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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
40/102

40.偉大なる?

 灼熱の炎。その業炎を見ながら、人々は動くことはかなわず、ただ呆然とするしかなかった。

 私も一瞬何が起きているのかが分からなかった。

 でも、見てしまった。


 私の護衛騎士がその炎に飲み込まれるのを。


 ワイバーンの炎を防ぐ守護魔法はかけた。

 でも、彼は過剰な魔法をかけないで欲しがった。だから、この炎を防ぐほどの効果がその守護魔法にはないのは、自分が良くわかっていた。



 私は地面を蹴った。

 自分が何を叫んでいたのはよく覚えていない。だが、渾身の力を握っていた杖に込め、フルスイングした。

 それが顎にクリーンヒットし、それは地響きをたてて転がった。

 巨体の当たった岩が崩れ、周りは阿鼻叫喚になったが、私はその砕けた岩を魔法でそいつに叩き込んでやった。

 とどめと思い、地面を蹴・・・・・・。


「メリル様!」


 その声に、私の動きが止まった。



 おそるおそる振り向くと、そこにはシュレインさんが立っていた。


「大丈夫ですから・・・・・・。」

 そう言って、シュレインさんは私に片手を差し出した。

 私は体の向きを変え、シュレインさんに飛び込んだ。


「何で?だって・・・・・・。」

「痛い。痛いです!」

 力を込めすぎてしまい、鯖折りを仕掛けていた。

「うー・・・・・・。」

 私が力を緩め顔を上げると、シュレインさんが懐を探っている。

「これのおかげだと思います。」

 そう言って取りだしたのは、私が前にあげた刺繍入りのハンカチだった。

「どこがテケトーな守護ですか。あなた、これにどれだけの守護の力を込めたんです?」

「うぅ~~~。よかったぁあああ。」

 まさか、こんなとこで役に立つとは思わなかった。

 そして、持ってくれていたとは思わなかった。


「しかし、もう何もとりつくろえないほどの事態になってしまいましたね。」

 私の頭をなでながら、シュレインさんは天を仰いだ。

「まさか、ドラゴンを一撃で昏倒させるなんて・・・・・・。」

 私が振り返ると、そこには黒くてどでかいドラゴンが転がっていたのだった。



 誰も何も言わずに遠巻きでこちらを見ている。

 その中、私はドラゴンによじ登って顔をぺちぺちと叩いた。

 しかし、目覚めないので若干心配になったが、息はしているのが全身に当たる鼻息でわかるので、なんとなくイラっとして精霊に頼んで湯舟一杯くらいの水をぶっかけてやった。


「ウボゲァ!」

 変な声を上げて、ドラゴンが目覚める。

「おはよう。」

 私は真顔で見下ろした。

「?・・・・・・っ!なんでっ?って、お前聖女かよ!」

「わかるの?」

「そんだけ精霊の加護つけて触られたらわかるわ。

 マジかよ!めんどくせー!なんでお前気配ちゃんと消してんだよ!最初から出してりゃこんなことにならなかっただろが!」

「どういうこと?」

「お前がいけねーんだぞ!勝手に俺のテリトリーに入ってきやがって!で、俺のゲボ石とってったろ!むかついたからこっそりついてきたんだよ。

 で、アイツが持ってたはずだから焼いたのに、焼けてねーわ殴られるわで散々じゃねーか!」


 んー?もしかして、私がこの事態を招いた?ん?あれ?そんなはずは・・・・・・。

「俺は悪くねーし!人の恥ずかしいゲボ石持ってったのが悪いんだ!」

「ゲボ石って、クレアライト?」

「あ?なんだそれ。ゲボ石はゲボ石だろ。」

 ネーミングセンス最悪だろ。いや、なんかわかるけどさー。

「これくらいの黒い結晶のついた。」

「それ!あれ、俺の胃の中に入れてた石なんだよ。で、しばらくすると周りに俺の魔力がついちゃってチクチクするから吐くんだよね。その時に消化できてなかったものとかを一緒に吐けるんだわ。」

 何だろう。猫の毛玉吐くための草みたいな感じなんだろうか・・・・・・。でも、痰よりはマシだった。精霊情報が間違っていたけど、吐き出すからそうだと思ったんだろう。


「でもやっぱ、吐いたものだし、恥ずかしいからいつもは壊してるんだけどさ、たまに忘れてそのままにしちゃうんだよな。お前それピンポイントで拾ってんだもん。マジビビったわ。よくわかったな。」

「精霊に聞いたよ。後三つ散らばってるけど。」

「うわー!ちょっと教えてくんね?壊しときたい!」

 そう言って、ドラゴンは器用に前足で顔を隠した。相当恥ずかしいのだろう。

「あれ、人間世界ではめっちゃ貴重な魔石ってことになってるよ。」

「ゲエエ!人が吐いたもんを貴重とか悪趣味すぎんだろ!って、だからグレンドはいつもマグマに吐き捨ててんのか。俺も次からそうしよ。」

「ねぇ、場所教えるからさ、私たちが持ち帰った一個は見逃してくれない?」

「ええええ?」

「っていうか、自分の魔力をたどれないの?」

「いやぁ、自分の匂いってさ、気が付けないもんなんだよ。ワキガとかそうだろ?」

 凄く具体的なの何?

