39.ワイバーンの卵を盗む会
その日は晴天だった。
前日、城に泊まったのだが、ワイバーンの卵拾いに行かないアマンダさんまで呼ばれて、第二王子との何とも言えないやり取りを見せられ続けるという苦行があったのは思い出さないようにしたい。
ただ、そこには何やら、相部屋になるところを私とアマンダさんで一部屋使うというのが本来の目的だったのではないかと思えた。
もしかしたら、そうでなければファムさんと一緒だったのかも?
まぁ、そんなこんなで山に来ているのだが、岩山は険しいのに、騎士団はぐんぐんと進行していく。
その後ろを、騎士団長が言っていたのが本当だったのか、他にも冒険者がいたので、その人たちとついて行くことになった。
「おい、あんたたち、初めて見る顔だな。」
ある冒険者に声をかけられた。
「はい。お金いっぱいもらえるみたいだったので。」
さすがに誘われたとは言えない。
「そうか、でも気をつけろよ。例年一人や二人はワイバーンに攫われる。上空に気を付けるんだぞ!」
先に忠告をしてくれるとは、いい人のようだ。
「結局、私たちって何をするんです?」
「ワイバーンの巣があるんだが、そこを騎士団と冒険者で手分けして陽動するんだ。騎士団はどうしても巣に入らないといけないから、俺たちがメインで陽動するんだよ。」
「え、それめちゃくちゃ危なくないですか?」
「そうなんだが、魔法使いたちがうまく魔法をかけてくれるから、そうでもないんだ。」
ふむ。逆に言えば、魔法使いに見捨てられたら終わりってことだ。
「メリル、逆に危なくないか?」
シュレインさんも同じことを思ったらしく、私に耳打ちしてきた。
ここでは呼び捨てでやることにしている。他の冒険者の手前、お嬢様と護衛というのは止めておこうとなったのだ。
「まぁ、大丈夫でしょ。気を付けておくから。」
私の言葉に、シュレインさんは頷いた。
そしてその時はほどなくしてやってきた。
騎士団と冒険者が分かれ、離れたところから騎士団の魔法使いたちがこちらを見ている。
もちろんその中にファムさんもいる。
魔法使いたちの魔力の流れを注視するが、今のところ変な動きは無い。
冒険者側が先に巣のある区域に侵入する。
「来るぞ!」
誰かが叫んだので上空を見ると、数匹のワイバーンがこちらにやってきた。
幾度か攻撃をよけ、徐々に場所を変えていく。
そうやってワイバーンの気を引いて引き離したところで、騎士団が巣を漁るのだ。
固まっていると、なかなかにワイバーンに襲われることが無い。
ワイバーンが火を吐くこともあるのだが、こちらまで届かない。
なるほど。ワイバーンと冒険者の間の空気の流れを乱しているのだ。
「へー考えてあるね。」
幾度かの炎が風にあおられ、あらぬ方向に行ったのを見て感心してしまった。
「気を抜くな。いっつもそうしたとこで攫われるんだ!」
さっきの冒険者が言う。
それを聞いて、若干違和感があった。
「いっつも?」
「あぁ、俺はもう三回これに参加してるが、大抵慣れてきて気を抜いたところで攫われるやつが出るんだ。お前なんてすぐつかめちまう、絶対に気を抜くんじゃねぇ!」
上を睨みながら言う冒険者の言葉に、私は確信めいたものを感じた。
「・・・・・・ますか・・・・・・。聞こえ・・・・・・か・・・・・・。聞こえますか?私は今、あなたの心に直接呼びかけています。」
「何言ってるんですか・・・・・・。」
シュレインさんに話しかけると、呆れた顔でシュレインさんがこちらをチラリと見た。
「テヘ。あ、この会話私たちにしか聞こえてないようにしてるんで、口をなるべく動かさないでください。で、多分だけど、騎士団はわざと毎度人をいけにえにしてる気がします。」
「・・・・・・。」
「思ったよりも城の近くにいたワイバーンがこの地域でどんな活動をしているかは分からないけど、数を減らさないようにえさを与えてるっていうのと、もしかしたら人肉の味を覚えさせて、冒険者を襲いやすくしてるのかもしれない。」
「陽動しやすいようにですか?」
「多分そんなとこだろうと。で、今回は十中八九私を襲わせる気がします!」
「まさか・・・・・・。」
「でも、せっかくなので、本当にそうだったらつかまりますので、シュレインさんはタイミングよく私に飛びついて一緒に来てください!」
「馬鹿なんですか?!」
「ハイ、バカでーす!」
その声と共に、こちらにワイバーンが襲い掛かってきた。
ゴウッという音とともに、私の体が宙に浮く。
「キャー!シュレインサーン☆」
私がキャッキャと悲鳴をあげると、シュレインさんの顔が一瞬ゆがむ。しかし、その腕はしっかりと私の足をつかんでいた。
「くそっ!」
あの冒険者さんが私たちをつかもうとしてくれたが、その腕がワイバーンの巻き上げた風によって払われた。
冒険者さんにはそう思えただろう。でも私には、魔力の流れから騎士団の魔法使いによってそれがなされたのが分かった。頭おかしいんじゃないの?あの人ら。
私たちは少し離れた巣へと落とされた。
そこには雛ワイバーンが二羽おり、私たちをつつこうとするが、そんなものはさらっとかわして巣から飛び出る。
親ワイバーンが追いかけてこようとするので、幻惑の魔法をかけてさっさと巻いた。
「本当にやりよったわー。」
「こちらのセリフですよ!本当に捕まるなんて、あなたって方は!」
シュレインさんがいつにない語気で吐き捨てるように言うので、本気で怒っているようだ。
