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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
79/102

79.ソフィアの王都物語の合間

72でソフィアがさらわれそうになった日の夜の出来事です。

 真夜中、部屋の扉がかすかにノックされた。聖女イヤーでなければ聞き逃してしまうほどかすかだ。

 気配を探ると、なんかすごい殺気立ってる人とそうでもない人が外にいるのがわかる。片方怖すぎ。

 私が扉を開けると、目の座ったディアと、困り顔のシュレインさんがいる。

 困り顔だったシュレインさんは、私が寝間着で出てきたのでぎょっとした顔になって目をそらすが、別にスケスケのネグリジェ着てるわけでもないので、そういう反応しないでほしい。

 もう零時もまわっているので、アマンダさんや姉を起こさないように岩山の方の家に転移する。



「で、どうしたの?」

 シュレインさんの教育的指導により、ガウンを羽織らされた私が聞くと、ディアが低い声で言い放った。

「人を一人殺したい。それを手伝ってほしい。」

「「は?」」

 私とシュレインさんの声が見事にハモる。何なら顔も白目むいて同じになったわ。


「ちょいちょいちょい。物騒なことを言わないでいただきたい。でも、なんか理由があるんだよね?」

「あぁ。今日、ソフィアがさらわれかけた。」

「はぁああああ?!って、もしかして、あの腕の痕って。」

「強く握られたようで、痣になったんだ。」

「おし、満場一致で犯人ぶっ殺しに行くぞ!」

「聖女殿!」

 私が勢い良く立ち上がるとディアもスッと続くが、一人冷静なシュレインさんが止めに入った。


「あ、満場一致してない奴がいる!」

「もっとちゃんと話を聞いてからにしてください。」

 ぎろりと睨まれたので、渋々ソファに座りなおす。


「それで?」

 シュレインさんが促すと、ディアが続ける。

「その犯人は兵士に引き渡した。ちゃんと刑は下るだろうが、どうせ未遂だしすぐに釈放されるだろう。それに、ソフィアに聞けば、そいつはどっかの貴族のおつきとして店に来ていたやつらしい。下手したら厄介なことになりかねない。

 本人もまたあいつが来るんじゃないかと恐れていたし、なら、何もできないように殺すのが一番手っ取り早いだろ。」

 なんという単純明快な解決策。


「なんで手伝って欲しいといったんだ?私に身柄を引き取ってきて欲しいとでも?」

 シュレインさんの口調がきつい。

「そんなことはしなくていい。どこの貴族にどういう関係で仕えているかは俺が拷問するし、殺すのも当然俺がやる。

 その隠ぺいをメリルに手伝ってほしいんだ。メリル、お前ならそいつが王都を出て田舎で暮らすとか思いこませられるだろ?」

「できるよ。」

「よし。じゃぁ頼む。」

「あいよ。」

「あいよじゃありません!まだ理解できませんが!」

 ホント真面目だなぁ。いや、それが普通且つ善良な国民なんだけども。


「なんでそんな回りくどいことを?」

 いや、シュレインさん、それ言ったら隠ぺい工作などしないでさっさとやってこいみたいになってるからね?

「街中で起こったことだ。たくさんの人に見られている。実際、ソフィアは目立つからすぐに目撃者が多数出た。その犯人が即日に死んだらどんな噂が立つかわからないだろ?

 ソフィアはメリルにも知られることも嫌がっていた。でも、噂になったらいつバレるのかと心配するだろう。

 それに、ソフィアの店の店員に兵士の妻がいる。そこからソフィアの耳に入るかもしれないし、そもそもソフィアがそんな被害にあったことが店員に知られたらやっていき辛いだろ?」

「え?なんでお店の人の事まで知ってるの?」

 若干恐怖を覚えたんですが、気のせいですか?

「アマンダに聞いておいた。護るためには当然だろ?」

「あー……。」

 アマンダさんなら当然知ってるなぁ。にしても、ディアってこんなキャラだったっけ?


