63.急な知らせ
ビレートさんのお見舞い(?)が終わり、私たちはまたもギルドにやってきていた。帰りにまた寄って欲しいと言われていたのだ。
「ビレートはどうだった?」
「なんていうか、やつれてはいましたけど、元気そうでした。」
「あの二人の事は話したのか?」
「さすがに言えませんでした。というか、言ったらドラゴンたちに殺されると思いますよ。なんていうか、気色悪いものを見る目で見てましたから。」
と言ってふと思った。あの目線は、魔族だったからだったりしないだろうか?ドラゴンともなれば、それを一目で見分ける可能性もある。
……いや、ないな。会話の流れで人間と言っていたし、魔族の話も出たがその時にビレートさんが魔族だって言わないのはおかしい。
私も別に変った印象を持っていなかったし、言われてから注視しても、人間と違いが判らなかった。魔法を使っているところを見ないと難しいのだ。
まぁ、どちらにせよ言わないに越したことはないだろう。
「そうか。こちらも漏らさないようにしよう。さて、そのドラゴンなんだが……聖女として、戦ったら勝てるか?」
急に真剣な目で見てくるのやめてほしい。内容もえぐい。
「無理だと思います。私、ベイダルさんを本気で殴ったことがあるんです。」
「殴っ……。」
ギルマスがぎょっとする。
「魔法じゃなくて殴ったんです。魔法に長けてる私がですよ?
私無意識でした。でも、魔法で攻撃したら、殺されるってわかってたんだと思います。
殴れたのはベイダルさんが油断していたからです。でも、魔法だったら多分やり返されてました。私だって無意識にやり返せますし。
それに、ベイダルさんは守護魔法を貫通させないように手加減してくれてました。本気を出したら地図を書き換えることになるでしょうし。」
まぁ、精霊王がこの星壊しても大丈夫って言っただけに、考える必要はない。絶対に勝てないだろう。
「そうか……。」
「なんです?ドラゴン退治のクエストをこなさないといけなくなりましたか?」
ギルドの最古の依頼はドラゴン退治だ。
「そうじゃない。あの二人に帝国へ行ってもらっただろう?その報告を聞くに、フィアルが何をしてくるかわからないと思っている。
彼らに、フィアルが暴走して魔王を作ったり、自らが魔王になった場合、戦ってくれるかと聞いたのだが、あっさり断られた。」
「どうでしょうね。うまく言いくるめれば戦ってくれそうですけどね。」
ベイダルさんを説き伏せれば、グレンドさんもついてくるし、そもそもグレンドさんはフィアルさんの事嫌ってそうだったしなぁ。
「彼らは仲間なのだろう?」
「うーん……。正直、彼らの交友感覚って人間には推し量れない気がします。」
お菓子をあげたら友好度上がりそうなチョロさを持ってる気がするが、精霊王にはかなり塩対応だった。やらないと決めたことはやらないのじゃないかと思う。
そういう意味では、断ったのなら絶対やらなさそうだと思う。けれど、やっぱりチョロイところを多く見てるので、軽くいいよって言いそうな気もするのだ。
「まぁ、聞きたいことはそれだけだ。寄ってもらってすまなかったな。これはドラゴンにでもあげてくれ。」
ギルマスはそう言って、お菓子を包んでくれた。が、最近は帰ってきてないのだ。
「あ、すみません。ありがたいですけど、今は別のドラゴンさんのとこにいるんです。なので、食べきれないので。」
ベイダルさんがいないと、お菓子代がほぼゼロになるのであった。家計にやさしい。
「そ、そうか。じゃぁ、一つずつ持っていきなさい。」
そう言って、一個ずつくれた。それはありがたくいただいて、私たちは帰路についた。
家につき、もらったお菓子と一緒にお茶をすることにした。
お茶を入れてテーブルに置くと、シュレインさんはお礼を言ってくれる。
思えば、ここへ来てから一年がたった。常に何かしらに追われて行動していたように感じる。
そして、堅物の騎士は、こうやって私がお茶を入れることに抵抗しなくなり、常に一緒にいることもなくなった。
