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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
72/102

72.ソフィアの王都物語4

 ある日、仕事の後に外に出たら、いつもディア君がいるとこには誰もいなかった。そうだった。今朝言われたんだった。

「あら?今日は彼氏来てないの?」

 後から出てきたヨンナがそう言うので、私は口を尖らせた。

「んもう!彼氏じゃないってば!今日はね、遅れるって言われてたの。だから、ちょっと待つのよ。」

「あはは。でも、お似合いだと思うわよ。私はね、割とこういう勘当たるんだから。」

 そう言ってウィンクをするヨンナ。私は呆れてしまった。


「それって、ヨンナを好きになった男の子がわかるってだけじゃない?ヨンナはかわいいから皆ヨンナを好きになってるってだけでしょ?」

「あは!それもあるかもしれない!」

 ケラケラと笑うヨンナ。ヨンナはお人形さんのようなかわいい見た目だが、性格がすごくさっぱりしている。そして、たくましい。

 二十五歳で三人の子持ち。旦那さんはアマンダさんの家の商会で働いてる人なんだという。


「あら?アデラ!旦那さんよ!」

 道の向こうから、アデラの旦那さんが迎えに来た。

「キャーちょっと待ってー。」

 店の中からアデラの返事が聞こえる。

「あはは。じゃぁ、私は帰るわ。また明日ね。」

 そう言って、ヨンナは帰っていく。といっても、すぐ裏の家に住んでいるので、見ている間に家につき、こちらに手を振ってから入っていった。


「こんばんは。アデラは?」

 アデラの旦那さんが店をのぞきながら声をかけてきた。

「こんばんは。今日はアデラが集計の日だから、もうちょっと待ってください。」 

 一日で商品がどのくらい売れたのか記録をするのだけれど、私たちは金額ではなく何が何個売れたかだけ提出する。

 時間ごとに区切っているので大した作業ではないが、今日は夕方から混んでしまったので、時間がかかっている、いつもは皆一緒に出れるくらいだ。

「ソフィアちゃんの彼氏はまだなの?珍しいね。」

 アデラの旦那さんにまで言われてしまった。

「彼氏じゃないんです。それに今日はちょっと遅れるって。」

「んー?すごく大切にされてるのに。」

「えええ?」

「いっつも彼ってソフィアちゃんの半歩後ろにいるじゃん?俺さ、兵士だからわかるけど、あれってソフィアちゃんを護るためだと思うよ。」

「え?」

「男ってさ、普通女の子よりも前に歩いちゃうんだけど、それって女の子のことちゃんと見えないんだよね。だから、とっさの時に対処が遅れるんだ。

 でも、彼っていっつも周りに気を配ってるし、かなり強いでしょ?」

「えっ……。あ、まぁ、そうみたいです。」

 さすがに元隣国の騎士だとは言えない。

「だよね。動きに隙が全然ないもん。俺絶対戦いたくないわ。」

「おまたせー。ごめんね。って、あれ?ソフィアの彼氏今日来てないの?」

 店から出てきたアデラがそう言うので、私は天を仰いだ。

「もう!皆して!彼氏じゃないって何度も言ってるのに!」

「えー?またまたー。」

「ううう。」


「でも、どうしちゃったんだろうね?一緒に待とうか。」

「ちょっと遅れるって言われてるの。だから大丈夫よ。すぐに暗くなっちゃうし、さっさと帰って。私も明るい内に帰りたいし、家に向かうわ。」

 夏なので、外はまだ明るい。

「えー?大丈夫?迷子にならない?」

「もう!子ども扱いして!」

「だって、私から見たらまだ子供だもの。まぁ、話し込んでたら本当に暗くなっちゃうわね。送っていくわよ。」

「いや、本当に大丈夫よ。遠くないもの。」

「うーん、大丈夫?」

「うん。途中で会うでしょ。」

「そっか。じゃぁ、本当に気を付けてね。」

「お二人さんもね。じゃぁ、また明日ね。」

「ふふ。また明日。」

 私は仲良く腕を組んで歩きだす二人を見送って、自分も歩き出す。


 送ってもらうのは困る、私があの家に住んでることは内緒なのだ。アデラの旦那さんは兵士をしてるという。ということは、門番の兵士さんたちと顔見知りだろう。

 すぐに聖女関連の人物だとばれてしまうし、アマンダさんのコネだと内緒にしてくれているのも無駄にしてしまう。


 時間は六時過ぎ。街はまだ明るいし、夕飯の準備にかかる人たちの買い物でにぎわっている。危ないなんてことはない。言った通り、途中でディア君に会うだろうし。

 いつもの帰り道をぶらぶら歩きながら、お店や露店を見る。串焼きのいいにおいにつられそうになりながら、今日の夕飯の事を考える。

 手伝いたいのだが、いっつも用意されてしまってるのだ。その分片づけは手伝っている。でも、アマンダさんの方が手際が良くて、どうしてもお手伝いどまりだ。


 王都に来て、色んなご飯を食べた。この前はディア君におごってもらって高いご飯を食べた。あれも凄くおいしかった。

