30.先を見据える
「素晴らしいです。あぁ、本当に買い占めたかった!」
村を後にし、馬車の中で買い取った薬草たちを見ながらそう話すアマンダさんに、こそばゆい思いになる。
自分の子供が褒められる気持ちはこんな感じなのだろうか?
「そう言ってもらえたら、嬉しいです。」
周辺の魔物事情を知るためにも、索敵魔法を展開しながら町へと馬車で移動する。
しかし、特にこの周辺には魔物が見当たらない。せいぜいが熊とかオオカミとかだ。
町に着いた頃、村とは反対方向にゴブリンなんかがちらほら引っかかるようになった。しかし、徒党を組むという感じではない、ごく普通に単独行動している。
「どうです?」
シュレインさんに聞かれたので、その通りに説明した。
「町の向こうに行ったことなかったけど、ゴブリンがうちの方にもいたんだね。見たことなかったや。」
と、ここまで言ってふと気が付く。
「あー、というか、私、オークを見るまで魔物って遭ったことなかったわ。」
そう、村周辺には魔物と呼べる生き物はいなかった。魔物よけの結界は、実は全く仕事をしていなかったのかもしれない。
「聖女様効果かなんかなんですかね?」
アマンダさんがぽつりと言う。確かにそういう効果があるのかもしれないし、無いのかもしれない。
「まぁ、ギルドに聞いてみよっか。」
私たちは冒険者ギルドへと向かった。
「うちの管轄は平和ですよぉ。」
おっとりとした口調で、受付のおにーさんが答える。前からの顔見知りのおにーさんだ。
「でも、薬草の買取価格上がったでしょ?」
「そうなんですよ。ここ最近他から薬草をまわして欲しいという依頼が多くて、うちはそちらから安定して仕入れていますし、ここら辺は平和なので余った分をまわしてるんですよね。そしたらとても評判が良くて。なので、買取を上げたんです。」
ちゃんと仕入れ値を上げてくれているのは助かる。
「どのあたりから仕入れを頼まれていますか?」
「そうですね、ティスタンやコストレッタが多いですね。ワーディスの森とグレンドの深窟があるからなのかなぁ。」
「なるほど。ありがとうございます。」
シュレインさんが聞きたいことが分かったようなので、私たちはお礼を言ってギルドを後にした。
「ワー何とかと・・・・・・えっと・・・・・・まぁ、とにかくさっき聞いたとこって何なの?」
相変わらず横文字を覚えようとしない私が聞くと、シュレインさんは渋い顔になった。
「この国の南西に位置するワーディスの森という場所があるんですが、あそこはこの国で一番危険な場所になってますね。
深い森の中央には不浄の池と呼ばれるものがあり、そこから魔物が湧き出すと言われています。」
「シュレインさんは行ったことないの?」
「過去に騎士団で不浄の池を目指したことがあったそうなのですが、たどり着けなかったと聞いています。」
「え、それでやめちゃったの?!騎士団ちゃんと仕事して?」
「痛い言葉です。」
それもあって渋い顔になったのだろう。
「深窟とやらは?」
「あそこはグレンドと呼ばれているドラゴンの住処ですね。国の中央にあります。」
簡潔な説明で全てがわかる。そりゃ危ないわ。
「ただ、グレンドは休眠期間に入っています。特に何もなければ、後五十年は休眠するはずです。」
「五十年も?」
「そうですね。起き出してきた時に周辺の家畜を荒らします。活動時間は十年ほどで、どこかへふらっといなくなり、帰ってきたころにまた家畜を襲ってから百五十年寝るのです。
その活動周期がかなり長い昔から決まっているようで、国もその頃にそれ用の家畜を近くに用意するのです。」
慣れ過ぎである。
「何度かドラゴンを退治しようとした者が現れたそうですが、それがなされることもなく、今に至るようです。」
「でも、ドラゴンが危なくないなら何でそこが危険地帯に指定されてるの?」
「そもそもが火山地帯なんです。噴火をしたという記述は無いのですが、火口からはマグマも見れます。
また、深窟には眷属であろう飛竜が周辺に住んでいます。なので、グレンド本体が脅威ではなくとも、眷属が脅威なのです。深窟を一定以上に降りると襲ってきますし。
他にも、あそこには人が近くに寄らないのもあってか、手つかずの場所が多くあり、強い魔物がちらほらいるんです。」
「前にギルドで見たドラゴン退治って、それのこと?」
「グレンドの方だと思います。」
倒せるようなものなのだろうか?
「凄い長生きのドラゴンなのね。百五十年も眠ってるなんて。」
「グレンドとベリンダールに棲むブラックドラゴンのベイダルは神話に出てくるドラゴンですよ。他にも、あと三体のドラゴンがいます。そう考えると、たった百五十年しか眠っていないと言えますね。」
「し、神話?!」
教養がない村人の私は、神話とか言われて途方もない世界にやってきたことを感じた。まぁ、精霊王だって相当だけど。あぁ、ファンタジー。
「そんなの良く倒そうとするね。」
諦めてないのならバカだろう。
「国では討伐の話は出ていません。近寄らなければ定期的な捕食以外には被害もありませんし。」
慣れとはこういうことだ。ドラゴンが真横にいても大丈夫。ファンタジーって怖い。
「まぁ、この辺は平和みたいだし安心したわ。つき合わせてごめんね。とりあえず宿屋に帰りますかー。」
「あ、王都に寄れませんか?器具を調達しておきたいのですが。」
アマンダさんが申し訳なさそうに言う、そういやそんなものがあった。
「大丈夫ですよ。」
「お願いします。」
王都ではフードを深くかぶった怪しい三人組になってしまった。さすがに見つかったらまずい。
「これで一式揃いましたね。」
そう言って、大量の袋を抱えたシュレインさんを、アマンダさんが満足そうに見ている。
ちなみにあの馬車も目立つので、王都の外に隠ぺいの魔法をかけて置いてきている。
「この器具、もう持ってきてしまいましたけど、置く場所はあるんですか?」
「うん。勢いで部屋を用意したの。」
「どこからそんなお金を出したんですか?」
そう聞くシュレインさんの目が鋭い。何かを疑っているようだ。なんて失礼なのだろうか。
「ふふん。私レベルになれば、マネーパワーになど頼らなくても、部屋を用意できるんですよ。」
「城にはいたのに?」
「勝手に出て行ってよかったら出て行ってましたよ。本気を出していなかっただけです。」
そういう私を、じっとりと見ているシュレインさん。信用なさすぎではないだろうか?
