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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
68/102

68.暴風の季節

ここから数話、閑話が挟まります。

 一旦の平和が訪れ、田植えも終わった。のんびりと過ごしていると、シュレインさんが一通の手紙を持ってきた。

「えっ!」

「どうしました?」

 私が驚きの声をあげたので、アマンダさんが心配そうにこちらを見ている。

「いやぁ、兄さんが結婚するって。」

「わぁ!おめでとうございます!」

 季節は初夏。山の中の村なので、涼しくて過ごしやすい。とてもいい季節だ。きっと式も良いものになるだろう。





「素敵な式でしたね。」

 そう言って、アマンダさんはほうっと息を吐いた。

「こんな田舎の結婚式でもそう思ってくれて嬉しいけど、アマンダさんはもっとすごい式あげるんじゃないの?」

 私が若干呆れ気味にそう言うと、アマンダさんはやれやれといった感じに首を振る。

「そういうものじゃないんですよ。新郎と新婦の気持ちが一番大事なんです!二人のあの仲がよさそうな雰囲気!式の規模や予算とは関係ないんです!」

 握りこぶしを作ってそういうアマンダさんに気おされつつも、二人の様子を思い出す。


 今日は次男のロルフ兄さんの結婚式だった。

 私が村にいた頃はそんな気配がなかったのに、ちゃっかりととてもかわいいお嫁さんをもらったのでびっくりした。


 私たちは今、実家の一室で休憩している。

 久しぶりに村の人と会ったら、皆が話しかけてきてくれた。嬉しいのだが、なんだか主役の兄たちをそっちのけでこちらに来るので、場の空気を壊しかねないと思って抜けてきたのだ。


