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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
35/102

35.いざベリンダール

「全然つくりが違うね。」

 私たちはベリンダールの城に来ていた。

 少年のくれた封書を門番さんに見せたら、あれよあれよという間に連れてこられたのだ。確かにそんなこと言ってたし。


 オスカラートの城はシンデレラ城みたいなきれいな城だった。

 しかし、ベリンダールの城は要塞のようだ。王都とゲーベリオンのギルドの違いそっくりに、こちらの国ではこれが標準なのだろう。

 それもまぁ、雪の事を考えると当然なのかもしれない。雪って相当な重さになるっていうし。


 通された部屋にはお茶と焼き菓子を出してくれていたので、私はむしゃむしゃとそれを食べる。

「これ、メープルシロップの味がする!おいしい!」

 マドレーヌのようなお菓子で、結構甘い。

「ベリンダールの特産品ですね。私も好きです。」

「ホットケーキ作ってかけたーい!」

「それはどんなものです?」

「あ、パンケーキって言ったら通じる?」

「あぁ、それならわかります。甘くして食べるのもいいですね。」

「ほら、シュレインさんももらっておきなよ!きっとタダだよ!」

 さすがにあとから徴収されないと信じたい。

「いえ、お二人でどうぞ。」

「でも、奇数だから一個食べなよー。」

 三人なのに五個あるのだ。私とアマンダさんがじっと見ると、シュレインさんは眉をハの字にした。

「じゃぁ、いただきます。ありがとうございます。」

 一口食べるが、無表情は崩れない。

「私が作ったのよ!お父さんおいしい?」

 小芝居をすると、シュレインさんは半目でこちらを見た。

「・・・・・・おいしい。」

 そう言うと、アマンダさんを間に挟んでいるのに、私の頭に手を伸ばしてぐしゃぐしゃっとした。

「ななななな!」

 予想外の行動に、私は声を上げ、アマンダさんはびっくりしてのけぞっている。

「ほら、人が来ますよ。」

 シュレインさんがすましてそう言う通り、数名こちらに来ている。

 私はあわてて髪の毛を整えた。


 すぐにノックが鳴り、返事をするとこの前の三人組と、知らないおっさんとおにーさんが入ってきた。

「初めまして。私はロヴァッティ・アルバーニ。ベリンダールで商人をしています。」

 見知らぬおにーさんがそう言って手を差し出す。

 浅黒い肌に藍色の髪。瞳は青紫で少したれ目だ。甘いマスクという感じである。


「初めまして。わたくしはアマンダ・エスカルパです。こっちは妹のメリルと、護衛のシュレインです。」

 アマンダさんがおにーさんを握手をする。

「エスカルパといえば、オスカラートでも有数の商家ですよね。そこのお嬢様たちと知り合えるだなんて、とても幸運だ。」

 おにーさんは若干オーバーにそういうと、お辞儀をして、おっさんにその場を譲った。

 今度はおっさんが前に出てきて自己紹介する。


「私はベリンダール騎士団長のゲオルです。どうもうちの団員がお世話になったそうで。」

 おっさんはニコニコと笑っているが、目が笑ってない。そして、私を見てるんだよなぁ。

「そこの方に呼ばれてここまで来たのですが、わたくしたちに何か御用でしょうか?」

 アマンダさんの問いに、おにーさんとおっさんが目線を交わす。


「ではまず私から。」

 おにーさんが懐から小さな瓶を出す。

「このポーションを、うちが国を代表して輸入したいと思いまして。」

 おっと!営業が効いた!おっこづっかい!おっこづっかい!

