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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
81/102

81.ルーシルさん

「うっわ!暑い!」

 暖かいってレベルじゃないじゃん!

 さすがマグマが気持ちいいというドラゴンだ。人間の考える気温と誤差がある、

 といいつつも、日本と違って湿度がないので、暑いけれど茹だるようなという感じではない。

 今回のメンバーは、龍兄弟にオスカラート組三人で来た。

 ディアはおねーちゃんの送り迎えがあるので、不参加だという。私に着いてくると言ったのはなかったことになってるのかもしれないが、そのままでいいと思います!


「日差しがきついですね。」

 一応日焼け止めのクリームを作って塗ってきたけれど、結婚式が控えているアマンダさんは日傘の影に体が入るようにしている。

 アマンダさんは当てが外れたのだろう。ここは、見る限りのだだっ広い砂浜だった。

「もしかして、ジュディアル帝国の近くだったりしないよね?」

 ベイダルさんに聞くと、首を横に振る。

「あそこも似たような場所はあるけど、違うよ。そもそも、ルーシルもあまりフィアルが好きじゃないからなぁ。」

 フィアルさん……。


 と、そんな話をしていたら、こちらに何かが向かってきている気配があった。

「ルーシルさん?」

 私がベイダルさんの方を見ると、頷いた。あ、ベイダルさんとグレンドさんは今は気配を消してません。フィアルさんにはバレちゃったからね。


 視界にもそれが入るほどになった時、アマンダさんの声にならない悲鳴が聞こえた。

「あ、あ、あれ……。」

 アマンダさんが指さす方にいるのはルーシルさん。白い龍だ。


 ベイダルさんとグレンドさんは誰もが思い浮かべるようなでっかいトカゲみたいなドラゴンだ。

 ディアンガさんは東洋の龍。フィアルさんは金色の羽毛が生えており、グリフィンのような骨格だった。

 そして、ルーシルさんは見えている限りは白い大蛇のようだ。

「私、見たことないんだけど、もしかして、シーサーペントってあんな感じなの?」

 アマンダさんに聞くと、青白くなった顔をこくりと頷かせた。アイヤー。


 ある程度近くなったところで、ルーシルさんはザブンと海に潜ったと思ったら、人型となりビョイーンと飛び出して目の前に着地した。

 ビシッとポーズを決めたような見事な着地に、思わず拍手をしてしまった。

「はは。久しぶり。あんたたちがこっちに来るなんて、珍しいじゃないか。」

 そう言って、にかっと笑う。ちなみに言語はドラゴン語だ。


 ルーシルさんは白龍といわれているが、肌は褐色で、長くてまっすぐな白髪だ。そして、驚いたのが十歳程度の少女だったことだ。

 服装も南国らしく、一見踊り子のように見えてしまうほどの露出があるので、ちらりと見るとシュレインさんとアマンダさんは顔をそむけていた。うーん、この調子だと水着なんて着た日にゃ怒られるなぁ。


「よっす。いろいろあってな。とりあえず、こいつを紹介するわ。」

 ベイダルさんもドラゴン語でそう言って私の頭をポンと叩いたので、私もドラゴン語で挨拶をする。

「聖女のメリル・クラージュです。」

「ふーん。あたしはルーシルだよ。で、なんかあったのかい?」

 ルーシルさんは私をチラリと一瞥して、すぐにベイダルさんに向き直った。私には興味がないのだろう。


「この前、ディアンガやフィアルと色々あって、そこで知ったことを一応おまえにも言っておこうと思ってさ。お前から話してくんね?」

 ベイダルさんが私に説明を丸投げするので、仕方なく自分が白い世界で聞いた事を話した。

「ふーん。ま、興味ないけどね。あたしはどうせ海の中だしさ。」

「そうだけど、一応だろ。」

「ま、ありがと。で、それだけのためにこっち来たの?」

「そうだな。あとはこっちの国でなんか食ってこうと思って。」

 え?そんなこと思ってたの?私がジト目でそちらを見るが、全く気が付かないベイダルさん。


「あんた、まさかこっちの魔物食おうってんじゃないだろうね?うちの若いのに手ぇ出したらわかってるんだろうね?」

 かわいい顔ですごむルーシルさん。なんとなく口調が姉御って感じだし、若いのって言い方よ。

「ちげぇよ。人間の食いもんな。なんかうまいもんしらね?」

「はぁ?人間の食べ物なんて知らないよ。あんたほんとに変な奴だね。」

 ルーシルさんも呆れてベイダルさんを見上げている。

「お前に言われたくないけどな。まぁ、知らないならいいや。あ、どうなるかだけは一応見に来いよ。」

「は?面倒だし別にいいよ。フィアルにも会いたくないし。」

「一応だよ。」

「いらないって。結果だけ教えてよ。」

「んだよ。仲間外れにしないでやったのにさ。ま、いいや。でさ、こっから近い人間の街ってない?」

 切り替えが早いドラゴンである。


「人間の?でかい方がいいのかい?」

「当然。」

「んー……。じゃぁ、北東に行けば港町があるから、そこがいいんじゃない?」

「ちょっとさ、その街のこと考えてくんね?」

「は?」

「行ったことねぇの?」

「中になんて入ってないよ。港が見えるくらいの海なら通ったことがあるけどね。あまりうちの若いのには人間に近づかないようにさせてるからさ。そっから先にはいかないんだ。」

