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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
80/102

80.将来の夢はアイス屋さん

 稲刈りの季節。それはすなわち、武闘大会の季節である。

「で、君たちは今年は出るのかね?」

「いいえ。稲刈りがありますし。」

「今年は出ないが……シュレイン、大会で上位に入れば、兵士になれたりするか?」

「「えっ?!」」

 ディアの問いに、私とシュレインさんはびっくりしてしまった。嫌なことが多かったはずなのに、また城に仕えたいと思えるようになって良かったとは思うけど、どうしたのか?


「数年前に冒険者がスカウトされたが、兵士になりたいのか?」

「仕事として、俺に合っているものと考えるとそれくらいしか浮かばなくて。騎士は無理でも、兵士なら信念なんてなくても行けるだろ?」

 そういえば、信念がどうたらとか言ってたな。

「っていうか、冒険者してるじゃない。」

「そうだな。この数か月だけでもかなり稼ぎはしたが、人から見て、冒険者ってあまりいい職業ではないから。」

 なんだか困った顔でそう言うディア。

「え?なんで急にそんな。何かあったの?」

「……お前の家にあいさつに行くときに、ちゃんとした職についておきたいと思って。」

 ディアは目線をそらし、気まずそうにしている。

「あー……ね。」

 私とシュレインさんと、黙って聞いていたアマンダさんは、にんまりと顔を見合わせた。


「あーもう!なんだよお前ら!そんな顔すんなよ!」

 ディアは我々がニヤついてるのに気が付いて、吐き捨てるように言う。

「まぁまぁ。確かにそれなら城に仕えてるとかいうのポイント高いよね。わかるわ。」

「それなら、騎士に推薦するが?」

「は?」

 シュレインさんの言葉にディアが驚くが、それと同時に、アマンダさんが立ち上がった。


「ダメですディアさん!私と契約しませんか?!」

「は?」

 突然の声に、またもびっくりするディア。というか、私とシュレインさんも驚いた。

「城に仕えるのは色々と不自由がありますし、何よりもディードの事も問題になりますよね?でも、私なら王都門外の土地と家を用意できます!もちろんソフィアさんが通えるような距離にしましょう!」

「あ、アマンダさん?」

「私、前から思っていたんです。ディードはすごいポテンシャルを秘めています!どうです?!商会で、荷物運びの仕事をしませんか?!」

 あ、納得。アマンダさんらしい理由だった。


「荷物運びって、商売をするような量は運べないぞ?」

「でも、人一人くらいの重さならいけますよね?」

「そうだな。」

「なら大丈夫です。小さなものや人を迅速に運ぶって、結構あるんですよ。

 これならディードと一緒に仕事ができますし、この案はベリザリオにも言ってるんです。アルバーニ商会はベリンダールの商会ですし、うまくいけばちゃんと許可もとれると思うんですよ。」

