32.チームギルドとゲーベリオンの地下迷宮
人間っていうのは、一緒にいる時間が長い分、安心感を持つのだという。
これには否定する意見もあると思うけれど、単純な私は割と共感できる。
だって、やっぱりこのメンバーだと、騎士団三人組は部外者っていうか、仲間と認識できてない。
なので、三人組の前でシュレインさんやギルマスが活躍する姿を見ると、嬉しく感じるのである。
そんなわけで、私はカバンから瓶を取り出した。
「お、それは?」
ギルマスが素早く反応する。
「一応聖水を持ってきましたよ。でも、これは深層に行った後での方がいいと思います。あいつに効くかわからないし。」
それに、最深部にはノー・・・・・・なんだっけ?アンデッドのボスがいるはずだ。その時に使った方がいいだろう。
因みにこれは試作で何となく作ってみたやつだ。効き目がそこそこで切れるようになっていると思うので、うまいタイミングで使わないと、ボスまで持たないかもしれない。
「一個渡しときますね。」
そう言ってギルマスに渡すと、大事そうに両手で受け取った。
「いいのか?高いんだろう?」
「まぁ、一番使い時だと思いますし、感謝してくれる人がいた方が、聖女様も喜ぶんじゃないですかね?」
「ありがたい。」
「聖女?それは何だ?」
ギルマスと私のやり取りを聞き、少年が聞いてきた。
「オスカラートに聖女が現れたってあっただろ?その聖女様が力を込めた聖水なんだ。効果を見たが、アンデッドが瞬間的に塵になった。これは本当に凄かったぞ。」
めちゃくちゃ大事そうに背負ったカバンにしまい込んでいるので、作ってよかった。
まぁ、宿屋でもらった水に光精霊の力入れただけなんだけど・・・・・・。
「あと、これはうちの疲労回復ポーション。あなたたちにもあげますよ。
オスカラートのエスカルパ商店でございまーす。これはうちの商品なので、気に入ったらぜひ取引をお願いしまーす。」
そう言って、全員にポーションを配った。おっさんがじっと見て頷いたので、多分解析かなんかしたのだろう。魔力を感じないので、この人の特殊能力なのかな?
しかし、誰もポーションを飲まない。騎士団にはあげなきゃよかったかなぁ。
こっちはまだ全然戦っていないので、疲れてないし、後で飲むかもしれないからいいか。
そう考えて、迷宮に潜ることにした。
私は守護魔法をこっちの三人にかけなおす。さっきもかけていたけど、パフォーマンス込みだ。
「そういえば、サブマスターはどんな役割なんですか?」
魔法をかけてから聞いてみる。
「私も魔法職です。でも、恥ずかしながらあなたの方が守護魔法は上手なようです。」
アイヤァ、仕事を奪ってしまった。
「こいつは火の魔法が得意なんだ。だから、この迷宮とは相性が良くてな。」
ギルマスが、素早くサブマスのフォローをする。豪快なおっさんなようで、こまかい気配りができるようだ。人徳もあるのだろうなぁ。
「では、アンデッドの攻撃は任せていいですか?」
「はい。」
私がお願いすると、サブマスは嬉しそうに引き受けてくれた。この人もいい人っぽい。
そんなやり取りの後ろを、騎士団三人組がついてくる。おっさんにはニヤニヤが戻り、おねーさんにはオドオドが戻ったので、私たちに任せるつもりだろう。
ぜひともシュレインさんを強くしたいところだが、おねーさんやおっさんには魔法の精度がばれる可能性があるので、今回もギリギリな感じで行くことにした。
が、さすがについさっきまで潜っていただけあり、ネズミ近くまではなにも起こらずに進めた。
「やはり、下から湧いて出てきてるな・・・・・・。」
ネズミの手前で三回ほど戦闘し、ギルマスがつぶやいた。
騎士団の少年も難しい顔をしている。
そして、またあの部屋の前に来た。
「すみませんが、おねーさんの守護魔法で一番効いてそうだったのってどれですか?」
少年に聞くと、少年は首を振った。
「どれもそう変わらない。」
見ていたところ、属性に特化させつつ全体の守護魔法をかけていたので、属性はやはり効かないのだろうと思う。
「先程の話から、私は火属性の魔法なのでこの魔物にはあまり・・・・・・。」
サブマスが申し訳なさそうに言う。
「それは仕方ないです。というか、もしかしたら、ここのギルドが火属性を重視しているから、火属性に耐性がある魔族が来たのかもしれないですね。」
「確かにそうかもしれねぇな。で、策はあるのか?」
「ちょっと待ってくださいねー。」
私は周囲を見回し、金属の含まれた石を拾った。皆には見えていないだろうが、精霊が教えてくれる。
「ギルマスさん、シュレインさん、この石を投げて、バチバチって火花が出なかったら、左右にわかれてネズミに切りかかってもらっていいですか?その後も、できるだけネズミを挟んで攻撃してください。
あ、火花が出たら入っちゃだめですよ?」
私の言葉に、二人は頷いた。
「サブマスさんは深層の時にまた活躍してもらうので、休んでてください。」
私の言葉にサブマスは頷いたが、少年は顔をしかめた。きっと、深層に行けるつもりかと馬鹿にしているのだろう。
まぁ、こんな茶番しなくても、瞬コロさせられるんだけどね。仕方ない、私は魔法の詠唱に入った。
ちなみに、口にする言葉が思いつかないので、日本語で竹取物語の冒頭をつぶやいている。確かに、勉強が役に立っているのかもしれない。いや、無い。
「もと光る竹なむ一筋ありける!」
私は左手を前に出し、いかにも魔法を唱えた風を装いつつ、ネズミの周りに遮断魔法をかけた。そしてすかさず石を投げる。
