51.絆
更に三日たってようやく一人でも布団から出れるようになったディアだが、その姿を見て唖然とした。
トイレの時はシュレインさんが連れて行っていたので気が付かなかったのだが、倒れる前までは私と身長が一緒くらいだったのに、なんと、背が五センチは伸びているのだ。
「え・・・・・・?」
唖然とした私がつぶやくと、何とも気まずそうに頭をかくディア。
「自分でもどういうことかわからないんだ。ただ、なんとなくだが、呪いはファムがやったんじゃないかと・・・・・・。」
そう言って、眉をしかめるディア。呪いにかかっていて倒れたことは説明済みだ。
「呪いの話を聞いて思ったんだが、また皆に迷惑をかけるかもしれない。少し、俺の話をしてもいいか?」
皆のいる前でそう切り出したディア。よくわからないが、私たちは頷いた。
「お前たちは信じられないかもしれないが、タイドはああ見えてベリンダールの高位の司祭なんだ。」
まぁ、回復魔法も凄かったし、あの能力も凄かったからわからないでもない。
「俺は、地位も能力もあったタイドがあそこまでおかしい行動に出たのは、ファムのせいだと思ってる。
ファムは、自分だけの魔法を研究するのが好きだった。その内容を詳しく知ってるわけじゃないが、前に変なものを食べてると言われたことがあっただろ?あの時に何となくファムじゃないかと思ってたんだ。」
確か私のお家に招待した時にベイダルさんが言ったことだ。
「まず、ファムは俺たちの食事担当だった。そして、薬草に詳しかった。騎士団で使うポーションは魔法師たちが作っていたから当然ファムも参加している。だから、ファムが渡してきたポーションを、俺たちは必要な時は飲んでいた。
もちろんタイドはそれが変な物かは能力でわかるはずだ。でも、あの能力は疲れるらしくて常日頃から発動してるわけじゃない。あれもまた独自の技術らしいが。まぁ、安心してる時に何かを盛られても気が付かないんだ。」
あの能力も、万能ではなかったようだ。
「そしてワイバーンに使った香。タイドは神官だから薬草にももちろん詳しいが、多分ファムが渡したと思う。お前たちも見てただろうが、タイドはここぞという時にしか働かないやつだからな。能力があってもリーダーすら嫌がる。そして、細かなものを調達するのはファムの役目だ。」
結局は、あのおねーさんが雑用しているようで、PTの要を握っていたということだ。
「あの件ではファムも捕まった。でも、多分重い処分は団長とタイドだけになると思う。魔法師たちは除籍あたりだろう。しかも、また違う名目で雇うかもしれない。タイドだって神官のままかもしれないし。
とにかく、どう転んでもファムは生きたままだ。もしかしたら、追いかけてくるかもしれない。そうなれば、また迷惑をかけるだろう・・・・・・。」
若干目が虚ろなのが、ディアの心労を感じさせる。どんな扱いされてたんだ。怖い。
「まぁ、こういった国の汚い部分を知っている俺が騎士団を抜けたいと言い、ディードまで連れてきてしまった。一体どこでいつ呪いにかかったかは知らないが、ファムが相手の方がまだましかもしれないな。」
そう言って、ディアは目をつむった。
「一応だけど、初めて会った時にはその呪いにかかってたよ。」
「そう・・・・・・か。じゃぁ、やはりファムだろうな。オスカラートまで来なければいいが。」
ディアが大きくため息をついた。
「ディアってさ、何歳?」
「十七だ。」
「あー、じゃぁ、多分大丈夫じゃないかな?」
「なぜだ?」
「今の話聞いて思い出したけど、前にファムさんがディアの事かわいがってたって言ってたよね?多分、ディアにかかってた呪いって、かわいいままにとどめておく呪いだったんじゃないかな?」
「は?」
ディアが心底嫌そうな凄い顔になる。
「だって、十七でその背でしょ?なかなかないと思うんだよね。だって私百五十ちょいだよ?それと同じくらいだよね?孤児院で十五でその背ならわかるんだ。でも、騎士団に入ってから背伸びた?」
「・・・・・・いや。」
「でしょー。変だって。
呪いの説明受けたでしょ?一個目の呪いが解けたら二個目が発動するって。しかも、それは殺す呪いだって。」
「あぁ。」
「理想から外れるなら、死ねばいいって思ったんだと思う。」
「いや、そんなことで?まさか・・・・・・。」
この予想は厳しいかもしれない。でも、元オタクの女は知ってるのだ。中には超過激派の厄介ファンがいるってことを。
「まぁ、予想でしかないから確かめようがないけど、そこまでするからには、もうディアに興味持ってないと思うよ。
予想が外れた時はまた会うこともあるだろうから、そしたら真相を聞こうね。」
「聞きたくもない。」
本当に嫌そうなので苦笑するが、そんなことよりもだ。
「ついでだから言っちゃうけど、なんで呪いで死ななかったかわかる?」
「え?」
「神話に出てくるドラゴンに囲まれて、死ぬはずがないよね?ねー、ベイダルさん?」
私がギッと睨んだので、ベイダルさんはそっと目をそらした。
「こうなること、わかってたんじゃないの?」
「なんのことかわっかんね。」
白々しくそう言うが、ある時私は気が付いてしまったのだ。
「ディードに、何かしたでしょ!」
「~♪」
口笛吹いてとぼけるとか、昭和の反応かよ!
