55.ビレートさん
「うーん。どれが割のいい依頼なのかわからないな。」
依頼書とにらめっこしながら唸る私。今回はベイダルさんもいるので、そんなにランクの高い依頼はこなせない。
「グレンドのとこがどうたらってのはいいのか?」
「んー?グレンドさんのお家のとこに冒険者さんがいるんだって。その人に会いに行くだけだと思うんだけど、何か頼まれるかも。帰ってこれるかちょっとわからないから、ちゃんと言ってからの方が良くない?」
「グレンドのとこにいるって、まさか眷属倒そうとしてんのか?」
「いやぁ、好きだって言ってたし、違うんじゃない?もしかしたら捕獲したいとかいうかもだけど。」
「あーん?そいつ倒しに行こうぜ。」
うへ。物騒なことを言いだした。
「いや、だから、敵とは違うと思うよ?」
「万が一ってこともあるだろ?」
「うーん、まぁ大丈夫か。じゃぁ、そっち行こ。」
こうして、私たち二人はグレンドの深窟へ飛ぶことにした。
とりあえず深窟に転移してから近くの町にでも行こうとしたのだが、ビレートさんの小屋は頭がおかしいのかな?というレベルで深窟の近くだった。というか、入口の横に建っていた。いや、若干かぶってる。
見た目、アトラクションの入り口にあるチケット確認する人がいる小屋みたいになってる。
「さすがにこれは想定してなかったわ。知ってた?」
「いや。」
ベイダルさんも変な顔で見ている。
「ごめんくださーい。」
小屋の入り口をノックするが、誰も出てこない。というか、中に誰もいないっぽい。
索敵をかけると、離れたところに人間の反応があった。
「あー、中にいるわ。いこっか。」
「ん。」
そんなノリで、我々も深窟へと潜ることにした。
「そいや、前にグレンドさんのとこに行ったけど、あれって一番下のとこなんだよね?」
「だな。」
「グレンドさんて、どっから出るの?こんなとこ通らないよね?」
深層への道は、横二メートル縦二メートルほどの洞窟になっている。
「当たり前だろ。真ん中にでっかい穴が開いてて、そっから出入りできるよ。グレンドの寝てるとこはちょっと横穴になってるけどな。」
ほどなく進むと、魔物にエンカウントする。
が、皆襲ってこない。というか、遠巻きに見ている。何なら逃げていく。
まぁ、先頭歩いてるのが黒龍様だからなぁ。さもありなん。
そのまま歩みを進めていた時、空間に違和感を感じた。
「何これ?!」
戦闘態勢に入ると、目の前にグレンドさんが現れた。えええ?
「兄さん何でこっち来たの?なんか用?」
「あれ?お前なんで?」
「いや、兄さんがここに移動したから用があるのかって。」
そう言ってから、私に気が付いたグレンドさん。
「用が……あったんじゃないのか?」
初めて会った時も思ったんだけど、グレンドさんて、話し方変えてるよね?別にいいのに。
「あ、私のことはお気になさらず、いつも通りでどうぞどうぞ。」
私がそう言ったが、グレンドさんは咳払いだけした。
「こいつがここにいるやつに用があるって来ただけだよ。」
ベイダルさんはそう言って、私を指さした。指すな指すな!
「ここにいる冒険者さんに用事があったんです。多分この先にいるんで。」
私がそう言うと、グレンドさんは険しい表情になった。
「そいつは眷属を倒しに来てるのか?」
あ、そうとりますか。やっぱり兄弟である。
「あー、多分違うと思うんですけど、良かったら一緒に行きましょう。」
「言われなくても行く。」
グレンドさんはそう言って、スタスタと歩き始めた。やれやれ。
そんなわけで、我々は戦うことなく、現場へとやってきた。
そこは深窟と呼ばれるにふさわしい、どでかい大穴が広がっていた。
ドーム状の天井はあるものの、中央部分には大きな穴も開いており、他にも所々切れ目がある。
日の差し込む大きな縦穴。底の方はよく見えないが、マグマの赤さは見える。相当な深さがあるようだ。
まるで天井があるメイドインなアレみたいな感じ。
我々は、そこの壁面に出たのだ。
「うわぁ……。」
私がもらしたその言葉は、思ったよりも美しいその光景に感嘆したわけではない。
目の前にいる女性の顔を見て漏れてしまったのだ。
女性は自分で持ってきたであろう椅子に座っている。その顔は恍惚とした顔で何かを見つめているのだが、その顔が本当にニチャァって感じなのだ。
「ねぇ、あの人じゃない?」
二人にこっそりと言う。
「俺、なんかあいつやだ。」
そういうベイダルさんもうわぁって顔になってる。グレンドさんも表情が険しい。
「おい女。そこで何をしている。」
私が声をかける間もなく、グレンドさんが職務質問をし始めた。しかし、女性は振り向かない。
「ちょっと待って!私が話すから!二人はじっとしてて!
