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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
66/102

66.聖女のあがき

「えっ……。」

 見慣れた岩山の方の部屋に戻ってきて、アマンダさんが困惑した声を出した。

「聖女殿?」

 シュレインさんの声に、私は首を振った。

「とっさに来ちゃったけど、あそこには帰れない。」


 フィアルさんが光った瞬間、膨大な魔力の流れを感じ、とっさに転移した。転移の対象は私のハンカチを持っている人間。

 なので、今、精霊王の作ってくれた部屋には私、シュレインさん、アマンダさん、ディア、美代さんがいる。

「主様は?!」

 美代さんが叫ぶように聞く。私はどうしたものかと思案する。

「メリル、ちゃんと話してほしい。これじゃ俺たちも気持ちが収まらない。」

 ディアの言葉に、私はため息をついた。


「今、フィアルさんとディアンガさんが戦ってる。二人とも、ドラゴンになってると思う。」

 あの光と魔力の流れでそう判断したわけではない。こんなに遠くに離れても、その魔力のぶつかり合いが響いてくるのだ。

 なんだか異様な魔力の流れだ。今までに感じたことのない魔力。そういえば、ドラゴンがまともに戦うのを初めて感じているのだ。私はその魔力の異様さと強大さにぞっとした

 私は部屋を見る。皆には見えていないが、この部屋にも精霊がいる。そして、皆震えている。


「どうしてですか?」

 シュレインさんの問いにもため息をついて答える。

「あの瞬間、フィアルさんが変身を解いたんだと思う。曖昧なのは、私も体が反応しちゃっただけで、確実にそうだとは言い切れないから。で、こっちに追ってきそうなのを、ディアンガさんが止めてるんだと思う。」

「私のせいなんですか?」

 美代さんが聞く。

「多分、美代さんを連れ去るか……食べようとしたとか、そういう感じだと思う。フィアルさんって、なんかそういう方向にぶっ飛んでるみたいだから。でも、正直細かいところはわからない。」

「帰らなきゃ。私が帰ります!」

 美代さんの言葉に、私は首を振った。

「ディアンガさんが望まないと思う。戦ってるのがその証拠だと思う。それに、私も美代さんをフィアルさんには渡したくない。」

 私はそう言って、美代さんをまっすぐ見た。だってあのドラゴン、この人で実験しようとしてる。そう思った瞬間、目の前がゆがんだ。



「きゃぁっ!」

「聖女殿!!」

「メリル!」

「いやあああああああああああああ!」

 皆の叫びがかすんで聞こえる。フィアルさんの気配を感じてかけていた回復魔法のおかげで体が回復していくのがわかる。多分、死ぬ寸前だったわ。

「皆動かないで!」

 私の鋭い声に、駆け寄ろうとした三人は動きを止めた。


「美代さん、大丈夫?」

「は、はい。でも、メリルさんは……。」

「大丈夫、回復してるから。」

 美代さんが無事でよかったとため息をついた。そして、振り返り私を貫いた攻撃の主たちを見る。


「なんで?」

 精霊王たちに聞く。

「わかっているでしょう?」

 セラが静かに答えた。

「ダメです。ドラゴンが敵に回りますよ。」

「あれらはそんな心を持たないよ。」

 私の言葉に、パケマネが答える。


 目の前がゆがんだ瞬間、精霊王たちが現れ、美代さんを殺そうとした。だから、私はその攻撃を受けて防いだ。それがさっき起きたことだ。

 守護魔法を貫通して瀕死。本気で殺そうとしていただろう。

 皆の目に精霊王たちは映らないから、多分急に私が動いたと思ったら、爆発したとでも見えたはずだ。


「今なら簡単に終わります。」

「無理です。」

 セラの言葉を、私は即座に否定した。

「どきなさい。」

 火の精霊王リーカーが、火球を作りながら一歩前に出る。この火は皆に見えているのだろうか?

