78.ソフィアの王都物語10
私が幼い頃、村は貧しかった。水源が少ない土地だったので、作物もろくに育たずにひもじかったのを覚えている。
しかし、いつの頃からか生活がだんだんと改善されていった。
いつもお腹を空かせていたのが、三食ちゃんと食べれるようになった。
水も必要以上は使っていけなかったはずなのに、水道が引かれ、浴場までできた。
村は豊かになり、子供たちは勉強をさせてもらうようにもなった。
町よりも豊かで清潔な村。私たち一家はその中でも中心的な存在だった。
他の子と村を歩いていても私にだけ作物をくれる人がいたし、村の皆から可愛がられていた。
それは、自分の容姿が整っているからだと思っていた。だから、小さな頃の私は嫌な子だった。自分が他の子よりも優れ、優遇されるのは当たり前だと勘違いしてしまっていたのだ。
しかし、だんだんとそうではないことがわかった。
メリルと歩いていれば、村人は私ではなくメリルに目線を向けている。
勉強会の帰り、順番で参加していた大人たちは必ずと言っていいほど私やメリルに感謝を言う。そして、村長もメリルを呼びよせては何かを話し合っていた。
そこで気が付いた。私はかわいがられているが、メリルは大人のように扱われているのだ。
私が優遇されているわけではない。メリルのおまけで優しくしてもらっているのではないか?
それがなぜなのか気になったが、誰も明確には説明してくれなかった。でも、確かにメリルは村の大人たちから一目置かれ、何なら尊敬されている。
その謎が完全に解けたのは、村にやってきた司祭という男がメリルを連れて行った後だった。
村人たちは嘆き、悲しんだ。この村の救世主が連れて行かれてしまったと。
日々私の家に押し寄せる村人たち。私たち兄弟はその様子に若干おびえていた。
そこでようやく両親が話してくれた。村の豊かさは、メリルが授けてくれたのだと。
小さな頃から不思議な力と豊富な知識があり、その言うとおりに動いたら、村の環境が改善していったのだという。
しばらくすると聖女の出現が発表され、村にも伝わった。
村人たちは納得した。メリルは聖女だったのだと。
私はその時、ちょうど適齢期を迎えるころだった。
だから、縁談が一気に押し寄せた。村中の未婚者が私に結婚を申し込んだと言ってもいい。
そして、皆いうのだ。
「聖女の姉だから。」
と。
私は戸惑った。前から仲の良かった子たちもその中にいたし、恋未満の話を話す機会もあった。
その子たちも今では「聖女の姉と結婚したら鼻が高い。」とか、「聖女の姉と結婚したら家族が喜ぶ。」と言う。
中にはそれを知る前から私を好きだと思ってくれていた子もいたと思う。そんな空気も少なからずあった。
でも、照れ隠しだとしてもそう言われてしまったら、私は私である必要がないと言われているとしか受け取れなかった。
皆が悪気があって言ってるわけじゃないってわかっている。でも、私という存在よりも、その肩書が大きくなってるのはわかる。
メリル本人はもう無理だろうから、せめて親族になりたいと考えているのだ。私はその手段として見られている。
きっとロルフ兄さんもそうだったんだと思う。ロルフ兄さんは町で出会った何も知らない子と結婚した。
でも、私はどうだろう?村しか知らないのだ。町には行きたいと思わないし、あそこに嫁ぐのも嫌だった。
だから、一番の原因であるメリルにすがるしかなかった。
王都に来た時、私はただの田舎娘だった。
街を歩いてみて、私よりもきれいな子はたくさんいると感じた。
顔そのものがというよりも、やはり都会の洗練された空気をまとっているのが大きな違いだった。
正直、私はメリルの影響がない人なら、誰でもよかった。だから、顔を知っているシュレインさんが初めに良く映った。格好良かったし。
でも、伯爵の家柄だと聞いたし、自分の田舎娘具合を見れば、相手にされるわけがないとすぐに悟った。
