29.私のおうち
前世の私は都会に住んでいた。
こぎれいな単身用マンションに住んでいたので、生活はとても便利だった。
そんな生活から、この世界に来た時は本当に耐えられない気持ちだった。
だから、いつかきっと、あの生活に帰るのだとひそかに思っていたのだ。
そして、目の前にそれがあった。
「いや、大盤振る舞い過ぎるでしょう・・・・・・。」
私はあまりの出来に、一人つっこみをしてしまった。
時間は一時間前にさかのぼる。
アマンダさんにポーション販売の話をした後、私たちはそれぞれに眠りについた。
だが、ああでもないこうでもないと考えていると、全然寝付けないのだ。
「あーもう!なら家を作る!」
私は一念発起し、オスカラートとベリンダールの国境に転移した。
国境の関所は岩山と岩山の谷間にあり、岩山自体は人が踏み込めるような場所ではないのだ。要するに、天然の壁のようになっている。
その岩山の一角に、自分の家を勝手に掘ることにしたのである。
きっとここも誰かの土地なのだろうけれど、きっと来ないだろうし、隠ぺいと迷いの結界を張っておけば、万が一登山家なんかが来ても大丈夫だ。
私は精霊王に日本での生活を伝えてみた。そして、頼んだのだ。こんな感じに作れるとこまで作ってくれませんかね?と。
そして、出来上がったのである。私の城が!
中に入ると、空調も完備されているし、岩山の中に掘ったのに、どの部屋にもちゃんと窓がついていて、夜の空が見える。
空間をどこかにつなげて空気や窓の景色を送っているのだろう。精霊王の力怖い。
「上下水が完備されてるし、めちゃくちゃ住みやすいんだけど。しかも結構広く作ってくれたなぁ。」
ワンルーム位を想定していたのに、5LDKあるんですけど・・・・・・。
しかもそのうちの一つは空間魔法がかかっている。倉庫として使えということだろうが、多分目に見える空間の数十倍の容積が入るだろう。
「匠のやりすぎが存分に出ている・・・・・・。これは頑張って魔王退治しないとなぁ。」
私は魔道具のコンロを見つめながら苦笑した。
私と精霊王たちは、脳内で会話やイメージのやり取りができる。
なので、住んでいた家の設備を詳細に映像として伝えられるのだ。
そして、自分の専門分野ならなんでもござれな方々は、お互いに協力して最高のものを作り上げた。
しかし、冷やかしで見に行った高級マンションよりすごいものがここに再現されるとは思わなかった。
どう見てもシステムキッチンのソレを見て、コンロにオーブンどころか、食洗機相当の何かまでついてるの怖いんですけど?????
「って、まって?!」
ハッとして慌ててトイレに駆け込む。
そこには、洋式トイレが鎮座していた。
「神よ・・・・・・。あ、いや、精霊王よ・・・・・・。」
思わず膝をついて祈ってしまった。
「凄い!マジで?!」
私はレバーをひねると、水が流れる。しかも、普通にシャワートイレになってるのだ。
まぁ、多分見た目と機能は同じだけど、構造は全然違うんだと思う。トイレの水の仕組みくらいは知ってるからそれを模して造られてるようだけど、さすがにシャワートイレの構造は私も知らないし。
お風呂に行っても同じだった。そこには私の知っている日本のお風呂があった。シャワーもある。
もう無理。ここに一生住む。宿屋とか帰りたくない・・・・・・。
もちろんテレビはなかった。でも、冷蔵庫や洗濯機はあった。見た目はもう本当にそれだ。だが、多分構造が違う。それでも役割は果たすだろう。
魔法凄い。精霊王凄い。ビバ日本の現代建築!
