46.グレートディスゴ
「こうするのはずいぶんと久しぶりな感じがするねぇ。」
「そうですね。」
私とシュレインさんは、二人で森へ来ていた。
アマンダさんは近くの町の物色をしており、それにディアが付き添いしてくれている。
ディアは今のところベリンダールの騎士であるし、許可をとっていないのでギルドでカードを作るのは止めておくとの事。
ベイダルさんとディードはお肉を狩りにどこかを飛んでいる事だろう。
心配ではあったが、美味しい大鴨を捕まえてきてくれ、ちゃんと血抜きまでしていた。
やればできる子だった黒龍さんには、今後ともおいしいお肉を提供し続けていただきたい。
そして、私たちは現金調達の為に久しぶりに二人でギルドの依頼を受けたのだ。
生きていくにはマネーパワーが必要なのである。
「アマンダさんにすっかり寄生しちゃってるからね。取り戻せるようにガンガン稼いでいかないと。」
「そうですね。」
お前はいいともの客席かい!あ、若い子にはわからないことを言ってしまった。まぁいい。
「で、このグレートディスゴって、どんなやつ?」
例によって、テケトーに報酬が高い物をチョイスしたので、その魔物が何なのかは全く知らない。
「大きな猪型の魔物ですね。」
よくあるやつである。
「あー、だから納品もするのか。」
そう、今回は討伐と倒した魔物の納品までがセットになっている。もちろん、それを二人で持ち歩けるわけがないので、手渡された魔道具を貼り付けてビーコンのように使うようだ。
「どの程度の大きさ?」
「熊よりも大きいですね。」
結構大きいのはわかったが、熊っていっても種類によってかなり大きさが違うからなぁ。なんてことを考えていたら、シュレインさんが立ち止まった。
「どうしたの?」
「この先にいるかもしれませんね。ほら、獣道ができている。」
そう指さす方向には確かに道があった。あったのだが。
「いやいやいや、これって獣道っていう?普通に人が通れるけど。」
特に管理されているわけでもない森なので、低木や草が結構ある。
その中の明らかな道は、登山道のように見えるほどに踏み固められ、そこだけ草が全く生えていない。
「それくらいの大きさってことですよ。」
いやちょっと待て。熊の獣道だってここまでじゃないと思うし、そんな大きな動物が森にいるものなの?
と思った私の頭には、恐竜時代のようなイメージが浮かんだ。いやいや、そんなまさか・・・・・・。
私は自分の想像を否定し、頭を振った。
「ねぇ、その猪は肉食だったりする?」
「基本は草食です。基本は。」
うん。二回言うのやめよっか?
「それって、超貴重な生物だったりする?」
「オスカラートでは北方にしかいませんが、ベリンダールではどうでしょうか?」
生息地域ど真ん中な予感がすることを言いおる。ということは、それが割とうじゃうじゃといる可能性があるのか。
まぁ、考えても仕方がないので、おっきめの生物に設定して索敵魔法を唱える。すると、居たよ居た居た結構居るよ!
しかも、近辺にいる個体が五体いるが、同じような距離で散らばっている。この森は猪ワールドだ。
「これ、下手すると気づかれてるかもしれない。」
「何かありました?」
「いやぁ、たまたまかもしれないけど、皆同じような距離にいるんだよねぇ。」
「それは気が付かれているかもしれませんね。」
「猪と同じような習性なの?」
「そうですね。体躯が大きいだけです。」
それが脅威なんだけど。
「とりあえず、その道をあっちに進んでみよっか。」
そう言って道の先を指さし、それを見たシュレインさんは頷いた。
しばらく歩いたが、やはり距離が一定に保たれているように思う。
「ねぇ。ちょっと戻ってもいい?」
「いいですよ。」
私たちは来た道をひき返し始める。すると、しばらくしてやはりその動きに合わせて猪も移動している。
とはいっても、五体いた猪は三体になっているので、警戒範囲から離れたものはついて来ているわけではないようだ。
「やっぱり気が付かれてるね。このままじゃいつまでたっても遭遇しないかも。」
「それは困りましたね。」
そう言うシュレインさんは無表情なので、本当に困っているようには見えない。
「一気に距離縮めようか。強化魔法強いのかけるから、動きの速さに気を付けてね。」
私が強化魔法をかけると、シュレインさんは困った顔になる。猪よりも困るな。
「木にぶつかりそうで怖いのですが。」
「王宮騎士様ともあろう方が、何をおっしゃっていますか。これくらい軽く使いこなしてくださいよっと!」
私が走り出すと、二拍程度あけてシュレインさんもついてくる。きっとため息でもついていたんだろう。
倍率を同じにしているので、もちろん軽く追いつかれる。元の運動能力はシュレインさんの方が高いのだ。
「道沿いでいいんですか?」
「もうすぐだよ。」
私たちの急激な移動に、猪も走り出しているようだが、こちらの速さには勝てない。というか、なんか蜘蛛の子を散らすように逃げて行っている。猪ってこんなんだっけ???
