59.ドラゴンたちの帰還
私とシュレインさんは、ギルドマスターと対面していた。
ギルマスの顔は険しく、状況が芳しくないのを物語っている。
「二人は無事だし、連絡も定期で来ているんだが、内容がな……。」
そう言うと、ギルマスは眉間をほぐした。シュレインさんの癖は、ギルマスから移ったのかもしれない。
「内容とは?」
「お嬢ちゃんを連れて行かなかったのは当たりだったと思う。どうやら、フィアルというドラゴンは、魔王を作ろうとしているようだ。」
「「は?」」
私とシュレインさんは、間抜けな声をあげた。いや、だって、魔王って作れるものなの??
「俺はてっきり周辺諸国に攻め入ろうとしているのだろうと思っていたが、予想をはるかに超えてきた。
聖女の出現は帝国も知っているから、それに合わせて作ろうとしているのか、それとも魔王ができつつあって聖女が出現したのか。」
そう言って、ギルマスが私を見る。いや、見られても困る。
「私はそれがどうだかわかりませんし、魔王が出現した時はすぐにわかると精霊王には言われています。なので、今のところ出現したということはないと思います。」
「索敵してみては?」
シュレインさんの言葉に、私は首を振った。
「魔王がどういうものかわからないからピンポイントで索敵はできないの。でも、今の話を聞いて、精霊王が調べてるみたいだから待って。」
世界のどこにでも精霊は居る。自分の属性の精霊の近くに移動することも出来るし、目を通して情報を得ることもできるそうだ。なので、結果はすぐに出た。
「今のところ魔王は居ないって。」
「そうか。」
私の答えを聞いても、ギルマスの表情は硬いままだ。
「そもそも魔王って作れるものなんですか?」
疑問をぶつけてみるが、答えはわかりきっている。
「それはわからないし、同じように問うたが返事はなかった。作れるとしたら、その術を伝えるようなものだろうし、答えないだろう。それが答えなのかもしれないが。」
真相は闇の中……いや、ドラゴンの中だ。
「連絡はちゃんと来ているのですよね?他には何か言ってなかったのですか?」
シュレインさんが聞く。
「連絡は来るし、同行しているのがうちのサブマスターだから信頼もできるのだが、内容が継続して調査していますのみなんだ。
あいつも伝えるのが難しいと思っているのかもしれないし、そもそもドラゴンたちだけで行動していてわからないのかしれない。ただ、元気に飯は食べているそうだ。」
全体的にベイダルさんらしい報告である。苦笑するしかない。サブマスターもあの二人に挟まれたら大変だろう。
「私たちも行った方がいいですかね?」
これも答えはわかりきっている。
「止めておきなさい。初めにも言ったが、ベイダル殿の判断は正しかった。しかし、こうなると予測していたのだろうか?」
何か知らないか?と言外に聞こえるので、首を振った。
「状況を一番知っていたのはグレンドさんの方です。私たちが聞いた以上に話していたのかもしれませんけど、それもなさそうな気がするんですよね。本当に野生の勘なのかもしれません。」
グレンドさんはあまり話したくなさそうだったし、それを突っ込んで聞くようなベイダルさんでもない。
「そうか。報告してもらえるのを待つしかなさそうだな。」
「わかりました。何か私たちも知っておかなくてはいけないようなことが起きたら教えてください。」
私たちはそう言って帰った。
そして更に一か月後、ドラゴンたちが帰ってきたのだった。
「うっへ、こっち寒いな。」
王都の方の家から入ってきた時の第一声がこれだったので、あきれるしかない。
「そんなこと言って、ベリンダールの方が寒いでしょ?」
私も返しがこれだったので、人の事は言えないかもしれない。
「グレンドと同じだよ。あっちにも火山があるからな。まぁ、噴火はしないが地表近くまでマグマが来てるとこがあって、そこはあったけーんだ。」
「それで、お仕事どうだったの?」
「知りたかったことはわかったわ。フィアルも元気そうだったし、飯もうまかった。」
まったく核心に触れない。
「何よー魔王を作ろうとしてたって聞いたわよ。」
「あ、それ聞いちゃったの?うーん、まぁ、そんなことしてたわ。あいつ前から変な奴だったしな。」
そう言って、グレンドさんの方を見る。最後のとこに同意を求めていたのだろう。無表情のグレンドさんもこくりと頷いた。
「だから会わせたくなかったんだ。」
何だろう、この二人に言われるって相当なのかもしれないし、ドラゴン基準なので人間的には普通だったりするのかもしれないが。
「詳しく教えてよ。っていうか、ギルドにはちゃんと行ったの?」
「寄ってきて話したよ。」
そう言って、ベイダルさんはため息をついた。
「暇すぎて、人間で遊ぶことを考え付いたらしい。世界統一をしようかとしたが、簡単にできそうだから少し手段を変えてみることにしたんだと。それが魔王を作ってみるだったみたいだな。」
わかってはいたが、気が遠くなる。変とかそういうレベルじゃないけど?