 でも、メリルが出してくれるご飯もかなりおいしい。メリルこそいいお嫁さんになるだろう。聖女だから貴族や下手したら王族との結婚だってあるかもしれない。

 メリルは変わっているけれどいい子だ。聖女としてではなく、あの子のいいところをちゃんと見てくれる人に嫁いでほしい。


 私がぼんやりと歩いていると、肩をたたかれた。ディア君かと思って振り向くと、男性が立っていた。

「え?あ!お店に来ていただいている……。」

 その人はたまに来てくれる女性のおつきの人だった。

「覚えてくれていたんですね!」

 私の言葉に、ものすごい笑顔でそう言うので、ちょっと気おされてしまった。

「えぇ。いつもありがとうございます。」

「今日は、いつも一緒にいらっしゃる方、いないんですね。」

「え?」

 一瞬真顔になったように見えたので、ちょっと怖くなった。

「ちょうどよかった!うちの奥様が貴女に用がありまして、ちょっと来てください。」

「え?あっ!」

 行くとも行かないとも返事をする前に、腕をつかまれ引っ張られた。


 どんどんと人の流れに乗って移動していく。ぐいぐいと腕を引っ張られるので痛いし怖い。

「あ、あのっ!私帰らないといけないので!」

「大丈夫ですよ。少しですから!」

 そう言って、細い路地で曲がる。とたんに人がいなくなり、薄暗く不気味になる。

「あの!待ってください!」

 私は立ち止まろうと、体重を後ろにして踏ん張った。しかし、男性に力ずくで引っ張られるので、こらえきれない。

「やめて!痛い!離して!」

 もうこちらを振り向こうともしない男に引っ張られ、私は引きずられていく。すぐそこに人混みがあるのに、誰も気が付いてくれない。


「嫌!離して!誰か助けて!ディア君!!」

 私が叫ぶと同時くらいに、ふっと引っ張られていた力が無くなって、私の体は勢いよく後ろに倒れた。

 ぎゅっと目をつぶって衝撃を待ったが、倒れきる前に誰かに抱き留められた。

「大丈夫か?」

 聞きなれた声に目を開けると、ディア君がいた。

「あっ……はっ……うぁ……。」

 急な安堵感に、息が苦しくなって、目から熱いものが流れていく。

「ソフィア!大丈夫だから。すまなかった!」

 そう言って、抱きしめられる。私はその体にしがみついて、声を出して泣いた。凄く怖かった。

 


 ディア君は私が落ち着くまで抱きしめて頭をなでてくれた。ずっとすまないとかゴメンとか言ってるので、こちらが申し訳なくなる。

「ごめっ……なさい。わたひ……待ってろって……言われたのに……。」

 ようやく落ち着いてディア君の胸から離れて、しゃくりあげながらだが謝る。

「いや、待たせたのが悪い。本当にすまなかった。」

「ちがっ……。ありがとう。」

「腕以外は無事か?」

「腕?」

 見れば、つかまれていたところが薄っすら内出血している。凄い力で引っ張られていたのだと改めて分かり、身震いする。

「見ないでいい。他は大丈夫か?」

 腕を見ないように目を隠され、またも胸に引き寄せられる。

「うん。」

「よかった。」

 凄く心配してくれているのが表情からわかる。私が悪いのに、なんでこんなに必死に謝ってくれるんだろう。本当に悪いことをしてしまった。


 ふと路地の奥を見ると、男が転がっていたので息をのんだ。

「死っ……?」

「気絶してるだけだよ。悪いが、ちょっと離れる。」

 そう言って、ディア君は腰につけたカバンから、細い紐を取り出した。

 何をするのかと思うと、倒れている男の腕を後ろに回し、その親指と親指を結んだ。

「これで気が付いてもすぐには動けないと思う。ちょっと人のいる場所に行こう。多分警邏中の兵士がいるはずだ。動けるか?」

「うん。」


 言われた通りに人通りに行くと、すぐに兵士を見つける。

 ディア君が事情を話すと、一人の兵士がすぐに路地に行ってくれた。もう一人の兵士はディア君と一緒に周辺の露店の人に私を引っ張っていったのを見なかったかと聞いていく。すぐに何人も証人を見つけたので、合流すべく路地に向かう。路地に行けば、男はまだ伸びていた。

 ディア君は冒険者カードを見せてから、兵士に後を頼んでくれた。

「じゃぁ、俺たちは帰ろう。」

「うん。」


 帰りすがら、ディア君は今日やっていた事を話してくれた。ギルドの依頼で遠くの町に行くことになって、どうしても帰りが遅くなってしまったという。

 メリルは城に来ている遠くの国の人と会わないといけなくて、どうしても自分が行かなくちゃいけなかったと謝ってくる。

 仕事なのだから仕方がないと思うし、ちゃんと先に言われていたのだからやっぱり私が悪い。それに、助けてくれたんだから感謝しかない。何度そう言っても、ずっと謝るので困ってしまった。

「じゃぁ、今度の休みにお昼つきあって。行ってみたいお店があるの。」

「わかった。」

「約束ね。」

 私はそう言って、ずっとつないでくれている手をぎゅっと握り返した。

 お昼を食べた後に、何か贈ろう。いいものが見つかるといいけれど。

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