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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
45/102

45.平和な時

 ベリンダールの王都を出た私たちは、ある程度進んでから道を外れて転移した。


「このために俺にはこの部屋だったんだな。」

 ディアは角部屋で、掃き出し窓からディードのいる庭と小屋に出れるようになっている。

「基本的に世話はディアがやるだろうからこの方が楽だし、ディードも安心するでしょ。」

「そうだな。」

 そう言いながら、ディアは真面目な顔をしてこちらを見た。なんだろうと小首をかしげて見返すと、ディアは跪いて頭を下げる。

「俺の名はディオニージ・アレオッティ。聖女メリル、本当にありがとうございました。」

 えええええ!?

「ちょ、ちょっと!別にそんなことしなくてもいい・・・・・・って、ディアって名前じゃないの?!」

 私の言葉に、ディアは呆れた顔を上げた。

「そっちに反応するのか。騎士団は短い愛称をつけてそれで呼ぶんだ。」

 戦闘中に長ったらしい名前を呼ぶの大変だもんね。その気持ちわかるわぁ。

「ディ・・・・・・え?」

「ディアでいい。これからはお前のために働くから、使ってくれ。」

「はぁ?!いやいやいや、そういうのいらないし!シュレインさんだけでも持て余してるのに本当に止めて!」

 私の真剣な拒否に、ディアは苦笑した。

「そういうだろうとは思ったさ。お前はいつも通りでいい。俺は俺の思うようにやっていくよ。」

 なんだか面倒なことが増えた気もするが、口調が変わらないのは安心した。


「それでいいならそれでいいけど。あのさ、ついでに聞いていい?」

「あぁ、なんだ?」

「ディアって、なんか変なもの持ってない?」

「は?」

「なんていうか、変な魔力の流れがあるんだよね。正直あまりよくないものだと思うの。」

「いや、何も心当たりはないが。」

「うーん・・・・・・。ベイダルさんならわかるかもだから、聞いてみよっか。」


 私とディアは居間へ移動する。居間には案の定ソファーに寝そべりながら焼き菓子を食べるベイダルさんがいる。行儀悪いなぁ。

「ちょっとー。食べこぼさないでよ?」

「大丈夫大丈夫。」

 全然大丈夫じゃない気がするが、汚したら自分で片付けさせればいいと思い、話題を変えた。

「ベイダルさんから見て、ディアってなんか変な魔力の流れがない?」

「んあ?あぁ、内側から出てるやつな。なんか変なもの食ってるんだろ?」

「えっ?!」

 ディアがめちゃくちゃ驚いてるが、そりゃそうだろう。

「呪いだな。初めて見る術式だから正確なことはわからん。」

 そう言って、ベイダルさんはまた口の中にお菓子を詰め込む作業に戻る。

「えええ?呪いって。なんでだよ!」

「さぁ。でも、食べ物なら、その内どうにかなるんじゃない?二十八日周期で体の細胞が入れ替わるって聞くし。」

「二十八日?!」

「体調とか悪いところないの?」

「無い。」

「むしろその呪いで強化されてるとかなのかなぁ。ディア強いし。」

「俺は前からこうだったが・・・・・・。」

「まぁ、ずっと解けそうになかったら、解毒ポーションとか試してみよう。よくわからないものに手を出すのまずいから、様子を見た方が良いかと思うよ。」

「わかった。」


「あの、メリル様、ちょっとよろしいですか?あの荷物のことで。」

 私たちの会話が終わったのを見て、ベイダルさんにお菓子を出してくれていたアマンダさんが、おずおずと声をかけてくる。

「あ、もちろん。アマンダさんの部屋に行ってもいい?」

「はい。」

「じゃぁ、二人共それぞれくつろいでてね。」

「あぁ。」

 ディアは返事をするが、ベイダルさんはお菓子に夢中で気が付いていないようだった。黒龍の威厳は無い。



「あの、やはりこれはいただけません。あれだけの力のあるものだと知って国外に持ち出したわけですし、やはり一商人が持っていい物ではないと思いますので。」

 アマンダさんはそう言って、クレアライトの塊を差し出してきた。

「本当にいいの?」

「はい。」

「結婚は?」

「・・・・・・しない道を歩めないか、ちゃんと話し合ってみます。」

「わかった。これは私がちゃんと保管するね。」

 アマンダさんがそういうのなら、私がどうこうするわけにもいかないので、クレアライトを受け取った。

「でも、大丈夫そう?」

「どうかわかりません。ただ、国にいる場所は無くなるのではないかと思います。」

 私みたいな村娘ですら、結婚しないことはほぼない。貴族ともなれば、色々なしがらみや政略の何たらで結婚しないなんてことが許されないのだろう。

