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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
36/102

36.アマンダ・エスカルパ

 ベリンダールの王都は、すぐ北側に岩山がそびえている。

 ワイバーンの生息地はさらに北に行くようだが、よくもまぁこんなところに作ったものだと思う。

 そして、街並みも堅牢な石造りなのである。

 華やかさというものは一切ない。だが、街は活気にあふれていた。


「今は収穫の時期ですから、とても賑やかなんですよ。」

 通り沿いのレストランから、下を見下ろしながらおにーさんが言った。

 レストランの外見は武骨ながら、中は壁が白に塗られ、装飾なども相まって美しかった。

 しかも、魔道具なのだろうか、ステンドグラスのような容器に光が揺らめいており、それにあわせて壁に色がふわふわと映るのが幻想的で美しい。夜に来たらもっときれいなんだろう。


「今日はこれからどうされるんですか?」

「まだ宿を決めていませんので、そこからです。」

 おにーさんの問いに、アマンダさんが答える。

「あぁ!冬は厳しいので、一か所でとどまることになると思いますが。ずっと王都の宿に?」

「うちの商会のものもいますし、そこからつてをたどって、どこか借りようかと。」

「それでしたら、私に紹介させていただけませんか?使用人も手配いたしますし。」

「いえ、そこまで大きい物を借りるつもりはありません。三人でやっていくつもりですから。」

 アマンダさんがきっぱりというと、おにーさんは眉をハの字にし、シュレインさんの方を見た。


「もしかして、彼と恋仲だったりしますか?」

 直球ドストレートが投げられる。アマンダさんは一瞬固まった後、呆れた顔になった。

「まさか。彼は今は護衛をしてくれていますが、きちんとした家柄の出です。失礼ですし・・・・・・。」

 そう言って、アマンダさんはなぜか私を見た。なに?

「いえ、まぁ、私たちはその、とても信頼していますので、気にしていません。むしろ、それでもかまいませんか?」

 と、今度はシュレインさんの方を見て聞いた。

「私はお嬢様方がそれでもよろしいなら。」

 シュレインさんのその言葉に、おにーさんは眉をしかめた。

「そちらの国は、割とそういうところが厳しいと思っていましたが、うら若き女性と若い男性が同じ家に住むことを了承するとは、本当に信頼できるのですか?」

 あーまぁ確かにそう思われても仕方ないのかなぁ。

「予算がありますし、ここは国ではありませんので、私はどう見られようとかまいません。縁談に響くようでもそれはそれでいいですし。」

 最後のが本音じゃあるまいな?と、半目でアマンダさんを見るが、しれっとしている。

「私は知ってしまった以上、とても気になります。予算とおっしゃられるなら、私が私財から出しますので、どうかきちんとした屋敷を用意させてください。」

 おにーさんが割と真剣に言うので、アマンダさんは若干ひるんだ。

「なぜあったばかりのわたくしたちにそのようなことを?本当はどのような理由でわたくしたちにかまうのですか?」

 アマンダさんの戸惑いがちの言葉に、おにーさんは一瞬間をあけて、ハハハと笑った。


「本当にあなた方に興味があるんですよ。」

 そう答えたお兄さんの目が笑っていない。

「興味?どのような?」

「まず、あなたたちの関係です。エスカルパ商会に娘は一人しかいない。では、妹さんは?そしてその男性。確かに家柄がよろしいようだ。」

 まずい。色々バレてるっぽい。

「そして、聖女の聖水。なぜそんなものを一介の商会に?

