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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
31/102

31.騎士団とゲーベリオンの地下迷宮

「お前たちが一緒に行くのか?」

 ミントグリーンの短髪に薄茶な瞳の少年が迷惑そうに聞いてくる。顔全体に面倒くさいと書いてあるのが分かる。

 その横で、くすんだサーモンピンクの長い髪に真っ黒なカチューシャをつけたそばかすの女性が少年と私たちを交互に見ている。

 前髪が目を隠すほどに長いので表情が読み取りにくいが、少年の発言に困っているようだ。

「いいじゃないか。現地の人間を護るのも俺たちの仕事だろ。」

 そう言ってへらへらとしているのは、ぼさぼさのオレンジ色の長い髪を後ろにひとまとめにした、こげ茶の瞳のおっさんだ。

 皆、文様の入った金属の胸当てをしており、同じ団に所属しているのだろうとわかるが・・・・・・。


 え?これが騎士団?という困惑の目でギルマスを見ると、意味が分かっているのか分かっていないのか頷いてきたので、私もよくわからず頷き返してしまった。

 シュレインさんを見ると、いつも通りの無表情だ。

 ツンケンした少年は私と同じくらいの背丈だし、おねーさんはヒョロッヒョロオドオドキョロキョロしているし、おっさんはニヤニヤヘラヘラクネクネしている。


 まったく強そうに見えない。


 しかも、メインのワイバーンちゃんが見えない。

「ワイバーンは?」

 ギルマスにこっそりと聞くと、上を指さし、くるくると輪を描いた。

 どうやら、上空を旋回しているようだ。なんだよそれー。


 外へ出てもワイバーンは見えない。早くもやる気をそがれた。

 若干ふてくされながら、ゲーベリオンの迷宮へときた。

「俺たちが戦うから、お前たちはついてこい。」

 そういって少年はさっさと階段を降りていく。さて、お手並み拝見だ。


 いざ戦闘が始まると、初見の印象と雰囲気が変わった。

 少年は長剣と短剣の二刀流で、敵をサクサク倒していくし、それを迷宮に入った途端態度が一変し、シャキッとしたおねーさんがサポートする。

 おっさんは・・・・・・なにしてるかわからん!

 そしてその様子を、ギルマスサブマスシュレインさんがまじめな顔で見ている。

 剣で戦うわけではない私にはよくわからないけれど、シュレインさんみたいな動きではないことはなんとなくわかる。なんていうか、少年は踊るようにニュルニュル動く気がするのだ。まぁ、よくわからないんだけど!


