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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
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64.来訪

「君が聖女か!」

 そう言って親しげに笑う黄龍フィアルさん。

 浅黒い肌にけぶるような豊かな金髪。そして、おなじみの金色の瞳。

 二十代にしか見えないベイダルさんとグレンドさん。ディアンガさんは三十代半ばといったところ。そして、目の前のフィアルさんは四十代後半といった面持ちだ。

 ただ、皆どれも仮の姿。王弟というからには、国民に成長過程を見せなくてはいけない。きっと赤子のふりだってやってのけたのだろう。

 いや、もしかしたら、成長したそれにとって代わっているかもしれない。


 そう思わせるだけの不気味さがあった。


 だって、本当に人懐こく、まるで聖女に会えて感激しているといった風にしか見えないのだ。

「こんなに若い娘さんだとは思わなかった!なんてかわいらしい!ぜひ我が国にも来てもらいたいものだ。」

 そうニコニコと言う裏で、美女たちに人体実験をし、聖女を食べたことがあるというのだから怖い。それが本当なのか疑えるほどに自然に笑うのだ。


「あ、ありがとうございます。」

 私も何も知らない少女のふりをしているが、彼ほどにうまく演技できるとは思えない。 

 ベイダルさんにフィアルさんと会うと話したのだが、知らぬふりをしろと言われてしまった。その通りにしているものの、表情がこわばってしまう。あ、背中で汗が垂れた。


「急にすまないね。本当はすぐにでも来たかったんだけど、色々とあってね。」

「いえ。お会いできて光栄です。庶民なので失礼があるかと思いますが、どうかご容赦ください。」

「あはは。何を言っているんだい。君は王族なんかよりも大切な身だ。気を使う必要もないだろう?」

 この人はそう思う側の人だ。でも、人じゃなくドラゴン。私は王族なんてどうでもいいが、ドラゴンは敵に回したくない。

 あーもうやだ。ベイダルさんたちは気兼ねなく話せるけど、フィアルさんは不気味さが先立ってしまう。やっぱり事前情報があるので、どうしてもそっちに引っ張られてしまう。


「それで、魔王はどんな感じだい?」

 部屋には私とフィアルさんとオスカラートの騎士団長がいる。王弟ゴーディアとして来たのに、フィアルさんは一人だった。ベリンダールの第二王子と一緒で、フットワークが軽いキャラなのだろう。というか、飛んできたのかもしれない。それだったら一人の方が圧倒的に速いだろう。

 私はちらりと騎士団長を見たが、微動だにしていない。そして、フィアルさんも気にしているようではない。

「まだ出現していません。しかし、いつ現れるかなどは申し訳ありませんがわからないのです。」

「そうか。」

 そう言うと、少し考えるそぶりを見せる。そしてまた口を開いた。


「君は、魔王と戦いたいかい?」

「え?」


 予想外の質問でびっくりした。何を聞かれるかと考えていたが、これはさすがに予想していなかった。だって、それは当たり前だと思っていたから。

「それが私の使命ですから。」

「それって誰に決められてるの?」

「精霊王にです。」

「そうか。じゃぁ、その精霊王を裏切らない?だって、君みたいなかわいい女の子が戦いたくなんてないでしょ?」

 そう言い終わらないうちに、光の精霊王セラが私の横に現れた。


「フィアル。」

「あー、そうやってばらすのやだなー。」

 セラに名前を呼ばれ、やってらんないといった風に椅子にもたれかかるフィアルさん。顔つきも変わって笑みが消えた。

 そして、そのタイミングで、騎士団長がビクリとはね、今はうつろな表情で立っている。

 グレンドさんがビレートさんに術をかけたように、騎士団長もフィアルさんの術にかかっているのだろう。

 もちろんセラは騎士団長には見えていないから、本当の名前は聞いていない。


「でも、そうか。聖女に隠したところで、お前たちにばれるしばらされるのか。」

 そう言ってニヤリと笑うその顔をみるに、やはりさっきは演技だったのだ。怖い怖い。

「この子は魔王と戦う大事な子。あなたに遊ばれるわけにはいきません。」

 遊ばれるって言い方が怖い。セラも過去のことをわかっているからこそのチョイスなのだろう。

「お前たちに止められるとでも?」

「……。」

 待って?黙らないで?やはりドラゴンの方が強いのだろう。これは困った。


「あの、私にもわかるように話していただけませんか?」

 ここは私も開き直ることにした。とにかく何をしに来たのか聞き出そう。何かあったらベイダルさんとこに飛んで助けを請う作戦だ。

「改めまして、ドラゴンのフィアルだよ。ドラゴンってわかる?」

「はい。」

「今の会話を聞いて分かったと思うけど、私は君をここへ呼んだ精霊王たちより強いわけ。だから、代わりに戦ってあげるよ。」

「え?で、でも……。」

 ドラゴンは魔王容認派なんじゃないの?

