47.グレンドさん
「食料の価格ですか?そうですね。ここ数年は豊作ですよ。」
「えっ!そうなの???」
意外な答えが返ってきてびっくりした。
「はい。知ってる限り、どこの国もその傾向にありますね。なので、とても暮らしやすくなっています。」
アマンダさんに聞けば経済がすぐ分かるの凄い。
一応ギルドでも納品時に聞いたのだが、危惧したようなことはないとのことだった。
その答え合わせとして、アマンダさんにも聞いたのだ。
っていうか、他国の作物すら価格の流れを知ってるんだから、メイドをしながら勉強をずっとしていたんだろう。その努力と熱意に脱帽である。
「ただ、魔物の出現が狂ってきてるからな。そのあおりを受けてるところはある。」
ディアがそう答えたので、やはりこの国でも魔物の影響が出ているようだ。
なんにせよ、気にするほどではないことが分かってホッとした。
町でちょっと買い物をして、私たちは家に帰った。
家に帰っても、ベイダルさんたちは帰っていなかった。
「ちゃんとやれてるかなぁ。迷子になってないといいけど。」
私が独り言ちると、ディアが呆れたようにこちらを見る。
「お前は黒龍の事を何だと思ってるんだ?それに、ディードも頭がいい。迷子なんかには絶対にならないから安心しろ。」
「そうだねぇ。」
似たような会話をした気がしつつも、私はむにゃむにゃ返事をする。いまいちあの黒龍が賢いと思えないのだが、なんでなんだろうか?やっぱりあの軽い口調がいけないのだろうか?
いや、口いっぱいにお菓子を頬張る様子も賢いとは思えないし、クレアライトをゲボ石と名付ける感性も賢くはないだろう。
結論。黒龍はアホの子。
私の中ではもうこれが不動の答えなのである。
そうはいっても、生き抜く賢さはちゃんとあるとはわかっている。なんだろうなぁ。子供を持ったらこんな感じなのかもしれない。
大人になってしっかり独り立ちしてるとはわかっていても、子供は子供という認識のお母さん。みたいな?こう考えると厄介BBAな思考なのが理解できるなぁ。自重しなければ。
食事の用意ができた頃、件の二人が帰ってきた。
「わぁ!今日もいっぱいですね!」
ディードを始めて見た時は近くに寄れなかったアマンダさんだが、たった数日で横へやってくるまでになった。
そうなれるくらいディードは賢かった。
今も、褒められたのが分かったのか、ディードはフンと鼻息を出してドヤ顔で頭を上げた。
ちなみに、騎士団のメンバーに慣れなかったことも、炎を吐く前動作がのけ反りだということもアマンダさんは知らないので、若干のけ反っているように見えるディードにも無警戒である。知らない方が幸せなこともあるよね。
もちろん、前動作ではないのはわかっているので、他の面子も不動である。
ディードはこの家にいるメンバーにはすぐ慣れた。
というか、ここへ来た時にはとてもお利口な子という印象だった。しかし、ディアがかなり驚いていたので、騎士団ではこんな状態ではなかったのだろう。
何なんだろう?もしかしたら、騎士たちのディアへの態度を敏感に察していたのかもしれない。
ディアの話を聞くに、騎士たちから軽んじられていたのだと感じたし、ここにはそんな態度の者がいない。ディードはそれを感じてのこの態度なのだとしたら、本当に賢いのだろう。
横で鼻高々にふんぞり返っている見目麗しき黒龍よりも、賢く見えるのも仕方がない事だ。・・・・・・多分。
昼食も済み、まったりとした時間が流れている中、黒龍が口を開いた。
「そういえば、いつまでここにいるんだ?」
やっぱ賢くないと思うんだ。
