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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
82/102

82.南の国にて

「ルーシル様、急に走っちゃだめです。」

「だって!あれ見たい!何あれ!」

 ルーシルさんが指さす方には、人だかりができている。どうやら、大道芸のようだ。

 人だかりの上にぴょこぴょことマラカスのようなものが見えているので、ジャグリングをしているのだろう。


 そして、ルーシルさんはすっかり子供と化している。やはりあのしゃべり方は背伸びをしていたようだ。

 とはいえ、歳はベイダルさんたちと同じなのだろう。何を持ってして子供なのかがよくわからないが、子供にしか見えないから仕方ない。

 ベイダルさんたちに軽んじられているのもこのせいなのかもしれない。

 彼らにとってルーシルさんは、力はあるので保護対象ではない上、幼い言動で面倒くさいとかそのあたりだろうか?


「皆でご飯を食べに行きますので、ちょっとだけにしましょうね。」

 そう言って、アマンダさんとルーシルさんはすたすたと人ごみに割り込んで、見えなくなった。アマンダさんホント強い。


「あーもう、これだからルーシルは。飯食いにいこーぜ。」

 やはり、予想通りっぽい。

「でも、お金アマンダさんが持ってるから。」

「くそっ。」

 海底から拾った硬貨は、見事に換金に成功した。何ならコレクターにも売れるくらいの古いものだったらしく、数枚で結構な金額になった。

 この世界にも古銭コレクターっているんだなって変なとこで感心した。

 というか、それを狙って初めから古物商に持ち込んだアマンダさんも隙がない。

 ちなみに、通訳はグレンドさんにお願いした。ベイダルさんだと軽すぎるし、私やルーシルさんだと相手から足元を見られるからだ。

 若くても、男の方がどこでも通りがいいのは仕方がないだろう。



 二人は三分もすれば人だかりから抜けてきた。

「ほら、もう帰ってきたよ。」

 見れば、ルーシルさんはご機嫌でお腹を抱えて笑っている。

 アマンダさんは歳の離れた弟たちがいるから、子供の扱いがうまいようだ。

「凄いの!ボールに乗った男の上に猿がいて、その猿があれ投げてた!」

「見れてよかったね。」

 楽しそうに報告してくれたので、私もにっこりと笑ってそう言った。

「陸も面白いんだね。」

「ご飯も楽しみですね。」

「うん!」

 そう言って、またも陽気に歩き出す。ベイダルさんは肩をすくめてからついていく。


「何食べるの?!」

 ルーシルさんがアマンダさんに聞くと、アマンダさんは後ろを振り返った。

「ベイダル様、どのお店に入りたいか、決めていただいてもよろしいですか?」

「お?おう。」

「えー?大丈夫なの?」

 このままの流れで、アマンダさんかルーシルさんが店を選ぶのかと思いきや、アマンダさんはベイダルさんをご指名した。

 自分が選べるとは思ってなかったのか、不満そうについて行ってたベイダルさんがびっくりしつつも、笑顔が戻った。

 しかし、今度はルーシルさんが不満そうにするが、アマンダさんは優しく諭す。


「ルーシル様、ベイダル様がご飯を食べたいとおっしゃったから来ているんですよ。当然ベイダル様に合わせるのが道理です。」

「でも、あいつだってここの店なんて何もわからないでしょ?だったら人間が決めた方がよくない?」

「誰が決めても、成功も失敗もあります。どっちになっても楽しく皆で食べることが一番なんですよ。」

「えー?」

「中に入ったら、ルーシル様の分はルーシル様が選べますから、おいしいものを見つけましょうね?」

「え?あたしが選んでいいの?!」

「もちろんです。甘いものはお好きですか?」

「うん!あたし果物好きだよ!」

「じゃぁ、そういうものがあるか見てみましょう?なかったら、人間が食べる甘いものがあるかもしれませんから、それを選びましょうか。」

「うん!」

「じゃぁ、ベイダル様、お店選びお願いしますね。おいしそうなところをお願いします。」

「よし!任せとけ!」

 もはやおかーさんである。私ではああいうさばき方はできないだろう。

 ドラゴンたちをうまく操っているところを見ると、将来万が一にでも国を任されてもやっていけそうである。



「おいしい!」

 ルーシルさんはキラッキラのおめめに頬を上気させて、ご飯を食べている。

「ほら、そんなに詰め込んだらダメですよ。ちゃんと一口ずつよく噛んで食べましょうね。」

 アマンダさんが言う通り、ルーシルさんも頬にパンパンに詰め込むようにかっ込んでいく。

 ベイダルさんと同じことをしているが、愛らしい少女なので微笑ましい。

「俺の店選びが当たったんだ。感謝しろよ!」

「はぁ?あたしがどれにするか決めたんですぅ!」

 合間にこんなやり取りがちょいちょい挟まる。しかし、二人とも手が出ないあたり、本気で喧嘩というわけではないのだろう。まぁ、こんなことで世界の危機になるのはやめて欲しいが。