 確かに暇そうにしてたし、妹の私が送り迎えしたら変な上に絶対反発されるしでディアに頼んだんだよね。

 精霊に見守らせることもできるにはできるんだけど、王都は雑多なのと、自然物の精霊じゃないものも多く、若干特殊だから意思疎通が大変なのよ。

 にしても、思っていた以上に真面目にやってくれていたのね。

 っつか、真面目だとて、さらおうとした奴を殺すとまで言い切るのはやりすぎである。

 まぁ、おねーちゃんかわいいからねー。妹が言うのもなんだけど、かなりかわいいからねー。しかも村娘だからすれてないしなぁ。

 姉は自分がかわいいのを知っているけれど、それを表に出したり鼻にかけて嫌な態度をとったりもない。

 昔はちょっとそんな感じもあったけれど、だんだんとそういう態度をとることもなく、何なら周りをよく見て、家族以外の前ではおとなしくしていることが多かった。

 シュレインさんが伯爵家の三男だと言ってからは皆の前ではおとなしくなってたけれど、ディアとは毎日一緒に過ごしていたのだし、姉も心を開いたのだろうか。

 なんだかなまあたたかい気持ちになって、ディアをにんまりと見つめてしまう。しかし、当の本人はいたって真剣に犯罪の道へまっしぐらしようとしている。姉の魅力おそるべし。


「シュレインにも言ったのは、お前も仲間だからだ。勝手にメリルを連れてこの国で犯罪を犯したら、お前にはもう一生顔向けができないだろ?だから言った。やらせてくれ。頼む。」

 ディアはそう言って深々と頭を下げるので、私もシュレインさんも困ってしまった。


「まぁ、冗談はここまでにしとこか。理由はわかったよ。でも、殺すのは流石に反対です。」

「……。」

 シュレインさんはほっとした顔になったものの、ディアの表情はますます固くなる。

「私は思うのね。一番の刑は死ぬことじゃない。生き地獄だと。」

「は?」

 ほっとしたのもつかの間、シュレインさんが白目をむいている。私も過保護なのだよ。

「だけど、まずは何でさらおうとしたのかをちゃんと知らないと。襲おうとしたのか、誘拐して身代金を取ろうとしたのか、それとも聖女の姉だと知って何かに使おうとしたのか。」

 私のその言葉に、シュレインさんの顔も普段の顔になった。最後のは国としても大問題だからだ。

「だから、とりあえず拷問は不可避ですわ。大丈夫、私は尋問魔法が唱えられるって言ったよね!」

 私がドヤッたので、やっぱりシュレインさんは白目をむいたのだった。



 地下牢。城の中にあるイメージだったけど、普通に王都の街中にありました。

 城にあるのは重度の犯罪を犯した人用なんだって。だから、今回の事は軽く見られているということでもある。

 一人で来た方が確実で速いんだけど、二人とも着いてくるって聞かないので、仕方なく透明になって移動しているのであった。

 しかし、流石王宮騎士様。地下牢の構造をわかっているので、すいすいと先頭で案内してくれ、すぐに目的の牢の前についた。

 そこでは健やかそうに一人の男が眠っている。なんだこいつ。全然怖がってないし。

 私はその姿の幻術を作り出し、そいつと一緒に転移した。完全犯罪はこうしてなされるのである。


 で、てけとーに見繕った深い山奥。問答無用で尋問魔法が炸裂する!

