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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
65/102

65.力

長い間放置してしまってすみませんでした。

新年度の忙しさに翻弄されたあと、抜け殻になってさぼっておりました。

これからはコンスタントに更新すると言っておかないとさぼりそうなんで言っておきます。

「とても素敵ですね。」

 そう言って、美代さんは私が刺繍をしたハンカチを受け取ってくれた。


 私たちは、ドラゴンたちから許可が出たので田植えを手伝うためにトウワに来ている。

 田植えは老若男女問わずに参加するのだが、我々は炊き出し要員として後方支援だ。

 そして、ここから少し離れた山の中では精霊王たちも家を作ってくれている。ベリンダールの方がすでに完成していて、ドラゴンがいるから私はいらないとはならなくて、ほっと肩をなでおろした。


 ちなみに、田植えに参加するのはディアンガさんはもちろんのこと、うちのメンバーからはシュレインさんとディアだけだ。ベイダルさんとグレンドさんは、居間でおやつをもらって食べている。

 食べてるのはベイダルさんだけだろうけど。


「これは、何をかたどっているのですか?」

 柄の中にいる青いドラゴンを見ながら小首をかしげる美代さんに、私はびっくりしてしまった。

「え?!ディアンガさんってそういう感じじゃないの?!」

「主様ですか?主様は大きな蛇のようなお姿ですよ。」

「しまった!皆同じ形じゃないのか!東洋の龍なのね!」

 確かにそう言われればそうなのだ。ベイダルさんとグレンドさんは人間の姿もそっくりだ。それは作った姿だろうし、兄弟だからってことであまり深く考えていなかった。

 しかし、そもそもがドラゴンとしてもそっくりで、そのためにそうしていると考えれば自然だ。


「でも、それならそれでちょうどよかったかも。」

「え?」

「あのね、ディアンガさんにもハンカチ作ろうと思ったんだけど、美代さんがいるのに私が贈るのもなんか変かなーって。」

 守護の気持ちだとしても、あからさまに相手のいる男性に女の私が刺しゅう入りハンカチを渡すのって、控えめにいってもヤバイ。

 なので、刺繍セットを持ってきたのだ。


「これ、この模様を作った糸なんです。それで、ディアンガさんへは美代さんが作ってあげてほしいなって思って。」

「私が?」

「いつものお礼とか、相手を想う気持ちを贈るものなんです。だから、ディアンガさんへは美代さんからの方がいいと思って。」

「わかりました。私、頑張ります。」

「ほら、アマンダさんも!第二王子に縫おう!」

「はい。」

 正式に婚約となったアマンダさんは、ハンカチに目を落として、少し頬を赤らめた。

 ベリンダール式のマナーなんかは家庭教師が後で来るという。王子的にはベリンダールに連れて行くのを極力減らしたいようだ。

 これからは結婚の衣装などに刺繍をすることになるだろう。私にもいくつか針を通してほしいと言われている。

 村では全部手作りだから当たり前なのだが、貴族様は違う。基本はオーダーのもので職人が作るのだが、ちょっとずつ自分でも手を入れるのだという。うーん、そういうの好き。


「美代さんて、魔法って使えます?」

「いいえ。」

「あー、そうなんですね。魔力の流し方もわからないです?」

「はい。」

 つい先日指摘されたばかりだし、そういった環境にもなかっただろうから当然なのだが、私よりも多いと推測される魔力を眠らせるのはもったいない。

「ちょっと練習しましょうか。守護魔法をかけながら縫うといいんですよ。」

 私が作ったものは後から魔法を入れているが、大抵はそうやって作る。守護魔法の大きさにもよるが、その方が入れ手の負担が少ないからだ。

 美代さんも魔力的には後掛けでいいが、慣れていないのでその方が練習にもなるだろう。


「じゃぁ、手を貸してください。」

