37.アマンダさんのためなら何度でも手の平返しますけど?
「で、午後なんだけど、クレアライトってのを見てみたいんだけど。」
宿をとって落ち着いたところで、私は二人に言った。
「やはり興味があるんですね。」
「え?どういうこと?」
アマンダさんが頷くので、私は聞き返した。
「クレアライトは結晶が小さいものの、魔石の上位に位置する石ですから。って、ご存じだったわけではないんですか?」
アマンダさんが聞くので、私は頷いた。
「でしたらどうして・・・・・・。まさか!」
アマンダさんはあることに気が付いたようだ。
「うふふ。まずはそれが何かを確認してからですよ。」
「ちょっ、物騒なことは考えてませんよね?」
「別に奪おうだなんてしてませんよ?でも、この国の人が知らないものは・・・・・・ねぇ。」
「聖女殿・・・・・・。」
シュレインさんも思い至ったようで、半目になっている。
そう、出さぬなら探せばいいのだクレアライト。である。
「いやいやいや、どうやって持って帰るんですか!関所もあるんですよ?!」
「そんなもの、ちゃっちゃと転移すればいいじゃないですか。」
「あ・・・・・・。」
聖女ともなれば、完全犯罪もやりたい放題なのである。
「大体、向こうが認識してないクレアライトが無くなろうと、向こうは一生気が付かないんですから、犯罪でも何でもないですよ。」
しれっというと、二人がじっとりと見てくる。何も間違ったことは言ってないのにおかしい。
「そういう問題じゃないんですが、クレアライト自体は見たいですね。」
「エスカルパ嬢?」
アマンダさんにシュレインさんが非難がましい声をあげる。
「いえ、別に聖女様に盗んでもらおうだなんて思ってませんよ!本当に一度見てみたいんです。私も本物を見たことが無いので。」
「そんなに貴重なの?」
「はい。この国から、直接買い手に輸出されることだけしかわかっていないんです。それもかなりの高額ですから、うちの国にだっていくつあるかわからないものですよ。」
何でも扱ってるイメージのアマンダさん家でも、入手したことが無いのかもしれない。
「どこに行ったら見れるんですか?」
「それが、残念ながら当てが全くありません。」
「えええ?」
「大きな宝石店もあるのですが、そこにすらないようです。」
なんと、門外不出の秘蔵っ子のようだ。
「じゃぁ、見れないんですね。」
「残念ながら。でもよかったです。聖女様が手を汚すことにならなくて。」
アマンダさんが苦笑する。が、甘っちょろい。
「じゃぁ、明日王子に本当にお前王子なのかよって言って、見せてもらおう。」
「ちょっ!」
「そういえば、アマンダさん的に第二王子はどうなの?」
「どうなのって、どうもこうもないですよ。私は一介の商人の娘ですし、そういった目で見るような方ではありませんよ!」
真っ赤になって言うアマンダさん。これはまんざらでもないのだろうか?
「じゃぁ、あの人が第二王子じゃなくて、商人だったとしたら、どうなの?」
「えええ?今日会ったばかりですし、そんな風に聞かれても・・・・・・。まぁ、商売の手伝いをさせてくれるのなら、それはちょっといいかなって思いますけど。」
尻すぼみに声が小さくなっていく。顔も赤いままなので、まぁ悪い感じではないんだろうが、人柄うんぬんよりも、商売できるかできないかが決め手なのってどうなんだ?と思わざるを得ない。
「オスカラートって、アマンダさんが商売するの大変なの?」
「そうですね。さっきの場合ですと、私ではなくハルドリック様に話しかけると思います。私が返事して、私が主人だとわかった後でも、それでしたら本国の男の人を呼んでもらってと、契約の話は出ないと思いますね。」
そんな感じなのね。
「ですから、私と契約してくださるこの国の方は、私にとっては新鮮でした。ゲーベリオンだけだと思っていたのですが、王都でもでしたし。
まぁ、彼やゲーベリオンのギルドマスターが特別で、国民性とは言い切れないかもしれませんが。」
「でも、そうなると、アマンダさんが跡取りだってなってた時は結構大変だったんじゃないの?女の子が次の当主なら契約しないってなりそうな感じだし。」
「そうですね。だからこそ、私はどこにでも連れていかれていたんです。まず顔を覚えてもらって、その内能力も示していくつもりだったのでしょう。
もしくは、そのまま婿を探していたのかもしれません。」
しかし、その前に弟が生まれた・・・・・・ということだ。それじゃぁ諦めもするよなぁ。
「クレアライトが見つかったとして、アマンダさんはやってけそうなの?」
「多分オスカラートを出ると思いますよ。貿易拠点に在住するでしょう。クレアライトが手に入るなら、ここに住むことになるんじゃないですかね。」
「そうなのかー。じゃぁ、その時は私もここに住もうかな。」
そう言うと、アマンダさんは一瞬目を見開いてから、優しく微笑んだ。
「トウワの食品が遠くなりますよ。」
「じゃぁ、トウワに住む?」
「あちらの国が、女性でも取引相手として認めてくれるのなら、それもいいですね。」
