67.陳腐ルート
「ここに来るなんて、さすがにびっくり。」
私の前にいるソレは、そう言った。
「ここはどこ?」
あたりを見ると、ただの白い世界。私はそこに浮いていて、ソレも浮かんでる。
ソレは真っ白な世界と同じ真っ白な姿。白に白なら見えないはずなのに、そこにあるのがわかるのが不思議だ。
「あなたに私は可視化できない。皆には精霊たちが見えないように、あなたにはここも私も見えないの。」
「あなたは何?」
「あなたたちが創造神っていってるものね。」
えー、こういう終わり方ー?陳腐ルートじゃん!
「失礼なこと考えたでしょ?」
「いえいえ、そんな。でも、創造神だというのなら、助けてくださいよ!」
「うーん、誰かに肩入れするのって違うと思うのよね。だって、誰にでも行動原理があって、それは尊重されるべきだと思うの。善悪なんて、見る側が変われば変わるものだし?」
それはまぁそうだけども。こういわれるとぐうの音も出ない。
「でも、せっかくここに来たんだもの。疑問には答えてあげるわ。何か聞きたいことはある?」
なんだか軽いな。でも、助かる。
「美代さんを助ける方法って何ですか?」
「助けるってどういう意味で?」
「魔王にしない方法?」
「え?魔王にはならないと思うけど。」
「へ?」
おい!じゃぁ、今さっきまでの騒動は何なんだ!
「あなたたちが勝手に思い込んだだけでしょ。」
心を読んで答えないでほしい。しかもその通り過ぎて刺さるわ。
「じゃぁ、魔王って誰なんですか?」
「誰って言われてもなぁ。別に意思があるとかそういうのじゃないんだよね。」
「じゃぁ、魔王ってなんなんですか?!」
「この世界は私が作ったんだけど、その時に二種類の生物も作ったの。それが、あなたたちがいうドラゴンと邪神ね。」
何でそんなもん作ったんだよと思わざるを得ない。
「あ、別に、邪神を作りたかったわけじゃないの。ただ単に、複数の個体がいるグループと、別の個体を作っただけで、私としてはそれぞれがどんな交流をして、どんな暮らしをしていくか見たかっただけなわけよ。」
「はぁ。」
「そしたら結局戦い始めちゃって、一個体の方が負けて邪神って呼ばれちゃうようになったのよね。」
勝てば官軍負ければ賊軍ってことか。
「で、邪神が負けた時、その体からあふれたのが魔素。そして、その魔素を使って、あの世界では生物が生まれたのよね。だから、本来なら、邪神ではなくて、あなたたちの母神なのよね。ちょっとかわいそうに思うわ。」
なんてこった。それは確かにかわいそうだ。
「だからね、魔素って有限なのよ本当は。どんどん減るはずなの。
でも、精霊が生まれて魔素を作るようになったのよね。そしたら、魔素のバランスが狂い始めたの。
なんだかその魔素の過剰分が塊になって、魔王ができちゃうみたい。」
なんだってー?!それじゃ、私たち聖女は精霊たちの不始末をするために呼ばれてるってこと?!