短いと感じつつも、変化はかなりあったともいえる。
なんでこんなことしているんだろうと考えてしまうとむなしくなるので止めておくが、もう少しのんびりさせてほしい。
「これからすぐに田植えでしょ?その次はアマンダさんの結婚式かな?今年も忙しくなりそうだねぇ。」
日本式で学年が上がるのは春。もう五月なので、王子たちは二年に進級しただろう。
「エスカルパ嬢の結婚式は、そんなにすぐじゃないでしょう。」
「え?」
私のつぶやきに、シュレインさんから意外な返事が来た。
「王族の婚約期間は数年あると思いますが?」
「そうなの?」
「少なくとも我が国はそうですし、ベリンダールの第一王子も婚約者の発表があったのは二年ほど前だったと思いますよ。」
そう言われると、王妃教育やらなんやらもあるだろうし、金髪ドリルちゃんも婚約者として学園で三年過ごすんだろう。
となると、もしかしたら第二王子との約束を破ってしまうことになるかもしれない。死んだら約束を守ることもできないから。
そこまで考えて、ちょっとおかしくなってしまった。
こちらへ来た時、親しい人を作るつもりはなかった。なのに、色んな人とつながってしまった。
「刺繍がしたいな。」
「材料を買いに行きましょうか。」
「さっき帰ってきたばかりなのにごめんね。」
「運動不足なので。」
無表情に見えていたその顔も、少し口角が上がっているように見える。
今度は誰に渡そうか。
ディアやディードはもちろんだし、おじーちゃん先生や刺繍の先生にも渡したい。美代さんやギルドの人たち。ドラゴンたちには私の守護なんていらないだろうけれど、それでも渡そう。
皆といつまで一緒にいられるかなんてわからないのだ。悔いが残らないようにしたい。
そんなこんなで数日刺繍をしていたら、眉間に盛大なしわを寄せたシュレインさんが城から帰ってきた。
「おかえり。どしたのそんな渋い顔して。」
お茶を入れようかと立とうとした私を制し、シュレインさんは跪き頭を下げた。
「大変申し訳ありませんが、明日城へ来ていただきたいのです。」
シュレインさんの態度で、それが不可避なのはわかる。
「何かあるの?」
「ジュディアル帝国から知らせが来ました。明日、聖女に会いに行くと。」
「は?」
「来る方は、王弟のゴーディア殿下です。」
「ちょっと待って、なんとなく聞いたことある響きだわ。誰だっけ?」
「先日話していたベイダル殿たちが会いに行ったドラゴンではないかと。」
「あ。」
そう、確かにそれだ。
「え、ちょっと待って?明日って明日?」
「はい。先ほどその知らせが来て、城も騒然となっております。急な知らせですが、正式な書面で来ているため、対応せねばなりません。聖女の出現は各国に知らせてありますので、これを受けないと聖女を囲い込んでいると思われてしまうでしょう。
そうすれば、帝国だけではなく、各国を敵に回しかねません。これだけはどうしても出ていただきたいのです。」
そういって、跪いたまま深々と頭を下げるシュレインさん。まぁ、そりゃそうだろう。
「出るから立って立って。それよりも、一応ギルドにも行った方がよくない?なんか警戒してたし。」
「そうですね。では、城へ報告した後によってきます。」
「んー?だったら私が行くわ。刺繍も渡したいし。」
「わかりました。では、そちらはお任せします。」
「はーい。」
そうして、シュレインさんはあわただしく出て行った。
にしても、フィアルさんたら王弟ってことになってるのか。宰相あたりに座ってるかと思ったので、ちょっと意外。
これは一応ベイダルさんたちにも言わないとまずいだろう。でも、城に彼らを入れるのは難しい。それに、彼らがフィアルさんに私の事をどう言っているかもわからない。
まぁ、なるようにしかならない。願わくば、魔王と対峙する前に死なずにいたい。
私はため息をついて、転移したのだった。
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