「能力のある人間を探して、ゲボ石を与えてたんだって。気持ち悪いこと考えるよなー。」
いやいやいや、気にするとこそこじゃない。
「で、魔王はできそうなの?」
「無理そうだな。」
そう聞いて、私とシュレインさんはほっと息を吐いた。ちなみに今はアマンダさんとディアは居ない。
「全然できそうにないってことでいいんだよね?」
「そうだな。ただ、何人かは殺してきた。」
「は?どういうこと?!」
いきなり物騒になったので、私は身を乗り出した。
「あいつは自分に心酔してる能力の高いやつにゲボ石を食べさせたんだ。それで、魔力が暴走して魔物みたいになってるのが何人かいた。
それを処分してきたわけ。だってさ、あいつ、俺のゲボ石食わせてたんだぜ?!信じらんねーよ!」
「え?ベイダルさんの?」
「そうそう。」
意味が分からないでいると、シュレインさんが補填してくれる。
「ベリンダールが帝国に売ったものではないですか?」
「あぁ!」
しかし、そうなるとあの欠片一つを食べたら魔物化するってことだ。
「待って?じゃぁ、フィアルさんのクレアライトももちろんあるんだよね?なん百人もそうできちゃうんじゃないの?」
私の問いに、ベイダルさんは首を振った。
「普通の人間に与えても死ぬだけみたいだ。」
まぁ、ゲーベリオンの不死迷宮を作るほどの魔力だ。そりゃそうだろう。ということは、これまでかなりの数の人間が犠牲になっているのだろう。私は顔をしかめた。
「粉にして少しずつ接種したらどうですか?少しずつならせば自分の魔力として使えるようになるのでは?」
シュレインさんが恐ろしいことを言う。しかし、それにもベイダルさんは首を振った。
「あいつがどこまでやったかは知らないが、とりあえず成功しなかったのは間違いない。
まぁ、お前くらいになれば行けるかもしれないけどな。」
ベイダルさんがこちらを見たので、私は一層嫌な顔になる。
「そんなんいらない。」
「だろ?つれてかなくてよかったわ。」
「それ、予想してたの?」
私はギルマスの疑問をぶつけてみた。
「いや?さすがにそんなことしてるとは思ってなかったよ。でも、あまり気が進まなかったんだよね。」
「兄さん、はっきり言ってやればいい。フィアルは聖女を食べたことがある。」
グレンドさんがボソリとつぶやいた内容が酷過ぎて、ゾワリとした。
「ど、どういうこと?!なんでそんなことしたの?」
「フィアルは精霊王の力を取り込めないかと、聖女を食べたのだと。」
グレンドさんの淡々とした口調で言われると、サイコみが増すから怖い。
でも、考えることは基本変わらなさそうだ。聖女を食べて力を得る。クレアライトを食べさせて力を得させようとする。獣的な発想だなと思う。
「下手すると、私も食べられるかもしれないってことね。それで連れて行きたがらなかったのか。護ってくれてありがとう。」
私も食べられたくないので、素直に感謝した。
「もう食ったりしないと思うけどな。でも、解剖くらいはするかもしれないとは思った。」
どっちも嫌だ。
「その時は魔王を倒した時に襲っていたから、お前も気を付けるがいい。」
「はい。」
グレンドさんが忠告してくれる。気を付けておかなくてはいけない。でも、いなせるだけの力が残ってるかが分からないからなぁ。
「あ!ビレートさんは?」
「俺たちが行った時にはまだたどり着いてなかった。途中で来たから、拾ってギルドに置いてきた。」
ベイダルさんたちは転移で出かけてるので、抜かしてしまったようだ。
それにしても、ちゃんと連れて帰ってくれていてホッとした。さすがに人体実験するようなところに置いて来てたら私が迎えに行かないといけない。
そこで気が抜けてしまい、大事なことに気が付いていなかった。ベイダルさんはすでに気が付いていて隠していたのだろう。このドラゴンをアホだと思っていた自分を殴り飛ばしたくなるとは、この時の私は思いもしなかったのだ。
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