41.ベイダルさん
正直疲れていた。今すぐにでもベッドにダイブしたい。
しかし、それが許されるのは一体どのくらい先なのだろうか?
部屋の空気はさながらお通夜のよう。誰もがうつむき何もしゃべらない。
たった一人が、ご満悦の顔で焼き菓子をがつがつと食べている。
「これマジうめぇ。ナニコレマジうめぇ。」
当のご本人は、語彙力をどこかに捨て去ったようだ。まぁ、わかる。おいしい物はおいしいとしか言いようがないからね。
「もっとお出ししましょう。」
第二王子が呼び鈴を鳴らすと騎士が入ってきて、菓子をもっと用意するようにという何とも言えない用件を聞いて外に出て行く。
シュレインさんもあんな調子だったんだろうな・・・・・・と、他人事のように感じた。
おかわりがもらえると聞いて、焼き菓子を食べつくした本人は目に見えない尻尾をぶんぶんと振り、ニッコニコで姿勢よく座っている。お前は犬か。
またも沈黙が流れたので、もう無理だった。
「とにかく、このまま国へ帰ろうと思いますので、我々は帰ってもよろしいですかね?」
私はうんざりとした顔で言った。
「それは・・・・・・。」
第二王子が渋い顔で言いよどむ。ずっとこの調子で、引き留められているのだ。
時間は二時間ほど前にさかのぼる。
城に帰還したワイバーンの卵採取隊は、あわただしく解散した。
それも道中の事を思えば当然だろう。
一人は騎士たちに抑えられ、どこかへ連れられて行ったし、冒険者たちは顔面蒼白のまま集められ、これまたどこかへ連れていかれた。
そして、私とシュレインさんともう一人、黒い肌に漆黒の長い髪をハーフアップにした金色の瞳の男は騎士団長と少年に連れられ、またも見慣れた部屋に連れてこられたのだ。
まぁ、お気づきだろうが、男とはベイダルさんだ。
「ついてくるの?!」
「後でゲボ石壊すからな。逃げられたらめんどくせーし。」
「逃げないよ!ちゃんと来るから!」
「えー。待ってるの暇だし。」
そんな会話のままのっしのっしとついてきた黒龍だが、でかさゆえに圧迫感がやばい。
会話をしている私にはそのアホさが分かっているが、他のメンバーにとってはいつ食われるかという恐怖との戦いになっている事だろう。
それに、狭い山道に巨体がぶつかって、色々と崩れてきている。今もでかい岩が落ちた。あんなん当たったら普通に死ぬわ。
そんな状態なので、よくありがちな人化術ができないかと聞いたら、あっさりできると言ってこの姿になったのだ。はいはい、ありがちありがち。
で、事情を話して今に至るわけなんだけど、この部屋には第二王子以外にこの国の住人がいない。
ベイダルさんもこの国の住人といっていいのかわからないし。
騎士団長と少年はさっさと出て行った。
なので、せっかくだからとワイバーンの卵取りの時にいけにえを出してるんじゃないかも含め、話してみたのだ。
第二王子はかなり渋い顔になった。そりゃそうだろう。
「本当にそうだったとして、神に誓って私はそれを知らなかった。」
アマンダさんに真剣に言っていたのだが、それは正直判断できない。
そして、騎士団の報告待ちと、どこかへ使いをやっていた。それで、ここで我々も待たされているのだ。
残念ながら、一番先に到着したのは追加の菓子だった。
ベイダルさんはご満悦だが、結構食べたからか、私とシュレインさんにも一個ずつ分けてくれた。
アマンダさんと第二王子は知らない人認定なのか、見向きもしない。
「じゃ、菓子も食ったし、壊しに行こうぜ。」
「いいねー。今すぐ行きたいわー。」
白目になった私が返事すると、第二王子が慌てて聞いてくる。
「何をしに行かれるのですか?」
「ん?こいつと約束してることがあんだ。菓子はありがとな。」
そう言ってベイダルさんが立ち上がったので、私も立ち上がる。今だ!紛れて逃げるぞ!