最後がほんのり寂しそうなのは、きっと気のせいじゃないだろう。ついでに横のシュレインさんが渋い顔してるのも気のせいじゃないだろう。
「っつかさ、アマンダさんが商会立ち上げたら?」
「え?」
「聖女アイテムは全部アマンダさんが権利持って行っていいよ。聖水出荷しようよ!って、アマンダさん?!」
言ってる途中で、アマンダさんの目から大粒の涙がこぼれたので、私は焦ってしまった。
「ありがとうございます。私なんかの為にそんなことまで言ってくださって・・・・・・。」
そう言って、アマンダさんはおいおいと泣いてしまった。
多分、この旅が彼女の人生をかけたものだっていうのは、本当なんだろうなって思う。
色んな事を諦めてきて、ギリギリの時に降ってわいたチャンスだったのだろう。
国へ帰れば、結婚するような歳だ。それが幸せだと信じられているからこそ、アマンダさんもそうなってしまう。
「アマンダさん、やっぱりここに冬の間はいよっか。」
「え?」
「あのさ、凄くプライベートなことだけど、アマンダさんて、帰ったら結婚させられそうだったりしない?」
私が言いにくそうに聞くと、アマンダさんはうつむいた。それが答えだろう。
「やっぱりそうかぁ。年齢もあるし、王子に言ってたことが気になったんだよね。これにかけてるってことはさ、これがダメだったらもう終わりなのかなって。」
「はい。今までもかなり伸ばしてきましたが、聖女様を連れて旅に出るなんて、国にも目をつけられることです。それを許してくれるのには、条件がありました。」
「じゃぁ、結局私のせいなんだね。本当にごめん。」
「違います!私がもっと早く行動しなかったのが悪かったんです。聖女様がいなかったら、私は何もせずに結婚させられていたと思いますし。」
この世界の女性にとっては、結婚ってすごく大切なことというか、すごく重い事なんだと思い知らされる。
三十超えてものんびりと生きていられた前世とは大違いだ。
「ねぇ、やれるだけやってみようよ。何でクレアライトがそんなに貴重なのか探ろ?何だったら私が本気で探すし。」
「そんな。・・・・・・何でそんなに私の事を気にかけてくださるんですか?」
「トウワ料理の恩もあるしね。私にとっては、そのクレアライトよりも貴重なものだったしさ。
でもね、そんなことよりも大きな理由はね、アマンダさんが好きだからだよ。
大好きな人の役に立ちたいって思うのって、普通でしょ?」
そう言うと、アマンダさんの涙は滝のようになった。
「わだじもぜいじょざまがだいじゅぎですううううううう!」
わんわんと泣きつくアマンダさんをよしよしとなでながら、私は決意した。絶対盗んで帰ったる・・・・・・と。
そして、その決意を見抜いたかのように、シュレインさんはじっとりと私を見ているのだった。
「ハロー!」
翌日、第二王子がやってきたので、手をあげて挨拶をする。
「ハロー。ジュディアル帝国の言葉も話せるのか。」
おっと、知らない固有名詞が出たが、全く記憶に残らない。
「私は天才なのでーす!」
テケトーにあしらう私を、シュレインさんが半目で見ている。最近ずっとその顔じゃないかね?
「じゃぁ、観光しよう!コースを考えてきたよ。」
「それは中止になりました。」
「は?」
うっきうきの第二王子だが、私はそれを却下した。
「ワイバーンの話ってさ、国にとって重要なこと?受けると嬉しい?」
「え?まぁ、そうだね。」
「だったらさ、受けるから、クレアライトっての見せて。報酬はそれだけでもいいよ。」
「・・・・・・ここで話すのは止めよう。」
周りに人はいないが、ここは宿屋の前である。
王子が乗ってきた馬車に押し込められつつ、我々はどこかへと向かい始めた。
「どういうことだい?」
「いや、そのまんまの意味だよ。おねーちゃんもクレアライト見たことないっていうから、見せてもらおうって話になっただけ。
それで、やっぱりここで冬を過ごして、頑張るだけ頑張ろうって。」
私の言葉に、若干涙目のアマンダさんがコクコクと頷いた。
「しかし、なんていうか、なぜ心変わりしたのかとか、報酬がそれだけでいいとか意味が分からないとか・・・・・・。」
第二王子が混乱し始めた。
「おねーちゃん。ごめんだけど、勝手に言っちゃうよ。」
「え?」
「あのね、おねーちゃん帰ったら結婚させられちゃうんだ。」
だったら、少しでも伸ばしたいし、何なら王子がもらってくれるかもだし、ついでにクレアライトも頑張るしってことよ。」
「・・・・・・。クレアライトに関しては無理だとしか言えない。だが、見せるだけというのなら大丈夫だ。それで依頼を受けろとも言わない。だが・・・・・・。」
最後はアマンダさんの方を向く第二王子。その表情が、アマンダさんを心配しているのを物語っている。
「本当に結婚させられてしまうのかい?」
「・・・・・・はい。」
それを聞いた第二王子は、凄く悲しそうな顔になった。
うーん、この二人、本当にいい感じになれるんじゃないだろうか?
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