58.ギルドからの依頼
「シュレイン、今年は出場しなかったんだな。楽しみにしてたんだぞ。」
ビレートさんのことを報告しに来たら、シュレインさんはギルマスに小突かれた。
「すみません。もう少し強くならないと順位をあげれそうになくて。」
「そうか?前会った時と顔つきが変わったから期待できそうだがな。」
確かに前よりも柔和になった気はするが、それって逆に弱くなってそうなイメージだけどな?
「それで、ビレートだが……。」
ギルマスはそう言うと、黙々とお菓子を食べるベイダルさんと、隣でお茶を飲むグレンドさんを見た。
グレンドさんのことは来た時にすぐに言った。顔がそっくりだからごまかしようもないし。
ギルマスはそれを聞いて数拍止まったが、何も言わずに気を取り直した。さすが人の上に立つ者と思っておきたい。決して考えるのを止めたわけではないはずだ。
「ジュディアルに行かせた。あそこにはフィアルがいる。」
簡潔に説明してくれるグレンドさん。
「そんな簡単に会えるものなのですか?」
「あの女なら大丈夫だろう。似たような者が周りにゴロゴロいた。」
フィアルさんというドラゴンは、女好きのようだ。ビレートさんどえらい美人だったからね。
「似たような……それは、容姿ですか?それとも、能力ですか?」
そう聞くギルマスの目が険しい。
「どっちもだ。人間の能力は細かくわからないが、似たような雰囲気だからな。」
「……そうですか。ありがとうございます。」
厳しい表情のギルマスだが、確かにそうだろう。ビレートさんはとても強いはずだ。となれば、強い美女がたくさんフィアルさんのとこに集まっているということになる。それを危惧しているのかもしれない。
「あまりいい事ではなさそうなんですか?」
考える様子のギルマスにそう尋ねると、少し困ったような顔になる。
「これといって何かとは言えないのだが、帝国の成り立ちを考えると、あまり好ましいとは思えないだけだ。」
「成り立ち?」
勉強などしていないので、帝国のことなんて全く分からない。
「あそこは砂漠地帯で、肥沃な土地ではない。それがあって、以前は小国が点在している場所だったんだ。しかし、二百年前ほどに一つの国が全てを制圧した。
それどころか、隣国であった大国も攻め落とし、その土地に移り住んで帝国になったんだ。あそこはそいういう血気盛んな国だからな。」
確かにそれは警戒もしなくてはいけないだろう。まぁ、オスカラートはベリンダール以外とは隣接していないので影響はないだろうが、冒険者ギルドは世界中に広がっているようなので、色々と思うところがあるのだろう。他国のことも考えないといけないのは大変そうだ。
「フィアル殿は人として暮らしているのですか?」
「そうだ。帝国を動かしてるのはフィアルだ。」
「統一時もですか?」
「あぁ。あれもフィアルがやった。」
「……わかりました。とても貴重な情報をありがとうございます。謝礼をお支払いいたしますので、少々お待ちいただけますか?」
ギルマスがそう言うので、私とシュレインさんは顔を見合わせた。確かに嘘なんてないだろうが、謝礼が出るまでとは思わなかった。それだけ重大な事なのだろう。
「わかった。」
そんなことを知ってか知らずかグレンドさんは鷹揚に頷き、ベイダルさんは最後のお菓子を食べきっていた。顔が似ていなければ、兄弟だとは信じられない。
少ししてから袋と追加のお菓子を持ってギルマスが帰ってきた。
袋から取り出された謝礼が結構な額だったので、更にびっくりしてしまった。
「ビレートやフィアル殿の周りにいる女性よりも、聖女殿の方が強いと思われますか?」
ギルマスの問いに、グレンドさんは頷いた。
「聖女はあれらよりも強い。」
「そうですか。なら、お嬢ちゃんとシュレイン二人に依頼をしたい。帝国の動向を探るために、帝国に行ってくれないか?