あの、ビレートさんですか?」
私も声をかけてみるが、女性はやはりピクリとも動かない。
「あの……。」
聞こえていないのかと再び声をかけると、女性はこちらを振り向かずに、短く言い放った。
「なに?要件言って。」
「あ、あの、王都のギルドマスターから言われてきました。これがギルドマスターからの手紙です。」
ギルマスから渡された封筒を差し出すと、シュッとひったくられるが、顔は一切こちらを見ていなかった。 女性……ビレートさんは手紙を見ると、ようやくこちらを見た。
真顔になったビレートさんはめちゃくちゃ美人だった。この美人がさっきの顔してたの?!
「ふーん。あなたたちがね。じゃぁ、ちょっと潜るのを手伝って欲しいのよ。」
「え?」
「この下にはね、この深窟の主である偉大なる赤龍のグレンド様が眠っていらっしゃるの。私は何度かそこまで行ってご尊顔を眺めていたんだけど、三ヶ月前くらいに行った時に変な魔物が何匹かわいたのよ。グレンド様とはかけ離れた気持ち悪さだったから眷属ではないと思って倒したんだけど、一匹だけどうしても倒せないのがいるの。」
「それを倒せと?」
「そう。あなたたちってダクテオンを倒したんでしょう?ダクテオンて魔法が得意な魔族よね?だったら魔法や剣の反射くらいしてきたでしょう?
下にいるのもそういう感じなの。愚鈍だから攻撃はかわせるんだけど、こちらもどうにもできなくて。
あ、周辺の地形を破壊するのは止めてね。マグマが噴き出すかもしれないし、グレンド様に嫌な振動が伝わるかもしれないから。静かに葬ってきて頂戴。」
そう早口で言うと、また何かを見つめ始める。
「あ、あの。」
「何?」
「それ倒したら、グレンドさんのところに?」
「もちろんよ!そろそろグレンド様分が尽きそうなの!」
「グレンド様ぶん?」
「グレンド様を見ないと生きてけないのよ!」
あ、オタクでいうとこの推しキャラからのみ吸収できる栄養素のアレだ。というか、目の前にいるけど、認識していないと吸収できないようだ。
「た、倒せなかったらどうしましょう?」
「はぁ?倒してきて?それ以外の報告は聞きたくないわ。さっさと行きなさい!」
女王様だ!女王様がいる!!仕方がないので、私は兄弟の背中を押して下へもぐることにした。
「どうしよう。倒したらグレンドさんがいなくなってるのに気がついちゃって大事になるよ。」
「アイツ殺さね?」
「それがいいと思う。」
ひぃ!過激派兄弟!
「いや、やばいよ。私たちが会いに行くタイミングで行方不明なんて、疑われるじゃん!」
「来たらいなかったことにすればよくね?」
ベイダルさん、あなた天才か?
「確かに、来たけど居なくて……死体が無ければ落ちたとかそういうことに……。ハッ!いかん!」
聖女にあるまじき考えが浮かんでしまった。いつもならシュレインさんかアマンダさんあたりが止めてくれるが、今の我々にはストッパー役がいない。私の理性に全てがかかっている。
とはいえ、聖女が現れてグレンドさんがいなくなる。もはや国としては魔王出現まで秒読みってなるだろう。
よもや、遊びに出かけてるなんて思いもしないだろうし。まぁ、今はここにいるけども。
「グレンドさん。魔物倒したら先に行って寝たふりしてくれないですか?」
「なぜそんなことを?」
「ドラゴン様がいないと人間は色々と大変なことになるんですよ!グレンドさん人間型は私が幻術魔法でだしとくんで。」
「断る。」
いやぁん融通が利かなーい。
「ベイダルさんからも何とか言ってぇ!偉大なる黒龍様なら人間の機微をわかっていただけますよね?!」
ここはもうアホドラゴンに頼るしかない。
「んだよもう仕方ないなぁ。グレンド、しょうがないからやってやれよ。」
「わかった。」
即答かい!
