48.ディアンガさん
「ここって・・・・・・。」
私は目の前に広がる光景に、呆然と立ち尽くしていた。
「どうしました?知っている場所なんですか?」
私の様子に、アマンダさんが心配そうに声をかけてくる。
「あ、違うの。来たことは無いけど、これって田んぼだよね?」
「たんぼ?」
アマンダさんが首をかしげて聞き返してくるが、私は視線を田んぼに合わせたまま、微動だに出来なかった。
まだ少し青いが、どっからどうみても稲だ。私ははっと我に返り、ベイダルさんを見た。
「ねぇ、ここってトウワ?」
「あ?」
あ?じゃねーわ。まったく当てにならない。ベイダルさんに期待しただけ無駄だったので、グレンドさんの方を向く。
「そんな名前だった気がする。」
若干ふんわりした回答だが、やはりそうだ。
「アマンダさん!あれが米ですよ!」
「え?あ!あれがそうなんですか!」
私がぴょんぴょこ飛びながら稲を指さすと、アマンダさんはそちらを目を細めて見た。
「トウワだ!ここトウワだ!!やったー!」
ひとしきりはしゃいだ後、一同を振り返ると、龍兄弟はぽかんとこちらを見、シュレインさんとアマンダさんは微笑んでこちらを見ている。
無表情のディアだけが私の憩いである。皆、恥ずかしいからこっちを見ないでください。
恥ずかしい思いをしながら龍達について行くと、ぽつぽつと民家が出てきた。
田んぼの中に建つ藁ぶきの屋根に、漆喰の壁。古き日本の民家がある。
そして、たまに見かける人も、和服なのだ。
髪型が結い上げられていたりはしないし、中にはモンペをはいている女性もいる。なので、そう昔の設定ではないだろう。
日本人が感じる懐かしさをくすぐる風景に、私はなぜか、帰ってきたと感じるのだった。
都会に住んでたけど!
そんなくだらないことを考えながら歩くと、ひときわ大きい家の前に着いた。
今までの民家は平屋だったが、この家は横に広く縦にも高い。一見してお屋敷。村長の家って感じだ。
そんな家の引き戸を、一声かけるまでもなく無遠慮に開けて中に入っていく龍兄弟。
「え、ちょ、入っていいの?」
「あ?大丈夫大丈夫。っつか、ほら。」
その声に玄関の中をひょいと見ると、土間を上がったところに和服の男性が立っていた。
がっしりとした体形に、紺色の長い髪を一つに結び、黒色の瞳だ。きっと青龍さんだろう。
「よく来た。靴を脱いで上がりなさい。」
「な?どうせ気配を察知してるから大丈夫なんだよ。よっす。久しぶり。」
そう言いながら、龍兄弟は靴を脱いで上がる。
「おじゃまします。」
私がそう言って続くと、人間勢も同様に続いた。
「凄い・・・・・・。」
映画やアニメで見たような、立派な日本家屋。その中を歩き、これまた立派な庭の見える部屋に通される。
「素晴らしい庭だろう?皆が美しく保ってくれているのだ。」
私の声に、青龍さんが答える。
「庭だけじゃないです。家の中も物語の中に入ったみたい。」
「そちらの地方からすれば、ここは特殊だろう。作法などは気にしなくてもよい。ゆっくりくつろいでいきなさい。」
「ありがとうございます。」
妖艶な見目の龍兄弟とは違い、青龍さんは厳しそうな雰囲気がありつつも、表情が柔らかい。
何でだろう?西洋的な顔立ちなのに和服だからか屋敷に本当にぴったりで、元日本人としては一発で大好きになってしまった。
「それで?揃ってどうした?」
小さくてにこやかなおばーちゃんが出してくれたお茶とお菓子を食べ、一息ついた時に青龍さんが口を開いた。
「んー。こいつが今代の聖女だっていうから連れてきた。」
「聖女は今までに何人も見ただろうに。」
「んー。なんとなく?なんかこいつ変だし。」
おい。
「聖女のメリル・クラージュです。よろしくお願いします。」
「私はディアンガ。ドラゴンだ。」
「人と村で暮らしてるんですね。」
「そうだな。」
「今のおばーちゃんと一緒に住んでるんですか?」
「いや、村人が代わる代わる手伝いに来てくれてな。今の幸はたまたま来ていただけだ。家には美代がいる。」
「美代さん?」
「美代!」
私が聞いたからか、ディアンガさんが美代さんを呼んでくれる。
しばらくすると、きれいな女性が入ってきた。
「ご挨拶が遅れましてすみません。美代と申します。」