 にしても、私も確かにハンカチの存在をすっかり忘れてたし、持ってたこともわからなかった。そういうものなのだろうか。


「っつかさ、ちゃんと守護で防げる程度でゲボ石焼こうとしたんだし、なんで俺殴られんだよ。ちゃんと他のワイバーンも追い払ったし、アイツ以外も巻き込んでねーし。」

 そう言われて周りを見ると、全員が生きている。

「シュレインさんの守護に気が付いて火力調整してたの?」

「さすがにそれくらいはできるわ。ゲボ石持ってなかったのは焼いてる最中に気が付いた。いつもの焦げる臭いしなかったかんな。そしたら殴られたからさー。油断してたとはいえ、気絶するとか恥ずかしーわーもー。」

 あれ、もしかして、このドラゴン悪いところ一個もないんじゃ・・・・・・。


「ごめんなさい。私が全面的に悪かったわ。」

 さすがに自分擁護も出来なかった。全面的に悪いのは私です。深々と頭を下げるしかなかった。

「まぁ、ゲボ石がどこにあるか教えてくれるならいいわ。」

「はい。もちろんです。寛大なご慈悲、ありがとうございます。」

 私は揉み手を始める。こういう時は下てに出て、よいしょが基本である。

「なんだ。話がわかるじゃん。しょうがないから、お前に一個はやるよ。」

「さすが偉大なるドラゴン様。」

「だろぉ?ぬはははは。」

 上機嫌に喜んでいるが、完全なる被害者なのを忘れてチョロイやつである。ホントにこいつ、件のドラゴンなのだろうか?

「あのあの、わたくしめ、メリル・クラージュというものです。偉大なるドラゴン様のお名前をお聞きしても?」

「ん?俺はブラックドラゴンのベイダルだ!くるしゅうない!ぬはははは!」

 アホの子っぽいのはわかったが、そもそも私は前に聞いた時にドラゴンの名前を憶えていなかった。

 後でシュレインさんに聞けばいいか。ベイダルさんね。ちゃんと覚えとかないと面倒くさそうだ。


「そういやさ、ちょっと物申したいんだけど。」

 ベイダルさんが不満げな声を出す。

「何?」

「お前たち、香を焚いてたろ?あれ、ワイバーンが狂うからやめろよ。」

「え?ごめん、どういうこと?」

「あ?さっき焚いてたろうが。とぼけるなよ。」

「・・・・・・誰がそれ持ってた?」

「あいつだな。俺もあのにおい嫌いだしさ。」

「どういう効果があるの?」

「まず、くっさい。俺はそれだけで済むけど、ワイバーンにとっては感覚を狂わせる効果があるんだよ。でも、ワイバーンてバカだからさ、つい寄ってっちゃうんだよね。

 さっきもそれで寄ってったやつらがお前たちを襲ってたじゃん?だから俺が追い払ってやったけど、あの香焚いてる方が悪いよ。」

 それを聞いて、私はベイダルさんが教えてくれた人物を見た。

「あの、本当に申し訳ないんですけれど、それ、人間の言葉で皆に言ってもらえませんかね?」

 今まで、私たちはドラゴン語で話していたのだ。

「あーん?別に人間語しゃべれるわけじゃないんだが、できるしまぁ良いよ。やっぱワイバーンはトカゲだけどさ、なんとなく俺たちに似てかわいく思ってるしさ。」

 ベイダルさんは意味不明ながらも了承してくれ、起き上がった。今までは私が乗ってたのもあって、寝転がりながら話してくれてたのだ。結局いいやつなのね。

 しかし、事情を知らない一行が戦闘態勢に入るので、静止する。


「偉大なるドラゴン、ベイダル様よりお話があります!皆さん剣をしまってきいてください!」

 突然私がそんなこと言うものだから、皆どよめくが、待っていると皆それに従った。

 何せ、本当に目の前にドラゴンがいるんだから。

「えー、あー、ゴホン。我が名はベイダル。神話の時代から生し偉大なるドラゴンなり。」

 調子に乗って口調を変えた上に、自分で偉大とか言ったぞこいつ。


 そして、先ほどの香のことが語られる。すると、再びどよめきが起きた。

 この様子を見ると、全員が知っているわけではなかったようだ。

 しかし、何人かは動きが怪しい。やはり、魔法使いは知っていたようだ。

 

「で、その香を持っていたのは誰でしょうか?」

「そこの男だ。」

 ベイダルさんは、三人組のおっさんを指した。横では少年が目を見開いておっさんを見ている。


「戯言を。この化け物どもが!」

 おっさんが低い声を出した。あのニヤニヤした態度は一切ない。

「黒いドラゴンと、そのドラゴンと話せる少女。悪の化身ではないか。なぜ皆剣をしまう。凶悪な魔族たちだぞ!騎士ならば、奴らをすぐに倒さなくては!」

 おっさんはつばをまき散らしながら叫ぶが、誰一人として剣を抜こうとはしない。

「いつもはこんなところまでワイバーンは来ない。あの話が嘘だとしたら、なぜワイバーンが来たんだ?」

 隣で少年が顔をしかめて言った。その表情は、悲しそうな、悔しそうな顔になっている。

「確かにワイバーンは私が呼んだ。だが、それはあの少女を排除するためだ!悪魔を倒すのに、手段を選んではいられない!」

「他の者も危険にさらしたんだぞ?!」

「誰にもケガがないではないか!それこそが神の思し召しだ!」

 少年とおっさんの言い合いに、ベイダルさんは呆れてこぼした。

「いや、俺が追い払ったし。」

 静かな間が流れた。空気クラッシャーの称号を、このドラゴンにあげたい。


「まぁ、そんなわけなんだけども、騎士団の皆さんはどうなさるのかしら?たたけばまだ埃は出そうですけどねぇ。」

 私がにっこりとそう言うと、騎士団長が口を開いた。

「タイドを拘束せよ。」

「団長!?なぜ!」

「あいつを黙らせろ。」

 その言葉に素早く反応し、沈黙の魔法を唱えたのはファムだった。

 あそこらへんもつながってる感じなのかな。少年も大変だ。

 

 こうして、私たちは重苦しい空気の中、下山したのだった。 



 ベイダルさんと一緒に・・・・・・。

 


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