「まだ、決まってないじゃないですか。」

「確かに今までとは状況が違うけれど、早くわかったのなら種の内に燃やすべきだよ。」

 パケマネが諭すように言う。


「メリル様……?」

 アマンダさんの不安そうな声に、私は振り向いた。

「今、精霊王たちがここにいます。皆を巻き込んでゴメンね。」

 私はそう言って転移した。



「えっ?」

「本当にありがとう。バイバイ。」

 四人を連れて王都の家に転移し、アマンダさんの驚く声を聴いた瞬間、すぐに転移をする。私の言葉は伝わったかわからない。


「メリルさん?」

 美代さんの困惑する声に、私はどう答えたらいいかわからなかった。三人は王都の家に置いてきた。こっからは聖女の仕事だ。

「美代さん、ごめんね。これから話すこと、ちゃんと聞いてほしいの。」

 私は転移を繰り返しながら、美代さんに話しかける。


「私が聖女なのは知ってるよね?」

 ディアンガさんが聖女と呼ぶし、美代さんは頷いた。

「聖女は魔王を倒すために精霊王に能力をもらってるの。」

 美代さんは頷く。


「私、魔王って何なのか知らなかったけど、ドラゴンや精霊王は歪みがうんたらって言ってた。」

「歪み……。」

「よくわからないけど、この世界は何か無理をしてるんじゃないのかな?それで、どこかにその歪みってのがたまるんだと思う。そして、それが魔王になるの。」

 美代さんは頷く。


「そして、多分今の世界の最大の歪みが、美代さんなんだと思う。」

 私がそう言うと、美代さんは悲しそうな顔になった。


「だから、フィアルさんは美代さんを手に入れようとするし、精霊王は美代さんを殺そうとするんだと思う。」

「私が死ぬ方が、世界のためなのですね。」

 美代さんの言葉に、私はやるせない気持ちになった。

「そうさせないために、ディアンガさんが戦ってるんだよ。」

 そして、私は最後の転移をした。



 目の前で、金のドラゴンと、青のドラゴンが戦ってる。

「主様!」

 美代さんの叫びに、二人がこちらを向く。

「ベイダルさん!グレンドさん!いるんでしょ!」

 私が叫ぶと、龍兄弟も現れた。

 ドラゴンたちと私たちの間に現れてくれたので、少し安心した。これでフィアルさんも手を出しづらいだろう。


 あたりを見ると、トウワの村がひどいことになっていた。索敵で周囲には人の気配がないことはわかった。もしかしたら、ベイダルさんたちが避難させてくれたのかもしれない。


「メリル、魔王を渡しなさい。」

 後ろからセラの声が聞こえる。転移なんてしても、瞬時に捕まえられるだろうけれど、ここに来るのを待ってくれたのだろうと思う。……いや、そう思いたい。


「ディアンガさん、絆とかいうの、切れましたか?」

「もう切れている。だが、その魔力をどうしても放出できなかった。」

「二人も、今回の魔王は、美代さんだと思う?」

「多分な。」

 龍兄弟に聞くと、ベイダルさんがそっけなくそう答えた。

 龍たちはそれを前から予測していたのだろう。ディアがトウワに来させないようにしようとしたのは、そういうことだ。

 思い返せば、フィアルさんがドラゴンの力を人間に付与して魔王を作ろうとしていた。ならば、ディアンガさんの魔力を持った美代さんは、その完成形だったのだ。

 何であれを聞いたとき、すぐに美代さんを思い出さなかったのか。あの時の自分を殴り倒したい。


「きっと、まだ時間があると思うの。その前に、どうにかできないの?」

 魔王として復活しない根拠は、まだ二年次だからだという全く根拠にならないものだから、心から言い切れない。自分の声が震えているのがわかる。

 それに、誰も答えてはくれない。


「聖女、その女を渡せ。俺が約束したはずだ。魔王は絶対に殺してやる。」

 フィアルさんが楽しくてしょうがないといった声でそう言う。ドラゴンになったのに、その嫌な笑みがわかるのがすごい。


「私は……死なねばならないのなら、主様の手でと思っております。ですから、主様のもとへ。」

 美代さんが私に微笑んだ。


 違う、違うんだよ。異種族愛のそういうの違うんだよ。だって、どう考えたってこんなの好転しないじゃん。今の流れじゃ奇跡起きないじゃん。


「まだ決まってない。」

 私の絞り出した言葉に、美代さんは首を振った。

「私は長く生きましたし、主様の手で死ねるのでしたら本望です。」

 その言葉に、私も首を振る。


 よく考えて。だって、こんなのおかしい。こんな終わり方変じゃん。


「美代さん、ドラゴンたちが言うには、私より美代さんの方が強いんだって。」

「はい?」

「本当に美代さんが魔王になったら、私じゃ勝てないんだ。」

「……。」

「だったら、魔王は絶対他にいる!」

「え?」

 ゲームなのだとしたら、このままだとバッドエンドのルートだ。絶対ハッピーエンドがあるはずだ。

 そこでは私が魔王を倒して皆幸せに暮らしましたってなるはず!

 考えろ、美代さんを魔王にさせちゃだめだ!


「絶対に、美代さんは魔王にはならない!私は信じてる!」


 私は自分ができる最大の反逆をするしかなかった。だって、誰かが魔王になるなんて浮かばなかったんだもん。


 皆、それぞれに大切な人がいて、助け合って生きている。

 誰が死んでも、きっと誰かが悲しむ。


 私も色んな魔物を倒してきた。でも、その魔物にも家族がいるんだ。

 ダクテオンや紫のネズミはどうかな?自然発生って言ってたけど、どうやって生まれるんだろう?ビレートさんだったら知ってるのかな?


 魔王はどうだろう?何のために生まれるんだろう?

 歪みって何? 


 答えを知ってる人は、いるの?

 いるならぜひ会いたい。



 そして、私は魔法を発動した。


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