 確かにうまくいけばディードも離れて暮らさなくて済みそうだ。

「一緒に住めるのならそっちの方がいいが、そううまくいくかはわからないし、何よりもファムが俺の事に気が付くかもしれない。」

 あ……。


 第二王子に頼んだことはちゃんと果たされている。でも、そのことは誰にも言っていない。しかし、ディアには言っておくべきだっただろう。

 まぁ、あとで言えばいっか。

「とにかく、今年は出ないってことなんだし、来年までに事情も変わるかもしれないんだから、その内に考えればいいんじゃない?」

「そうだな。」

「私も話を詰めてみますね!」

 アマンダさんの表情を見るに、多分これはアマンダさんのとこに持って行かれるなと思う。シュレインさんを見ると苦笑しているので、同じように思っているのだろう。



 アマンダさんは第二王子のところへ。ディアは一足先にトウワへと逃げたので、シュレインさんとお茶をしている。時差があるのでまだ田植えの時間じゃないのだ。

「なんだか、皆将来に向かって色々と考えてるんだねぇ。」

 私がしみじみとそう言うと、シュレインさんは苦笑した。


「聖女殿も考えていらっしゃるんじゃないんですか?色々となさっていますよね?」

「まぁね。でも、人を絡めて考えたりはしないからなぁ。ディアもアマンダさんも結婚をちゃんと考えててえらいなって。」

 そこまで言って、シュレインさんがこちら側だと思い出した。

「それに関しては、私も二人を凄いと思います。」

 シュレインさんも同意してくれるが、結婚していない彼にとっては内心は苦々しいかもしれない。


「私とシュレインさんは独身を謳歌しようか。何の責任もないのはいいことだよ。」

「聖女殿は結婚なさらないおつもりなんですか?」

「自分が誰かと恋愛して結婚して子供を産むとか想像できないや。」

「それはまだお若いからでしょう。」

「そうはいっても、もうすぐ考えなきゃいけない歳じゃない。おねーちゃんがいるから安心してたのに、よもやディアとくっつくとはねぇ。ここに来たときはシュレイン様って言ってたのになんか本当にすみません。」

「いえ、別に。本気で言っているとは思っていませんでしたし。」

 それはそうだ。そもそも、おねーちゃんの事全然興味なさそうだったもんなぁ。


「聖女殿は……魔王の問題が片付いた後、どうなさるおつもりなのですか?」

「え?うーん。まぁ、それまでの稼ぎ次第かなー。多分魔物がいなくなるとかはないだろうし、冒険者として生きてもいいんだけどね。でも、できたらもうちょっとのんびりとした生活送りたいかなぁ。」

「どこかで薬草をお育てに?」

「うーん。今さ、アマンダさんとお店やってるじゃない?あれとは別にさ、屋台とかでなんか売り歩いても良いと思うんだよね。ジュース屋さんみたいにさ。

 私的にはアイス屋さんなんていいかなって。競合がいないし。そしたら果物を育ててみようかなって。」

「あいすやさん?」

 この世界にはアイスがない。なので、唯一無二の存在になれる。そもそも、冷蔵庫や氷室はあっても冷凍庫はないのだ。

 それは、魔力の消費が莫大すぎるからである。普通の生活で手に入ることはまずない。

 岩山の内の冷蔵庫は精霊王作だからこそなのである。


 しかし、私の手元にはクレアライトがある。あれなら動力として使うことができる。そして、私の魔力があれば、魔道具を完成できるだろう。


「金のにおいがするんだよなぁ。」

「顔がひどいですよ。」

 思わずにやけた私を、シュレインさんは半目で見ている。その顔もイケメンなので、私は思った。

「シュレインさんが騎士を廃業したら、売り子としてうちの屋台に立ってくださいよ。その顔で女性客をたぶらかしましょう。」

「たぶらかすって……。」

「ベイダルさんたちがジュース屋に長蛇の列を作ってたからねー。あの要領でやれば、女の子たちはイケメンからアイス買えて嬉しいし、シュレインさんも女の子と接することができて楽しいだろうし、私は儲かって嬉しいしでいいことずくめだよ。」

「女性と接することが喜びだと思われるのは心外ですが。」

 真面目だなー。

「暑い国ならもっと売れるかもな。一緒に南国に行こうよ。きっと女の子の服も薄着だよ!」

「……人の話、聞いていらっしゃいますか?」

 そう言って、シュレインさんはクソデカため息をついた。しかし、そのあと苦笑した顔になる。


「まぁ、その時はお供しますよ。」

「お!一緒に稼ごう稼ごう。」

「そうですね。さ、そろそろ用意して、トウワに行きましょう。」

「んだね。」

 さぁ、今日も稲刈りだー!