「先日ゲーベリオンのギルドマスターとも契約を交わしたのですが、大丈夫でしょうか?」

「あぁ、それはこちらで調整いたします。」

「それと、申し訳ありませんが、そこまで多くを販売することはできないのです。」

「そうなのですか?」

「はい。薬草も調合師も一流のものを用意しておりますので、どうしても数が限られてしまうので。」

「それは残念だが仕方がないです。それと、彼らから聞いたのですが、聖水があったと・・・・・・。」

 あ・・・・・・。

「申し訳ありません。妹が渡してしまいましたが、あれは販売できない物なのです。」

「オスカラートでは流通しているのですか?」

「いいえ。聖女様のご厚意で、うちの商会が旅の共にと特別にいただいたものです。

 まさかそれをあそこで使い切るとは思いませんでしたが、仕方がありません。」

 アマンダさんはそう言って、困った子を見るように私を見てため息をついた。女優~。

 しかしこれで、聖女が直々にくれるしかルートは無く、残りも無いということを伝えた。アマンダさん凄い。


「そうなのですか。確かに数か月前に聖女が現れたということはこちらにも伝わっていたのですが、その後は全く噂を聞かなかったもので。

 本当に聖女がいるのかも怪しんでいたのですが、やはり聖女様はいらっしゃったのですね。」

 あれ、そっちの確認だったの?まぁ、別にいいけど。

 ただ、この国の王族も聖女の役割を知っているのかもしれない。うちの国と同じようなことをするなら、さっきからこちらを見ている目が笑ってない騎士団長も知っているのかもしれないな。

 そうなると、国に囲っているのを快くは思わないだろう。どうか、その矛先は王家に向けて欲しい。

「では、契約を・・・・・・。」



 契約が終わり、おにーさんが満足顔で契約書を見ている。

「しかし聡明な方だ。その若さで、他国の商人と契約を交わせるとは。言葉も普通に話していらっしゃる。」

「取引のある国の言葉は、小さな頃から叩き込まれていますので。」

「素晴らしい。しかも、妹さんも会話ができるのでしょう?さすがエスカルパ家ですね。」

「いえ、勝手に持っている物を渡すような妹です。まだまだ躾が必要だと思っております。」

 あ、怖い。ホントすみません。

「確かに商人がタダで物を渡すのはよろしくないですね。」

 おにーさんはハハハと笑った。

「それで、お嬢様方は何をしにこちらへ?」

「クレアライトです。」

 アマンダさんはにこやかだが、目がマジになってる。

「あぁ、それは難しい。」

 おにーさんは表情豊かで、リアクションがオーバー気味だ。今もすごく悲しそうな顔をしている。


「えぇ。そうなのです。ですから、妹を連れてでもここへ来たんです。」

「それはどういう?」

「わたくしたちには弟がいますので、商会は弟たちが継ぐことになっています。

 ですが、私は諦めたくない。だから、お父様も成しえなかったクレアライトのルート獲得をしに来たんです。

 妹は天才的に強いので、父の力を借りずともここへ来ることができますので・・・・・・。

 妹の奔放さを利用して申し訳ないとは思いますが、私の人生をかけた旅なのです。」

 え、そんなすごい旅だったの?マジで??


「どこかの商人へ嫁げばよろしいのでは?」

「こちらではどうか知りませんが、わが国では女性がこういったことをするのは好まれませんので・・・・・・。」

「そうなんですか。では、どうです?私と結婚しませんか?」

「え?」

「は?」

 アマンダさんだけでなく、なぜか騎士団長も声を出した。笑みが消えてるし。

「アルバーニ、ここがどこだと?」

「ははは、すみません。かわいくて聡明。そして行動力もあるだなんて、とても素晴らしいので、つい仕事を忘れてしまいました。」

 怒られてるし。まぁ、国の代表として連れてきてる商人が、城でよその国のお嬢さんを口説いたら怒りたくもなるか。

 しかし、めげずにアマンダさんにウィンクをしているおにーさん。横のアマンダさんを見ると、真っ赤になっている。おにーさんかっこいいもんねぇ。


「仕事は終わったのだろう?今度はこちらだ。」

 半目で見ながら騎士団長が自分の番を主張するので、おにーさんは肩をすくめた後に、どうぞというジェスチャーをした。

「まず、はじめにこれを。ゲーベリオンでの報酬です。」

 そう言って、金貨入りの袋を差し出した。アマンダさんが中をあらため、頷く。それを見て騎士団長も頷いた。

「あなたたちはワイバーンに興味をお持ちだと聞いた。そこで、ワイバーンの捕獲を手伝っていただきたい。」

 ワイバーン!捕獲の仕方を見れるなんて、ラッキーじゃんと思ったが、シュレインさんがいぶかしげに口を開いた。

「竜騎士といえば、この国の重要な機密のはずです。その活動を他国の者が手伝うなどあり得るのですか?」

 そう言われると、確かにそうだ。

「そう思われているのですか?別にワイバーン捕獲の手伝いは数年に一度はギルドに依頼を出しますよ。」

 さらりとそう言われてしまうと、確かめようがないので、私たちは顔を見合わせた。


「それに、捕獲といえど、実のところ、孵化前の卵を取りに行くだけなんです。それに、生息地への入山には許可が必要なので、知られたところでどうっていうことも無いんですよ。」