 とはいっても、ただの自白魔法でしかない。聞かれたことには答えてしまうという、とてもシンプル且つ合理的な魔法だ。あぁ、魔法って便利☆


「なんでソフィアをさらおうとした?」

 私より速く、ディアが胸ぐらをつかまん勢いで尋問を始める。私の魔法なのに出番もらえなさそう。

「私の嫁にする。」

「殺す。」

 ディアの決断が速い。


「まぁまぁ。で、どこに連れて行こうと思ったの?」

 即決過ぎてポンコツ以外のなんでもないディアを横へ追いやり、やっぱり主役の私が聞くことにする。

「屋敷だ。もう少し行けば馬車を置いている裏通りに出れたのに。」

 本当にぎりぎりで助けてもらったようだ。ディアには感謝したい。

「屋敷って、誰の?」

「伯母の。」

「伯母って誰?」

「アダムチーク伯爵夫人だ。」

 シュレインさんの顔を見ると、小さく頷いた。


「あだ……あなたの伯母さんは、ソフィアをさらうことを知っていたの?」

「知っている。」 

 私とシュレインさんの目線がちらりと交わる。ちなみに、名前はやっぱり頭に入ってこなかった。

「あなたの伯母さんは、ソフィアの事を知っているの?」

「行きつけの店員だから知っている。」

「あなたの伯母さんは、ソフィアのことをどう言っていた?」

「かわいい子が入ったと言っていた。」

「それであなたも見に行ったのね?」

「そうだ。気に入ったから嫁にしてやろうと思った。」

「殺す。」

 マジキチと過激派の戦いみたいにならないでほしい。でも、上から目線なのは確かに殺意沸くわ。


「あなたたちは、ソフィアさんがどこの家に住んでいるのか知っているんですか?」

「知っている。」

 今度は、はっきりとシュレインさんと顔を見合わせた。

「その家が、誰の……ソフィアさん以外誰が住んでいるか知っているのですか?」

「何人かは見た。」

 これはまずいかもしれない。

「それは誰ですか?」

「エスカルパ商会の娘と、ハルドリック伯爵家の三男。ソフィアの護衛。あとはメイド。」

 ん?

 確かに、姉が来てしまったので、最近はずっと龍兄弟はいない。

 メイドなのは普通アマンダさんだと思うけれど、貴族には顔がばれてるのを考えたら、アマンダさんをちゃんとエスカルパ子爵家の娘だと認識しているはずだ。となると……。

 私は自分を指さして首をかしげた。そのジェスチャーで、シュレインさんも困ったように頷く。


「えっと、ソフィアは何でその家に住んでるのか知っている?」

「聖女だからだ。」

「「「え。」」」

 今度は三人の声がハモった。

 ん-?んーー?あれー?私メイド?姉が聖女?あれー?


「なんで聖女だと思うのですか?」

 混乱する私の代わりに、シュレインさんが聞いてくれた。

「エスカルパの娘が聖女と共に過ごしてるのは貴族の間では有名だ。それに、ハルドリック伯爵家の三男は王宮騎士だ。となれば、一緒に過ごしているのは聖女しかいない。」

「それ以外の根拠はないのか?」

 私の不憫さに、ディアが若干正気を取り戻してるの辛い。普通に質問し始めるなや。

「護衛がついているし、聖女は魔法学園にも通っていた。その時に聞いていた特徴と似ている。」

 確かに背格好は似ているかもしれないけど、髪と目の色が違うんですけどね????それって、説明で聞いたら全然違うってことじゃない????


「で、でも、一緒にいるメイドだって同じ感じでしょ?なんでソフィアが聖女だって思ったの?」

 必死に聞く私を、二人が哀れんだ目で見ている気がするが、気のせいのはずだ!

「メイドの方はこまっしゃくれた顔つきだ。性格が悪いだろう。それに比べ、ソフィアは可憐ながらも凛とした美しさがある。どちらが聖女かといわれたら一目瞭然だ。」

「むきーーーーーーーー!!!!!!!!!!!死刑じゃああああああああああああ!!!!!!!!!」

 暴れる私を騎士二人がかりで止めに入る。おめーらも顔が笑いをこらえてるの丸わかりなんじゃコラーーーーーーーーーーーー!


「生き地獄じゃ。生き地獄の刑じゃ!」

 肩で息をしながらブツブツとつぶやく私を見ながら、ディアが小さく「冷静になったわ。」ってつぶやいたのを聞き逃しはしない。お前らもあとで覚えてろよ!