「見えましたね。」
そう言って、シュレインさんは更に速度を上げ、剣を抜く。次の瞬間には、首をかっ切られた猪がいた。
「うわでっか!」
高さが三メートルはあるだろう大きさだ。
止まろうにもスピードが乗って追い越しつつも振り返ると、血しぶきを上げ猪の巨体が倒れる。その横には血をかぶるシュレインさんが立ってる。構図的に怖すぎぃ。
「瞬殺だねぇ。」
「この位なら。」
そうは言っても、この依頼もBランクなのだが。これがインフレか?
そんなことを思っているのを読み取ったのか、シュレインさんは苦笑した。
「この魔物はこちらと臨戦態勢になると、全てを薙ぎ払うかのごとく直進してきます。この巨体ですから、そうなってしまうとケガだけで済まないことが多いので、基本は即死させるような強い魔法をかけます。そうすると、死体の欠損が激しくなってしまうので、死体をきれいに持ち帰るというこの依頼はランクが高いんだと思います。」
「魔物の強さだけが基準じゃないのね。」
「はい。多分ですが、討伐だけならランクが下がるのではないでしょうか。」
そう言いながら、無造作に袖口で剣の血をぬぐうシュレインさん。浄化魔法で袖は汚れないのを計算に入れているのを見ると、私と一緒の戦いになれたのだなと感じる。
「まぁいいや。血抜きをしちゃうね。」
私は魔法でイノシシを逆さに浮かせる。重力に助けられ、血が抜けていく。
「結構な買取価格だけど、こいつっておいしいの?」
「すみません。私は食べたことが無いですね。」
貴族様の食卓に上がるものではないようだ。
しかし、こうも大きいと食べごたえはありそうだ。冬に向けての食糧確保なのかもしれない。
日本とは違って、食卓に乗る肉といえば基本ジビエだ。狩りをしないと肉にはありつけない。
そして、おいしく食べるには狩り方や処理のうまさがものすごく重要になる。
魔物がいる世界なだけあって、狩りも簡単ではない。処理をしている間に別の魔物がやってくることもある。
そうすると、肉食というものはかなりの贅沢になるのだ。
これだけの肉だ。村総出で買ったとしても、かなりの金額を負担しないと肉を食べることはできないだろう。
「うーん、不作だったりしたのかな。」
「どういうことです?」
「ちゃんと収穫をしていれば、肉を買うなんて、そうそうしないと思うんだ。でも、お金を出してでも食料を買わないと冬を越せないのかなって。」
「しかし、その場合でも肉を買いますかね?」
「肉より野菜の方が安いのはあるけれど、不作が村一つだけじゃなかったら?周辺からも買えないとなれば肉に行くしかないかも。」
「確かにそうですね。」
「魔物の変化みたいに、そういった方向でも異変が無いといいけれど。」
いつ魔王が復活するかわからないとなると、魔物が強くなる状況が何年も続く可能性があることになる。
更に不作なんてことが起きれば、人がすさんでいくのは目に見えている。
いかに聖女だろうが、世界中の魔物を倒し、世界中の不作をどうにかすることができるわけではない。
「まぁ、単なる思い付きだし、実際は祭りに使うとかかもしれないからね。外れていることを願おう。」
私はそう言って、町へ歩き出す。シュレインさんは無表情でそれに続くのだった。
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