。

 それぞれに席に着く。私もそっと一番下座に座ろうとしたら、こっちへ来なさいとフィアルさんの横に座らされた。チッ。


「どうだい?これで合ってたかい?」

 料理を見ると、本当にカレーがあった。ちゃんと横にナンが置いてある。

「うわぁ!合ってます!」

「よかった。味はどうだろう?」

 促されたので、手前にあった物をよそって食べてみる。

 うん、日本のとは違う、本格的なカレーだ。

「これですね。でも、ちょっと辛いです。」

 私がすかさず水を飲んだので、フィアルさんは笑う。

「あっちの方が辛くない。」

 言われたのを食べると、スパイシーではあるが、マイルドな味付けだ。

「本当だ。こっちは辛くないんですね。」

「おいしいか?」

「おいしいです。ありがとうございます。」

 と言いつつ、実は本格的なカレーは好きではない。日本式のカレーが好きなのだ!別物だよね。

 しかし、これで土台が手に入った。私はここから手を加えればいいのだ。フハハハハハ!


 私がにんまりと食べていたからか、フィアルさんは満足そうに頷いた。

「君はこれが好きか。じゃぁ、ここへ嫁に来い。毎日でも食べれるぞ。」

 その発言に、全員の動きが止まった。いや、龍兄弟は気にせず食べてるわ。

「嫌です。」

「ははは。」

 私が即答で拒否し、フィアルさんが笑ったので、緊張の走った空気が和らいだ。まぁ、これ我々のテンプレ会話になりつつあるんだけど、皆は知らないからなぁ。


 フィアルさんは美代さん魔王事件以来、月に一度くらい城にやってきては、嫁に来いと言ってくる。

 嫁に来いといっても、人体実験に使いたいだけだろう。

「裕福な暮らしができるし、私との間に子をつくれば、面白いことになるとは思わないか?」

 最低である。セクハラとしてもそうだが、面白い事って言い方に、子供すらもおもちゃとして扱っているのが理解できる。本当にこのドラゴンは胸糞悪い。

「何言ってるんですか。ちゃんと覚えてますよ?ディアンガさんに美代さんのことを訊ねた時のあの顔。」

 私のその答えに、フィアルさんの表情が一瞬嘲笑の顔になる。


「君のおかげである結論にたどり着いたんだよ。」

「結論?」

「なぜ、私は聖女の魔力を奪えなかったのか。なぜ、クレアライトの件が失敗したのか。」

 うわ、その話出す?私は皆をちらりと見た。龍兄弟は通常運転だが、人間組は食事の手が止まってしまっている。困った。

「食事の席の話にはふさわしくないようですけど?」

「聞いてほしいんだよ!この数百年の無駄を、理解させてもらったんだ。お礼ともいえる。」

 全然お礼にならん!


「君から聞いて、すごく単純なことだったことに気が付いた。私が疎ましく思っていたアレは、今では君たちになっていたってことだろ。

 それを、私たちは本能的に感じていたんだよ。アレが私たちとは完全に別の得体のしれないモノのように、君たちも私たちにとってはそうだったのだと。

 だから、無意識に拒否してしまう。嫌悪感の正体はそれだったんだ。

 まぁ、それはいい。私の実験の失敗の話だよ。

 私は確認のために、もう一度精霊から魔力を奪えないかとやってみたが、やはり駄目だった。

 でも、君は私たちの魔力を吸うことができる。それが魂の問題だというのなら、私はどんなに望んでもその能力を得られないだろう。

 だったら君が私との子を産んだらどうだろう?見て見たくはないか?それに、そもそもが混ざり合っているのだから、この世界で最強の子になるだろう!嫌悪感なんてそのためには我慢できるさ。」

 おいおい、なんで我慢するのが自分の方みたいに言ってるんだね?


「私は我慢できませんねぇ。」

「金はいくらでもやれるぞ?」

「自分で稼げるんで。」

「なら、あの女を連れて来い。なぜあの女がディアンガの魔力を持てたのか気になるんだ。」

 フィアルさんは絆がどうたらとかいうのを知らないのだ。言う必要もないし、私もあの時はそれに触れなかった。だから、真顔で言ってやった。

「あなたには無理だと思いますよ。ベイダルさんたちに聞けばわかりますよ。」

 私がベイダルさんの名前を出したので、グレンドさんが嫌な顔をこちらに向ける。ドラゴンはドラゴンどうしでどうにかしてくださいよ!


