62.忘れた頃の尻拭い
時間かかってすみませんでした。
「なんだか寂しくなっちゃったね。」
シュレインさんと二人で昼食をとりながら、私はそうつぶやいた。
アマンダさんは忙しそうで家に帰ったままだし、龍兄弟もあれから帰ってきていない。
ディアも単身第二王子と何か話に行った後は、トウワに行ったままだ。
そんなわけで、ここのところシュレインさんと二人なのである。
面倒くさいお国柄なので、シュレインさんも実家に帰ろうとしていたが、急に一人は寂しいので残ってもらっている。
「ドタバタしていますしね。城の部屋ならすぐに移れますよ。」
「ヤダ。畑の世話が必要だもん。」
私の癒しは畑いじりだけだ。
「今日の午後は、出かけましょう。ギルドから来てほしいと連絡がありました。」
「また急な依頼かな?」
「細かいことは聞いていません。」
「そっか。」
まぁ、ちょうどいい暇つぶし兼お金稼ぎになるだろう。
そう思ったが、当ては外れるのだった。
ギルドの応接室では、ギルマスとサブマスが難しい顔をしている。
「どうしました?」
「申し訳ないが、ビレートに会ってやってほしいんだ。どうしてもお前たちと話をしたいと言ってきかなくて。」
そう言われて、すっかり忘れていた龍兄弟の業を思い出した。頭が痛い。
「そりゃそうでしょうね。当然の権利だと思うので会いに行きます。」
「すまないな。一応、前情報として渡しておきたいのだが、ビレートはほとんどのことを覚えていなかった。
こちらから言ったことといえば、サブマスがふらついているところを保護して連れて帰ってきたことだけだ。嘘は言っていないが、ドラゴンたちが一緒にいたことなどは言っていないから知らないと思う。」
「わかりました。」
気が重いが、指定された建物に移動した。
ギルドから少し離れて奥まったところに、ギルドがやっている治療院があった。ビレートさんはここにいるようだ。
「すみませんこんにちは。ギルマスに言われてきました。メリルです。」
「……入って。」
私がおずおずと扉をノックすると、一拍開けてから返事が来た。声が低音なのが怖い。
中に入ると、簡素な部屋にベッドが置いてある。そして、そのベッドには少々やつれ気味のビレートさんがいた。
「あら?今日は別の男を連れてるの?」
言い方!
「いや、あの、この人がダクテオンを一緒に倒した人で、先日の人たちは一時的に一緒に行動してただけで。」
「色んな男を入れ替えてるわけね。」
言い方!!悪意があるでしょホント!
「初めまして、シュレインと申します。今回はどのような用件で?」
自己紹介するシュレインさんはいつも通りの無表情だが、なんとなく冷ややかな声色である。
「文句を言いたかったのよ。あいつらのせいでえらい目にあったわ。フィアル様にも会えないで終わったし。」
ビレートさんはそう言って苦々しい顔をしてこちらを睨む。しかし、ふっと表情が消えた。
「というか、あいつらは何?」
「えっ、何といわれても……。」
どういうことだ?ドラゴンだとばれたわけではないと思う、それなら連れて来いってうるさいはずだ。
そう思う私の困惑顔を見て、ビレートさんの眉間にしわが寄る。
「こういっちゃなんだけど、私はこの世界でもかなり強い方よ。操られることなんてありえない。なのにあんな一瞬で……。人間のはずがないの。」
そういう理由?
「いや、そう言われても。本当に何も知らないです。確かに強い人たちでしたけど、共闘したことはほとんどないんです。成り行きで一緒に行動してただけなんで。」
後半は嘘ではない。というか、深窟のカエル以外は戦ってるところを見たことない。あ、シュレインさんに火吐いてるのは見たな。
「本当に知らないの?」
いぶかしげにこちらを探るビレートさん。あまり見つめないでほしい。
さすがにドラゴンだとは言えない。言ったらグレンドさんの本気の怒りを買うのが目に見えている。ヤダヤダ死にたくない!