「じゃ、その海上くらいでいいからさ。港の眺めとか思いだして。」

「はぁ?」

「いいから。」

「なんなの。んー、思いだしたけど?」

 そう言ったルーシルさんの腕をにんまりとしたベイダルさんがつかんだとたん、私たちは移転していた。


「は?え?なっ?」

 ベイダルさんの、他人のイメージで勝手に転移が成功し、遥か前方に町が見えている。確かに、大きな港町のようだ。

「ありがとな。じゃーな。」

 私たちはベイダルさんの術で浮かんでいるのだが、ベイダルさんが困惑しているルーシルさんの腕を離したので、ジャブンとルーシルさんだけが海に落ちた。ひどすぎ。


「はあああ??あんたほんとなんなんだい?!」

「お前海の中に帰るんだろ?」

「そうだけど!そういうことじゃないんだよ!」

「はいはい。じゃ、またな。」

 ベイダルさんはそう言って、さっさと我々と一緒に移動し始める。


「ムキー!!」

 後ろを振り返ると、ルーシルさんも奇声をあげながら海から飛び上がり、ついてきている。大変におかんむりのようだ。当然である。


「ねぇ、ついてきてるし、ひどいから謝んなよ。」

「えー?」

 ベイダルさんが後ろを向いた。やっぱりルーシルさんはついてきている。ちなみに、どっちも猛スピードで移動している。


「お前も飯食いたいの?」

 移動しながらルーシルさんに声をかけるベイダルさん。何にも理解していない。

「ふざけんじゃないわよ!!いいから止まりなさいよ!」

 ルーシルさんは怒り狂っている。


「あのさ、どうでもいいけど、あそこに行ってもご飯は食べれないよ?」

「へ?」

 私の言葉にベイダルさんの移動が急に止まり、追ってきていたルーシルさんが最後尾にいたグレンドさんにぶつかるかと思いきや、グレンドさんが腕で払ったので、ルーシルさんは後方に吹っ飛び、またもジャブンと海に落ちた。あーあーあーー。


「なんで食えないんだよ!」

 聞いてないぞというような顔になっているが、当然だ。

「いや、だって私たちここの国のお金持ってないし。」

「えっ?」

 ベイダルさんはびっくりしたようにアマンダさんを見る。アマンダさんを財布として認識するなや。アホドラゴンが失礼ですみません。

 もちろんその意味が理解できた賢いアマンダさんは、頷いた。


「うっわ、マジか!」

「キエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 ベイダルさんの絶望の声と共に、またも海から上がってきたルーシルさんの奇声がこだます。

「あ、ちょうどいいわ。なぁ、金持ってね?」

 ベイダルさんは奇声をものともせず、ルーシルさんに金をせびりだした。何この面の皮の厚さ。

「持ってるわけないでしょおおおおおおおおおおおおおお!」

「んだよつかえねーな。」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 ルーシルさんの叫びはもはや言葉にならない。



 そっからはルーシルさんの不満爆発タイムだった。

「あんたたちはほんと揃いも揃って何なのもう!頭がおかしいやつらしかいないじゃん!いつもあたしばっか割食って!」

「あーはいはい。」

「そうやって!いつも!あたしをバカにしてさ!あんたたちよりもちっこいからっていっつもそう!

 この前あいつと戦った時だってそうだよ!あたしは嫌だっつったじゃん!なのにフィアルがちょっかい出してさ!

 あんたたちも放っておけばいいっつったのに無視して!だからこんなことになったんじゃん!」

 ぎゃんぎゃんに泣きわめくルーシルさんは、口調が変わっている。もしかしたら、いつもはおねーさんぶったのが変な方向に行って姉御口調になってるんだろうか?

 しかも、この前とか言ってるけど、多分それ邪神との戦いのこと言ってるよね?