「ごめんなさい。丁度いいかと思って。絶対に死なない自信があったしつい。」
「あなたが強いのは知っています!でも、他にやりようがあったでしょう?!」
「すみません。」
まぁ、そりゃ怒るか。私は素直に謝っておく。しかし、シュレインさんの呆れと怒りはやり場がないのだろう。少しイラついたようにその場をウロウロしていた。
「すみませんでした。」
しばらくして落ち着いたのか、シュレインさんも頭を下げてきた。
「いや、シュレインさんは悪くないですし、何ならよくあの瞬間に掴んでくれました。」
「できたら、もっとご自身の命を重んじてください。あなたは強くても、普通の女の子と同じくらいに思っていただくくらいでちょうどいいのです。」
「はい。できるだけ自重します。」
「そうしてください。で、クレアライトは近いのですか?」
さすがというか、いつまでも怒っていてもしょうがないので切り替えたようだ。たすかるぅ。
でも、やっぱり怒られた後ということもあって、丁寧な言葉遣いになってしまう。
「まだかなりありますね。」
「じゃぁ、急ぎましょう。帰りが遅いとエスカルパ嬢が心配なさりますし。」
「はい!」
険しい山だが、私からすれば、チョチョイのチョイでしかない。飛べばいいだけである。
「別にワイバーンにつかまる必要を感じませんけどね。」
眼下に流れる景色を見下ろし、投げやりな口調でシュレインさんが言う。
「まぁそうなんですけどねー。あの冒険者の言葉がやっぱ引っかかるんだよね。正直毎回そうしてるかは分からないけど、今回はわざと私たちにかけてた魔法を解除してたから。」
「今回はわかりますが、本当にそんな非人道的なことをするでしょうか?」
「う~ん。誰も欠如させずに毎回卵を盗んだら、ワイバーンが人に警戒心しか持たなくなります。
となれば、卵から離れなくなったりするかもしれない。でも、毎回人を餌として与えればどうです?」
「人を襲い続けると?」
「多分ですけどね。」
「本当にそうだとしたら、あまりにも酷い。」
シュレインさんの顔がゆがむ。
「誰がどこまで知ってるかにもよりますし、あの団長ならやりそうな気もします。」
「・・・・・・。」
「まぁ、憶測でしかないんで、この件は忘れましょう。もうすぐですし。」
私たちは、岩の間に降りていく。
「あった!これだって!」
精霊の案内によって、私は難なくドラゴンの痰を発見する。
それはバレーボールくらいの大きさで、細かい黒の結晶がにょきにょきと生えている。
とすると、第二王子が見せてくれたのは、固まりの中の小さな欠片でしかなかったのが分かる。
「精霊ですか・・・・・・。いるとは聞いていましたが、見えるのですね。」
「あんまり表立って話さないし、頼らないようにしてるけどね。」
「なぜです?」
「うーん、自分の力で解決できるのに、人の力ばっかり借りてたら仕方ないし。」
「・・・・・・耳が痛いのですが。」
あ、そうとるのか。
「うーん、多分そういうことじゃないんだよなぁ。今さっきだって飛んできましたけど、歩けるなら歩いた方が良いとは思いませんよ。速さが全然違いますし。
大体、操作は私がやってもいいけど、シュレインさんもできるんだからやらせてるじゃないですかー。」
「そうですけど・・・・・・。」
「こうやって鉱石を探すとかはやってもらった方が段違いで速いんでお願いしてます。でも、同じ速度で同じようにピンポイントで探せるなら自分でやるってだけですよ。」
「確かに私には聖女様と同じようにできることは少ないでしょうね。」
その声が寂しそうだったので、シュレインさんの方へ結晶を渡す。
「重いから持ってください。とりあえず、宿屋に帰りましょう。で、その後隊に合流しますよ。」
「え?」
「他にもいけにえを出さないようにしなくちゃ!」
「確かに。」
私たちは転移し結晶を隠すと、再びワイバーンの巣近くへと転移した。
「ふむ。とりあえず、あれから人は減ってなさそうですね。」
遠くから眺めると、未だ作戦中のようで、同じようなことを繰り返している。
「このまま帰ってしまうと、また攫わせるかもしれないし、終わった頃に合流しましょうか。」
私の言葉に、シュレインさんが頷いた。
「それにしても、聖女殿はよく色んな事に気が付きますね。本当に先程の理由で攫わせてるとなれば、ですが。
それに、エスカルパ嬢にかけていた言葉が、なんというか、年相応に感じませんでした。」
「性格が悪い人にしかわからないこともありますからねぇ。」
あとは精神年齢の問題だから流しておく。
「ご自身でおっしゃるんですね。」
「客観的に見て事実ですからねぇ。」
「客観的に見れる目線がおありなら、もうちょっと大人しくなさっていただきたいものです。」
そんなことを言うので、シュレインさんをじっと見た。
「次に私はなんというと思いますか?」
「無理。」
わかっているようなので、にっこりと笑って騎士団の方に目をむけると、シュレインさんから、ふっという息が聞こえた。
騎士団の作戦はうまくいったようだが、ちょっとした問題が起こったようだ。
「あら、少年とさっきの冒険者が魔法使いさんたちに食って掛かってますね。」
「そろそろ出て行かないとまずいんじゃないですか?」
「ですねー。しょうがないなぁもう。」
私たちは、いそいそと騎士団の方へ出て行った。
「ひゃー参りました!攫われちゃいましたよー。やっと帰ってこれたわー。」
そう言う私を、シュレインさんがじっと見ている気配がある。大根役者とか思ってるに違いない!