「シュレインさんとおねーちゃんも行くよ!」
しれっとそう言って、第二王子の横を通り過ぎた時、ノックが響いた。
「お二人ともちょっとお待ちください!どうぞ!」
天の助けとばかりに、第二王子が扉を開けるように言うと、知らないおじさんおばさんおにーさんが入ってきた。身なりがいいので、若干嫌な予感がする。
「これは、黒龍ベイダル様!初めまして。ベリンダール国王のアベラルド・アレ・ベリンダールと申します。」
「王妃のグラツィエッラと申します。」
「第一王子のキアッフレードと申します。」
そう言って三人が跪いたので、お調子者の黒龍は顔をほころばせた。ちらりと見ると、第二王子も跪いている。
「ぬははは!苦しゅうない!」
何つーチョロさだろう。頭が痛い。
「何やら我が国の騎士が、黒龍殿の前で不遜な態度をとったとのこと。心から謝罪申し上げます。」
「まぁ、ここで世話になってるワイバーンもいるみたいだしな。今後は大切に扱うのならそれでいいよ。」
「寛大なお心、痛み入ります。必ずご意向に沿うようにいたしますので、これからもお見守りいただけるよう、お願い申し上げます。」
王の言葉に、ベイダルはうんうんと頷いている。まぁ、それは本当にちゃんとしてほしいところである。
「それと、聖女様にもご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。」
王が不動のままそう言う。結局、聖女って報告したんだなぁ。魔族設定が勝つかと思ってたんだけど。
面倒くさくなるのが嫌なので、しれっと自分じゃないという体で行こうとしたのだが、アホドラゴンが肘でつついてくるので、あきらめた。
「あー、まぁ、騎士団ホント酷そうなので、どうにかした方がいいですよ。国の品性が疑われますからね。少なくとも私はもうここには用がないなって感じですわ。」
「お前、謝ってんだからそんな風に言うなよなー。」
と、ベイダルさんにたしなめられる。お前は余計なこと言うなや。
「ベイダルさんはいいでしょうけどねー。私は魔族だと疑われたり、ワイバーンにエサとして与えられたんですからねー。」
「お前はそれくらい痛くもかゆくもねーだろ?子供たちが言ってることなんだから、許してやんなよ。」
子供・・・・・・。まぁ、気の遠くなるような年月生きてるドラゴンからしたら、人間なんて赤子の内に散りゆく命なのだろうな。
「その理屈だと、私は子供の中の更なる子供なんだから大切にされたいわけよ。」
「まぁ、そう言われたらそうだけどな。持つものは持たざる者に優しくしておいた方がいいんだよ。かわいそうだろ?」
絶対的強者の超級高みの発言である。ドラゴンや聖女からすれば、王は弱くてかわいそうな存在なのだ。
と、またもノックされた。扉に近かったので私が開けてみたら。知らないおじさんと少年が立っていた。
「え、あ・・・・・・。」
中では王族が跪いている。少年は驚いたが、おじさんがスッと跪いたので、慌てて同じように跪いた。
もはやカオスである。許す以外にこの場が収まることは無いのだ。なんだかなー。
「まぁ、わかりました。皆さんもういいですよ。」
私の面倒くさそうな声に、王族が立ち上がり、また腰を折って礼をした。
「ありがとうございます。」
このままだと面倒くさそうなので、逃げるが勝ちである。
「あとは国の皆さんで協議なさってください。私たちは用があるので、これで失礼しますね!」
そう言って、私がベイダルさんをぐいぐいと押しながら部屋から出る。
それを見て、シュレインさんとアマンダさんがついてくる。これでいいだろう。知らんけど。
「アマンダさんにはなんか悪いことしちゃいましたね。第二王子とどうするんです?我々とは関係なく、ちゃんと自分たちで納得できる感じになって欲しいんですけど。」
「大丈夫です。」
何がどう大丈夫かは分からないけど、大丈夫だというのだから信じておく。
「とりあえず、二人は宿屋に行ってもらっていいですか?シュレインさんは例の物、渡しておいて。私はチャチャっと用事を済ませてくるわ。」
「わかりました。お気をつけて。」
二人に見送られ、私とベイダルさんは人気が無いのを確認して転移した。
「あー、これで移動したのか。」
転移でワイバーンの巣の手前へやってきたので、ベイダルさんはうんうんと頷いた。
「そうだねー。さっきは一回クレアライトを置いてからまたここに来たんだよ。」
「急に山からいなくなったと思ったけど、すぐにここに来たから、どっか寄ったんだと思ってなかったわ。」
まぁ、移動にかかった時間だとでも思ったのだろう。そして、その勘違いからシュレインさんが焼かれたのである。
「本当にごめんね。ベイダルさんはいい人だったのに。」
「良いよ。」
基本、このドラゴンからしたら誰もかれもが保護対象なのだろう。小さな者たちの行動など、この偉大なドラゴンにとっては些細な事なのだ。