「前話したでしょ。一ヶ月くらいはこんな生活だよ。」
「ほーん。その間って、出かけられないのか?」
「街を滅ぼすとかじゃないなら出かけていいよ。」
「んなことするか。じゃぁ、グレンドのとこに行こうぜ。」
あ、忘れてた。
「今から?」
「すぐ終わるし、今からでいいよ。」
こちらから誘ったみたいになっとるが。
「いいけど、三人にも声かけてくるわ。」
「あいよ。」
アマンダさんは部屋に。騎士二人は食後のトレーニングへ行っているので、出かける旨を伝えに行った。
アマンダさんはお留守番。騎士二人は来るとの事。
というわけで、やってきたわけですが。
ベイダルさんの記憶から転移をしようと思ったが、転移を経験した黒龍殿は「自分でやれる」と、転移して見せた。
しかし、出たとこがえぐかった。
「あんたばっかなんじゃないの?!なんでマグマが横にあんのよ!!!死ぬわ!」
そう、どっかの火口だったのだ。真横でボコボコマグマが音をたててる恐怖。
「なんだよー。大丈夫だったろ?ちゃんと護ってるって。」
確かに熱さは感じないが、私は元々精霊に守護されてるので、マグマだろうが平気だ。
普通の人間たる騎士二人を見ると焦げていないので、ちゃんと護りが効いているようだ。
「本当に?噴火したりしない??」
そう言いながらベイダルさんを見ると、変な顔をしている。
「ここは噴火しないよ。」
変な顔のままベイダルさんが答えるので、私も変な顔になる。
「え?どうして?」
「この火山が噴火しないのはグレンドがいるからだよ。」
「どういうことですか?」
ベイダルさんの言葉に反応したのはシュレインさんだ。
「グレンドがエネルギーを吸収してんだ。あ、自分の力にしてるんじゃないぞ?噴火しないように抑えてるって意味な。」
「なぜですか?」
「人間が住み着いたからだよ。」
「え・・・・・・。」
シュレインさんが絶句している。人間の長い歴史の中、ここにいるドラゴンは討伐対象にすらなっている。なのに、実際は人間の為に噴火を抑えてくれてるというのだ。
「そういや、弟さんが仕事してるって言ってたもんね。」
「だな。基本、グレンドはマグマが平気だし、噴火してても気持ちいいくらいにしか感じてないが、人間が来ちゃって仕方なく護ることにしちゃったんだよ。
だから、人間が近くにきた時も危ないってめっちゃ怒ってたし、近寄ってこないように眷属まで出して。」
「え?でも、家畜襲うんでしょ?」
「はぁ?あれはお礼で置かれてるんだろ?グレンドのやってることが伝わってると思ってたんだが、なんかこの前から聞いてると違う感じなんだよな。お前ら本当に薄情な?」
「申し訳ありません。昔にそういった約束になっていたのですか?」
「いや、お前らの方から差し出してきてたんだぞ?俺らは基本飯食わねーけど、さすがに火山の噴火抑えるのって力食うからさ、お礼にっつって。」
これ、長い年月によって最初の色々が忘れられてったやつなのか。薄情って言われてもしょうがないけど、長い年月の間に全てを正確に伝えるのって難しいもんなぁ。
「まぁ、お前らの寿命が短いのはわかってるから、しょうがないけどな。この国から出てってくれれば噴火させ放題で一番楽なんだけど。」
その言葉に、シュレインさんは眉をハの字にしている。そりゃそうだよね。っつか、スケールでかいな。
グダグダと話している間に、いよいよ赤龍の前にやってきた。
着いた時から見えてたけど、マグマの海の中で寝てるドラゴンめっちゃ怖い。ベイダルさんを見た後でも普通に怖い。
ベイダルさんの弟だっていうからきっとアホの子だろうけど、本当に怖い!
