52.アマンダさんの家にて
「なんかごめんね。」
「いいんですよ。うちの名前使って旅をしてたのですし、当然です。」
王都に帰ってきて、私たちは一旦アマンダさんの家にやっかいになることになった。とはいえ、ディードもいるし、すぐにどうにかするつもりだ。
城?行きたくない!
「おかえりアマンダ!」
「「おねーちゃんおかえりー。」」
運ばれた荷物の仕分けを玄関でしていたら、アマンダさんのおかーさんと、弟二人が出迎えてくれた。
「ただいま。お土産もあるわよ。」
そう言って、ベリンダールで買ったお土産を弟たちに渡す。
「わー凄い!ワイバーンだ!」
「かっこいい!」
ワイバーンの革で作られた、ワイバーンのぬいぐるみだ。二人はそれを高く掲げ、走って行った。
「まぁ!久しぶりだっていうのにもういなくなったわ。」
そんな二人を見て、おかーさんはため息をついた。
「あの、大所帯で泊めていただくことになってすみません。」
「あら、そんなことお気になさらないでください。自分の家だと思って、いつまでもいてくださっていいんですよ。」
にっこりそう言ってくれるが、そんなわけにもいかない。
「皆さん長旅でお疲れでしょう?お部屋でゆっくりしてください。もうすぐ夫も帰ってきますから、夕飯の時にお話し聞かせてくださいね。」
私が断る前にそう言って、軽やかにおかーさんは退場していった。やるな。
とはいえ、荷物を置いてやることも無い。転移で王都近くまできたので、疲れてもいない。そんなわけで、特に示し合わせたわけでもないのに、談話室へと集まった。
まぁ、荷物を運んでくれた使用人の人たちが、お暇でしたら談話室に~って言ってたからなんだけど。
あ、そういえば、シュレインさんは城に行ってから自分の家に帰ることになってる。夕食だけ合流して、泊まるのも自分の家になるとのこと。まぁ、そりゃそうよね。
「うっわ、もうすでにおかし食べてるよこの人。」
私が談話室に入ると、すでにベイダルさんが焼き菓子を頬張っていた。なんちゅー見慣れた光景。
「この菓子うまい。」
そう言って、一個くれた。独り占めしないとこがベイダルさんの美点だが、お口パンパンなのは止めて欲しい。
「あのぅ、ディアさんて、オスカラートの言葉は話せますか?」
そういやすっかりなじんでいたが、私たちは今ベリンダール語で話している。
「あぁ、いい事を聞いてくれた。俺はオスカラートとクレイベルの言葉はわかる。それで言っておかないといけないことがあった。」
クレイベル王国はベリンダールの東の国だ。つまり、隣国の言葉は話せるということだ。ディアも勉強家のようだ。
ちなみにトウワの言葉は、私以外はもちろんわからなかった。ドラゴンパワーでディアンガさんと美代さんとだけ話せていたのだ。
「多分これから何カ所かで色々と報告するだろうが、俺はこちらで見聞きしたことは国に報告はしない。そもそも俺は国に帰ったらすぐに騎士団を抜けるつもりだ。たとえ国にとって不利益な内容の話をしても報告しないと約束しておく。」
「わかりました。」
私は別に報告とかどこにもしないしいいが、アマンダさんは確かにそれは問題だよね。
「それ、シュレインさんは知ってるの?」
「言ってある。」
何気に二人は仲良くなっているようで良い事だ。
「やめた後どうするの?」
「お前について行くよ。ディードのこともあるしな。」
「あー、まぁ、そう言われるとそうね。」
実際問題、ワイバーンと一緒に生活できる場所を探すのって難しいよなぁ。一応ベリンダールの特許みたいなもんだろうし。
「その内どこかの山奥にでも引っ込むから、それまでは迷惑をかけると思う。」
「そんなのはいいよ。」
まぁ、十年二十年先まで一緒に暮らしてるかって言われたら微妙だしね。
「あ、あの部屋、トウワとベリンダールの俺の巣に作ってくんね?」
横からアホなことをドラゴンさんが言いだした。
「えええ?」
「美代の飯食いてーし、ディアンガに剣習ってるんだし、トウワには必要だろ?ワイバーン的にはもしかしたらベリンダールに帰らないといけないこともあるかもだし、その時はあっちにも必要だろ?