 稲刈りが順調に終わり、冬が見えてくる。

 稲刈りが終わっても、干す作業や脱穀などもある。すぐに新米が食べれるわけではないが、どこかソワソワしてしまう。

「新米は水分量を変えないとだめですから、そこに気を付けてくださいね。」

「だったら、新米が入ったら一回調整日を設けましょうか。」

 美代さんの言葉に、アマンダさんがメモを取ってそういう。

「お店、お休みにするの?」

「そうですね。ついでなので、内装を変えて、新作も出しましょう。何かいい案はありますか?」

 簡単に言ってくれる。

 日本時代の食べ物を考える。

「簡単なのはドリアだと思うんだけど、大まかにいうと同じような味かもなぁ。」

「どりあ?どんな食べ物なんですか?」

「そういえば、ドリアって作ったことなかったね。ざっくりいうと、グラタンのマカロニをお米にかえたやつ。」

 と、こんな風に店のメニューなんかを考える。

 王都は海が近くない。なので、魚介は入荷が難しい。うちの魚介は、実はトウワで買ったものを店に持って行っているのだ。

 そして、シーフードという言葉もあの店にしか存在しない。


「海鮮物もうまく扱えたらいいのですが……。」

 そういうアマンダさんの言葉に、この前話したアイス屋の事を考える。

 こっそり冷凍庫の試作品を作ろうかな。

 ただ、冷凍庫と言っても、瞬間的な冷却がないと解凍した時点で微妙になってしまう。

 そして、解凍も冷凍システムがないこの国の料理人には技術がないので、うまくできるとは限らない。

 私の知識も大したものではないから、日本家庭でやる普通のことくらいしか思いつかない。


 そこで思い出したのが、うちの冷蔵庫だ。あれを作れれば輸送も商会の方でできるようになるだろう。

 しかし、それはどう考えてもアマンダさんに断られる。あれは世界を揺るがず価値がある。


「なら、生簀だ!」

「いけす?」

「生簀ってのは、おっきな水槽だと思って。魚を生かしたまま運ぶの。」

「そういうことですか。ですが、それは難しいです。

 船は帰りは川をさかのぼるので、漕ぎ手が必要です。時間もかかりますし、重さは厳禁です。」

 エンジンがあるわけではないので、それはそうだ。

 エンジンのようなものも、魔力消費量が多すぎて魔道具では作れない。そういう物語もあるのに、この世界微妙なとこで手が届かないものがあるんだよなぁ。


「陸路は?」

「平坦な道がずっと続くわけではないですから、やはり重さに絶えることができ無いと思います。」

 難しい。


 日本の国道もだが、どの道も三車線道路というわけではない。地方に行けば細い道だって存在する。

 この世界でいえば、もっと道は悪いだろう。山の村に住んでた私は、言われればその状況がすぐに浮かんだ。

 そして、例えば日本のトラックを精霊王に作り出してもらっても、道が悪すぎて走行が不可能ということでもある。

 結局、今まで通り、自分のとこだけこっそりと転移や家経由で瞬間移動させるしかない。

 そう考えると、うちの店も大概だ。まぁ、そんなわけで、海鮮系は主流としておけない。


 というか、こうやって考えると、私って最強の商会を作ることができるんじゃないだろうか?

 一代限りだが、財産を築くだけ築けば、あとは遊んで暮らせるだろう。

 うーん、「引退聖女は商人として大成します!」とかいうラノベがいけそうだ。


「どうでもいいけど、海に行きたいね。あったかいやつ。」

「前もそんなこと言ってましたね。泳がれるんでしょう?」

 アマンダさんがくすくすと笑いながらそう言う。

「ドレスではやだなー。」

「じゃぁ、海行こうぜ。」

 話に反応したのは、まさかのベイダルさんだった。このドラゴン、横でお団子食べてました。


「え?」

「ルーシルに会いに行こうぜ。」

「あ。」

 そんなドラゴンがまだいたのを思い出した。

「どこにいるんですか?遠いんですか?」

 アマンダさんが聞くと、お団子ドラゴンは少し考えた。

「名前は知らね。すっげー遠いけどすぐ行けるし、あったかいとこには居るからいいだろ?」

 さらに横でお茶をすすっててグレンドさんを見るが、特に地名を言うこともない。

「まぁ、稲刈りも終わったら暇だし、寒いの嫌いだから暖かいとこ行こうかな。」

「私も行きます!」

 私が了承すると、アマンダさんも同行を勢いよく表明する。


「いや、貴女花嫁修業があるでしょ。」

「いいえ!絶対行きます!遠い場所なら私が知らないところかもしれませんし、それなら見たことない物が沢山じゃないですか!」

 あ、商人モード入ってるから同行は拒否できないわ。

「じゃぁ、皆で行こっか。」

「はい!」


 こうして、南の国へバカンス(希望的予測)に行くことになったのだ。

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