「グレンド。久しぶり。遊びに来たわ。」
ベイダルさんが軽やかに話しかけると、丸まっていた赤い物の形が変わる。まぁ、当然のことながら、赤龍さんが頭を上げたのだ。
「え?兄さん?・・・・・・あれ?」
若干ろれつが回っていなく、本当に寝ていたようだ。
「あ、わりわり。」
ベイダルさんはそう言って急にドラゴンの体に戻ったので、今度はこっちがびっくりした。
「ちょっとー危ないでしょ!マグマにおっこっちゃうじゃん!」
「あ、わりわり。」
私がぎゃーすかわめくと、ベイダルさんはこっちにも謝った。ノリが軽いんだよなぁ。
「え?本当に?めずらしくない?」
「たまにはこっちに来てみようって思ってさ。」
「え?ちょっと待って?人間いない?」
だんだん頭がはっきりしてきたのか、グレンドさんがガバリと起き上がってこちらに近寄ってきた。
グレンドさんは兄弟というだけあって、ベイダルさんと瓜二つのドラゴンだ。違いといえば、色が赤い事だけに見える。
そのグレンドさんが、ベイダルさんの影になってた私たちを覗き込んできた。
「え?兄さん?なんで人間連れてきたの?」
「あ、えっと、この女が聖女なんだよ。」
「えぇ?あー・・・・・・。わかった。ちょっと待って。」
グレンドさんはそう言うと、ベイダルさんの向こうに引っ込んだ。というか、基本目の前がベイダルさんで覆いつくされてるので、顔を引っ込めたので見えなくなっただけだが。
「当代の聖女。私がグレンドだ。よろしく。」
そう声が横から聞こえたと思ったら、人間型になったグレンドさんがベイダルさんの足元から出てきた。
それに合わせ、ベイダルさんも人間型になる。
「あ、初めまして。私は聖女をやらせてもらっています、メリル・クラージュです。よろしくお願いいたします。」
私はぺこりと頭を下げた。
他人がいるのに気が付いて口調が変わったグレンドさんは、ベイダルさんよりもしっかりしている印象だ。というか、ベイダルさんがドラゴンって感じじゃないノリの軽さなだけだけど。
見た目は基本同じっぽいが、髪型が違う。
ベイダルさんは長い黒髪をハーフアップにしているが、グレンドさんは赤い髪のウルフカットで瞳はベイダルさんと同じ金色だ。
「で、兄さんはなぜ聖女と行動を共にしてるんだ?もしかして、魔王を倒すのか?」
「いいや?面白そうだったからついてきただけ。」
えー?そんな理由だったの?
「そうか。兄さんは暇そうだし、そんなものか。」
納得するんかい!
「まぁな。」
そしてそれを肯定するんかい!
「面白ついでに魔王を倒してくれたら私としてはありがたいんだけど。」
せっかくなので、さらっとお願いしてみる。
「それはやだ。」
即答かい!
「チッ。」
「な?」
舌打ちした私を指さしながら、ベイダルさんはグレンドさんにそう言った。それに対し、グレンドさんは肩をすくめるのだった。
「まぁ、こいつと行動しつつ、人間の飯食ったりしてるんだよね。俺もさ、ディアンガとフィアルの気持ちが知りたいし、ちょうどいいかなって。」
「ふむ。で?面白かったのか?」
「まぁ、ぼちぼち?まだ始めたばかりだしな。」
「そうか。」
「そういや、お前の事、人間はすっかり忘れてるみたいだぞ。」
「ん?」
「家畜襲ってるとか言ってたわ。」
そう言って、ベイダルさんはケラケラと笑っている。ばらすなばらすな!
