77.ソフィアの王都物語9
長いようで短い飛行が終わった。山の中の崖に着陸し、そこで少し休むことになった。
「腹減ってるだろ?」
そう言って、おにぎりを差し出す。お米を固めて、具をいれたものだ。これもたまにメリルが出してくれる。
「あまりちゃんと考えてなかったけれど、オムライスの中身はお米でしょ?いねとお米は違うの?」
「あぁ、稲は草全体の名前で、米はその種だけをさすんだ。だから、オムライスの中身は米だな。ここで採れたものを王都に持って行ってるんだ。」
「そうなのね。遠い国だっていうのに、なんだかすごいわね。」
おいしく食べ終わると、今度は水袋を差し出された。
「喉は乾かないか?」
飲めということなんだろうけれど、これってディア君が飲んでるのよね?それってどうなの?いいものなの?
差し出されたのでつい受け取ってしまったが、口をつけてもいいものなのか迷ってしまった。
「カップが必要か?」
「え?あ、あるのなら。」
気恥ずかしいので、カップがあるなら使いたい。嫌だとは全然思わないどころか、若干いやらしい妄想をしてしまう。私ってこんなんだった?
気を紛らわせるためにディア君を見ると、ディードちゃんの鞍の横についているカバンから、カップを取り出していた。
「これ。」
「ありがとう。」
差し出されたカップを受け取り、水を移し入れる。
口に含むと、結構冷たかった。
「冷たくておいしい。」
「これも魔道具なんだ。」
「こんなものまであるのね。」
「あまり使わないか?」
「そうね。村にはほとんどなかったから。」
村長の家にはいくつかあったし、うちにも魔道具のカンテラがあった。油を作るのは大変だし、買うのにも結構いる。なので、魔道具の方が結果的に安くつくのだ。
「メリルが作ったりしなかったのか?」
ディア君からメリルの名前が出たので、胸がチクリとする。
「……そうね。メリルは私たちの前で魔法を使ったことはないんじゃないかしら?村から出て行った後に聖女だって聞かされて知ったくらいだもの。でも、何度かはおかしいと思ったし、村の人たちは魔法が使えることは知ってたみたい。」
「そうか。まぁ、あいつらしいな。」
そう納得するほどに、ディア君はメリルの事を知っているということだ。そう思い至ったら、すごく嫌な気分になった。
「どうした?」
私がうつむいてカップを見つめていたので、心配そうに声をかけてきた。
「あ、ごめん。なんかぼーっとしちゃった。」
「疲れてるよな。付き合わせちゃってすまない。帰るか。」
「あ、ち、違うの!」
ディア君が立ち上がろうとするので、つい服をつかんでしまった。
「あ、ごめんなさい。帰る?」
「いや、ソフィアは大丈夫か?」
「うん!」
むしろ、もうちょっとでいいからこうしていたい。
しばらく無言の時が過ぎる。何か話したいとは思うが、どうしてもメリルの事を聞いてしまいそうで口が開けなかった。
「今朝、ここに来るって言っただろ?」
私が無言だったので、ディア君が話しかけてくれた。
「うん。」
「その時、表情が硬くなっただろ。」
気づかれていたのだ。私はまたうつむいてしまった。
「さっきも言ったが、メリルはあまり自分の能力をひけらかしたくないようだし、俺もディードを王都には連れて行けないだけに、話すことではないと思ってた。
でも、自分の知らないところで皆が同じことをしていたら疎外感を感じるよな。すまなかった。
多分メリルとしては心配をかけたくないという気持ちもあっただろう。今日会った四人も特殊な者たちだし。それは流石に俺からは言えないからまだ秘密を持ってしまっているが、許して欲しい。」
ディア君の顔を見ると、少し悲しそうだった。そんな顔をさせたいわけじゃない。
「仕方ないよ。私は普通の人間だから。」
別に自虐で言ったわけではない。事実だ。でも、悲しいほどに厚い壁だと思う。
