83.カレーが食べたい
なぜ!私は!!家庭的ではなかったのか!!!
王都に来て二年が経とうとしている。その二年で、日本で食べていたものを全く同じとはいえないまでも、かなり近いものを食べれるようになってから、長い間夢見ていたことがある。
カレーが食べたい。
カレーが食べたいんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
本格的なのじゃなくて、日本の家庭で出てくる方ね。
市販のルーがないと再現無理でしょこんなん。
実は、私は辛いものが好きではない。なので、甘口がいい。
リンゴとはちみつはCMで知ってる。でも、それ以外の材料が全くもってして浮かばない。あ、小麦粉とバターくらいはわかるよ?
ターメリックまでは多分あるだろう。でも、それ以外は何????
というわけで、私はこの前買ったスパイスを一通り舐めたのだが、まったくもってわからなった!
こういう話って、よく料理で胃袋掴む系の話多いじゃん?でも、私にはそんなたいそうな料理知識がなかった。
なので、アマンダさんとレストランを出したけど、わっかりやすいオムライスとかパンケーキとかで濁しているのである。
かわいさコンセプトなのでそういった料理は女子ターゲットとしては大成功なのだが、カップルで来ると男性が物足りないらしい。
なので、ガツンとするものもということで、今は肉料理も出している。鳥の照り焼きはかなりの人気だ。
生姜焼きとか牛丼とかも作り方わかるから、そのうち今度は男性ターゲットで定食屋出してもいいかもなぁ。
話がそれた。
とにかく!私は!カレーが!食べたい!
「とりあえず、インド式のがないか探しに行こっかな……。」
ほぼ現実逃避でそう考えた。南国のどっかにはきっとある。この世界は絶対地球を意識してるからある!
私はすっくと立ちあがった。
「世界を見よう。」
なぜか壮大なセリフと共に……。
とはいえ、当てもなく放浪するのも無謀なので、一番の知識人たるアマンダさんにすがるのが手っ取り早い。
「ひーん!アマンダえもん!カレーが食べたいんだよぅ!」
「え?」
私の奇行も言葉の意味も分からず、怪訝な顔をするアマンダさん。そりゃそうである。
「いやぁ、世界に詳しいアマンダさんに聞きたいことがあるんだけど、茶色くて液状で辛い食べ物って何か思いつかない?」
「スープですか?」
「あー、そのまま飲むわけじゃなくて、ご飯とかパンとかそういうのにつけて食べると思うんだよね。」
「すみません。私は思いつかないです。」
ダメかー!
「俺知ってるわ。」
「え?!」
全然意識してないとこから声があって、びっくりしてそちらを向く。声の主は、お菓子をむさぼるベイダルさんだ。あんたお菓子食べてないときあるの?
「この前それ食ったよ。」
「ふぁっ?!ど、どこで?!」
「フィアルんとこ。」
最悪だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「うわぁ……行きたくないわー。」
めちゃくちゃ嫌そうな顔になってしまった。
でも、いいことを聞いたともいえる。フィアルさんはあれ以降も三回は会った。城に来るんだよね。正直迷惑だが、今度来た時にカレーの材料くれっていってみよう。
「はは!なら、こちらへ来ればいい!」
忌々しいことに、あれからすぐに機会ができたので頼んでみると、こう言われた。
「いえ、すみませんがそれはご遠慮します。」
「いやいや、ちょうどいい。何度も誘っては断られているからな!」
「行きません。」
「いつから来る?今一緒に行こうか。」
ピキッときた。フィアルさんは腐ってもドラゴンだ。喧嘩したら絶対勝てないし、王族という地位にいるので、正攻法で国を攻められる。
この国はどうでもいいが、家族も住んでいるし、アマンダさんたちに迷惑が絶対かかるのがわかるので、今は分が悪い。
嫌々ながらも毎回面会してるのも、姑息に国を通してくるからだ。私が断れないのを知っているのだ。
「わかりました。では、今日は用意がありますし、明日伺います。国境は飛ばしても?」
「もちろん!最速で来ていいよ。城には話を通しておくから。」
ちなみにこれら、トウワ語で話してる。騎士団長が扉の所にいるので、帝国語では万が一勉強されてたら厄介だからだ。
他のドラゴンと違い、フィアルさんは人間語が話せる。流石王族のふりをしているだけあるのだろう。変なとこで勤勉だ。
「ってわけなんだけど、一緒にご飯食べに行こうよ。」
「おー。いいよ。」
アホドラゴンは飯といえば食いついてくる。これで同レベルの戦力を確保した。グレンドさんの方を見ると、渋い顔をしている。
「グレンドさんも行きます?嫌だったら大丈夫ですけど。」
「行く。」
まぁ、そうですよね。兄についてきますわ。目論見通りである。