 


「で、あなたは聖女を娶ろうとしているわけですか?」

「そうだ。」

 私が本格的に使い物にならなくなったので、シュレインさんが引き継ぐ。

「アダムチーク伯爵夫人は、ソフィアを聖女だと認識しているのですか?」

「そうだ。」

 その答えに、久しぶりのシュレインさん奥義クソデカため息が出た。ちゃんと眉間ももんでいる。これは大変な事態だしね。


「でも、ソフィアは嫌がっていましたよね?なのに結婚できると思ってるんですか?」

「それは大丈夫だ。」

「なぜですか?」

「魔道具を用意している。言うことは簡単に聞かせられる。」

「それはアダムチーク伯爵夫人も知っているのですね?」

「そうだ。」

「その魔道具は、誰が用意しましたか?」

「おじさんだ。」

「おじさんとは誰ですか?」

「アダムチーク伯爵だ。」

 あーあーあーー。こりゃ伯爵家が一個潰れたわ。なむさん。


「最後に一つ聞いていい?」

 二人に聞くと、頷いたので質問をする。

「あなた、なんで牢屋で熟睡できてるの?不安じゃないの?」

「俺は伯爵家の血筋だ。すぐに出してもらえる。」

 あーあ、本当のアホだ。



 こうして、真夜中の尋問は終わった。

 アホは牢屋に転がしておき、その足でシュレインさんを城に送る。シュレインさんは真夜中だというのに、アホを城の牢屋に移す手続きをすることになった。

 これからは城の本気の尋問が始まる。言い逃れもできなければ、伯爵家の威光も届かないだろう。

 しかし、こうなってしまうとそれはそれで問題がある。


 アホが罰せられた時、罪状的に姉の身分がわかる人にはばれてしまうかもしれないことだ。

 そこは気苦労の多いシュレインさんの頑張りと交渉力でどうにかしてほしい。私も何なら一筆書くくらいはするし、最悪一個くらいはなんかいいことしてあげようと思う。アホドラゴンのクレアライトひとかけらとかでどうにかできないかしら?


「意に全く沿えなくなってごめんね。」

「流石に仕方がない。でも、あれなら確実に生き地獄にはなるだろ。」

 確かに。死刑ではなくちゃんとした国の法で社会的に抹殺されるのだ。

 しかも、私は学園では王族階級の待遇だった。とすれば、国賊となりかねない。

 死刑もしくは、爵位の取り消しによる財産の取り上げからの国外追放が妥当だろう。

「っていうか、よくもまぁ魔道具ごときで聖女を洗脳できると思ったねぇ。むしろ、そう思わせるほどの魔道具なら見てみたいな。」

「使うのか?」

「使わないよ。効果がどの程度か測れるなら測ってみたいし、そもそもそんな物騒な物は壊した方がいいと思うからね。」

「そうだな。」

 ディアはそう言って、私が入れたお茶をのんきに飲んでいる。


「で、おねーちゃんのこと好きなの?」

 私の問いに、ぶばっとお茶を吹き出すディア。わかりやすいにもほどがあるんじゃなかろうか。


「あーあー。ちゃんと拭いてよー?」

「お、お前が悪いんだろ?!」

「私は素直な質問しただけじゃん。」

 ポイっと布巾を投げて渡す。

「お前、そんなんだからこまっしゃくれた顔とか言われるんだよ。」

「あぁん?やんのかコラ。」

「……その顔、鏡で見てみろよ。」

 ディアはそう言って鼻で笑うと、お茶を拭き始める。


「おねーちゃんのどこが好きなの?」

「うるさい。寝ろ。」

「起こしたのおにーちゃんでしょー?!」

「おにーちゃんって言うな!」

 しばらくはからかえそうだ。


 恨みはらさでおくべきか。


 でもまぁ、私が聖女だとわかっても態度を変えなかった男だ。

 姉が望んでいた通り、肩書や見た目で選んではいないだろう。

 アマンダさんの結婚式よりも先に来るか来ないか。

 明日アマンダさんとシュレインさんと賭けでもしよう。私はにんまりとお茶を飲んだのだった。

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