それに、シュレインさんはメリル側の人だ。メリルを見る目も優しいし、私やアマンダさんとは微妙に違う接し方をしている。それが愛情かは置いておいても、メリルはシュレインさんにとって特別なのは確かだった。
「だから、シュレインさんの事はもう何とも思っていないわ。私はメリルの代わりにしかならないもの。」
私がそう言うと、ディアは困ったような顔になる。
「いつかは本当に出て行かなくちゃいけないわね。私は私をちゃんと見てくれる人と一緒に生きたいから。」
自分でそう言って、悲しくなった。ディア君にとってもメリルは特別だ。だから、どうしたって私はメリルの姉になってしまう。
「わかってくれた?もう誰でもいいなんて思ってないわ。」
「あぁ。」
私はにっこりと言ったつもりだが、ちゃんと笑えているかわからない。
「で、まぁ、シュレイン様って言ってた時、メリルは結構強めに止めてたから、メリルもシュレインさんのこと好きだと思ったらそれも納得かなって思っただけなの。」
「いや、それは普通に止めるだろう。」
「え?そう?」
私が聞き返すと、ディア君は呆れた顔をしてこちらを見る。
「その姿、俺は見ていなくてよかった。やっぱ、そういうとこ見たら幻滅するだろ。」
「うっ。」
凄くぐさりと来る。言わなきゃよかった。なんで口を滑らしたんだ!私のバカバカ!
しゅんとしてると、ディア君はまた頭にぽんと手を置く。
「もうするなよ?」
「し、しないよ。」
「なら見てないし、いい。」
そう言って、仕方がないというように苦笑する。
って、ちょっと待って?これってどういう状況?なんでそんな姿見たくないの?それってつまり???
私は思い当って顔が赤くなってしまう。
「ディ、ディア君は?」
「ん?」
「ディア君は……その……ど、どんな人と結婚したい?」
私のこと好きなの?とは流石に聞けなかった!私の意気地なし!
っていうか、女の子だし、やっぱり相手から言われたいってのもあるし……。って、なんでもう確定みたいになってるんだ!
「結婚は考えてなかった。」
「え?」
あ、危ない!やっぱり思い上がりだった!聞かなくてよかった!と思ったが、好かれてないとわかったら心がずっしりと重くなった。
「俺はベリンダールの騎士だったろ?しかもディードと一緒に国外に出てる。呪われてたってのもあるし、正直、国やかつての仲間に追われる可能性があるからな。
まぁ、それがなくともそういうことは俺の人生には関係ないと思っていた。いや、考えることすらなかったな。」
「でも、騎士団の人に好かれてたんでしょう?その人と付き合おうって思わなかったの?」
そう聞くと、ディア君はため息を吐いた。
「好かれてたって、あれはなんていうか気持ちが悪いとしか思わなかったよ。それに、俺も男だからな。かわいいと言われても嬉しくはない。まぁ、確かに小さかったから仕方ないが。」
「小さかったの?でも、そんなに前の事じゃないんでしょう?」
「呪われて死にかけたって言っただろ?あの時に、背が一気に伸びたんだ。体に激痛が走る上に、筋肉がひきつる。感覚も変わりすぎてバランスもとれないし、今までと同じ戦い方ができなくなるしで大変だった。」
うんざりしたように言う。
「じゃぁ、一年前に会ってたら小さかったんだ?見てみたかった!」
「……見たって楽しくないだろ。」
「えー?小っちゃくてかわいいディア君見たかったな。なでなでしてあげたのに。」
意地悪く言うと、半目でこちらを見た。しかし急にニヤリとすると、私の頭をなで始めた。
「えっ、な、なに?」
「今は俺の方が高い。ソフィアは小さくてかわいいな。」
「は?えっ、なっ。」
きっとバカにされてるんだろうけど、なでられてるのが心地よすぎて抵抗できない。というより、このままなでられていたい。うう。
「ソフィアは確かにメリルの姉さんだけど、それとは関係なく、かわいいよ。」
「びゃっ?!」
変な声をあげてディア君を見ると、すっごく優しく笑ってこっちを見てる。反則!無理!とろける!