 更にニコニコと話す。なんか怪しい。

「この仕事はとても危ないんです。前回は冒険者が数名亡くなりました。なので、できたら強い方を厳選して連れて行きたい。そのタイミングでディア隊からあなたたちの事を聞いたので、これは是非にと。もちろん報酬も出します。」

 まぁ、育ててる卵をかっさらう奴なんて、全力でぶち殺しにかかるのは当然だろう。


「申し訳ありませんが、この返事は一度持ち帰らせていただきます。まだこちらへ来たばかりですので、色々とやらなければならないことも多く、今すぐにそちらに二人をとられてしまうと、わたくしも困りますので。」

 アマンダさんがにっこりと返す。笑顔対決である。

「もちろんです。ただ、二、三日中にお返事をいただけたらと思います。」

「わかりました。出発するとしましたら、いつからになりますか?」

「来週の初めですね。」

 今日は水曜だ。本当に日にちが無い。

「ではちょっと難しいですね。準備の期間もありませんし。」

「必要なものはこちらで全て用意いたしますので、そのままお越しいただければと思います。」

「・・・・・・まぁ、自分たちのこともありますので、それも含めてまたお返事いたします。」

「よいお返事をお待ちいたしております。」

 騎士団長はにっこりと笑うが、目が怖い怖い。なんていうか、蛇のような印象である。


「他に要件がないようでしたら、これで失礼いたしますね。」

 アマンダさんがそう言うと、おにーさんが身を乗り出した。

「お昼は食べましたか?よろしければ私が良いお店を案内いたしますが。」

「アルバーニ。」

 騎士団長がたしなめるように名前を呼ぶと、おにーさんは苦笑して肩をすくめた。



「結局どうするの?」

 馬車を預けている場所に歩きながら、さっきの話を二人に聞いてみた。

「勝手に時間をとってすみませんでした。でも、ちょっと怪しい感じですよね。」

 アマンダさんがそう言うと、シュレインさんも頷いた。

「順番がおかしいです。騎士から誘いを受けた時点では、メリル様がワイバーンに興味を持っているのを向こうは知らなかったはずです。」

 あ、確かに。

「誘ってみたら興味持ってたから、ちょうどよかったってだけでは?」

「そういうこともありますが、せっかく時間をもらえましたし、このままギルドに行ってそんな依頼が出てるか確認してもいいかと。」

「賢い!そうしようか。」

 そう決まった時、後ろから人が来るのが分かった。振り返ると、おにーさんが走ってくる。


「エスカルパ嬢!」

 私が振り向いたのに気が付いて、おにーさんが手を振ってきた。

「ありゃ、あのおにーさん本当に来たよ。おねーちゃん大丈夫?」

「え、あ、え・・・・・・。」

 ほんのり頬が赤い。アマンダさんチョロイんじゃない?大丈夫かな?

「先程はすみません。せっかくですし、本当にお食事をと思いまして。」

 まっすぐにアマンダさんを見るおにーさん。アマンダさんは若干のけぞりながら固まっている。

「おねーちゃんはそういうグイグイ来る人に耐性ないから、許してあげてくれませんかね?」

 私がおにーさんの袖を引くと、おにーさんは愉快そうに笑った。

「これはすみません。確かに、よく知らない男がこんな風に迫るのはいけないことでした。

 ですが、だからこそちゃんとお知り合いになりたいのです。」

 前半は私に。後半はアマンダさんに言っているのが女ったらし感凄い。

「おにーさんのおごりならいいよ。」

 もじもじしてしまってるアマンダさんに代わり、私が返事をしておく。シュレインさんがちらりとこちらを見たが、とりあえず無視しておく。

「もちろんです!では、うちの馬車にお乗りください。そちらの馬車にはついてくるように指示してください。」

 と、満面の笑みで喜んでいる。

 アマンダさんの幸せを願う者として、とりあえずおにーさんを品定めしよう。ついでにご飯をおごってもらえてラッキーだ。


 おごりがメインじゃないよ?・・・・・・多分。

 


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