三つ指をついてという感じで、正座をして深々と頭を下げる美代さん。私としてはわかるが、他の人間勢はこういったあいさつに慣れていないので、驚いた顔になっている。
「メリル・クラージュです。よろしくお願いいたします。」
私も同じようにあいさつし返すと、アマンダさんたちも続いた。
「美代さんはディアンガさんの奥さんなんですか?」
一通り挨拶が終わり、美代さんがディアンガさんの横に座ったのを見て、何気なく聞いてしまった。
「いいえ。お世話をさせていただいているだけです。」
そう言ってディアンガさんを見る美代さんからは、明らかなる愛してますオーラが出ている。私は思わずにんまりとしたのだが、それをぶち壊すことを言ったのは、アホ黒龍だ。
「なんでお前まだ生きてんの?」
何言っとんじゃコラと思ってベイダルさんを見ると、険しい顔つきになっていたのでびっくりする。ベイダルさんがこんな表情をしたのは初めてだ。
「それは・・・・・・。」
明らかなる嫌悪の表情を向けられ、美代さんは困惑してディアンガさんを見た。
「なぜか生きてるな。理由はわからない。」
その困惑を受け、ディアンガさんが答えた。
「どういうこと?」
ベイダルさんに聞いてみると、無言で頭を振られた。私も困惑してディアンガさんを見る。
「美代は人間だが、五百年ほどは生きていると思う。」
「へ?」
美代さんを見ると、どう考えても二十代だ。
「・・・・・・五百年ほど前、私はここから南にある山にいたのだが、そこに娘がやってきた。聞けば大飢饉で龍神に捧げられた生贄だと言う。
私は特に姿を隠していたわけでもなかったから、人々に見られていたのだろう。そして、いつの間にか龍神として崇められていたのだ。
今までも飢饉などあっただろうに、なぜ今?とは思ったが、ちょうど私が飛んだ時に、雷雨とあいまったこと。そして、すぐに飢饉となったことで、私が怒っていると言うのだ。
娘は地に頭をこすりつけながら自分の命と引き換えに、人々の救済を願い続けている。
こじつけもいいところだから困ってしまったし、私であっても穀物を無から生み出す力はない。何もできることが無いのだ。
仕方なく、娘を連れて山を下りた。私は獣を狩り、人々に与えながら農耕を手伝って、収穫の安定化や増量を目指した。そうこうしている内に、なぜか人々と共に生きていたのだ。
そして、娘もずっと横にいた。その娘が美代だ。」
「・・・・・・。」
「ん?どうした?」
目を細め、遠くを見ながら語るディアンガさんの話を聞き、私はうつむきプルプルと肩を震わせた。
その様子に気が付き、ディアンガさんが首をかしげるが、私はもう限界だった。
「そういうのだいしゅきいいいいいいいいいいいいいいいいいい!あああああああああああああ尊い!ありがとうございますぅうううううううう!」
私はディアンガさんに手を合わせた。そういうの大好物!聖女の物語じゃなくて、そっちやるべきだと思う!
「なんかお前きめーな。」
アホ黒龍がなんか言った気がするが、聞かなかったことにする。
拝み続ける私に若干引き気味になりつつ、ディアンガさんは続けた。
「はじめは気が付かなかったのだが、美代と共に各地を周り、どの作物が風土に一番合うのか。どの作物が強いのか。色々と調べながらそれを広めた。
そうしてまたここへ帰った時、村人は歳を取ったのに対し、美代は妙齢のままだった。
そうなれば、もう人の世には戻れぬ。なのでそばに置いているのだが・・・・・・。」
最後の方はベイダルさんに言っている。それを聞いているベイダルさんの顔は険しさが抜けていた。
その日は村の中を見学させてもらい、泊まることになった。
夕飯をごちそうになったが、本格和食且つ土鍋ご飯!全私が泣きました!
久しぶりに純和食を堪能し、更には大好きな異種族恋愛展開を見てオタク万歳になってとても幸せだ。まぁ、常にファンタジーなこの世界はオタク心をくすぐりまくるわけだが、やっぱり日常になってしまうとその幸せも薄れるもんだからね。
今日はよく眠れそうだ。私は満足してそう思うのだった。
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