「似てる部分も結構あるな。でも、ちゃんと別人だろ?」
「そうだけど、でも、ディア君だってメリルの姉だって思うからそうやって優しくしてくれるんじゃないの?全然会ったこともなかったんだし。」
「そりゃまぁ最初はそうだったけど。」
その先!その先が大切なのよ!でも、待っても言葉が続かないようなので、捨て身の作戦に出る。
「けど?けど何?」
ちゃんと言って!ほら!言うのよ!って、なんか変なテンションになってるなー。でも、期待しちゃう流れでしょ?!
「今はそう思ってないよ。」
ズコー。肩透かしすぎるでしょ!なんなのもう!
「ばか。」
「は?」
「バカ!」
「なんだよ。」
「そこはダメ押しでほめたりしてくれればいいのに!」
「は?ほめる流れじゃないだろ?」
「ちーがーうー!かわいいって思ってるとかそういう流れなの!バカバカ!」
ディア君から言わせてたら一生無理そうな気がしたから、催促してやった。っていうか、最初にかわいいって言ったんだからちゃんと責任取って何回も言って欲しい!
なんだか、打ち明けたらすっきりしてウジウジする必要を感じなくなった。少しずつでも押していこう。
「あー、はいはい。かわいいかわいい。」
苦笑しながら言うので、足をはたいてやった。
「いって。見かけによらず力強いな。」
「それは誉めてるに入らないんだからね!」
「わかってるよ。」
ディア君はまた苦笑する。それから、少し微笑んでこちらを見た。
「俺にはこういうことは関係ないものだと思ってたけどな。」
そう言うと、私を抱き寄せ耳元で囁いた。
「ソフィア、かわいいよ。」
「ひゃっ。」
「ぶっ。」
私の変な声に、吹き出すディア君。
「なんなのそれ。その声出されるとさ、いじめたくなるからやめとけよ。」
「い、いじめ?!だって、勝手に出ちゃうんだから仕方ないじゃん!っていうか、耳元で囁くからでしょ!」
「そういう流れだったんだろ?言ってほしかったんじゃないのか?」
「う~~~!」
痛いところを突かれた。
「さ、帰るか。もうとっくにご飯ができてるな。怒られそうだ。」
「う、うん。」
「ほら。」
先に立ち上がったディア君が手を差し出す。私がその手を取ると、グイっと引き寄せられた。
勢いよくディア君に抱き着く形になると、またも耳元で囁く。
「他の男の前で、そうやって喘ぐなよ。」
「ひゃん!あ、あえっ?!今だってしてないけど?!」
「はいはい。ほら、ちゃんと首に腕まわせ。」
「えっ、あ、はい。」
私が首にしがみつこうとすると、きれいな顔が目の前に来た。今度は正面だ。
「俺でもいいか?」
「え?」
「相手。俺はソフィアがいい。メリルの姉だからじゃなくて、今までのソフィアを見てそう思った。」
「っ!あ、あ、私も……私もディア君がいいです。」
「追われることになるかもしれないが、その時はついてきてくれるか?」
「うん。何もできないけどいい?何なら足を引っ張りそうだけど。」
「大丈夫。絶対に護る。」
「うん。じゃぁ、連れて行って。」
「わかった。」
ディア君の腕が私の腰にまわる。そして、口づけをされた。きゅ、急展開すぎやしませんか~~~???
帰りの道すがら、後ろから抱きしめられながら、囁かれまくったのは言うまでもない。ばか~~~~~!!!
今回でソフィア視点は終わりですが、蛇足がもう一話続きます。
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