「だから、俺たちだって不本意だったんだって。でも、フィアルは仲間だろ?向こうからやってきたしさ、やられてんなら助けてやらないと。」

 フィアルさんやられてたんかーい。

「確かに最初に手を出したのはあっちだよ?でも、そのあとはあいつが絡んでいったんじゃん!やめろっつったよね?あいつは死んでもいいんだって!バカなんだから!」

 酷い扱いである。フィアルさんルーシルさんに何したのよ。

「ギャーギャーうるさい。静かにしろ。」

「ムキーーーーーーーーー!」

 黙っていたグレンドさんが、眉間にしわを寄せてすっごい嫌そうに言ったので、ルーシルさんは奇声をあげながら地団駄を踏み始めた。

 さすがに見かねて、アマンダさんがルーシルさんにハンカチを出しながら寄っていく。


「お二人とも、こんな小さな子なんですから、もっと優しくしてあげてください。大丈夫ですか?」

 いや、アマンダさん一応その子ドラゴンだからね?さっき本当の姿見て声にならない悲鳴上げてたよね?

「う……ぐ……。」

「ほら、鼻チーンってしましょうね。」

 ハンカチで涙をぬぐった後、そういうと鼻にハンカチをあてた。素敵なレースの付いたきれいなハンカチに、盛大にブビーっとドラゴンの鼻水が出る。あぁ……。

「上手ね。ほら、お兄ちゃんたちと仲良くしましょうね?」

「仲良くなんてできない!それにおにーちゃんじゃない!」

「ほら、そんなこと言わないで。ね?ほら、ベイダル様をグレンド様もルーシル様に謝ってあげてください。」

 アマンダさんはそう言ってベイダルさんの方を見る。


「えー?」

 ベイダルさんが不満を漏らすと、アマンダさんの目が座る。

「おやつ、もう作らない方がいいかしら。」

 小さくつぶやかれたその言葉に、ベイダルさんが直角に折れた。

「ルーシル様すみませんでしたっ!」

 ベイダルさんのはっきりとしたその言葉に、にっこりとするアマンダさん。そして、グレンドさんの方も見る。

「お兄様かわいそう。自分は謝ったのに、弟さんのせいでお菓子食べられなくなるかも。」

 そうつぶやかれた言葉に、グレンドさんはため息をついた。

「ルーシル、すまない。」


 二人から謝られ、ぽかんとするルーシルさん。

「え?なんで?凄い。どうして人間の言葉を聞いたの?こいつらドラゴンだよ?」

「私は凄くありませんよ。ルーシル様に酷いことをしたって、お二人がわかってくれただけですよ。」

 まぁ、アマンダさん家からのお菓子や生活費が無くなったら死活問題のお菓子ドラゴンとブラコン弟だからね。意外ではあるけど、これが真の力関係なのである。

 マネーイズパワー。


 しかし、よく知らないルーシルさんはなんだかキラキラとした目でアマンダさんを見ている。

 ドラゴン兄弟の心のこもっていない謝罪でも、引き出しただけで凄い事なのだろう。ルーシルさんは今までどんな扱いだったんだろうか?


「で、ルーシル様。この辺で、沈没船とか見たことありませんか?」

 ん?

「え?あぁ、あっちの方にあるよ。」

「そこで、丸い金色のやつとか、このくらいの四角い紙の束とか見たことないですか?」

 ちょ、アマンダさん?

「中は入ったことがないからわかんない。」

「じゃぁ、私をそこに連れて行ってもらってもいいですか?」

「いいよ。」

「ありがとうございます。私は海の中では息ができないですけど、どうにかなりますか?」

「大丈夫。」

「じゃぁ、行きましょうか。ちょっと待っててくださいね。」

 そう言って、アマンダさんはこちらにウィンクをすると、ルーシルさんと海に潜っていってしまった。


「……アマンダさんつえぇ。」

「そうですね。」

 私とシュレインさんは宇宙を背負っていた。

「おい、あいつら何しに行ったん?」

 ベイダルさんがいぶかしげに聞いてくる。

「多分、お金稼ぎに行ったわ。」

「はぁ?」

「まぁ、アマンダさんに任せよ。ご飯食べれるよ。」

 その言葉にベイダルさんはにっこにこになった。

 どこからこの流れにする予定だったんだろう。アマンダさんの集金力恐るべし。



 時間はそんなにかからなかった。

 二人は箱を持って帰ってきた。

「船の状態から、多分今の通貨とはいかないと思うので、硬貨と換金できるものも集めてきました。ルーシル様のおかげでご飯が食べれそうです。ありがとうございます。」

「ふふん!ありがたく思いな!」

 ルーシルさんは、ドヤッた顔で箱をベイダルさんに渡した。

 箱を開けると、金貨と魔石がいくつか。そして、いくつかの宝石があった。


「交易船だとは思うのですが、食料や特産品を主に扱っていたのかもしれません。物はほとんどありませんでした。」

 そうは言うが、金貨は結構ある。今使えなくても、金属としての価値があるのだ。


 そんなわけで、私たちは港町へと上陸することとなる。なぜか、アマンダさんと手をつないだルーシルさんと共に……。


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