「どういうことだ?おい、ベイダル!」

「あーん?確かにお前には難しいだろうな。」

 ベイダルさんがそう答えるので、無関心なようでちゃんと聞いていたようだ。

「ディアンガと美代が特別だと思う方がいい。あんなこと普通はあり得ないのだから。」

 グレンドさんもそう続けた。グレンドさんの表情がフィアルさんへの嫌悪感を感じさせる。なんか、フィアルさん全方位に嫌われてるなぁ。まぁ、その気持ちわかるけど!

 二人にそう言われたので。フィアルさんの方もすねた顔になる。おっさんでそんな表情すんな。


「そんなことより、これちょっと持ち帰ってもいいですか?できたら材料も分けていただきたいんですけど。」

 場の空気も冷え切ったので、話を変えとこう。

 本格カレーは好きではないといって何だが、出された料理はどれもおいしかった。

 私はただ単に辛いのが苦手なのだ。なので、できたらバーモントの甘口みたいな味が出したい。リンゴとはちみつぶっこめば行けるのだろうか?

 そこらへんはアマンダさんとやってるレストランの人たちと話し合ってみよう。プロに任せれば似て非なるものでも作れるだろう。


「またくればいいじゃないか。」

「ここから改変していきたいんですよ。」

「ここでやればいいだろう?」

「流石にそれは気を使いますし。」

「私がいいというのだから気にしないでいい。」

 そういう問題じゃない。

「難しそうならお願いしに来ますよ。」

「絶対来ないつもりだろう。」

「ばれました?」

 私たちが軽快にトークしているのを、不安そうに皆が見ている。このくらいじゃ外交問題にはならないから大丈夫でしょ。……多分。


 にしても、流石南国というべきか、ルーシルさんと行ったところといい、果物が豊富だ。これらも分けてもらおう。

 私はアイス屋さんの夢を忘れていない。

「この後って、街を見てもいいです?」

「いいぞ。案内しよう。」

「いえ、我々だけで行けますんで。」

「何か買うなら払おう。」

「あ、よろしくお願いしまーす☆」

 私たちはお財布をゲットし、帝国の街に繰り出すことになった。



「なんだかすごいですねー。」

 城が宮殿というにふさわしい作りだったように、街も白い壁に青い屋根で統一されていて、とてもきれいだ。

 財力を感じるし、街が壁で囲われたりもしていないので平和なのだろう。

 軍事国家だと聞いているが、そのような印象は全く受けない。もしかして、フィアルさんが一人で全部薙ぎ払ったとかじゃないでしょうね?


「美しいだろう?」

「はい。」

 フィアルさんが自慢げにドヤッても、嫌味にはならない。本当にきれいだからね。

「夜も美しいんだ。見て行けばいい。」

「今日は大人数で来てますからね。いずれ見に来ますね。」

「来ないつもりだろう。」

「いや、これは本当にきれいそうなんで、是非見たいです。」

 私がそう答えると、フィアルさんは口角を持ち上げた。

「いつでも歓迎しよう。住んでもいいからな。」

「結構です。」

「はは。」

 

 店の集まる通りに行くと、屋台が多く出ていて、とても活気がある。

 どこの店も天幕が鮮やかな布で、周りの白い壁に凄く映える。

「ゴーディア様!」

 フィアルさんの姿を見た人々が跪いて両手を合わせる。

「よいよい。今日は友人たちを案内するんだ。気を使わせるから楽にしてくれ。」

 その言葉に人々は立ち上がり、一度止まっては両手を合わせお辞儀をし、過ぎ去っていく。

 そして、店を通過する時にはその屋台から何かしら持たされる。


 それは畏怖の念ではない。

 人々の表情は明るく、フィアルさんを慕っているのがわかる。

「参った。確かに久しぶりに来たが、これではゆっくり見れないな。」

 そういうフィアルさんの表情も柔らかい。どうやらこのドラゴン、王族としてはとてもよく働いているようだ。

 全方位から嫌われていると思っていたが、慕ってくれている人たちもいることに少し安心を覚えた。

 だが、この中の誰も、城で非道な魔王作成実験をしていただなんて考えもしないだろう。


 そういえば、呼びに来た美人さん以外は人を見かけなかった。

 ベイダルさんたちが何人か殺したといっていたが、広い王城の、あの一角だけがそうだと信じたい。

 

 通りの半分も行かないところで、我々の両手にはこぼれんばかりに商品が積みあがってしまった。

「これはお前たちが持って帰ればいい。この国の豊かさを感じれるだろう。」

「ありがたく頂戴します。」

 結局、何も買うことなく帰ることになった。

 あの状態でどっかで買い物をしようものなら、ゴーディア様御用達などが生まれそうだし、何なら暴動になりそうだ。人気すぎるのも困りものなのだな。と、妙なところで感心してしまう。

 

 そんなわけで、意外にも平和なまま王都へ帰ることになったのだった。

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