「はい。むしろ、人間じゃないってどうしてですか?普通に人間にしか見えないですけど。」
私の問いに、ビレートさんは深いため息をついた。シュレインさんのくそでかため息よりもでかかったので驚く。そういえばあれを最近は聞いてない。
「あんたたち、Bランクだっけ?ってことは、身元がはっきりしてるのよね?」
「はぁ。一応。」
「だったらいいわ。あのね、私、祖母が魔族なの。」
「へ?」
「だから、人間じゃ私に暗示をかけるなんてことできないのよ。」
えええー?!人間型の魔族もいるとは聞いていたけど、こんなところにいたのか。
そして、そういわれたらなんとなく納得できる。二十代そこそこの容姿なのにAランクの強さ。そしてこの美貌。魔族といわれた方が腑に落ちる。
「で、あなたは何?」
「え?」
「とぼけないで。その若さでそのランクでしょ?一見して強そうにも見えないし、あなたも魔族なの?」
「えええ?正真正銘の人間です。ちゃんと両親そろってますよ!」
「ふーん……。そっか、あなたが聖女なのね。」
当てるのやめて。しかし、バレるのは仕方ないか。
「まぁ、そうも呼ばれてます。」
「だったらなおさらあいつらは何なの?言いなさいよ。」
「いやいやいや、本当に知らないんですって。魔族だったのかもしれませんけど、別に怪しいなんて思ってませんでした。ビレートさんのことだって魔族の血が入ってるだなんて見当もつかなかったですし、そんなもんでしょ?」
私はすっとぼけて、シュレインさんの方を見るが、シュレインさんは小首をかしげただけだった。あ、こいつ一緒にいなかったからって知らないって言い張るつもりだな?!
「まぁいいわ。じゃぁ、今あいつらがどこにいるか知らない?」
「あー、それなら、トウワっていう東の国に行くって言ってましたよ。」
これはばらしてもいいだろう。本当の事な上に、ここから直接行くルートはアマンダさんちの商船以外にないらしい。行けまい?
「はぁ?!どこよそれ!ぶちのめしてやろうと思ったのに!」
いや、やめといてください本当に。なんちゅー血の気の多さだ。こんなに美人なのに残念過ぎるでしょう。
「でもそう。あなたが聖女なら納得したわ。あなたからしたら、私もあいつらも弱い人間と変わらないわね。」
「いや、別に常に魔力の流れとかに注視してるわけじゃないですし、そもそも強ければ強いほど隠すのもうまいじゃないですか。それをいちいち見破ろうだなんて思ってないですよ。」
「そこがよ。あなたは他人に対して脅威を感じないから無頓着でいれるってだけ。弱い人間ほど、相手の強弱を計るのに必死なのよ。」
そう言われるとそう思える。
「うーん、そう言われちゃうと何とも言えないですけど。っていうか、なんで私がそんなに強いって思うんです?」
聖女は魔法が得意で精霊に愛されるくらいしか、一般的な情報はないはずだ。しかも聖女というワードなので、強いってイメージに結びつかないのだ。王宮騎士だってなめてかかってきたのだし、そんなもんだと思うのだが。
「小さな頃、祖母と一緒に暮らしていたからね。聖女の話だって聞いてるわ。
あ、ねぇ、正直に話してほしいんだけど、グレンド様と戦ったりしてないわよね?」
えええ?魔族って聖女の役割知ってるの?それともビレートさんのおばーちゃんが特別?っていうか、最後の方の声の圧力ったらない。
「さすがにそんなことしてませんよ。私だって無謀なことしません。」
「だったらいいけど。」
ベイダルさんなら殴ったとか言えない。
「まぁいいわ。私はね、寿命が人間よりは長いの。だから、あいつらは探し出してぶちのめすし、グレンド様の帰りも待つわ。」
そういうと、ビレートさんは布団にもぐりこんだ。なので、私たちはお暇することにしたのだった。
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