「確実に殺せるんだし、お前たちだってそれでよくない?」

 フィアルさんがセラに言う。セラはそれに対して返事をしない。


「それって、何か条件があるんですよね?」

 セラが何も言わないので私が聞く。

「んー。ふふ。そうだね。ばれちゃってるか。」

 やはり、うまい話には裏があるのだ。

「どうせ君はさ、命なんて惜しくないでしょ?」

 言いたいことは理解できるけど、飛躍しすぎなんだよなぁ。

「魔王と戦うのも命懸けだからですか?」

「そうそう。」

「命を落とさないようにするつもりなのですが?私は生きていたいですよ。」

「えぇ?だって、君が戦うよりも私が戦った方がいいでしょ?君自身じゃなくて、他から見てさ。」

 ドラゴンなら魔王は瞬殺かもしれない。そうなれば、被害も出ずに確実に勝てる。他人から見れば、絶対に好条件だ。


「あなたは絶対に戦ってくれるのですか?」

「約束する。」

「絶対に勝ってくれるのですか?」

「約束する。」

「人間にも精霊にも被害を出さないでくれますか?」

「約束する。」

 私はため息をついた。これは困った。私から見ても好条件だ。これはまずい。


「……条件は何ですか?」

「君を好きにさせてほしい。」

 これは結婚なんかの意味ではないだろう。拷問とか実験とかそういう系だ。

「それって、死んだほうがましだったりしますよね?」

「そうかもしれないね。」

 初めに会った時のような、満面の笑み。心から楽しそうにしている。さっきとは違い、演技じゃないやつだ。


 私は目を閉じた。

 すると、色んな人の顔が浮かぶ。純粋に助けたい人々だ。

 目を開け、セラを見た。セラはまっすぐにフィアルさんを見ている。精霊王たちの答えはそういうことなのだろう。そして、彼らに恐怖とかそういう感情を抑えられている自分もまた、自分の死には鈍感なのだ。


 だって、いつでも自分がいなくなった後の事を考えてきた。私がいなくても、ちゃんと世界は周っていくのだ。

 そうなるようにしてきた。


「私からも条件があります。」

「ん?」

「先ほどのに加え、あなたが倒したのを確認してからならいいですよ。」

「はは!素晴らしい!じゃぁ、それで契約成立だね!」

「えぇ。あなたよりも先に倒せばいいだけですし。」

「あー。そういう……ね。でも、それでいいよ。競争だね。」

 そう言って、フィアルさんはニヤリと笑った。

 視界の隅で、セラがちらりとこちらを見て、そして消えた。

 さっさとベイダルさんとディアの家を作ってもらった方がいいだろう。用は済んだと力を貸してくれなくなるかもしれない。

 騎士団長を見ると、普通の表情で立っている。他愛もない会話をしたと暗示にかかってるのだろうなと思い、そっとため息をついた。



「お嬢ちゃんはこれでいいのか?」

 ギルドマスターが魔道具を置いてそうつぶやいた。

 この魔道具、ボイスレコーダーの機能がある。これがおじーちゃん先生が発明したもので、前に聞いた出世するきっかけになった魔道具だという。

 完成品は城にある。これはプロトタイプで、仲が良かったためにギルマスが譲り受けたのだという。

 フィアルさんが来ることを話したら、これで会話を録音してほしいと言われていたのだ。

 内容が内容だけに、私一人で来た。


「マスターはなぜ今までずっと聖女が勝ち続けていたか知っていますか?」

「……理由があるのか?」

「えぇ。聖女の最大の攻撃が、魔王との対消滅だからです。」

「ついしょうめつ?」

「自分の命と引き換えに、魔王を倒すんです。聖女は自分ができることが大体理解できています。教わったわけではありません、初めから刻まれているんです。

 だから、知ってるんです。どうしようもなくなった時、自分がその術を最後に使うことになるって。」

 戦うことに抵抗を持たないのももちろんだが、きっとこれのために、恐怖を鈍らされているのだ。


 この術は周辺の精霊も巻き込む。精霊たちの力を取り込んで、物量で押す技だ。だから、精霊王としても最後の手段にしてほしいだろう。実際に使った聖女がいるかは知らない。

「自己犠牲への恐怖が極端に少ないんです。それで皆が助かるならそれでいいと思ってしまう。」

 だからこそ勇者ではなく”聖女”なのだろう。勇ましさはいらない、慈悲の心で全てを救うのだ。


「大丈夫ですよ。先に倒せばいいだけですから。」

「そうか。お嬢ちゃんに全てを背負わせることになるな。本当にすまない。」

「それが仕事なんですから。ただ、このことは残った皆には言わないでください。ドラゴンがそれで気が済むならいいですし、下手につついて面倒になるといけないんで。」

「……わかった。」

 表情を消したギルマスの瞳の奥には哀れみがにじむ。どうやら、無表情はシュレインさんの方が上手なようだ。

 そう思ったが、今の彼でもそうだろうか?と考え直した。

 やはり、聞かせるわけにはいかないだろう。私は小さくため息をついたのだった。

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