「そうなるわねー。」
「心の声を読んで絶望的な返答しないでください!」
私は頭を抱えるしかなかった。
「それって、精霊王たちは知ってるんですか?」
「知ってたらあの子を魔王だなんて思わないんじゃない?」
確かに。
「普通ではありえないんだけど、あの子はドラゴンの方の魔力を持ってる歪みね。でも、本体のドラゴンが健在だからその意識に影響されるし、魔王みたいには行動しないの。」
「え?どういうことです?魔王は何か目的があって行動してるんですか?意思はないんですよね?」
「うーん、明確な意思があるわけではないけれど、多分魔素を吸いつくして邪神として復活したいんだと思う。それが破壊行動に見えるのよね。だって、生物に溶け込んでる魔素も吸うわけだから。」
あー……。
「精霊たちはある程度の魔素の量以上になると魔王が復活するのはわかってるんだと思う。だから、その時に聖女を召喚して戦わせるのね。で、そこで大規模な魔法合戦になるから魔素がぐんと減って歪みが消えるわけ。」
なんだか頭が痛くなってきた。
「ってことは、今のうちに魔法をばかすか使ってれば歪みが抑えられるんですか?」
「それはあると思う。効率から言ったら、魔法戦争起こすといいかも。」
いやいや、それは勘弁してほしい。っつか、創造神が戦争をたきつけないでほしい。
しかし、こう考えると、ある程度のルールは精霊王もドラゴンもわかっているけれど、詳細を知っているわけではないから間違っていることがあるということだ。
彼らも人間と同じように、この世界に産み落とされた存在でしかない。すべてを知るだなんてことは無理なのだ。そう考えたら、そりゃそうだとしか言いようがない。
科学が進歩しても、世界のすべてを知ることは永遠に無理だろう。魔法が使えてもそれは同じだ。
「魔王の出現時期や場所は予測できますか?」
「時期はさっき言ったように、一定以上の魔素が溢れた時だから、今のままだと来年位ね。場所に関しては完全にランダムで、その瞬間にどこかに生まれるみたい。
でも、大抵は魔境に出るわね。あそこは魔素が濃いから。」
「やっぱり来年なんですか。あの、ここって何かの本やゲームの世界なんですか?」
「さぁ。でも、私がドラゴンや邪神を生み出して、邪神が精霊や人間を生み出した。それと同じように、私も誰かに生み出されていたとしても不思議じゃないと思う。」
なんだか笑ってそうな口調だった。私はため息が出た。
「……私、なんでこんなとこにいるんです?」
「本当にね。まぁ、考えられるのは、要素を多く取り込みすぎたってことかな。」
「要素?」
「あなたは別の世界の記憶を持つ魂で、新しい世界でスタート点にあった二勢力の魔力を両方取り込んだ。ってことで、世界的にはかなり上位の存在になっちゃったってことだと思う。
よくもまぁ、あの子の魔力を吸い取ろうと思ったわね。魔王になるつもりだったの?」
そう、私は美代さんの中にあるディアンガさんの魔力を吸い取ろうと思ったのだ。
私は魔力の器がでかい。だから、吸いきれるかもしれないし、それが溢れたら私が魔王になって、フィアルさんに殺されるのが一番丸く収まるかなって思ったのだ。
魔王になった私でフィアルさんが実験しようとしても、多分他のドラゴンがそれを許さないだろうって信じたのだ。
「精霊王に自己犠牲の精神植え付けられてるんで。」
私がそう言うと、創造神はコロコロと笑った。
「そうね。皆面白いことをするのね。本当に見ていて飽きない。
ドラゴンの魔力を吸うなんてできるはずがないことをされたわ。だから、この時間はそのご褒美よ。
実をいうとね、ドラゴンと邪神の魔素は別なの。吸収はできない仕組みというか、吸収する量によっては死ぬのよ。
そうしないと、誰かが全部吸い取って、バランスが壊れると思ったから。長く観察できるようにそういうとこはちゃんと考えたのよ。
まぁ、ドラゴンの中にはやったのがいたみたいだけど、その時には体調を崩してるはずよ。」
フィアルさんの事を言っているのだろう。聖女を食べた時か別の時かは知らないが、ちゃんとしっぺ返しをされてるのは小気味いい。
それにしても、これを聞くと美代さんの魔力に触れた時の違和感や、クレアライトを飲まされた人間の末路、なぜフィアルさんが未だに精霊の力を吸えていないのかの理由がわかる。
そして、自分の無謀な行動の愚かさも。
「私、死んだからここに来たってことだったりします?」
「生きてるわよ。あなた、自分の魔力に混ぜようとしなかったでしょ?それで助かったのね。」
「そうですね。美代さんはドラゴンの魔力があるから生きてるわけで、それを吸ったら美代さんは死ぬかもしれない。だから、返せるようにって思ったんです。うまくできるかは賭けでしたけど。」
「全部吸えなかったみたいね。」
「全然足りなかったです。あ、美代さんも死んでないですよね?」
「あれくらいじゃ大丈夫ね。」
「ですよね。」
ほっとしたが、すぐに別の事に思い至った。
「私、美代さんに魔法を使わせようとしちゃったんですけど、美代さんは大丈夫なんですか?美代さんも邪神側の魔素でできてるんですよね?」
「そうね。魔法が使えない人間もいるでしょう?あの子はそういう子。だから、魔力を流すことができなかったから助かったのね。
今魔力を使おうとしても平気なのは、既に人間ではないからよ。ドラゴンの魔素でできた生物になってるのね。」
よかった。思い付きで行動したことが、悪い結果になる可能性は十分にあった。でも、正直こんなこと思いつかないよ。
本当に危ない橋を渡っていたようでぞっとする。
「え、でも、待って?ベイダルさんたち、魔物を食べるって言ってたけど、それは大丈夫なんです?」
「栄養になるならないで言ったらならないと思うんだけど。」
「えええ?でもなんか、魔物は吸収しにくいけどうんたらみたいなことを言ってたような。で、なんか吐くみたいですけど。」
ちゃんと覚えてない。
「もしかしたら、普通の食べ物は魔素がなさすぎて、消化も何もそのまま出てくるのかも?で、魔物は魔素が多いから、そのまま出てくるんじゃなくて、若干つっかえてるからお腹にたまる気になってるだけなんじゃないかしら?