「あの子強いの?」

 小声でシュレインさんに聞くと、無言で頷いた。視線が少年から動かない。そんなにガン見するほどなのか。

 ただ、なんだろう?少年の周りに変な魔力の流れがあるんだよね。

 守護魔法とは違うし、なんか嫌な感じがするのだが、なんなのかが分からないので放っておくしかない。


 そうこうするうちに、例の中層の奥にやってきた。確かにものすごく速い。敵の数は同じくらいはあったように感じるが、一回の戦闘が明らかに短いのだ。

「ふーん、あれか。タイド。」

「下級魔族だね。火と雷の耐性がある。土魔法を使うみたいだ。」

 タイドと呼ばれたおっさんがそう答える。おっさんは敵のステータスみたいのが見えるのかもしれない。あんなことができるだなんて、凄いと素直に思った。


「やっぱり見たことなかったようだな。」

 ギルマスがそっと耳打ちしてきた。確かに、今の会話から察すると初見のようだ。やはりここでも下級魔族が発生していることになる。

 三人組を見ると、少年が部屋に入っていくところだった。

 ここは坑道のため、部屋といっても扉や区切りがあるわけではない。細い通路の中に広がっているところを部屋といっているだけだ。

 その部屋から、バチバチと大きな音がしたと思ったら、少年飛び出してきた。

「ファム、この魔法じゃだめだ!体が熱くなりやがった!なんか火花も出たし!」

 どうやら、部屋の中には何かあるらしい。ネズミの魔法だろうか?ただ、魔力の流れを感じないのが不思議だ。

 おねーさんが頷いて、新しい守護魔法をかける。少年が部屋に踏み込むが、やはり帰ってくる。


 また守護魔法をかけるが、また出てくる。それを何度か繰り返し、少年がイラつき始めた。

「魔法で攻撃できないのか?」

「やってみる。」

 おねーさんはそう言うと、水の矢を飛ばした。が、それは部屋に入った途端ジュッという音と共に霧散した。

 アレをちょっとでも耐えただけあって、多分おねーさんの守護魔法は強力だったはずだ。


 おねーさんが土魔法を唱え、ネズミの足元から棘状の土つららが生える。

 すると、ネズミの周りに魔力の流れができたが、ネズミの魔法は土つららをきれいにならしただけだった。

「え?」

 攻撃ではなく、土つららを消しただけ?凄い違和感を覚え、よくよく考える。

 おねーさんが土つららを何度生やそうが、それをきれいにならしているのを見て、よく見ると、地面も壁も坑道なのにきれいなのに気が付いた。


「電子レンジ?」

 体が熱くなり火花が出て水が蒸発する。そしてきれいな空間。なんとなく浮かんだのは日本では見慣れたそれだった。

 でも、この世界でマイクロ波とか言っても意味が通じない。自分で確かめるほかない。


 私は精霊にそっとお願いし、坑道の中にある金属鉱石をとってきてもらった。ここは魔石の採取場であって、金属鉱石は残っているのだ。

 それを部屋の中に放り込むと、思った通りバチバチと大きな音と火花が散った。

「お前、何した!」

 少年がこちらをにらみつける。しかし、どうしたものか、マイクロ波がどういう仕組みなのかが私にはわからないのだ。レンジはマイクロ波で温める!それくらいしか知らない!ドヤァ。

 それを何をどうしろって説明できない。

「えーっと、多分金属は危ないです。それを見たかっただけです。」

「あ?」

 すっごいイラついた顔で聞き返さないでほしい。

「あいつの周りに金属のつらら出せますか?」

 聞くと、おねーさんは頷いて詠唱を開始する。


 正直、自分でやっても良かったけど、それをやると騎士団に私が特殊なのがばれてしまう。それは避けたかった。

 おねーさんの詠唱が完成したらしく、ネズミの下に魔力渦が現れ、そこから金属の針のようなものが出てきた。

 それをまたひらりとかわすネズミ。金属の周りからは火花が出ない。

「なにも起こんねーじゃねーか!」

 少年が悪態をつくが、それでわかった気がする。次の指示を出そうとした時、ネズミと目が合った。ネズミはその針を無視して、こちらに羽ばたいて近づいてきたのだ。

 私は遮断魔法を唱えた。が、少年の腕がはじけた。

 少年もネズミの行動に反応し、一番前に躍り出ていたのだ。


 その瞬間、私たちは迷宮の外に出ていた。


 転移魔法?しかし、あの瞬間にその気配がなかった。ただ、おっさんから微弱な魔力が流れたのを感じた。

「何で外にいるんだ?」

 ギルマスの声に誰も反応しない。シュレインさんはこちらを見たが、私は首を振った。


 騎士団を見ると、おねーさんが素早く少年の腕の止血をしている。その横でおっさんが魔法を詠唱している。回復魔法の魔力の流れだ。

「脱出の魔法陣を書いてあった。下準備で何かあった時に逃げれるようにしている。」

 少年がギルマスに向かって言った。転移したのはその魔法陣とやらの効果だったようだ。


 私は感覚的に魔法の流れが感知でき、それが何なのか理解するよりも先に消滅させる守護魔法をかけることができる。

 これは本能ってレベルで、息をするのと同じで意識を必要としない。それくらい魔法に強い。

 ダクテオンと魔法合戦をした時、ダクテオンも同じように瞬時に消滅させる魔法を出してきたから、できるやつはできるって感じだろう。

 でも、魔法陣は私にはよくわからなかったし、ネズミが何をしてたのかも正確にはわからない。聖女であっても、何もかもを理解するのは無理なのだと今やっとわかったので、若干恐ろしくなった。

 精霊王たちに聞けば何かわかるかもしれないが、今は止めておこう。


「で、お前は何か分かったのか?」

 少年がこちらを向いて聞いてきた。

「これが正解かは分からないけれど、多分あのネズミみたいのは目に見えない何かを出してる。それを使ってあの部屋を特殊な状態にしているんだと思う。」

「何か?そんなのはバカでもわかるだろ。」

「ごめん、うまく説明できない。とにかく、それを部屋にいた時は部屋を満たすように流してて、こちらに向かってきた時は、前方に出したんだと思う。」

「それは魔法ではないのか?」

「魔力の流れがなかったから、魔法じゃない。多分あのネズミそのものの能力だと思う。」

 少年がおっさんを見ると、おっさんが頷いた。何の合図かわからないけど、納得してくれたのだろうか?