「あんたたち!無事だったのか!!」
冒険者が駆け寄ってくる。その後ろでは、少年が安堵のため息をついている。
そして、魔法使いたちは目線をさまよわせ、騎士団長はニコニコとしながらいつも通り目が笑っていない。
うーん、微妙な感じだなぁ。
「二人だったから重かったみたいで、途中で落っことされたんですよ。ラッキーでした。」
「今回は犠牲が出ないようでよかった。」
そう言って、冒険者さんは私の頭をガシガシとなでてくる。本当にいい人のようだ。だが、なんとなく危うい。
次回からはこの作戦に参加しないでほしいと思う。きっとこの人をいけにえに選ぶと思うから。
後でそっとやめろと言っておこう。それを聞いてくれるといいのだが。
「全員無事でよかった。これから帰るぞ。」
騎士団長の言葉に、また隊列を組みなおす。
今度は騎士たちが後ろに来て、冒険者から下山を開始した。
特に声が上がらないことから、これが恒例なのだろう。
そして、しばらく行くと、休憩との合図があった。
「いつもここで休憩するんですか?」
「あぁ。巣から十分離れているからな。」
冒険者さんに聞くとそう帰ってきたので、特におかしいことはないようだ。
少し疑心暗鬼になりすぎていたのかもしれない。
私たちも腰を下ろし休憩していると、ファムさんがやってきた。
「先程は大変でしたね。ケガなどは無いですか?」
「えぇ。特には。なんだかいない間に作戦が終わっちゃって、逆に申し訳ないです。」
私がそう言うと、ファムさんはくすくすと笑う。
「そちらの方がよっぽど大変だったと思いますよ。私たちのミスです。本当に申し訳ありませんでした。」
そう言って頭を下げるので、私とシュレインさんは顔を見合わせてしまった。
「いや、別にそんな・・・・・・。」
「ワイバーンだ!」
私の声をさえぎって、後方から誰かの叫びにも近い声が聞こえた。
全員が振り向き、そちらへと向かう。私たちも立ち上がって走りだそうとした時、ファムさんが私の腕をつかんだ。
「危ないですよ。さっきの今ですし、ここで待った方がいいんじゃ?」
「そんなこと言って・・・・・・。」
そう言いかけてふと気が付いた。シュレインさんが私が止まったのに気が付かず走って行っていることに。
「あなた、魔法の感知できるでしょう?だから、私も隠してみたの。それに、幻術も使えるの。彼にはあなたが一緒にいるように見えてるのよ。」
ファムさんの手が腕に食い込む。
「ワイバーンごときじゃ、シュレインさんは死にませんよ。」
「そうね。でも、私とあなたならどう?」
そう言ったファムさんから、電撃が走った。
しかし、私の守護魔法がそれをはじく。
「ふふ。やり返したい?でも、あなたが私を攻撃したら、あなたは騎士団に殺されるんじゃない?
ディアだってきっとあなたを責めるわ!」
特に驚いた風でもなく、ニタニタとそう言うファムさん。この前のオドオドとした態度とは全く違ったその様子に、私は気持ち悪さを感じた。
相手にしてられないと私はファムさんの腕を振り払ってシュレインさんの方へ行こうとしたが、見えない壁に阻まれた。しかし、それも私が簡単に突破する。
それは予想外だったのか、ファムさんは驚いた顔になる。
その時、私の背筋がぞくりとした。と同時に、大勢の悲鳴が上がる。
そちらを見るが、ちょうど角を曲がったところで休憩していたため、その先がどうなっているのか見えなかった。
再び腕をつかんだファムさんを全力で振り払い、飛ぶように角を曲がった。
そして、そこに見えたのは炎だった。
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