「はい。」

 両手をつなぐと、片方の手から美代さんを一周し、反対の手に返るように魔力を流す。これを幾度か繰り返すと、魔力の流れる感覚を簡単につかめるのだ。

 と、学校で先生が生徒にしている場面を見たのだ。

 前にもシュレインさんにそれをしたのだが……。


「ん?なんか変だな。」

「どうしました?」

 私が変な顔をしてつぶやいたので、美代さんが心配そうにのぞき込んでくる。

「いやぁ、なんか、魔力の流れに抵抗があるんですよね。普通だったらスムーズに流れるんですけど、重いっていうか……。」

「……やはり、私が変だからでしょうか?」

 あ、しまった。今までのドラゴンたちの会話を聞いていたから、自分がおかしなことになってることは美代さんもわかってるのだ。

 そんな人にそんなつぶやきはご法度だ。自分の無神経さを後悔する。


「すみません。そういうことじゃないと思うんです。もしかしたら、美代さんの魔力量が多すぎて、私の魔力では太刀打ちできないからかもしれません。」 

 自分で言っといてなんだけど、全然フォローになってない。困ったぞ。

 しかし、美代さんは私の心中を察してくれたのか、つないだ手を強く握り返してくれた。

「私こそすみません。悲観しているわけではないのです。ただ、最近皆が私に気を砕いてくださるので、申し訳なくって。」

「何かあったんです?」

 私の問いに、美代さんはちょっと考え込んだ。

「いえ、何がどうということはないんですが、主様が私に対して罪悪感を持っているようで……。」

 そう言って、目を伏せる美代さん。彼女にとってはディアンガさんがそんな風だと辛いのだろう。


「私がいなければよかったのではないかと。」

 声になるかならないかというくらい小さくつぶやかれたその言葉に、私は胸が苦しくなった。

「そんなことないです。相手はドラゴンですよ?そんなこと思ったら人間の事なんてすぐにでも殺せますよ。

 それに、ディアンガさんはそんなこと思う人じゃないでしょう?

 今一緒にいるのは、ディアンガさんが選んでしていることですよ!」

 力が抜けてしまった美代さんの手を、今度は私が握り返した。


「私も美代さんがいてくれて、よかったです!」

 横からアマンダさんも参戦した。

「私もです!」

 私も力強く頷いた。

「お二人とも……ありがとうございます。

 私もわかっているんです。そんなことは思われていないだろうし、自分だって主様と離れることはできないって。

 でも、やっぱり申し訳ないという気持ちも沸いてしまって。」

「そう思ってしまうのは仕方ないですよね。でも、相手とちゃんと話し合わなくちゃだめって、私に言ってたじゃないですか!美代さんもまたそうしてください!」

 うつむく美代さんに、アマンダさんがそう言った。すると、美代さんは顔をあげて頷いた。

「そうですね。この前そう言ったばかりでした。ちゃんと私も主様の気持ちを聞きます。」

「自分の気持ちも言ってくださいね?」

「はい。」

 美代さんとアマンダさんがにっこりと笑いあう。そんな二人を見て、私もにっこりだ。


 にしても、魔法を教えるのは本当に難しいな。

「私の力も及ばずですみません。魔力を流すの教えるの難しい。」

 ちゃんと学校で授業を受けた方がよかったかもしれない。……いや、やっぱやだ。

「いえ、なんとなく温かいものが動いているのはわかりました。自分でもやってみます。」

 そう言って、美代さんが集中すること数分。徐々に魔力が流れ出した。


「え!凄い!できたじゃないですか!」

 私がそう言うと、アマンダさんはにっこりと笑い、美代さんはちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。

「さっき流してもらったからなんとなく。この後はどうしたらいいですか?」

 そう聞かれて、私は若干目をそらした。

 わ、わからない。守護魔法のかけ方なんてわからない!そんなの息を吸うようにできるんだもの!!