「まぁ、人間なんてそんなものだろ。別に期待はしていない。」
一刀両断である。
「あの、お話し中すみませんが、私はこの国の王宮騎士のシュレイン・ハルドリックと申します。人間のご無礼をお詫びすると共に、お護りくださっていたことに感謝いたします。」
二人の会話にシュレインさんが割って入り、頭を下げるが、グレンドさんは首を振った。
「赤子を危険からよけるのは当然のことだ。その赤子が粗相をしたところで怒ることもあるまい。気にせずともよい。」
グレンドさんも、人間のことはか弱い護るべき対象だと思っているようだ。
「家畜も負担になるようならば供える必要もない。差し出されていたから受け取ってはいたが、特にこれといって大したエネルギーにもならないしな。」
「そうなのですか・・・・・・。」
あら、大して家畜のお供えも役に立っていなかったようだ。シュレインさんもしゅんとなっている。悲しいねぇ。
「俺らには魔素の多い魔物の方がましだからな。大抵魔界に行った時に食ってるんだ。ただ、アイツら消化に悪いからなぁ。その点人間が食うものって、消化しやすいんだよな。
あ、グレンド知ってたか?俺らのゲボ石、人間が拾って魔石として使ってるみたいだぜ。」
「は?」
グレンドさんがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしているので、やっぱりあれは恥ずかしい物のようだ。
「まぁさ、そんなわけで、俺ちょっと遊んでくるから、次起きた時いないかもだし、来たんだよね。」
「じゃぁ、私も行く。」
え?
「あ、あの、ちょーっとすみませんけど、次起きるのって五十年後とかですよね?」
「そうなのか?」
ん?
「え?百五十年周期で起きてくるって。」
「特に決めているわけではないが。なんとなく起きた時にお供えされてるからそのままという感じで。」
おっと?これはあれか?人間も一時間半周期で目覚めがいいタイミングになるっていうけど、それが百五十年になってる感じなの?
規則正しいにもほどがあるだろう。
「起きてしまったし、このまま兄さんについて行く。別に火山も大丈夫そうだしな。」
「ウェーイ。一緒にいこうぜー。」
人間勢が、若干遠い目で顔を見合わせると、テケトードラゴンさんたちが勝手に話をまとめてきた。
我々が反論することも無いので、考えるのをやめて、従うことにする。
「で、ベイダルさんたちはこれからどっか行くんだ?」
「特に決めてないし、お前について行くわ。」
「え?いや、別にこれといって特にどこかへ行く予定もないんだけど。」
「そうなのか?じゃぁさ、俺たちと一緒に、他のやつらに会いに行かね?せっかくだから聖女見せに行くわ。」
なんか面白いこと思いついたといわんばかりのニヤケ顔なのが嫌な感じだし、そう言われても困ってしまう。
「いや、でも・・・・・・。」
「暇なんだろ?いいじゃんいいじゃん。」
何ちゅーノリの軽さや。
「でも、この人たちが剣の稽古とかしないといけないんだよー。」
と、シュレインさんとディアを言い訳に使ってみる。二人が白い目でこちらを見てるのは無視しよう。
「人間の剣技なら、ディアンガに習えばいい。」
「え?ディ?」
グレンドさんが言うが、何のことかわからない。
「ディアンガは俺らの仲間のドラゴンだよ。あいつは変わっていて、人間と暮らしているんだ。」
ベイダルさんが説明してくれたので、理解はできた。
「兄さん、ディアンガやルーシルはいいが、フィアルは止めておいた方がいい。」
「なんで?」
「あれも今は人間と暮らしているが・・・・・・。あいつの性格の悪さが如実に出ている。私は好かない。」
「なんだよ。逆に気になるわ。」
「私は反対したからな。」
そう言って、グレンドさんはプイっと横を向いた。なんだか仲悪い子がいるようだ。
「剣を習えるというのは、どんな感じなんですか?ドラゴンが剣を使うのですか?」
話の流れはなんのその、ディアが龍兄弟に聞く。
「見てみればいい。独特な剣技だが、お前たちよりははるかに強い。」
グレンドさんがそう言うが、ベイダルさんだって初めて剣を持っても騎士二人よりは強いと思う。でも、騎士二人の顔に、興味の色が見えたので、私はため息をついた。
「まぁ、暇だし行ってみますか。とりあえずお家に帰って用意しよう。出発は明日ね。」
そんなわけで、私たちはディ何とかさんというドラゴンに会うことになったのだった。
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