 大体、聖女のことは今まで全くといっていいほど情報がなかったのに、初めて聞きましたよ。」

 なんかまずい流れじゃなかろうか・・・・・・。


「私は聖女の出現と聞いて、そちらの国に行きました。しかし、誰もその姿を見ていない。王城にいるとだけしか聞けませんでした。

 聖女がどのような姿なのかすらわからない。そんな聖女と会ったことがあるというあなたたちは一体何者なのですか?」

 そう言ってにっこり笑うおにーさん。ヤダ怖い。


 しかし、そんなおにーさんの言葉に、アマンダさんは吹き出した。

「すみません。そんな風に思っていらっしゃったとは。確かにそうですね。そうやって聞くととても怪しい。

 でも、そう言われてもわたくしたちはエスカルパから来ましたわ。

 先程押した印章も本物です。お父様に確認の手紙を出していただいてもよろしいですよ。何ならこの国にいるエスカルパの者に確認してもらってもよろしいです。まだ会っていませんから、わたくしたちが先に口裏を合わせることも出来ませんわ。

 ただ、妹のことですが、これは皆知らないと思います。だって、わたくしだってつい先日まで知らなかったのですから。」

 そう言って、おにーさんがするように肩をすくめた。


「まさか父に不義の子がいたなんて、誰が好き好んで公表いたします?」

 うおい!そこまでやるかアマンダさん!さらっとおとーさんを売らないで?!

「でも、わたくしはこの子に会って、その素直さと奔放さに惹かれました。わたくし、人を見る目は自信がありますの。だから、私は妹といいます。」

 そう言って胸を張るアマンダさんの目線が鋭くなった。


「わたくしも不思議に思うんです。なぜ、あなたがあの場にいらっしゃったのかと。」

「それはどういう?」

 にんまりと聞き返すおにーさん。何このバトル。っていうか、アマンダさんが何を言っているか全くわからん。

「わたくしもちゃんとこちらの勉強をしてからやってきました。でも、わたくしの知る限り、国を代表して取引を行うほどの商会に、アルバーニという名を聞いたことがありませんわ。

 しかし、契約書にもアルバーニ商会と書かれていました。

 まさか王城での契約で詐欺などは起こらないと思いましたし、この輸出の契約が不履行になろうとも、ゲーベリオンのギルドに売ればいいだけなので、特に構わないと判断しました。

 しかし、あなたは一体誰なんでしょうね?

 そういえば、この国の第二王子は確か藍色の髪に・・・・・・いえ、これ以上はわたくしからは止めておきましょう。」

 そう言ってにっこり笑ったアマンダさんの恐ろしさよ。ってか、このおにーさん第二王子かもしれないの?!


「クッ!ハハハ!そうか、すでにバレていたのか!これは参った。負けましたよ。」

 そう笑うので、私はゾッとした。このおにーさん本当に王子なの?それを知ってて、アマンダさんはさらっとどえらい嘘ついてるの?マジこえー。

「改めまして、ベリザリオ・グ・ベリンダールと申します。我が国へようこそおいでくださいました。」

 おにーさんが立ちあがり、優雅にお辞儀をしたのでびっくりしたが、アマンダさんは座りながらそれを見ていた。


「本当に第二王子だとして、なぜあの場に?本当の目的はなんですか?」

 え、まだバトル終ってなかったの?

「私から騎士団の思惑を言ってしまうと怒られてしまうからな。まぁ、聖女の事を探りたかったのが一番だね。で、聖女ってどんな感じ?」

 おにーさん改め第二王子はニヤリと笑った。

「国が隠匿している事を勝手にわたくしが言うわけにはいきませんわ。」

「ふーん、じゃぁ知っているのだね。さっきは商会がもらったと言ってたから、カマをかけたんだけど?」

「えぇ、知ってますわ。別にカマかけに引っかかったわけでもありませんし。なんなら、特別に教えて差し上げてもよろしいですよ。条件がありますが。」

 おっと?