「どういうことだ?」
聞き捨てならなかったのだろう、ディアも参戦してきた。
「私がこっちに来た時にはディードは山に行ってたし、ディアが倒れてからはディアの事や稲刈りに集中してて気が付かなかったんだけど、ディアが回復した時によく見たら、ディードとディアの間に、うっすら魔力の流れがあったの。そんな流れ、今までは無かった!」
「え?」
戸惑ったように、私とベイダルさんを交互に見るディア。まぁ、わけわからんだろう。
「私も何が起きてるのかわからないから、ちゃんと説明しなさい!」
「え~?しらね~し~。」
なおもすっとぼけようとするベイダルさんに、ディアンガさんが咳払いした。それを聞いて、ため息をついたベイダルさんは、渋々といった感じで口を開く。
「ここへ来た時に、ディアンガと美代の事話しただろ?魔力が流れてるって。」
美代さんの名前をちゃんと覚えたの偉いじゃん。
「だから、実験してみようかなって。この中で最適なのはディードとその子供だからさ。」
うん、ディードの名前は覚えて、ディアの名前は覚えてないのね!まぁ、私もそういうタイプだから非難はできない!美代さんはおいしいご飯くれるから覚えたなこりゃ。
「絆の強い者が、魔力を共有するんだと思ったんだよ。で、やってみたらできたんだわ。俺天才!」
そう言って、エッヘンと胸をそらせるベイダルさん。勝手に何してんのこのドラゴン。
「それでどうして呪いが?」
困惑したディアがベイダルさんに聞く。
「呪いは生命力が肝心だからな。人間よりワイバーンの方が生命力あるだろ?だから、分散させればいいってわけ。」
「得意げに言ってるけど、それって一歩間違えたら、二人とも死んだってことなんじゃ?」
私が半目で指摘すると、またも目をそらすベイダルさん。このドラゴンは嘘がつけないのだな。思わずクソデカため息が出たわ。
「大丈夫だったんだからいいだろ!それに、多分ディードはその子供が死んだら後を追うタイプだと思うしな。」
そう言われてしまうと弱い。というか、結局はディードのためにディアを助けたのだろう。ワイバーンに優しいドラゴンというのは間違った評価ではなかったのだ。
「・・・・・・ありがとうございます。」
ディアが、深々と頭を下げる。
「俺が確かめたかっただけだからいいよ。」
「なんかいい事した風になってるけど、まずいこととかないの?」
未だなんか信用できないんだよなぁ。
「多分?今回は呪いだったから一緒に死んだかもだけど、普通に死んだらもう片方もとかは無いよ。ただ、お前に魔力はないが、ワイバーンは魔物だから魔力を持ってる。
美代がディアンガの魔力を保持しているように、お前はディードの魔力を少しずつだがためてくと思う。魔力のない人間が、魔物の魔力を手に入れるから・・・・・・。」
ふとディアンガさんの方を見るベイダルさん。
「そうだな。魔物になるかもな。」
おいいいいいいいいいいい!めっちゃデメリットなんじゃ????
「確かに美代はもう人間とは言えないからな。」
ディアンガさんもさらっと乗らないでほしい。
「まぁ、そもそもワイバーンは魔力がそれほど高くないから、ドラゴンから程じゃないんじゃね?」
やった本人が良く分かってないならもうどうしようもないだろう。
「助かったのだから、文句はない。」
ディアもあっさりとしてるわ。
でもまぁ、美代さんも人型だし、変形するとかじゃなければいいと思う。ドラゴンが人化できるからなだけだったら怖いけど。
「そのつながり、外すことも出来るの?」
「それが試したかった本題なんだ。ディアンガだってわかるだろ?このままじゃまずいって。」
「そうだな。」
「多分結んだ本人じゃないとこれは切れない。ちゃんと自分でけじめをつけろ。」
「・・・・・・あぁ。」
え?何この流れ。ちょっと不安。
「それで美代さんが死んじゃったりしないよね?!」
「あほか。美代はもう簡単には死なないよ。」
あ、良かった。変な空気出さないでほしい。
「ま、そんなわけで、俺が切れるよ。でも、恩恵もあると思うから、そのままでいなよ。ヤバそうだったらちゃんと責任取るしさ。」
嘘っぽーい。責任とかなさそーう。そう思う私の横で、ディアは頷いてる。チョロイと思うよー?
そんなこんなで、稲刈りからの干す作業に脱穀までを終わらせ、私たちはトウワを後にした。
とはいえ、面倒くさいので私のお家と空間をつなげたんだけどね。これで皆好きな時にトウワに行けるだろう。
そして、久しぶりのオスカラートの王都へと帰ってきた。
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