変なとこに作るとその子供が何か言われるかもしれないし、俺の縄張りに作れば絶対誰も来ないからな。」
なんか納得出来そうな出来なさそうなことを言う。
ディードとの暮らしを考えると、ベイダルさんかディアンガさんの近くの方がいいのは確かだが、若干自分のためにもねだってるんだよな。もうすっかり人間の生活に慣れ切ってるし。
「まぁ、その内頼んでみるわ。」
「お、おい。」
私が前向きに答えたので、ディアが困っている。
「いいよ。多分その方が暮らしやすいでしょ。落ち着いたらディアンガさんのとこに行って、どっかの土地もらお。私もトウワに拠点あれば嬉しいし。」
「簡単に言うなぁ。」
ディアは呆れているが、ディアンガさんのことだ。ベイダルさんが頼めば、山の一つや二つどうとでもしてくれるだろう。あのドラゴンも人間にすっかりなじんでるからなぁ。
「そいや、グレンドさんってどこ行ったの?」
「知らね。ちょっと出かけるって言ってどっか行った。」
お兄ちゃんっ子って感じだったが、そこまでべったりではないようだ。
ほどなくしてシュレインさんも合流し、夕飯の時間になった。
ディアとベイダルさんは、ベリンダールで会った冒険者ということになっている。
アマンダさんがかいつまんで旅の話をする。
ゲーベリオンの魔道具やベリンダールとの契約。そして、クレアライトの事。
「ふむ、聖女様のポーション。そんなものを家で本当に?」
アマンダさんのおとーさんは、商人モードの目でこちらを見た。
「はい。ただ、私もやることがたくさんあるので、申し訳ありませんが、売れるのは今の契約分だと思います。」
ベリンダールとの取引は五回なのだ。これは、私が帰らぬ人になった時に困るから、そうしてもらった。
「いえいえ、それだけでも十分です。」
そうは言うが、本当はもっと国内の有力貴族や城に売りたいだろう。だが、そこは儲かった分で独立するつもりなので譲れない。ヒヒヒ。
「それにしても、クレアライトがそれほどまでに貴重だったとは。さすがに手が出せないようだな。そうとなれば、ベリンダールの駐在人数を減らすか。」
おとーさんの中ではもう計算機が叩かれているようだ。
「アマンダ、色々と素晴らしい旅だったようね。」
「・・・・・・はい。しかし、やはり目的を果たせませんでした。すみません。」
計算しているおとーさんを放っておかーさんが話を変えるが、頭を下げるアマンダさん。そんな姿を見ると、胸が締め付けられる。クレアライト、倉庫に眠ってるのになぁ。
「いやいや、大収穫だ。アルバーニ商会ね。こっちでそこを知るのはうちだけだろう。上手く取引して信用をとれば、独占的にルートを確保できる。ベリンダールに大きなパイプができたぞ。」
そして結局おとーさんが話を持って行く。でも、そういうことなのか。ポーションは餌でしかないわけね。数回でいいっていうわけだ。
「これはお前にとっても大きな嫁入り道具になる。バルベルアントに息子がいただろう。交渉してみるか。」
あ・・・・・。アマンダさんの方を見ると、厳しい顔で更に目を落としている。
しかし、おとーさんはそれに気が付かずにまだどこの息子がいいかもと話を続けているのだ。うぐぐ。胃が痛い。
「お父様、そのお話なのですが・・・・・。」
「ん?」
「私は、結婚がしたくありません。」
つ、ついに言ったー!
「それはどういうことだ?」
お父さんが渋い顔をする。この国では、女は結婚して家に入ることが幸せだとされているのだ。
親としては、いい相手を見つけて何不自由なく暮らすようにしてあげることが、娘への一番の贈り物だと思っているのだから。
「この国では、女の私がこれ以上商人として生きていく道がないと思うのです。そんな中で商家に嫁げば、手も口も出せないのに、ただ見えるところにいるだけ辛さが増します。」
そりゃそうだよなぁ。
「では、商家でない家ならいいのか?」
「あなた。」
おとーさんがなおも食い下がるので、おかーさんがたしなめる。しかし、おとーさんは負けなかった。
「確かにアマンダの気持ちも大切だろう。だが、世間はそうは言わない。それはお前にもわかるだろう?」
「なら、国外に出しては?」
「それで片付くなら簡単だ。信用というものがある。うちを手伝わせるわけにはいかないんだぞ?」
日本でこんな会話になろうものなら、色んな所からボッコボコにされるだろうが、この国ではこれが普通なのだから、どうしようもない。
しかしその時、このくそ重苦しい空気をぶっちぎる声が響いた。
「これ、おかわりある?」
さすがのドラゴン様であった。
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