まぁ、魔物くらいじゃドラゴンにとってはそんなに毒素としては多くないだろうからそれで済んでるのかもね。結局吐いてるならちゃんと身になってないと思うし。」
それすら思い込みなだけなの?無知って怖い。
「なんだか脱力しました。……それにしても、なんていうか、ずいぶんと人間臭い感じなんですね。」
目の前にいるソレは、話していて同レベルの感覚なのが若干不気味ではある。高次元のものと会話してる気がしないのだ。
「特に高次元だとは思ってないわ。あなたたちだって物語を書いたりするでしょう?それって、自分をどこか反映してると思うの。
確かに作り手の能力を超えたものができる時もあるでしょうけれど、大抵はそれなりのものに収まるようなものよ。」
そう言われると納得してしまう。
「私、帰れます?」
「帰してあげるから安心して。」
「また、ここへも転移で来れます?」
「それはどうかな?あなた次第なんじゃないかしら?ただ、あなたのやり方だと、難しいかもね。」
「ここでの話、してもいいですか?」
「いいけれど、信じてもらえるかは知らない。」
私はため息をついた。
「まだ、世界は続きそうね。」
創造神はまたコロコロと笑った。
「どうでしょう。まぁ、帰ります。きっと皆心配してくれて……るかなぁ?」
「教えてほしい?」
「自分で見てきますよ。」
「そうね。自分で見た方が楽しいわね。」
その言葉に私はちょっと笑った。それと同時に、意識が一瞬飛んだ。
私の腕の中に、ぐったりとした美代さんがいる。
「あえ?」
「美代!」
ディアンガさんがこちらにやってくる。ドラゴンの姿で迫ってくるの怖い。
様子を見るに、私が美代さんの魔力を吸ってすぐのようだ。
体もあの世界に行ったと思っていたのだが、どうやら意識だけが飛んでいたのだろう。だからこそ、もう一度あそこに行くのは私のやり方では難しいということか。
いつの間にか人型になったディアンガさんが目の前にいた。
「ごめんなさい。魔力吸ったので、気絶しちゃったみたいです。ちょっと待ってくださいね。」
私は吸い取った魔力の半分を返すことにした。それでも膨大な魔力だ。
全部を返さなかったのは、色んな意味での保険のためだ。
魔力を返したので、美代さんをディアンガさんに渡す。
「大丈夫です。美代さんは魔王にはなりませんよ。ちゃんと魔王は生まれます。」
「メリル。」
セラが後ろから声をかけてくる。私は精霊王たちと向き合った。
「あなたたちは、魔王がどういったものなのか、どこまで知っているんですか?」
「歪みから生まれ、世界を滅ぼそうとする者だ。」
岩の精霊王アレクシィルが言う。
「精霊たちと元は同じものだとは知ってるんですか?」
私の問いに、何を言っているのだという顔をする精霊王たち。やっぱり知らないのだ。私は天を仰いだ。
「ドラゴンさんたち、精霊王たち、信じてもらえるかわかりませんが、私の話を聞いてください。」
私は知ったことをすべて話したのだった。
いいね、評価、ブックマークしていただけると喜びます!