私にも皆のような特別な力があればちゃんと仲間になれたのだと思う。でも、私はここへきても、やっぱりメリルの姉だから混ぜてもらってるだけなのだ。
村から逃げても、頼れるのがメリルしかいなかった以上、ここでやっていくにはやはりメリルの影響下にしかいれない。
「なんか気を使わせちゃってごめんね。話したくないことは話さなくていいよ。私だって話してないことがあるもの。」
「そうか。」
また無言になってしまう。
せっかく自分の気持ちに気が付いて、近くにいたことで甘い気持ちになっていたけれど、だからこそ厚い壁が悲しい。
好きにならなければ、今も楽しくおしゃべりしていただろう。
「正直、何を話したらいいのかわからない。」
ディア君がぽつりとつぶやく。その顔は、やはりどこか悲しげだ。
「ソフィアは普通の人間だというが、俺からしたらその方が幸せだと思う。」
「どうして?強かったり魔法が使えたりする方がいいじゃない。」
「そうだな。でも、その力を得るために過ごしたのは人に話せないような人生だった。確かに今は幸せだと感じている。でも、人生の大半は幸せじゃなかった。」
ディア君はそう悲しそうに笑う。
「私、何も知らないのにごめんなさい。」
「知らないのは仕方ないさ。話していないんだから。」
「でも……。」
「楽しくはないが、聞いてくれるか?」
「え?」
「俺がどんな風に生きてきたか。」
「聞いていいの?」
「あぁ。聞いてほしい。」
「うん。聞かせて。」
そして聞いた人生は、とても辛いものだった。騎士だとかわいばーんに乗っているだとかそんなことを含めても、私の方がよっぽど恵まれていると感じた。
「メリルは俺にとっては恩人だ。文字通り命も助けられたからな。」
最後にそう言った。だから、自然と口をついて出てしまった。
「メリルが好きなの?」
そう私が聞くと、すごい顔で苦笑した。
「あのな。そんな単純なことあるか?それに、メリルにはシュレインがいるだろ?」
「えっ?!そうなの?」
ディア君の言葉に、私はびっくりしてしまった。確かにシュレインさんはメリルの事を優しく見ていると思う。でも、それが愛情かはいまいちわからないし、メリルも愛情を持った目で見ているかといえばそんなことはないと思う。
「むしろ違うのか?」
「ええ?メリルってまだ子供でしょ?歳が離れていそうだし……。でも、そう考えると、メリルのあの行動って。」
「あの行動?」
「えっと、私、前はシュレインさんのことシュレイン様って言って言い寄ってたの。」
「は?」
あ、まずいことを言った。私は思わず口に手を当てた。
そういえば、タイミングよくというかなんというか、シュレインさんと話すときはディア君がいなかった。
「お前、シュレインの事が好きなのか?」
「えっ、あっ、ちっ、違うの!違うのよ!」
「でも言い寄ってたって、そういうことじゃないのか?」
「いや、あの……。」
割ときつめに言われたので、たじろいでしまった。こ、怖い。ちらりと見れば、半目でこちらを見ている。
「あ、あのね、私、村から出てきたでしょ?前に言われたじゃない?都会の男の方がいいのか?って。ああいう感じっていうか、割と誰でもいいから村の人以外と……。」
いや、待って?これってもっと悪い方向に向かってない?!ディア君の目線が痛い。私はたまらず顔を手で覆った。
「違うの!私の話も聞いて!一から話すから!」
たまらず叫ぶように言うと、頭に手を置かれた。
「冗談だ。無理に話さなくていい。」
指の隙間から見ると、しょうがないなといった顔でこちらを見ている。前はずけずけと聞いてきたくせに、今は無理に聞かないのずるい。
「……無理じゃないの。ディア君の話に比べたら大したことじゃないけど、聞いてくれる?」
「あぁ。」
だから、私は初めて胸の内を話すことにした。
いいね、評価、ブックマークしていただけると喜びます!