 にしても、びっくりしたのはここにお米があったこと。ジャポニカ米ではなくインディカ米だが、それが逆に地球感を感じる。

 中華料理なんかもどこかに行ったらありそうだ。中華も白米に合うから、いつか探しに行きたい。


 デザートにはフルーツ盛りと、プリンのようなものを食べた。

 南国らしく、フルーツは色とりどりでどれもおいしい。プリンのようなものはミルクティーのような味で、ざらっとしてはいたが甘くておいしかった。

 なので、お菓子好きのベイダルさんも、人間の甘味を初めて食べたルーシルさんも満足そうでよかった。


 

 食事を終えて店から出て、町を少し散策した。

 残ったお金は使っていいとそれぞれに渡してくれたので、私はおいしかった果物やスパイスを買い、ベイダルさんはまた買い食いをしている。

 本当ならば、アマンダさんは片っ端から店を見て周りたいだろうに、ルーシルさんに合わせて、興味を持ったものを買ってあげていた。

 変わろうかと聞いたが、大丈夫だと返されたので、そのままにしておく。

「それに、このお金はルーシル様のおかげですから。」

 アマンダさんはルーシルさんを利用してお金を手に入れたのを悪いと思っているのだろう。



 露店がある場所を見終わったので、私たちは町から離れ、砂浜にいた。


「今日はありがと。楽しかった。」

「こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございました。」

 ルーシルさんの言葉に、アマンダさんもにっこりと返す。


「ねぇ、あたしと一緒に来ない?」

「……私は、嫁ぐことが決まっています。たくさんの人を困らせることになるので、国に帰らなければいけません。」 

「そっか。ベイダル達と一緒にいるの?」

「ベイダル様たちが飽きるまでは。」

「そっか。」

 しんみりしている流れだが、もしかしてこのまま家に来る流れなんじゃないだろうかと思い始める。


「でも、私は商人なんです。どこかの海に、また行くと思います。海はつながっておりますし、ルーシル様とも、遠くではありますが、繋がっていますよ。」

 アマンダさんがそういうと、ルーシルさんはこくりと頷いた。


「ねぇ、商人ってことは、船があるの?」

「そうですね。よく知っていらっしゃいますね。流石です。」

「ふーん。船って危ない?」

「はい。実は、私も昔死にかけました。」

「えっ?!そうなの?!」

「はい。魔物に襲われまして。海はどうしても大きな魔物が潜んでいますから。」

 シーサーペントに似ているルーシルさんには、流石にシーサーペントに襲われたとは言わないようだ。


「だったら、魔物よけにいいものをあげる。手を出して。両手ね。」

 そう言って、ルーシルさんは差し出されたアマンダさんの手に自分の手を重ねた。

 重ねた手を離すと、アマンダさんの手にはキラキラと七色に光る白い大きな鱗があった。

「これを船に仕込んでおくといいよ。海の魔物が近寄らなくなるから。」

「これって、ルーシル様の鱗ですか?」

「うん。」

「こんな凄いものをもらっていいんですか?!」

「うん。あと、これもあげる。」

 そう言って、今度はしずく型の真珠のようなものを出した。大きさは二センチくらいだ。

「これは?」

「それを海につけたら、そこに遊びに行くよ。だから、また遊んでね。」

「はい!必ず!」

「約束だよ!」


 なんだか、感動のフィナーレだ。

 海に帰っていったルーシルさんに、アマンダさんはずっと手を振っていた。瞳には涙が浮かんでいる。


 アマンダさんは聖女の守護よりも凄いものを手に入れたようだ。

 まぁ、うちの筆頭良い人だからね。当然だろう。

 ベリンダールで酷い目に合おうものなら、国が地図から陸地ごと無くなるかもしれない。第二王子には注意しておこう。


 それにしても、ついてくると言われなくてよかった。

 ドラゴンが二体いる上に、フィアルさんもなんだかちょくちょくやって来るようになってたから、いざこざが起こる未来しか見えなかったし。

 ルーシルさんはかわいいけど、結局はドラゴンだ。触らぬドラゴンにたたりなしである。まぁ、かなりおさわりしてしまった後ではあるが。



 感動の別れの後、王都に帰ってきた。

 向こうには四時間ほどしかいなかったのに、なんだかとても疲れた。

 でも、嬉しいことがある。

 それは、南国の海に転移で行けるようになったことだ。

「今度、こっそり一人で行って泳いでこよ。」

 私は秘密の楽しみを得て、にんまりとするのだった。

 


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