「ほう。どうしたら教えてくれるんだい?」

「もちろんクレアライトです。」

 そう来たかー!私はもう横でアマンダさんのやり取りに感心するしかなかった。

 自分の本当に欲しいもの一点だけを叶えるために何でもやる女、アマンダ。

 まぁ、そのために私がここで売られても、特に問題ないかと思ったが、反対にいるシュレインさんは、何とも言えない顔になっていた。本当に売るんじゃないだろうかと心配なのだろう。

 しかし、その不安はかき消された。

「それだけはできない。」

 第二王子の顔から笑みが消えた。

「残念だが、どうやってもあの石は他者に権利を渡すことができないんだ。」

 マジトーンの返答に、アマンダさんも戦闘態勢をほどいた。

「やはり無理なのですか。」

「そうだな。あれだけは私の力でも無理だ。」

 そう言って、第二王子は肩をすくめた。これが癖なのだろう。


「だったら、帰ろうか。」

「え?」

 私の方を見てアマンダさんが言うので、びっくりした。

「あ、ご飯はいただきましょう!でも、この国にいる意味がなくなったし、冬が来る前に帰ろう。」

 あっさり引き下がるアマンダさんの潔さよ。

「でも、おねーちゃんの人生かけた旅なんでしょ?」

「何ならあなたと世界中を旅してもいいかと思って。」

 その言葉に、なぜかシュレインさんがふっと笑みをこぼした。

「えーやだ。おねーちゃんはおねーちゃんの一番やりたいことをやった方がいいと思うし、そのためにちゃんと手伝うよ。何ならこの王子と結婚すればいいじゃん。さっきこの人がそう言ったんだし。」

「え。」

 アマンダさんが真顔になった。

「さすがにさっきのが冗談だって私にもわかるわよ?」

「いーや、自分の言ったことにはちゃんと責任をとるべきだね。それに、この王子と結婚すれば、おねーちゃんがルート確保できる可能性高くなるじゃん。何なら結婚した後に全員殺して奪い取ればいいんだよ☆」

「ハイ!そういうこと言わない!」

「えへへー。」

 その会話を第二王子があきれ顔で見ている。


「もしかしたら、君が聖女なのではないかと思ったのだが、気のせいだったようだ。」

 そう言って、王子は苦笑した。あれ、ばれてたやん。

「まぁ、三人でしかも他の国にやってくるなんてことがありえないから、そうは思えても無理な推測だとは思ったが。君の妹さんはずいぶんと物騒なんだね。」

「優しくていい子なんですけど、たまに予測できないことをします。」

 そう言って、アマンダさんも苦笑するし、その向こうのシュレインさんも苦笑してるし、なんなんなん?

 

 その場の空気が和んだところで、料理がやってきた。

 魚がドーン!肉がドーン!の豪快な料理だ。

「我が国は気候的に農業の期間が短くてね。野菜よりも肉といった感じなので、口に合うかは分からないが、遠慮なく食べてくれ。」

 そう言われた料理だが、タレがたくさん用意されていて、思った以上にさっぱりとおいしくいただけた。

 ワサビや大根おろしのようなものがあったので、醤油が恋しくなった。


「これとこれが好き。」

 その二つを指さすと、王子が説明をしてくれた。やはりワサビと大根だった。

「両方とも子供にはあまり好かれないものだが、君は珍しい子だね。」

 確かに辛みが加わるこれらは子供にはあまり好まれないだろう。だが、こちとら精神アラフィフだからね。

「醤油に合うんだよ。最強だよ。」

 でも、サンマは大根おろしとポン酢で食べたい。あーサンマとポン酢あるかなー。

「しょうゆ?それはどんな食べ物だい?」

「トウワのしょっぱい液状の調味料ですね。塩とはちょっと風味が違うんです。うちで輸入していて、妹はそれが好きなんです。」

 第二王子が聞いてきたので、アマンダさんが説明をする。

「トウワ・・・・・・あんな遠い国と?やはり海がある国はいいね。」

 ベリンダールは岩山に囲まれた国だ。一応その切れ間に隣国と行き来できる道があるのだが、東と南に一か所ずつという独特な地形になっている。と、アマンダさんから聞いていた。