「金属がどうってのは何だ?」

 少年が続けて聞いてくる。

「あなたが部屋に入った時、大きな音と火花が出たでしょう?あれを見て、そのネズミの能力に思い至ったの。」

「だが、あいつに針を出しても意味がなかったが?」

「あいつも自分が出すものが当たるとやばいんだと思う。だから、自分がいる場所には跳ね返ってこないように調節してるんだと思う。」

 電波そのものを曲げられるのか、感覚的に放出する角度を計算できるのかは分からないが、そこまで細かくわからなくても構いはしない。

「だったら、どう倒すんだ?」

「あいつを隔離すればいいと思う。例えば、守護魔法をあいつにかけて、外にその能力が出ないようにすればいい。」

「バカか?それなら自分にかけて防ぐのと変わらないだろ?それができなくてあの部屋には入れなかったんだよ。」

 それもそうである。あのおねーさんが考えたものでは防げないのだ。

「でも、あの部屋からその能力は出なかった。ということは、物理的に閉じ込めてみればいい。土魔法では突破されるだろうから、別の何かがいいけれど。

 それか、できるなら即死魔法とか唱えればいいんじゃない?騎士団なんでしょ?そういうのできないの?」 

 私ならさっくり後者で行くけれど、おねーさんの能力次第だ。

「そんな魔法が使えるのは魔族くらいだ。」

 おねーさんではなくて、おっさんが答えた。その手の中で、少年の腕が見事に復活していた。


 欠損。それを治すのは、この世界では至難の業である。


 私はもちろんできるのだけれど、学校に行って、そこまでできるものはほぼいないということが分かった。

 ということは、このおっさんはかなりの回復魔法の使い手だ。ネズミの能力を読み取っていたのもあるし、聖女を隠す上では、出会ってはいけない人だったかもしれない。

 そして、その考えは正しかった。

「あんた何者だい?あんただけ何も読み取れない。」

 おっさんはネズミに使った能力を、こちらにも使っていたのだ。

「別に。読み取り系の魔法の遮断をできるだけだよ。それが私の能力。」

 まぁ、嘘ではない。それもできるってだけだ。何が起こるかわからないので、守護魔法はすでにパッシブだ。

 もちろん精神攻撃の遮断も常に発動してるし、少年の腕ではなく私の首が飛んでいたとしても、瞬時に回復させることも出来るように回復魔法もかけてある。

 そうじゃなくても、多分私の能力が及ばず、本当に危ない時は精霊王が護ってくれるだろう。

 それは多分、おっさんの能力からの守護も含まれていると思う。


 しかし、騎士団は納得していないのだろう、おっさんの笑みが消えている。

「あんた、魔族か?」

 おい!いうに事欠いて、それかい!

 シュレインさんを見たら、何とも言えない顔でこちらを見ている。そんな目で見るな!

「人間だし、あなたたちに敵意は無いから、そんなに警戒しないでほしいんだけど?」

「お前はあいつを倒せるか?」

「私が?あなたたちはできないの?」

 少年がおねーさんを見るが、おねーさんは首を振った。次はおっさんを見たが、おっさんも首を振る。

「あいつが出しているものの正体が分からないから、無理だ。」

 普通はそうなのだよな。でも、とりあえず金属の箱で覆えば行けるんじゃないかと予測する。

 土魔法の上位互換が金属になる。なので、おねーさんも針を出せるだけかなりの使い手のはずだ。


 私は自分だけでも金属の箱くらいは出せるし、精霊にお願いすれば、周辺の金属を簡単に集められるので、かなりの厚みも出せるだろう。

 その箱の中に針でも出せば倒せると思う。要は、アイアンメイデンだ。まぁ、そんなことしなくても、即死魔法を唱えちゃうけど。


「だったらどうするんですか?あのネズミが外に出てきたら大変ですよね?」

 索敵魔法を発動しているので、また部屋の奥に戻ったのはわかっているが、素知らぬ顔で聞いてみる。

「上に報告するしかない。」

 少年は忌々しそうに吐き捨てた。おねーさんもうつむき、おっさんも険しい顔になっている。

 シュレインさんのとこの騎士団も団長や金髪がくせありそうだったけど、この国でも色々とあるようだ。


「それで、嬢ちゃんは倒せるのか?」

 ギルマスから声をかけられ、驚いて振り返った。ギルマスの視線がまっすぐこちらをとらえている。

 少年から聞かれたことをはぐらかしたのに、ギルマスは年の功でちゃんとそれをわかっていたのだ。

「気は進みません。けれど、手伝ってくれるなら、やるだけやってみます。」

 そう言うと、ギルマスはニカッと笑って、背中をバンバンと叩いてきた。痛い痛い!

「ただ、あいつの能力がどこまでのものかわかりません。空間を利用しない場合は複数人に攻撃できるか。能力を使いつつ、他の攻撃もできるのか。そういった細かいことが分からないので、正直かなり危ないですよ?」

「あいつが出てくるよりはましだ。」

 ギルマスは覚悟を決めているようだ。シュレインさんも頷いてる。私はため息をつき、おっさんに聞いた。

「その回復魔法、どのくらい使えるんですか?」

「腕が飛ぶくらいなら後二回。胴体に穴が開くなら一回だ。」

 その言葉に、ギルマスとサブマスが息をのむ。かなり凄い事なのだろう。

「まだいけますか?」

 おねーさんに確認すると、頷いた。

「では、またあいつのところまで行きましょうか。」

 次はギルドチームの出陣だ!

 

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