56.厄介払い
「大変!グレンド様がいない!」
冒険者という割には白くてきめの細かい肌から血の気が全て吹き飛んで、美人さも相まってもはや幽霊のように見えるビレートさん。
私たちのとこへ帰ってくるとヘタリと座り込んでしまった。
「そんな……嘘よ……いつの間に?」
悲壮感漂う顔で、こちらに聞いてくる。
「いや、まぁ、二十四時間見張ってるわけにもいかないでしょうし、寝てる時とかトイレに行ってる時とかに飛んでっちゃったんじゃないでしょうかね?」
正確な日時を思い出そうとすればできるが、答える必要はないだろう。龍兄弟も特に口を開くつもりがなさそうなのでホッとする。
「だって!大穴にはちゃんと感知魔法かけてたもの!なん十カ所もよ?」
あー、転移で移動したからなぁ。
「飛んでいるお姿を見逃したなんて!一生の不覚よ!死にたい!」
そう言って、ビレートさんはわんわんと泣きだした。鼻水出るレベルのマジ泣きである。いや、ホントごめんね?
「十年ぐらいで帰ってくるって聞きましたし、ビレートさん生きてる間にまた来るんじゃないですかね?」
「そんな!十年もグレンド様を見れないの?!それこそ死んじゃう!」
困って龍兄弟の方を見ると、虫けらでも見るような目で見ているのでびっくりした。
ベイダルさんといえば「力なき者には寛大に」が信条だと思っていた。そのベイダルさんがめっちゃ嫌そうにしてる。
「ほら、眷属さんもまだいますし、そっち見てがんばりましょ?」
「ヤダぁ!グレンド様じゃなきゃ嫌だぁ!」
ビレートさんはお菓子を買ってもらえない子供のように、大の字になって手足をばたつかせている。もうダメだこの人。無理。私じゃ慰めきれない。
そう思った時、グレンドさんが口を開いた。
「おい女。いいことを教えてやろう。」
「何よ!」
「ジュディアルに行くといい。あそこにはフィアルがいる。」
「は?なんでジュディアル帝国?」
「信じないなら別にいい。でも、あいつならお前に会うだろう。」
「どういうこと?フィアル様って、ジュディアル帝国にいるの?私なら会えるって?ちゃんと説明して!」
私もよくわからんのでグレンドさんを見る。
「城に行ってゴーディアという男に会わせろと言えばいい。」
何の説明もしないグレンドさん鬼畜。
「ちょっと!意味わからないんだけど!」
「うるさい。ここから出て行け。」
グレンドさんがきつめにそう言った時、ビレートさんがびくりと体を震わせ、ぼんやりとした顔つきになる。
「わかりました。城……ゴーディア……。」
ぼんやりとした顔のままそうつぶやくと、ゆらりと立ち上がり、そのまま出口の方へとゆっくり歩き始めた。その歩き方がゾンビみたいで怖い。
「ねぇ、何したの?」
「命令しただけだ。人間ごときが私たちに歯向かうことはできない。」
やだグレンドさん怖い。
「お前、フィアルに押し付けんなよ。嫌いなん?」
「前も言っただろう?私は好かん。あの女なら丁度良いだろう。」
「あのあの、どういうことですか?私もよくわからなかったので、人間の小娘でもわかるように解説していただけると助かります。」
私がそう言うと、グレンドさんは小さくため息をついて説明してくれた。
どうやら、なんちゃら帝国には数百年前からフィアルさんというドラゴンが住んでいるらしい。
しかも、ゴーディアと名乗って人間として暮らしてるという。
「あいつは人間を操って遊んでいる。兄さんはそういうのを好きじゃないだろう?だから会わせたくない。」
「あいつそんなこともしてんの?」
「さっきまでジュディアルに確認しに行っていたが、今もやっていた。まぁ、あいつは前から変なことをしていただろ?」
「グレンドさんがいなかったのって、ベイダルさんの為に偵察に行ってたってことです?」
「……そうだ。」
「そっか。ありがとな。」
「あぁ。」
若干頬を染めるグレンドさん。兄を好き過ぎぃ!
「ビレートさん大丈夫ですかね?」
「あいつは人間の女をはべらせて暮らしてる。多分あの女も気に入るだろう。大丈夫だ。」
うーん、それは大丈夫って言っていいのかな?まぁ、ドラゴンスキーとしては、本望だろうけれど。
「そいや、グレンドさんて、どうやってここに来たんです?兄弟間ワープなんてできるんですか?」
「兄さんから教わった。」
「あ、お前の転移だよ。便利だから教えた。」
さすが魔法に長けてるドラゴン様。使いこなしていた。にしても、転移って転移先ではあんな風になるのね。前に王都のギルマスが剣抜いてたけど、理由が分かったわ。
ふと、目の前のカエルの死骸を見る。背中の結晶はきれいだ。
「この結晶って、何かに使えないかな?」
そう手を伸ばそうとした時、ベイダルさんに止められた。
「止めておけ。人間は俺のゲボ石を使ってるんだろ?これもある意味同じ物だよ。魔物の魔力が宿ってる。お前になら使えるかもしれねーけど、人が手にすると多分呪いになるぞ。」
特に嫌な感じもしなかったのだが、それでもこう言うのだから、それなりの何かがあるのだろう。
「腐って大変じゃない?マグマに落とす?」
「食うからいい。」
「は?」
「前も言ったろ?俺たちは魔物は食うんだ。グレンド、お前起きてからなんか食った?」
「いや。」
「じゃぁ、食っとけ。丁度いいだろ?」
「そういうのならいただく。」
え?いや、あの……待って……あ……いや、嫌ぁあああああああああああああ!