「ポーションと一緒に、醤油もちょっとお届けしますよ。私も好きなので、食べてみてください。」

「ありがとう。」


 にこやかに食事が進み、さて帰ろうかという雰囲気になった頃、第二王子が口を開いた。

「やはり私が屋敷を手配しよう。これは別に聖女がどうとかは関係ない。できればこの国にとどまって欲しいからだ。」

「しかし・・・・・・。」

「クレアライト以外にもこの国にはいい物がある。それをあなたに知ってもらいたい。」

 まっすぐにアマンダさんを見つめてそう言う第二王子。アマンダさんもアワアワしている。

「先程妹さんが言った通り、自分の言葉に責任を持たなくてはいけないしね。

 妹さんたちが騎士団のところへ行っている間に、私が色々と案内するよ。」

「・・・・・・さりげなく、妹たちがあの依頼を受けるようにしようとしてますね?」

「ははは。まぁ、思惑といってもね、彼らは彼らで、君を測りかねているんだよ。」

 第二王子がこちらを見た。


「君のことを魔族なのではないかと思っているようだ。」

 そういえばそんなことを言ってたな。

「何でこんなかわいくてか弱い私が魔族なんですか?」

 その返答に、なぜかシュレインさんが眉をハの字にするのおかしくないかね?


「君がかなり強いと言っていた。そして、その力が測れないと。私はそう聞いて聖女なのかもしれないと思ったのだが、彼らは君と同じでかなり物騒なんだ。だから、魔族だと推測したのだろう。

 下手したら君をワイバーンと共に殺そうとしているかもしれない。」

 うおい!

「そんなこと聞いたらますます帰らなくちゃ!」

 アマンダさんが悲鳴のような声を上げた。


「いや、できたら一緒に行って違うと証明した方がいい。本当に物騒なんだよ、陰湿でねちっこいから、君を付け回す可能性がある。」

 それはなんとなくあの団長を思い出すとわかる気がする。それに、ゲーベリオンでの三人組の態度。

 正直騎士団の上層部を怖がっているように感じた。

「ワイバーンちょろまかしてもいいですか?」

「それこそ彼らを敵に回しそうだね。」

 第二王子が苦笑した。

「んじゃ別にどっちでもいいや。狙われても別に悪い事してないからそっちの無駄足になるだけだし。っていうか、報酬の額聞いてなかったね。」

「断る方が良いかと思ったから・・・・・・。」

 アマンダさんは最初からその気だったようだ。まぁ、怪しいところに私をぶち込む気は無いのだろう。

「国防の事だからね、報酬はかなり出すよ。それで命を張るだけの割に合うのかは知らないけれどね。」

 第二王子、どっちの味方なんだー。

「私も断った方が良いかと。」

 シュレインさんも言う。ならいいかなー。

「じゃぁ断るかー。」

「あなたたちが戦うのだから、それでいいと思うわ。」

「じゃぁ、王子様、断るって伝えておいて。」

「・・・・・・そうか、残念だ。」

 第二王子もさすがに諦めてくれたようだ。


「じゃぁ、帰りましょうか。」

「今日一日だけ観光してからにしよーよー。」

 アマンダさんがさっそく帰ろうとするので、さすがに引き留めた。

「あとどのくらいで雪が降ります?」

「そうだなぁ、一ヶ月くらいかな。ただ、本格的に降るのはもっと後だよ。十一月ぐらいだね。」

「なら余裕もあるから大丈夫でしょ?」

「そうね。じゃぁ、ちょっと観光していきましょうか。」

「やったー!」

「明日なら私が案内するよ。」

 すかさず第二王子が割り込んでくる。っていうか、本当に王子なのか?

「そんなわけにはいきませんから!」

「いやいや、せっかくのご縁ですし是非に。」

 にっこり笑う第二王子にアマンダさんもたじたじだ。

「まぁ、是非にっていうし、良いんじゃない?お土産を買ってもらおうよ。」

「ちょっと!」

「ははは。いいですよ。」

「そういうわけにいかないですから!」

 何度かの押し問答の末、アマンダさんが折れて明日も第二王子がくっついてくることになったのは、いうまでもないのであった。


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