「確かにものすごく幸せそうだったね。」

「ですよね!それに比べ、私はちゃんとできるかとかの心配が先に立ってしまうので……。」

 確かにそう言われると、幸せ全開というよりも緊張の方が上回るだろう。

「じゃぁ、やめとく?」

「流石にそれは。」

 私が聞くと、アマンダさんは苦笑した。

「アマンダさんもちゃんと良い式あげてください。そして幸せになってくださいね。」

「はい。」

 私たちはにっこりとした。


 そんなほっこりな空気を破るように、派手に扉が開いた。


「メリル!私も王都に行く!」

 声の主は姉のソフィアだった。

 あぁ、嵐の予感……。





「そんなわけで、今日から姉のソフィアが泊まることになりました。」

「シュレイン様!よろしくお願いします!」

 結婚式の翌日、結婚式に参加していた私とアマンダさんと一緒に、王都へとやってきたソフィア姉さん。まっすぐシュレインさんにあいさつに行く。

 アマンダさんはディアと一緒に荷物を客間に運んでくれている。


「お久しぶりです。どのくらいご滞在なさるんですか?」

「いつまででも!何なら永久就職したいです!」

 姉はシュレインさんの腕にほぼぶら下がっている。やめてホント。

「あー、おねーちゃん。シュレインさんはお仕事でここにいるんで、本当に迷惑なんでやめていただいてですね。」

「ちゃんとアピールしないとどうにもならないでしょ?!早く結婚しなきゃなんだから!」

 それを本人のいる前で言うその面の皮の厚さが怖い。


 そう、姉は王都に旦那ハントに来たのである。我が姉ながら本当に恥ずかしい。

 そして、前から顔を知っているシュレインさんが第一候補なのだろう。私は顔を手で覆った。


「シュレインさん、うちの姉が本当にすみません!嫌だったらちゃんと断ってください!何ならぶっ叩いてもいいので!」

「いえ……。」

「なんで叩かれなきゃいけないのよ!」

「お部屋の用意ができました。」

 カオスな空間になったところで、アマンダさんが帰ってきた。ディアがいないので、トウワにでも行ったのだろう。

 あ、空間をつなぐ扉は、私が登録している人以外が開けても何も起きないので、姉がここにいることは別に構わない。

 アマンダさんがそのまま姉を連れて家を案内しに行ったので、私はため息をついた。


「すみません急にこんなことになって。」

「いえ。」

「あの、本当に嫌だったらちゃんと言った方がいいですからね?聞きやしないかもですけども!」

「聖女殿にも苦手なものがおありのようですね。」

「苦手なわけじゃないですよ?前からちょっと変わってはいましたけど、基本はいい姉です。」

 姉のソフィアはそれなりに刺繍や料理に熱心ではあったけれど、私がいた時は男漁りしてるわけでもなかった。なので、何がどうしてこうなったのかわからない。

 そう思ってシュレインさんを見上げてみる。毎度忘れてしまっているが、この人かっこいいのだ。

 黒髪眼鏡なのもあって派手なかっこよさでも甘いマスクという雰囲気でもないが、クールなキャラが好きな人にはぶっ刺さるのである。

 そう考えると、本当に姉がシュレインさんに一目ぼれした可能性は十分にあった。


「シュレインさんて、婚約してる人とか付き合ってる人とかいないんだよね?」

「はい。」

「どんな人が好みとかある?」

「……いえ、特に考えたことはないです。」

 なんか変な顔をしながら答えるので、若干不安になった。

「んじゃ、昔の恋人さんってどんな人だった?似た傾向とかある?」

「恋人がいたことはありません。」

「えっ?」

「……遊んでるように見えますか?」

 意外な答えにびっくりしてしまった私の声を、別な理由と受け取ったようだ。

「いや、凄くかっこいいのにそんなことあるんだってびっくりしただけ。」

 その答えにも、変な顔をするシュレインさん。

「それは結局、婚約を伴わない恋人を作るような男だと思われているということになると思うのですが。」

 この人も真面目すぎて面倒くさい。そう思ったのが顔に出たのか、シュレインさんはくそでかため息を吐いた。


「うちは次男が遊んでいた過去がありまして。それを踏まえて歳の離れた私が育てられたものですから、その辺は厳しかったのです。

 お見合いもいくつか用意されたのですが、私は三男な上に職が職ですし、不幸にする可能性があるので独身でいた方がいいかと思っていましたので断っていたんです。」

 そういえば実はモテない職だとか言ってたな。でも、この言いようだと自分が断っていたようだ。

「でも、お給料はお高いんでしょう?」

「……それなりに。」

「だったら大丈夫だと思うけどねー。まぁ、言いにくいことを聞いちゃってすみませんでした。」

「いえ。」

「あ、あの。うちの姉をお嫁さんにするとかないですかね?」

「私の意思というだけで言ってよろしいのでしたら、そういった感情にはなれないです。」

 ものすごい無表情である。

「あ、そうですか……。」

「すみません。」

「いえいえ。」

 おねーちゃんの美貌をもってしても、シュレインさんの真面目さは貫通できなかったか。

 というか、三男とはいえ伯爵家の息子だ。名もなき村の娘では無理だろう。そこを言えば、姉もあきらめてくれるに違いない。




「というわけで、シュレインさんは無理だと思うんだ。」

「はぁ……。」

 伯爵家の息子だと言ったら、あからさまに気落ちする我が姉。流石にそこは愛で乗り越えるとは言わなかったので安心する。

「というか、なんでそんなに焦ってるの?なんかあったの?」

「……別にこれといって理由はないわよ。でも、村にはちょうどいい子がいないし、町に行く用もないし。とにかく、出会いがないのよ!」

「お父さんたちがお見合い持ってきてくれないの?」

「……無い。」

 なんとなくすねたようにそっぽを向く姉。

「そっか。でもまぁ、おねーちゃんきれいだし、焦らなくたってどうにでもなると思うよ。」

 私は心からそう言った。姉はピンクブロンドのまっすぐな髪に深い青の瞳で、昔からとてもかわいくて十八歳になった今、とてもきれいになっている。

 口を開かなければ、誰もが振り向くと思うのだ。

 しかし、姉は苦々しい顔になった。あれ?地雷だった?

「私は、私の本質を好きになってくれる人と結婚したいの。見てくれとか……肩書とかそういうのは私にどうこうできることじゃないから。」

 後半はほぼ声が出ていなかったが、聖女イヤーのおかげで聞き取ることはできた。姉も何か苦労しているのだろう。


「でも、ここに居たってどうにもならないと思うよ?どうするの?」

「メリルは仕事しているでしょう?それについていってもいい?」

 そう言われて困った。だって、私がやってることと言えば、トウワと庭の農作業とおじーちゃん先生のとこのお手伝い。そして、冒険だ。どれも連れて行けないじゃないかっ!

「ゴメン、連れて行けるようなことしてないや。おねーちゃんが考えてるような場所に行くことないんだよね。スラム街手前の治療院とか行っても辛いと思うし。」

「そっか。ここの家って、誰が家主なの?部屋、いつまで借りれるかしら?」

「家主っていうと……アマンダさん?」

「なんで疑問形なのよ。アマンダさんて、さっきの人よね?今も家にいるかしら?」

「下にいるけど。」

「じゃぁ、お願いしてみるわ。」

 そう言って部屋を出ていくので、私もついていくことにした。



 メイド服に着替えたアマンダさんを目の前に、姉は固まっていた。

「え?あの、アマンダさん……ですよね?」

「はい。今お茶を入れますね。」

「あ、いえ、そうじゃなくて。ここの家主だって聞いていたし、商会の人が何でメイドを……。」

 まぁ、そうですよね。

「え?確かに私は商会の人間ですけれど、普段はここの住みこみのメイドなのですよ。そして、ここの家主はメリル様です。」

「……。」

 姉よ、無言で私を見るのやめてほしい。


「家主っていったって、私はお金出してないんだよ?アマンダさんとこの持ち家に住ませてもらってる状態だから!」

「でもここは、メリル様のために用意したので。差し上げたと認識しています。」

「私は借りてるつもりだったんだけど?!」

「……。」

 姉がうつろな目で見ているので、話を止めた。

「おねーちゃん?」

「どっちが家主でもいいのだけれど、私もここに少し滞在させていただきたいんです。可能ですか?」

「もちろんです。ご自宅だと思ってお過ごしください。」 

 そう言ってアマンダさんが頭を下げたのを、姉は無表情で見ていた。なんだか不穏な空気を感じる。


「お、おねーちゃん?」

「……ううん。そう。では、メリル、住ませてくれる?」

「え、あ、いいけど……。」

「ありがとう。ちゃんと働いてお金は入れるわ。」

「え?働くの?!」

「当たり前でしょ?」

「もしかして、本格的に王都に住もうとしてる?」

「当たり前でしょ?」

「村に帰らないの?!」

「当たり前でしょ?」

「なんで???マークやジョージは?仲いい男の子だっていたでしょ?」

「別にいいじゃない!ちゃんとするから放っておいて!」

 そう叫ぶように言って、姉は部屋にかえってしまった。

 あまりの事に私は呆然とするのだった。

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