「でも、こうやって他の国に行くと、オスカラートの常識外の事も起こるのだと、実感させられますね。」

 刺繍の先生も言っていたことだ。二人は話が合うかもしれない。

「私は全力でアマンダさんを応援するよ。まずはポーションかな。あれはアマンダさんの家との契約じゃなくて、アマンダさん個人との契約なんだからね。」

「・・・・・・ありがとうございます。私も個人資産を持たないといけませんね。」

 家のお金で材料を買う内は、個人との契約といっても通用しないのだろう。

「何かいい方法があるかなぁ。」

「自分でやらなくては意味がないですし、時間も出来ましたから一人で考えてみます。」

「えええ?!違うんだよー!仲間なんだから、一緒に考えたり手伝ったりするよ!ぜひ使ってよ!」

「でもそれでは・・・・・・。」

「じゃぁ、投資!アマンダさんの事業ときたら絶対当たるって信じてるから、投資する!」

「メリル様・・・・・・。ただ、ありがたいとは思うのですが、メリル様はお金をお持ちなんですか?」

「技術!技術で投資!調合や治療なら任せて!何なら冒険者ギルドのクエスト網羅する?!」

 そこまで言って気が付いた。

「あ・・・・・・。ベイダルさんがいるんだし、ドラゴン退治で詐欺れないかな!」

「それは止めてください!」

 私の天才的なひらめきに、アマンダさんの叫びがこだました。いいと思うのに。おかしいなぁ。



 居間に戻ると、ベイダルさんがお菓子を食い尽くし、昼寝をしている。このドラゴンは・・・・・・。

「あーもう寝るなら自分の部屋に行きなよー。」

「んあー?俺はこの椅子が好きなんだよー。」

 そう言って、こちらに背を向けるように器用に寝返りを打つベイダルさん。落ちちまえ。

「ベイダルさんにこたつなんて与えたら、一生出て来そうにないね。」

「こたつ?」

 ベイダルさんは興味を持ったのか、顔を少し動かした。少しってところが怠惰である。

「温かい机・・・・・・うーん、説明しにくい。」

 ちなみにうちは靴を脱いでスリッパで過ごさせているので、日本型はアリである。

「何もわからん。」

 興味を失って、顔を元に戻しやがるベイダルさん。しかし、こたつくらいなら、精霊王に頼まなくても自力で作れそうな気がするので、いつか導入してみたい。


「そういえば、ディアは?」

「お前といたやつと一緒にどっか行った。」

 ざっくりとした説明だが、アマンダさんは部屋に残ったので、多分シュレインさんといるのだろう。となると、剣の稽古でもしてるのかもしれない。

「うーん、じゃぁ、ちょっと狩りにでも行こうかな。」

 私が小さく呟くと、ベイダルさんがむくりと起き上がった。

「狩りって?」

「ディードの餌をとってこないといけないんじゃない?ディアに言えばディアとディードで行ってくるだろうけど、多分武闘大会に向けて稽古してるんじゃないかと思うし、それなら暇な私が行こうかなって。」

「それなら俺とワイバーンが行ってくる。」

「えっ?!」

 ベイダルさんがそんなことを言うので、びっくりしてしまった。働こうという意思があるのか・・・・・・。

「やってくれるのはありがたいけど、二人で大丈夫?っていうか、ちゃんとディアに言っておいた方がいいと思うよ。」

「大丈夫だって。ワイバーンも感謝してるから声かければちゃんとやるよ。それに、お前たちのための肉だってとってきてやるよ。」

 いや、そんなドヤって胸そらされても・・・・・・。それに、どっちかっていうと、あなたが心配なんですよ。

「人間の食べる肉ってどれかわかるの?」

「任せろよ。めっちゃ美味いのとってきてやるからな!」

 何が黒龍の琴線に触れたのか、ウキウキとディードの方へと消えていく。まぁ、アホそうに見えて誰よりも強いドラゴンだ。大丈夫だろう。・・・・・・多分。



 しかし、こうなるとやることが無い。

 調合でもしようと地下へ降りると、稽古場から騎士二人の打ち合う音が聞こえる。仲良くやってるようでよかった。


 調合をはじめ、聖女として城に来てからの事をぼんやりと考える。

 正直、家族以外とこんなに長く生きたことが前世も現世でもなかった。

 旅に出てからはアマンダさんと同じ部屋だったし。

 人間生きてればおならも出るしウンチだってしたい。それらがばれるのって恥ずかしいし嫌である。

 でも、それらも含めて他人とうまく暮らしてきたのが、なんだか凄いと今更に思うのだ。


 ここで過ごす間はプライベートはきっちり分けられるから心配は無くなった分、皆で暮らすのが楽しみでもある。

 そんなに長くは続かないだろうこの平和な生活が、皆にとっても有意義であればいいと願うのだった。

 

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