54.ベイダルさんとギルドへ行く
シュレインさんとアマンダさんは用事があると出かけてしまったし、ディアはディードの世話に行っているので、私はベイダルさんとギルドに行くことにした。
「おねーさん、こんにちわー。」
「あら、お久しぶりですね。今日は……。」
そう言っておねーさんはベイダルさんを見上げる。頬がほんのり赤いのは気のせいではないだろう。忘れていたが、ベイダルさんはかなりかっこいいのである。
デジャヴ。
「今日は別のおにーちゃんを連れてきたんです。おにーちゃんこんな見た目だからバーテンダーしてたんですけど、デブスマダムの夜のお誘いを断ったらクビにされちゃって。仕方なく冒険者に転職することにしたんです。」
そんな説明をしたら、おねー様方はベイダルさんの顔面力に負けて正常な判断をなくし頷いている。
「何言ってんだお前。」
ベイダルさんも呆れているが、おねー様方には聞こえていないようだった。
そんなわけで、ベイダルさんも冒険者デビューである。
「ドラゴン退治する?」
ベイダルさんに一番上のホコリかぶった依頼書を見せる。
「これ、報酬いいのか?」
「めっちゃいいね。多分貴族人生三回は行ける。」
こういうのは大人数での討伐を想定しているのだろう。かなりの金額になっているが、倒されないのが前提なんだと思う。
「やるかー。」
「やるんかーい。」
「うわひでーな。グレンドの眷属のもあるじゃん。」
確かに、深窟のドラゴンの眷属の退治も依頼として埃をかぶっている。っつか、文字読めるのか。
「それを受けると、厄介なやつも出てくるがいいか?」
「わぁ!」
急に後ろから声をかけられてビックリして振り向くと、ギルドマスターがたっていた。
「話があるからこっち来なさい。って、シュレインじゃないのか!」
いや、まぁ確かに黒髪だけど長さも違うし、かつての部下を間違えないでほしい。シュレインさん泣くぞ?
「あー、今日は用事があって別行動なんです。この人も、身元ははっきりしてるし、私たちの身分も知ってます。そちらが問題ないなら一緒に行っても?」
「そうか。じゃぁ、こっちへ来なさい。」
ギルマスの部屋につくと、お茶とお菓子が出た。即刻ベイダルさんの手が伸びているのを半目で見る。
「よそ様なんだから、頬張らずに一枚ずつ食べなさい。」
「あの食い方美味いんだよなー。口いっぱいにお菓子の味が広がってさー。」
「気にしないでいい。好きなだけ食べなさい。」
ギルマスがそう言うので、さっそく二枚目に取り掛かっている。ペース速過ぎぃ!
「で、本題なんだが、ダクテオンのことだ。」
そういや、そんなものを処分してもらっていた。
「あの時はお世話になりました。大丈夫でした?」
「ちゃんと処理はできた。だが、交換条件を出されてな。」
「交換条件?どういうことですか?」
ちょっと話が見えない。
「あれをやったのはビレート・ヴァスカマスっていうAランクの冒険者ということにしたんだ。その了承をとった際に、お前たちに会わせろと言ってな。」
そう言いながら、ギルマスはこめかみを親指でぐりぐりしている。
「もちろん身分のことは言っていない。ただ、絶対に引き下がらないと思うから、いつか会ってやって欲しいんだ。」
そう言いながら、ギルマスは封筒を差し出してきた。
「これをビレートに渡してほしい。」
「わかりました。で、ビレートさんて、どんな人なんですか?」
「女の冒険者でな。ドラゴンが好きなんだ。」
「え?」
「ドラゴンが好きなんだ。」
うん。えっと、うん。私はチラリとベイダルさんを見る。お菓子に夢中だが、ちゃんと一枚ずつ食べてる。偉い!
「それはどういう……。」
詳細を聞こうとするものの、上手く言葉を選べない。好きにも色々あるじゃん?
「いやぁ、ちょっとよくわからないな。」
わからないんかい!