 なので、とりあえず魔力を込めたハンカチを作ればいいということにした。

「さっきみたいに針に魔力を流しながら縫うんです。その時に、ディアンガさんの健康やらなんやらを願いながら魔力を流してくださいね!」

「なんだかざっくりとした説明ですね。」

 アマンダさんが鋭く突っ込むが、聞こえないふりをしておく。

 しかしどうして、うまく守護魔法になるのが潜在能力の高さというもの。そう、美代さんは順調に守護魔法をかけつつ縫い始めた。

 私とは何か形態が違うようにも感じるが、それは独学だからかもしれない。

 にしても、これがドラゴンパワーというやつなのか……と、私よりも強い守護魔法ができそうな予感に若干戦慄するが、まぁ深く考えるのはやめよう。



 昼時になり、三人が帰ってきた。泥だらけで帰ってくるかと思いきや、ディアンガさんの浄化魔法によってきれいにされていた。

 用意していたご飯を運んでいくと、シュレインさんとディアが遠い目になっていたので、私はにっこりとほほ笑んだ。

「田植えはどう?楽勝?」

「いいえ。こんなにきついとは思いませんでした。」

「足場が悪いのにずっと中腰なのが辛い。子供ですらやっているのに、俺たちの方がうまくできなかった。」

 どんよりとした空気になる二人。暮らしの違いがあるのだから仕方がないのに、自分たちの鍛え方が足りないと感じているのだろう。

「さぁ、ちゃんと食べなさい。午後も作業は続くぞ。」

「「はい!」」

 ディアンガさんに言われ、背筋を伸ばす二人。その内サーエイッサーとか言い出しそうだ。



 ご飯を食べ、さぁ午後の田植えにというタイミングで、私の背筋がぞわりとした。と、同時に、グレンドさんがベイダルさんを連れていなくなる。

「来る?」

 ディアンガさんを見ると、玄関へ移動していくので、きっと出迎えるのだろう。


「皆ここにいて。別のドラゴンが来る。」

 そう、その気配はフィアルさんだった。かなり遠くにいるが、強烈な気配を放ちながら猛スピードでこちらへやってきている。

「別のドラゴン?」

 先日フィアルさんに会ったことは、シュレインさんのほかには龍兄弟しか知らない。なので、ディアはよくわからないといった顔で聞いてきた。


「帝国にいるフィアルさんっていうドラゴン。他のドラゴンたちと様子が違うから、会わない方がいいと思う。だから、ここにいて。」

 私がそう言うと、シュレインさんの眉間にしわが寄った。彼は先日の会話は知らないものの、ギルマスと龍兄弟からの報告を一緒に聞いているので、やばいドラゴンなのは知っているのだ。

 なので、私は全員に守護魔法をかけて、ディアンガさんを追った。



「ディアンガさん、ベイダルさんたちからフィアルさんの事って聞きました?」

 追いついて質問すると、ディアンガさんは頷いた。

「大まかには。」

 グレンドさんの行動を振り返ると、黙して秘すというイメージがあるので、ディアンガさんにも伝えているのが意外だった。ベイダルさんもそういうことをべらべらしゃべるかわからない。

 そんなイメージなので、ディアンガさんに伝わっているということは、ドラゴンたちもフィアルさんを警戒しているのだろう。

 そういえば、帝国から帰ってきた龍兄弟は、完全に気配を消していたことに今更気が付いた。私が知らない何かがあるのかもしれないと気を引き締める。



「やぁ!出迎えありがとう!」

 大げさなリアクションと共に、フィアルさんは家の前に降り立った。

 私とディアンガさんは玄関の外で待っていたのだ。

「珍しいな。どうした?」

「聖女の気配を追っていたらここに来たからね。何かあるのかと思ってたんだよ!この前、聖女とは魔王を倒すって約束したからね。」

 しまった。私が連れてきてしまったようだ。しかし、私も気配は村人のように装っている。なのにかなり離れた場所から移動しているのを察知されているのが怖い。

「田植えを手伝いに来たんです。」

「たうえ?」

「稲という作物の苗を植えることを言うんだ。」

「魔王は関係なし?」

「ないです。」

「なーんだ。」

 そう言って、つまらなさそうに頭の後ろで手を組むフィアルさん。なんだろう、第二王子とオーバーリアクションなのが似ているのだが、見た目が四十代のおっさんなので胡散臭さが増す。

 なんていうか、若作りしているように感じてしまうのだ。そう、このドラゴン、なんていうか少年とかの姿の方がしっくりくる無邪気さというか、幼さを感じる。

 子供がアリの巣に水を流して楽しむようなイメージを、このドラゴンからは感じるのだ。


「魔王が復活してないことくらいわかるだろう?」

 ディアンガさんが、無表情で聞く。ってまって?そういうもんなの?