ということも無く、目の前からカエルとグレンドさんが消えた。
「へ?」
「いや、食うなら戻らないといけないし、ここじゃ無理だろ。バカか?」
お前に言われたくないわい!でも、えぐい場面を見せられないでよかった。あのカエルを人型グレンドさんが貪り食ったらどうしようかと思った。
そして、間もなくグレンドさんだけがすまして帰ってきた。
「あ、グレンドさん。長い間この国を護ってくださってたようで、ありがとうございます。ちゃんと言ってませんでした。申し訳ありません。」
「別にいい。」
グレンドさんがこの国の中央に位置するこの火山を噴火させないようにしてくれてるというのを今更思い出したので頭を下げた。
人間はその恩を忘れて、家畜を襲うだとか討伐したいだとか思ってるんだもんなぁ。本当に申し訳ない。
「私はマグマと相性がいいから、ここで寝るのは気持ちがいい。」
そうボソリと言ってくれたのも、きっと優しさだろう。
だって、前にマグマを浴びても気持ちいい位だってベイダルさんは言ってたもんね。噴火しても楽しい行水レベルなのを、わざわざ力使って抑えてくれてるのは感謝すべきだ。
「お菓子をたらふくお供えしろな。」
なぜかベイダルさんがドヤってる。お前には感謝しとらんわ!
でも、この兄龍に良くしたら、弟龍も満足なんだろう。ドヤってるベイダルさんを、グレンドさんが目を細めて見ているので間違いない。
というか、もしかしたらベイダルさんが人間に対して寛大だからこそ、グレンドさんもそうしているのかもしれない。
フィアルさんてのが人間で遊んでるというのはドラゴンが人間の味方だとは限らないということだとしたら、たまたまディアンガさん含めいいドラゴンと会っただけで、残りの一体もどうだかわからないのだ。
会う順番を間違えれば、グレンドさんと戦うことだってあったのかもしれない。
そう考えると、ベイダルさんを殴り飛ばしたことは絶対に黙っていようと思うのだった。
王都に帰ってから気が付いた。グレンドさんはどこに泊まろう。
アマンダさんとこに厄介になるのはどうなんだろう?というか、ベイダルさんもなんだよなぁ。お菓子代凄そうなので申し訳ない。
「ベイダルさんのお菓子代もあるしさ、やっぱり何かクエスト受けないと。」
そこまで言ってハタと気が付いた。依頼にドラゴンと眷属の討伐があるの見たら、グレンドさんは怒るかもしれないと。
前は気にしないと言ってたけど、自分で現実を見たら気分を悪くするかもしれない。
「えっと、お二人はとりあえず我が家に帰っていただいて、私だけでも仕事を……。」
「ついてく。」
ベイダルさんが軽く言うが、空気を読んで欲しい。
「あーじゃぁ、クエスト選んできますよ。待っててください。」
「ついてく。」
「あーっと、あそこのあのジュース、おいしいのでそれでも飲んでてくださいよ!」
いつぞやのジュース屋さんを指すと、ベイダルさんは興味を示したので、ジュースを買い与えた。
「お嬢ちゃん久しぶりだね。今日はまたかっこいい人連れて。前の騎士様もカッコ良かったのに、お嬢ちゃんめんくいだねぇ!」
なんて冷やかされたので恥ずかしかった。
しかし、王都に来てもう半年以上がたった。
いや、待って?そんなもんしか経ってないの???何なら五年くらいのボリュームあったと思うよ?!
横でジュース飲んでる二人がドラゴンなの頭痛い。
「とにかく、これ飲んで待っててね!すぐ帰るから!ちびちび飲んでよ!」
すでに半分無くなってるのを見ながら私は走ってクエストをとりに行ったのだった。
クエストをとって帰ってくると、ベイダルさんの横にコップが結構重なってる。今もおいしそうにジュースを飲んでいるが、お前それ何杯目だあああああ!
そして、なぜかグレンドさんがジュース屋さんを手伝っている。
「何がどうしてそうなってるのー?!おねーさんすみません!」
私が慌てて駆け寄ると、ジュース屋さんはニッコニコだ。それもそうだろう。目をハートにさせたおねーさまたちが行列になってるのだ。
そして、どうやらジュースを二杯買ったおねーさまが、ベイダルさんに一杯ジュースをあげてるのだ。それをにこにこと嬉しそうに受け取るベイダルさん。ナニコレカオス。
「いやぁ、手伝ってくれてありがとうね。これ、おまけのジュース☆」
並んでる分だけはけたら終わりにしてもらったが、ざっと二十杯は飲んだぞこのアホドラゴン。
更にお手伝いのおまけと言われて、もう一杯受け取ってるから救いがない。私とグレンドさんももらったけど、グレンドさんはそのままベイダルさんへ渡そうとする。
「おなか壊すと大変だから、それはグレンドさんが飲んで。お腹痛くなるのかわいそうでしょ?」
見かねた私がそう言うと、ベイダルさんも頷いた。
「痛くはならないが、お前も飲めよ。」
「そうか。じゃぁいただく。」
「おいしいか?」
「あぁ。」
会話だけ聞くとほんわかするが、ベイダルさんの横に積まれたコップの量を目にしてるので、その気持ちが起きない。
「おねーさんごちそうさまでした。ご迷惑をおかけしてすみません。」
「おいしかったわ。ごちそうさま。」
「……ごちそうさま。」
「またおいでね。」
ベイダルさんが軽快におねーさんにお礼を言ったので、グレンドさんも続く。こうやってなじんでいくのだなぁ。多分。
結局、その日は薬草摘みだけして帰りました。
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