何ならディアンガさんやルーシルさんも連れてって、帝国ぶっ潰したいところだけど、あの二人はフィアルさんの顔も見たくないといった感じなので無理だろう。
そうでなくとも、戦ってくれるかわからないし。
「聖女殿、私は反対です。」
シュレインさんが真顔で言った。横でアマンダさんとディアも頷いている。
「まぁ、私だって行きたいわけじゃないけど、ただで最高級の食べれるわけだし。」
せこい理由なのが情けない。でも、近くに行ったらどうせばれるしなぁ。あのドラゴン絶対来るじゃんよ。
「また、あの時のようなことにならないですか?私、嫌ですよ!」
アマンダさんの言うあの時とは、きっと美代さん魔王事件の時の事だろう。
あの後、バイバイと言った手前、のこのこと帰るのが気まずかったが、帰るとアマンダさんは泣きわめきながら抱き着いてきた。その後ろで、騎士二人も安堵の表情になった。
帰った瞬間に見た三人は顔が青白かったので、多分お通夜状態だったのだろう。
それから事情を話したが、アマンダさんとディアは魔王のくだりを知らないので、ものすごく怒られた。
「なんでそんな大事なことを隠して、一人で行っちゃったんですか!もう会えなかったかもしれないんですよ?!」
アマンダさんはギャン泣きしながらそう言うし、
「信用されていないのは仕方がない。」
ディアはぶすむくれてそう言う。
「私は死んでもかまいませんから、その場に連れて行ってほしかったです。」
シュレインさんまでそんなことを青い顔で言うので、私はあの後三人の機嫌を直すのに必死だったのだ。今でも思い出すと胃が痛い。
それに、美代さんは魔王じゃなかったとまでしか言っていない。
あの白い世界の事は知る必要はないだろうし、私が精霊王とドラゴンにお願いをしたことも話さない。
だめなら死ぬのは変わらないからね。
「いや、もう攻撃してきたりはしないって。ベイダルさんとグレンドさんもいるし、フィアルさんもそんなバカじゃないと思うんだ。」
「いやぁ、あいつは何するかわからないからなぁ。」
いらんことをベイダルさんが言ってくる。お菓子取り上げるぞコラ。
「毒くらいなら平気だよ!」
「俺たちは死ぬからな?」
ディアがあきれ顔で突っ込む。
「え?ついてくるの?」
「流石にあいつのとこに行くなら行くよ。」
「おねーちゃんは?!」
「……休ませる。」
お前は過保護か!いや、知ってたわ。
「まぁ、休みの日に行けばいいか。日帰りで行くつもりだから。あ、でもなぁ……おねーちゃんも連れてく?時差も考えないといけないから、夜中出発だよ?」
「えっ……。でもっ、いや……。」
ディアがものすごい葛藤をしているのがうかがえる。ディアから、姉が疎外感を持ってるのは聞いていたのだ。
でも、フィアルさん人質とかに取りそうだよなぁ。というイメージもある。
「ですから、そもそも行かない方がいいのでは?」
シュレインさんが話を戻した。チッ。
「そうだった。」
ディアも気が付き、アマンダさんも頷く。もう!せっかく話をそらしたのに!
「ヤダヤダ!カレーが食べたい!食べたいんだ!」
私がそういうと、三人とも半目でこちらを見ている。
「確かにあれ、クセになる味だったな。」
ベイダルさんが思い出している。くっそ。でもまぁ、あなたが食べたの私が知ってるやつじゃないんですけどね!日本式のカレー食ったら飛ぶぞ!
って、現状食べれる手段ないけども……。
「フィアルさんが城に来たときは、国のためにちゃんと会いに行ってるじゃないですかー!私のお願いも聞いてくださいよぉ!聞いてくれたらちょっとくらいはおとなしくしますからぁ!」
一番うるさい人を黙らすしかないので、シュレインさんに泣いて縋りつくことにした。
「聖女殿がおとなしくなさるわけないじゃないですか。」
「そんなことないですよぉ!この通りぃ!!」
私はすかさず土下座した。
「メリル様っ?!」
「聖女殿!」
アマンダさんとシュレインさんの悲鳴にも似た声が頭上から聞こえる。
この国では土下座は命乞いくらいでしかしない。命乞いでも頭ここまで下げないかもしれない。
美代さんのあいさつで似たようなものを見た後でも、この国でやれば効果は抜群なのだ。
「わ、わかりましたのでやめてください!」
勝った。もはやプライドなんてない。結果を得られれば、手段などどうでもよいのである。
「んじゃ、おいしいもの食べましょうねー。」
すかさず立ち上がり、コロリと態度の変わった私に、三人の視線が痛かったのは気のせいだと思う。
というわけで、世界を見る旅として、帝国食い倒れツアーが決まったのであった。
あ、明日じゃなくなったの断りに行かないと。それはベイダルさんに行ってもらおうか。私どこにいるか知らないし、お菓子で釣れるだろう。うん。
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