部屋に入った石が中央に向かって飛んでいく。火花が出ていないと見るや、二人は素早く左右に分かれて・・・・・・少年もするりと飛び出していき、真正面に突っ込んでいく。三方からくる剣に、ネズミが金切り声を上げた。
しかし、無情にもネズミは切り裂かれた。
唖然とするギルマスとシュレインさん。二人の剣は、毛皮にはじかれていたが、少年の短剣が毛の流れに逆らって肉をとらえて裂いていた。
「お前、今何やった?」
少年が剣に付いた血を拭きながら、こちらに声をかける。
「さっきも言ったでしょ。遮断魔法だよ。あなたのお仲間が私の事が分からないのと原理は一緒。なにも通さないの。」
統一性を出せば、私が何でもできるのがばれずに済むと思ったのだ。
「お前の能力か。それでお前は俺たちじゃなくてこいつに魔法をかけるのを選ぶのか。」
勝手に解釈してくれるの助かる。ただ単に、対象が一つになるから楽なだけなんだけど、そういうことにしておこうと思う。
「何でも遮断できるわけじゃないと思うから、正直賭けだった。」
ネズミを見下ろしながら言った。紫色のでかいネズミの背中にコウモリの羽が生えている。間近で見るそれは、大きさも相まってかなりえぐい。
守護魔法に臭い消しもかけてるのでいいが、アンデッドの巣窟であるこの迷宮は、さぞかしやばい臭いだろう。
そういえば、特に考えずにギルマスやサブマスにもかけてしまっているが、普通の守護魔法で臭いまでは遮断していないだろうから、遮断魔法と言っておいたのは二人に対してもカモフラージュになるかもしれない。ラッキーである。
ターンアンデッドの事は忘れてると信じておこう。うん。
「よし、とにかく下に行こう。時間がもったいない。」
少年の声に、全員が頷いた。
またも騎士団を先頭に、深層攻略をしていた。
ネズミの件で、ギルマスとシュレインさんは苦々しい思いをしただろうが、前を向いて歩いている。
長剣や大剣の方が強そうに感じてしまうが、ああいう細やかな技は短剣の方が出しやすいのだろう。
少年の二刀流には、そういった経験が活きているのかもしれない。
しかし、ちょっと困ったことがあった。
深層にはゴーストもいたが、基本はアンデッドだしこのメンバーには問題が無いようだった。
ただ、多分ネズミが最後にあげた金切り声が、仲間に伝わったのだろう。深層にいるネズミの仲間が合流し、奥の部屋の変なやつを護るように、その前でとどまっているのだ。
一体でもあんなパフォーマンスが必要だったのに、三体同時となると、もっと苦戦する演技をしなくてはいけない。何たる面倒くささ。
「おなかすきました。休憩したいです。」
私はとりあえず、問題を先延ばしにすることにした。
しかし、少年はチラリとこちらを振り向いたものの、そのまま進んでいく。クソガキがぁ!
でも、本当にお腹が空いてきた。こんなことなら、下に降りる前にご飯を食べておけばよかった。
「メリル様大丈夫ですか?」
シュレインさんが無表情で聞いてくる。ギルマスもこちらを見た。そのタイミングで、おなかがクゥと鳴ったので、物凄く恥ずかしい!!なぜ!今なの!!
「おい、すまないがこっちは休憩が必要だ。」
私が真っ赤になりながらうつむいているのをなでながら、ギルマスが騎士団に声をかける。すると、少年は大きな舌打ちをした。
「我慢できねぇのかよ。」
「お嬢ちゃんのおかげでここにいることを忘れるな。」
ギルマスが低い声を出す。その言葉に、少年は苦々しい顔でもう一度舌打ちをした。シュレインさんのクソデカため息と並ぶでかさだ。騎士は皆こういうの持ってるもんなの?
私たちは少し戻り、広くなっている場所で休憩することにした。
「こんなくっせー場所で飯なんか食う気になれるかよ。」
少年がぶつくさ言ってるので、騎士団にも浄化機能入り守護魔法をかける。三人がバッとこちらを見る。
「遮断魔法で臭いも遮断できるんですよ。便利でしょ?」
私はギルドのおねーさんたちが用意してくれたサンドイッチを取り出しながら言った。
ハムとレタスのサンドイッチだ。シンプルだがおいしい。
「奥までは残りどのくらいになる?」
ギルマスが騎士団の方に声をかける。彼らは彼らで何かを食べているが、乾燥携帯食っぽい。うへ、かわいそう。
「一層目より広い。掃討という考えなら、手分けしても夕方は超えるだろう。」
「例えばアンデッドを召喚するとして、どこが最深部になると思う?そこをできれば目指したい。大元を叩かないと改善されないからな。」
「それなら多分右のルートだ。」
少年が言うように、右側の最奥にそれらがいる。
「奥って何があるんですか?」
私が聞くと、少年は少し考えた。
「多分ゲーベリオンの書斎というか実験場というかだ。
いくつか魔道具があるが、ほとんどは機能していない。生きているのは明かりの魔道具と、訳が分からん奴だけだ。
そして、それこそがここにアンデッドを生むための魔道具なんだと思う。」
「やっぱり騎士団もここは残しておくつもりなんですね。」
「・・・・・・この地は特殊な条件があって、ここがあることでバランスが取れているからな。」
一瞬の間があったのが気になるが、他国の事情に首を突っ込むのは良くないだろう。
大方、戦争になった時にその装置が役に立つとでも思っているんだろうが。
まぁ、そこら辺の探り合いなんてしても意味がないので、お昼をおいしくいただくことに集中しておこう。
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