もちろん他にも向かわせるが、お前たちの目で見てきてほしい。」
「それはダメだ。」
急なギルマスの提案にびっくりして口を開くより、追加のお菓子を頬張っていたベイダルさんが断ったので、またびっくりする。
「こいつらは行かせない。その代わり俺たちが行ってくるわ。」
「え?」
もうこれ以上ない位びっくりさせないでほしい。
「兄さん?」
グレンドさんも嫌そうな顔になる。
「お前は俺に行かせたくないみたいだけど、ちょっと確認したいことがあるんだよね。だから、ちょっとだけ見に行こうぜ。お前も来てくれるだろ?」
「……そういうのなら。」
その話に、ギルマスが困惑してこちらを見てくる。
「あー、一応ベイダルさんも冒険者カード持ってるので。」
その言葉にギルマスは眉をハの字にした。そういえば、冒険者カードを取得してる場面は見ていなかった。
まさか、冒険者の末席に、神話時代のドラゴンがいるとは知らなかったのだろう。
いや、そりゃそうだよな。一番古いだろうクエストの内容を思うと、自分を倒そうとする集団の中に入ってくるなんてアホはこの子くらいだろう。ベイダルさんの寛大さがなせる業である。(棒読み)
「そ、それなら、お二人には特別なカードをお渡しします。現地でのガイドもお付けしますので、細かいことはその時に。」
「そんなのいらない。見てきたことはちゃんと言うから安心していいよ。」
「いえ、食事などもお金がかかりますから、それを出しますので。」
「じゃぁ、出してもらおっかな。」
おい、食い物につられるな。
まぁ、謝礼も払ってくれるとのことなので、ドラゴンのことはドラゴンに任せることにした。
これで何かあっても、私たちのせいにならないからいいだろう。きっと多分。
準備があるとのことで、潜入は一週間先になった。帰り道すがら、細かいことを聞いてみることにした。
「で、なんで二人だけで行こうと思ったの?一緒に行っちゃだめなの?」
一番の疑問はこれだ。別に一緒に行ってもいいだろうに自分たちだけって言うのがすごく気になったのだ。
「だーめ。」
「何でよ!理由は?!」
「うーん。勘かな?もしお前を気に入って取り込もうとしたら厄介だなって思ったのも大きいけどな。」
「取り込まれたりなんてしないと思うけど。」
「グレンドが女にしたこと覚えてないのか?」
ベイダルさんが呆れて言う。
「お前なー。俺たちが本気になったらお前を操れるし、殺せるんだぞ?精霊の加護とか期待すんなよ?
魔王とドラゴンならドラゴンの方がつえーんだ。この星ごと消し飛ばしても大丈夫なドラゴンより、魔王と戦う方がマシだろ?お前を切り捨てるなんて選択肢もやつらなら取りかねない。」
ベイダルさん的には精霊はそういう評価なのはゆるぎないらしい。
そして、私もそうなりそうだということはわかっている。
「そもそも、お前が俺らとつるんでるのも見ているだけだろ?戦いにならないなら放置する。
なら、フィアルが魔王とは戦わせると言い切れば、特に助けないだろ?とにかく、面倒になるかもしれないからお前は会わせない。」
うーん、本当にそうだなぁ。
このドラゴン、アホだと思っていたけれど、ちゃんと考えていることは考えているのかもしれない。
「じゃぁ、帝国に行って確認したいことって何?」
「何かしようとしてるなら見たいだけだよ。俺やグレンドは眠ることを選択したけど、ディアンガは違っただろ?フィアルやルーシルとはもうずっと会っていなかったし、何をしてるか気になるじゃん?」
それだけなのかは分からないが、こう言う以上、他に何かあったとしても言わないだろう。
「無理しないでね。あと、皆仲良くしてね。」
私がそう言うと、ベイダルさんは一拍開けて大きな声で笑った。
「あはははは!そうだな!お前、やっぱ面白いな!」
そう言って頭をなでてくるので、バカにされてると感じたが、文句は言わなかった。その代わり、グレンドさんをじっと見つめる。
グレンドさんは視線に気が付いてチラリとこちらに視線を移したが、すぐにベイダルさんを見た。視線をそらしたというよりも、興味が無いというのが正しいと思える。
まぁ、星を吹っ飛ばすことにはならないと信じたい。そんなことしようと思うなら、邪神との戦いですでにこの星が消し飛んでるだろうから。
私はシュレインさんを見た。
「シュレインさんが私に対してどう思っていたか、よーくわかったわ。」
私がそう言ってクソデカため息をついたので、シュレインさんは苦笑したのだった。
それから一週間。ギルドから声がかかったので、龍兄弟は旅立った。
様子見だというし、二週間くらいで帰ってくるかと思ったのだが、二ヶ月経っても帰ってこなかった……。
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