「じゃぁ、石のとこに行くね。」
そう言って飛び立つと、ベイダルさんは愉快そうに笑う。
「自分で飛ぶのと違って、なんだかおもしろいな!」
操縦は私がやっているので、ベイダルさんからすると引っ張られるみたいにして飛んでいるはずだ。
「自分で操作してみる?」
「ふんふん。どうやるか見えたから自分でやるわ。」
そう言うと、一瞬止まったものの、私よりも早く飛んでいく。
私は人間では一番の魔法使いだろう。でも、それ以上にベイダルさんの方が魔法に優れているのだ。
「あははは!これいいな!面白いわ!」
「ちょっとー!どこ行くの!場所知らないでしょ!」
アホドラゴンがどんどん行くので、急いで追いつきつつ叫んだ。
「あ、そうだったわ。」
それからはちゃんと後ろをついてきたが、途中で飽きたのか、ドラゴンの姿に戻って翼で飛び始めた。
「やっぱこちの方がしっくりくるわ。」
そりゃそうだろう。
「一個目はあそこだよ。早い者勝ちね!もらっちゃうぞー!」
「はー?!ふざけんな!」
なんだかんだいって、楽しい時を過ごしたように思う。
三つ壊したころには夜が見えてきていた。
「本当にもう無いのか?」
「無いよ。っつか、精霊と話せないの?」
「小さい奴はなー・・・・・・よくわかんないんだよな。」
まぁ、確かに小さい妖精はしゃべり方が独特なので、要領を得なかったりする。
「本当にないわよ。」
私のすぐ後ろから声が聞こえ、ちょっとびっくりした。
「あぁ、セラか。久しぶりだな。」
「えぇ。お久しぶりですね。」
光の精霊王セラが現れ、ベイダルと話している。
「聖女が現れたということは、わかっているんでしょう?あなたたちドラゴンは、また何もしないつもりなの?」
「俺たちは、なるがままを見守るだけだ。手出しはしないと決めている。」
「なぜなの?あなたたちにとっては、敵じゃない。」
ん?どういうことだ?
「それは違う。俺たちと戦ったのは元の存在だ。お前たちが魔王と呼ぶものはその欠片でしかない。
欠片であっても違うものは違うし、そもそも、あっちが戦いを仕掛けてきたから倒したまでだ。俺たちは戦いを望んだわけじゃない。
だから、俺たちはあれがこの世界を亡ぼすなら、仕方がないと思っている。」
「あなたたちはまた別の場所に行けるからいいかもしれない。でも、ここには多くの命があるのよ。」
「あれもまた、一つの命だ。重みは変わらない。」
よくわからないけど、精霊王とドラゴンたちは共闘できないようだ。というか、ベイダルさんの口調が違くない?
「それに、結局お前たちも自分たちが戦わずに済むことを望んでいるから、聖女なんてものを生み出すんだろう?」
「私たちが欠けることができないのはわかるでしょう?」
「わからん。欠けてみたらどうなるかがわかるかもな。」
「取り返しがつかなくなるのよ。」
「お前たちが言ってるだけだろ?俺たちはそれが本当かは分からない。ただそれだけだ。」
「私たちがいなくなれば、精霊がいなくなる。精霊がいなくなれば、魔素が消える。そうしたら世界は滅ぶわ。」
「元は魔素なんてなかったから大丈夫だろ。」
「・・・・・・もういいわ。無駄だった。」
セラはそう吐き捨てて消えた。
「知り合いなんだねぇ。」
「まぁな。古くからいるから知ってるだけさ。仲がいいわけじゃない。あいつらは勝手なんだよ。自分たちが一番かわいい。そりゃ生物は皆そうさ。
でも、あいつらだって持つものだ。持たざる者を助けられるだけの力があるのに、自分に関係がないなら絶対に手を貸さないやつらさ。」
私にとってのイメージとは違うが、ベイダルさんの言うことが本当ならば、私は精霊王たちの駒だからこそ手を貸してくれるだけなのだろう。
もしかしたら、魔王が死んだあとは精霊が手の平を返す可能性があるのか。そうでないと信じていたい。まぁ、不安要素はあるけれど。
というか、元は魔素がなかったとか言ってたけど、どういうことだろう?
「まぁ、いいや。で、お前たちってどこに行くんだ?帰るって言ってたけど。」
「え?オスカラートだよ。」
「ふーん。じゃぁ、俺も行くわ。」
「は?」
「あっちにグレンドがいるからな。たまには俺から会いに行こう。」
「グレンドって、オスカラートにいるっていうドラゴンだよね?」
「そうそう。」
「寝てるって聞いたけど。」
「だなぁ。あいつは真面目だからな。働いて疲れてるから寝てるんだろ。まぁ、起こしても大丈夫だろうし。」
「いやいやいや!起きたら家畜食べるって聞いたよ?!」
「あ?まぁ、そりゃ報酬もらってるだけだろ?」
「報酬?」
「あいつは真面目だからな!」
何もわからん!このアホドラゴンが!
そんなわけで、なぜかベイダルさんが国にまでついてくることになったのだった。
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