「まぁ、本当に大丈夫だし、悪いお金使ったとかそういうのじゃないから安心して。」
そう言って器具を受け取ると、パッとおいてきた。さすがに見せるわけにはいかないだろう。なんとなく怒られそうだし。
こうして私の調合設備が整った。後はバリバリ働くだけだ。
販売価格は結構割高になっている。安く売った方がいいのではないかと聞いたら、アマンダさんは首を振った。
「ちゃんと効果のある良い物は、高い方が良く売れるんです。
数も十分に用意しない方が良かったりします。そうすると、お金を出す層が変わるんですよ。」
よくわからないが、ブランド戦略に近いのだろう。
さすがに聖女印としては売れないけれど、いい物であれば勝手に売れるとのことなので、信じて託すことにする。
全部売れれば結構な財産を手にできるんで、私は今から楽しみなのだった。
ゲーベリオンの宿屋に帰ると、宿屋のおかみさんが話しかけてきた。
「さっきギルドのお使いが来て、ギルドマスターがあなたたちに話があるから寄って欲しいとのことだよ。」
何かあったのだろうか?ということで、私とシュレインさんはギルドへと向かった。
「お前たち、来てくれたか!」
ギルドに入った途端、ギルマスの声が響き、こちらへドカドカとやってきた。
「話があるとのことですが、何かありましたか?」
シュレインさんが聞くと、ギルドマスターは頭を掻きむしった。
「騎士団に、魔物の増加と見知らぬ魔物の出現の報告と、深層の状況確認の問い合わせをしたら、こちらに来ると連絡があったんだ。」
「えーよかったじゃないですか!でも、そんなに簡単に来てくれるものなんですね。」
私が聞くと、ギルマスは首を振った。
「こんなことは初めてだ。だが、見たことのない魔物のことを言ってあるから、調査が主だと思う。
それで、お前たちも明日来ないか?」
「明日?!急ですね。そんなに早く来れるんですか?」
「あいつらはワイバーンに乗ってるからな。」
「!!」
なんと、竜騎士というやつだ!こんなに早く見れるとは!
「行きます行きます!ワイバーン見たいです!!」
「メリル様、ワイバーンがメインじゃありませんよ。それに、私たちでいいんですか?
私たちはずっとここにいるわけではないのですし、ギルドのメンバーで見に行った方がいいのでは?」
「確かにそうだ。だから、サブマスターも連れて行くんだが、お前たちはお前たちの為に行け。」
「え?」
「俺はお前たちがトップランクに行く器だと思っている。経験が必要だ。特にお前。」
そう言って、ギルマスはシュレインさんを顎でしゃくった。
「私・・・・・・ですか?」
「お前はきれいな戦い方だが、それじゃだめだ。お前の国ではそれでいいかもしれないが、よそじゃ通用しねぇ。この国の騎士を見て行け。」
「・・・・・・。」
「前も言ったように、ゲーベリオンの冒険者に無茶は絶対させない。だから、これからも多分俺たちが深層へ行くことはねぇ。
でも、お前たちは違う。ここよりもっとひどいとこに赴いたら、そこのギルドを助けてやって欲しい。
俺たちギルドマスターってのはな、ギルド網全ての秩序を守るために後発を育てるのも仕事なんだよ。お前たちはそれに利用されろ。」
最後はお茶らけて言ってはいたが、元団長ギルマスや、ウィーペラ退治のギルマスも同じような感じだった。そういう判断ができる人間がギルマスになっているのだろう。
「わかりました。ぜひ同行させてください。」
シュレインさんが迷っているのを感じたので、私が勝手に返事をする。心なしか、シュレインさんの顔が緩んだので、大丈夫だったのだろう。
それを聞いて、ギルマスは満足そうに頷いたのだった。
「よろしかったんですか?」
帰り道、シュレインさんがぽつりと聞いてきた。
「なにが?」
「いえ、この旅は一応エスカルパ嬢の手伝いという名目ですし。」
「一応だからね。私は世界を見たいし、シュレインさんも自分の力量を上げたいんでしょう?それぞれの思惑があって、それぞれにやりたいことをやっていいと思うんだ。
アマンダさんだって、私たちがここの現状に興味を持つと思ったからここに寄ってくれたんだし。」
「ありがとうございます。」
「お礼を言う必要もないというか、私もありがとうございます。」
「え?」
「私は世界を見たいって言ったでしょう?せっかくだもん。ワイバーンに乗るノウハウを盗むいい機会じゃない!」
「本当に乗るおつもりですか?」
「まぁねー。」
私がそう言うと、シュレインさんはくすりと笑った。
「でしたら、騎士たちと仲良くしましょう。」
「まぁ、良い人たちだったらねー。」
その言葉に、シュレインさんは優しい目でほほ笑んだ。何イケメンオーラ出してんだ。怖いわ。
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