「だが、一年の大半をグレンドの深窟で過ごしてるやつだ。あの周辺で起こる魔物の被害をほとんど解決してるのがビレートだ。」
「そういえば、眷属の飛竜もドラゴンなんですよね?」
「そうだ。グレンドのような大きさは無い。ベリンダールのワイバーンと同じ大きさのドラゴンだな。」
「ワイバーンとドラゴンて、何が違うんです?」
「ワイバーンは手が翼になってるだろ?ドラゴンは四つ足で翼が別に生えてるんだ。」
そんなくくりだったのか。でも、確かにそんなだった。
「あのな、ドラゴンってのは俺たちだけなの。眷属もドラゴンの形してるけど、結局は魔力を入れたゲボ石だから、生物じゃない。
ワイバーンはトカゲの魔物だ。聖女なのにそんなことも知らねーの?」
呆れたようにベイダルさんが言う。
「無知ですみません。でも、そういう話は人前では止めましょうね。」
「めんどくせーな。」
そんな私たちの会話をいぶかし気に聞いているギルマス。
「あーすみません、ちゃんと紹介してませんでした。えっと、ベリンダールに住んでる黒龍のベイダルさんです。この人は王都の冒険者ギルドの一番偉い人ね。」
「よっす。」
「……お初にお目にかかります。ギルドマスターのグレック・スロールドです。」
そこまで言ってギルマスは大きなため息を吐いた。
「それは、絶対に外で言わないようにしてください。特にビレートの前では。」
ですよねー。
「っていうか、言うことそれだけで大丈夫です?」
「俺は元騎士団長だ。聖女が何をするかは知っている。それくらいで驚かない。」
あ、知ってるのか。
「あれは……本当なのか?」
それであえて聞いてくる。
「そうですね。」
「それで一緒に?」
ギルマスはベイダルさんを見ている。
「いいえ。たまたまです。一緒には来てくれません。」
「何かできることは?」
「……私が全てをどうこうできるわけじゃないです。時が来たら他のことは何もできません。その時は、この国……いいえ、全世界の人間をよろしくお願いします。」
「もうすぐなのか?」
「それは本当に知りません。」
「わかった。自分の仕事に専念してほしい。それで、シュレインはそれを?」
「シュレインさんには話しました。それを国が知ってるかは分かりません。」
「そうか。……こんなことを言うのは違うだろうが、俺はシュレインにはもっと上へ行って欲しい。お嬢ちゃんと行動することで得るものも多いだろう。だが、手放さないといけないものも多いだろう。できれば、あいつはこの国へ置いて行って欲しい。」
「元からそのつもりです。ついて来て困ってるくらいなので。」
私がそう言うと、ギルマスはハハッと笑った。
「真面目だからな。」
「それがいいところなんでしょうけれどね。」
「……不思議だな。聖女はやはり達観していないとできないものなのかな?”お嬢ちゃん”と話している気がしない。」
「年齢相応のか弱い少女ですよ。」
「はは。まぁ、ビレートのこともよろしく頼む。何をしたいのかは分からないが、あまり無茶な事じゃないなら手を貸してやって欲しい。」
「わかりました。」
「あと一つ。これは俺の個人的なお願いなんだが。」
「はい?」
「俺と戦ってもらえないか?」
えええ?脳筋だなぁ。
「いいですけど、どの程度で?」
「殺さないくらいで。」
「そうですか。じゃぁ……。」
そう言って、私はギルマスの机に歩いていく。机の上にはペーパーナイフがあるので、それをとってギルマスの元へと歩いて行く。そして、首に突き付けた。
「これでいいですか?」
「あぁ。ありがとう。」
私はペーパーナイフをギルマスに差し出し、ギルマスにかけていた動きを封じる魔法を解いた。城で使ったのと同じ魔法だ。
意識はあるので自分が術にかかっているのはわかる。それをはねのけるだけの能力がある人間はいない。
ちなみにこの部屋は魔法が使えないように結界が張ってある。それも私には効かない。
「ほら、行くよ。皆が帰ってくる前に何か依頼受けて帰ろ?」
「ん。」
丁度出されたお菓子を食べきったようで、ベイダルさんは手をパンパンと払って立ち上がった。
「ビレートさんのところには近日中に行きますね。」
「あぁ。よろしく頼む。」
私とベイダルさんは、ギルマスの部屋を後にした。
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