「さすが!かっこいい!できる龍様方は違いますねぇ!」
「そうかぁ?ぬはは。」
「兄さんに感謝するがいい。」
チョロイ。どこにも神話時代からの龍たる威厳はない。
「じゃぁ、その案でいこう!そうとなればささっとこなしていきましょうか!」
「ささっとこなすなんてできるの?案とか言って、逃げる気じゃないでしょうね?」
「うわぁ!」
後ろからビレートさんの声がして、私はあわてて振り返った。
「に、逃げないですよ!どうやって倒そうかって話してただけです!それより、どうしてついてきたんです?」
「よく考えたら、あなたたちが倒したそのままに私が行けば時間短縮になると思って。一秒でも早くグレンド様に会いたいのよ!」
参った。これではグレンドさんがスタンバる時間も私が幻術出す時間もない。二人を見れば、ビレートさんのことを嫌そうに見てるし。
『ベイダルさん!グレンドさん!脳に直接話しかけていますが!声出さずに聞いてください!このままだと危険が危ないです!どうにか巻いて逃げましょう!一旦離脱がいい気がします!』
「別にバレても良くね?なんか面倒くさくなってきたわ。」
『うわあああああああああ!声出すなあああああああああああ!』
「は?何?」
「いや、あのちょっと……。」
「なんかあなた達怪しいわね。ダクテオン倒したっていう割に弱そうだし、三人だし。二人って書いてあったのに、なんで?」
私たちは気配遮断で限りなく村人に寄せているため、見る人が見ても強そうだとは思われないのであーる。そして、人数は……言い訳が思いつかない!
「もうさっさと倒そうぜ。帰りてーわ。」
「兄さんがこう言ってるから、さっさと行くぞ。」
そう言って二人はスタスタと歩いて行ってしまう。あーもう!
「うへぇ。」
そんなわけで、サクっとその魔物とやらの前にやってきたんだが、私はまたも嫌な気分になった。
道をまっすぐ下りて行ったところで広場に出た。いくつか横穴があり、その中の一つに穴をふさぐほどのどでかいカエルがどっしりと構えているのだ。
カエルの背中には何やら結晶が生えており、ほんのり光っている。
アオガエルならかわいいと思えるけど、なんていうか、でかくて茶色くてぶつぶつがある系だ。それがでかい。率直に気持ち悪い。
「あれよ。」
「何であんなのに苦戦したんだ?」
ベイダルさんが面倒くさそうに言う。
「さっきも言ったけど、魔法も剣も反射するの。魔法は特に危ないわ。あの水晶みたいのが吸収して、跳ね返してくるのよ。」
「ふうん。」
ベイダルさんはビレートさんの言葉を聞くと、そのままカエルへと歩いて行く。
「ちょっと!」
そうビレートさんが言った瞬間、ベイダルさんがいた地面がボコリとへこんだ。当のベイダルさんは何事もなかったように横へずれている。
「確かに愚鈍だな。」
いやいやいや!凄い速さでカエルの舌がベイダルさんに向かって伸びたのだ。シュレインさんやディアくらいだと捕まっていたかもしれない。
そんなベイダルさんを見て、ビレートさんはニヤリとした。
「へぇ、さすがダクテオンを倒しただけあ……。」
ビレートさんが言い終わらないうちに、カエルは死んでいた。ベイダルさんが手刀だけで倒したのだ。あいやぁ。
「嘘……でしょ。」
「ほら、行けよ。」
ビレートさんのつぶやきなんて気にせず、ベイダルさんは奥を指した。
「……。」
険しい目でベイダルさんを見つつ、足を進めるビレートさん。体が勝手に動いてるかというくらいに、ベイダルさんを凝視してるのにすっと奥へ移動してるのが怖い。
ビレートさんが見えなくなったころ、私はベイダルさんの横に並んだ。あ、グレンドさんはさっさと横に並んでた。
「これも魔族なの?ダクテオンに似てる気配だけど。」
「そうだな。見たことはないが、魔力からしてそうだろ。」
「私が分かるのは気配で嫌な感じがするってだけなんだけど、魔物と魔族って何が違うの?」
「全く別物だよ。産まれ方も違うしな。ただまぁ、一番は魔力の総量だと思えばいい。
後は、魔物は知能が獣並みだが、魔族は人間並みにはある。上位の魔族だと、組織立って行動してたりもするし、少ないが人型の者もいるな。」
ファンタジーあるあるだ。でも、人型が少ないのはちょっと意外だった。
「人型で四天王とかやってるのかと思った。」
「なんだそれ?人型のは逆に悪さをしない。何人かは人に混じって生きてるしな。」
「え?!」
「お前だって見方によっては魔族だし、美代ももう魔族だと言っていいだろ。」
そう言われてしまうと、ベリンダールでディアたちに魔族だと疑われていたのは正解だということになってしまう。
「そういうものなの?」
「魔族は現象だから、自然発生する。人から産まれたお前はかろうじて人だよ。でも、美代は人間から産まれただろうが、もう魔力量も寿命も人間とは言えないだろ。お前もその内そうなるだろ。」
えええ?
「ちょっと待って?!私も魔族になるの?!」
「お前次第だろうな。人間でいたいなら引き際を決める方がいい。」
不穏なことを言わないでくれぇ!若干いつものノリと違うしなぁ。話し方変えるのやめてほしい。
そんなこと思っていたら、ビレートさんが奥から帰ってきた。顔が真っ青を通り越して真っ白になっている。
「大変!グレンド様がいない!」
ですよねー。
いいね、評価、ブックマークしていただけると喜びます!