「そうだがね。こっちにはこっちの事情があるのだよ。先を越されるわけにはいかなくてね。」

 そう言って、フィアルさんはこちらにウィンクする。うへぇ。



 はよ帰ってくれと思っていたら、フィアルさんが急にニヤリとする。

「でもさ、聖女がドラゴンと知り合いだなんて思いもしなかったなぁ。それに……んー?なんか変なもの隠してないかい?ディアンガの気配がもう一つする。」

「石がある。お前だって吐くだろ?」

「嘘だ。生きてる!」

 そう言って、フィアルさんはあっという間に家の中へ入り込んでしまった。そして、それを追って、ディアンガさんも中へ入る。それを追おうと思い玄関を振り返れば、すでに姿がない。本気だ。



「どうやった?!」

 ギラギラとした目つきで美代さんを見るフィアルさん。そして、美代さんを隠すように立ちふさがるディアンガさんが見たこともないほどに険しい顔になっている。

 美代さんはディアンガさんの背中に隠れつつも凛とした顔つきでフィアルさんを見つめ、その様子をシュレインさんとディアが緊張した面持ちで見ている。アマンダさんは部屋の隅で目を見開いて固まっている。

 何たるカオス。部屋の空気が異常に寒い。怖っ。


「私が何度やっても無理だったのに、なんでそいつはお前の魔力を持ってる?!どうやった?!なぜできた?!」

 宝物を発見したような興奮と、嫉妬の感情が見える。今まで見た人物の中で、一番の表情の豊かさを見せてくる。やはりそんなところも幼さを感じる。

「長く一緒にいすぎたためにこうなってしまっただけで、きっかけは忘れてしまった。」

「長く?もしかして、お前、その女とできているのか?」

「まさか。人間とは交われない。」

 ものすごい嫌悪感にあふれる顔でそれを聞くフィアルさん。そして、吐き捨てるように答えるディアンガさん。そして、その言葉に目を見開く美代さん。

 あ、なんかこれ、凄い修羅場になりそうな予感。やめて!私の大好き異種族恋愛を否定する流れやめて!

 っていうか、お前美人はべらしてなかったか?!


「本当か?お前、その目どうした?」

「目?」

「気が付いてないのか?お前、瞳が黒い。その女と同じ色になってる。」

 そう言われ、ディアンガさんは手を目の方にやり、考え込む。もしかしたら、瞳の色が変わってるの、気が付いてなかったのかな?


「思い出せ!ほら!」

「……別に、変えた記憶はない。」

「おい、お前にとってその女は別に対して大切なわけではないということでいいのか?」

「どういう意味だ?」

「お前の女だというわけではないのだろう?」

「あぁ。」

「だったら、私がもらってもいいよな?」

 そう言って、美代さんに素早く手を伸ばすフィアルさんだが、ディアンガさんがその手をがしりとつかんで阻止した。

「ものではない。本人の意思というものがある。美代、フィアルのところへ行きたいか?」

「いいえ。私は主様と共におります。」

「とのことだ。」

 即答する美代さんに拍手を送りたい!しかし、フィアルさんはバカにしたように笑った。

「くっははは!ばかばかしい。女、だまされるなよ?本当にやりたくなければ、ディアンガの意思で断ればいい。なのに、ディアンガはお前の口で断らせた。自分の意思は言わない卑怯者だ。」

「別に構いませんし、卑怯だとも思いません。」

「ふーん。ま、どうでもいいか。それにしても、面白いものを見せてもらったよディアンガ。」

「フィアル、もうここへは来るな。」

 ディアンガさんは話を切り上げるようだ。

「うーん、そうだね。今日で終わりそうだから、別にいいよ。」

 そう言ったフィアルさんが光り、何も見えなくなった。

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