異世界とは一体・・・・・・。
まぁ、深く考えたら負けである。ようは何でもありなのだ!!!・・・・・・多分。
私はルンルンで宿屋に帰ってきた。本当は帰ってきたくなかったが、帰ってきた。
あの調子なら、普通に調合器具も作ってもらえたなと思うが、そこはアマンダさんにお願いしたし、そちらを頼ろう。
翌日、私は二人にお願いして、実家へ帰ってきた。
「たっだいまー。」
勢いよく玄関の扉をあけると、今日は皆勢ぞろいしていた。
「あら、メリルお帰りなさい。」
「あ、ねーちゃん!お土産は?!」
「おかえりー。」
それぞれにうっすい反応が返ってくる。久しぶりに帰ってきてもこうなの・・・・・・そんなに久しぶりでもなかったわ。
「前買ってきたでしょ!さすがに何回もは無理だよ。」
「キャー!シュレイン様ー!!」
一人やばいのがいる。あーあー、シュレインさんにすり寄ってるわ。ほっとこ。
「で、今日はどうしたんだい?」
おじいちゃんが私の後ろにいるシュレインさんとアマンダさんを見ている。そう、二人も来ていたのだ。それなのに通常運転の実家怖い。
「えっと、今日は御仕事で来たんだよー。で、こちらが今日の主役のアマンダさん。シュレインさんはこの前来たから覚えてるよね?」
「初めまして。わたくしエスカルパ商会の娘で、アマンダ・エスカルパと申します。今回は、薬草を買い付けたいと思い、聖女様からご紹介を受け、お伺いいたしました。よろしくお願いいたします。」
そう言って優雅にカーテシーをする。さすがの子爵令嬢。
「先日は自己紹介をせずにすみませんでした。聖女殿の護衛をさせていただいております、王宮騎士第一部隊所属のシュレイン・ハルドリックと申します。」
シュレインさんも頭を深々と下げる。二人とも貴族なのに、私の家族とはいえ庶民にそんな姿勢をとるのかとちょっと驚いた。
しかも、貴族とは一言も言わない。二人ともいい人なのだ。
「まぁ、王都からわざわざお越しいただいて。これから作業に出ようと思っていたんだけれど、お茶を入れましょうか。」
「いえ、できましたら薬草を見せていただけたらと。」
「そうですか。では、持ってきましょう。お座りになってお待ちください。」
「あ、わたくしはついて行ってもよろしいですか?できたら収穫量の話なんかも聞きたいので。」
「汚いところですがよろしいですかね?」
「お邪魔じゃなければ、ぜひ。」
「では、こちらへ。ロルフ、お前も来てくれ。」
「はいよ。」
父と次男のロルフ兄さんがアマンダさんと出ていく。私はテーブルに着いた。
「おかーさん、私とシュレインさんにお茶お願いします。」
「はーい。」
母はにっこりとお茶を用意しに行った。
シュレインさんに、横に座るように椅子を指し示す。
「私は・・・・・・。」
「いいから。ここは普通の村だから礼儀とかそっちが気にしないで。そうじゃないと家の人が気をつかって大変だから。」
「すみません。では。」
そう言って隣に座るシュレインさんの横に、ちゃっかり姉のソフィアが座っているのはもう見ないことにした。
「この前聞けなかったんですけど、恋人はいらっしゃるの?!」
あー前言撤回したい。うちの人、気をつかわないわー。
「いません。」
「キャー!じゃぁ、私とおつきあっ」
単刀直入オブラート一切なしのフルオープンアタックをかます孫を、祖母がニコニコとしながらはたいた。
「ちょっとー。おばーちゃん?」
「あら、お茶が飲みたいわ。まだかしら?」
「はーい、今持ってきましたからね。ソフィアもいる?」
「うん。で、シュレイン様はどんな女性が好みですか?!」
お願い、姉よ止めて!身内のそういうのきつい!
「あー、シュレインさん、答えなくていいですから。本当にすみません。うちの家族は気をつかわない家系でしたわ。」
「いえ、聖女殿のご家族らしいです。」
こやつ、さらっと言いよる。
「何よー。都会のイケメンと話したいのよ!」
姉もぶっちぎっていく。あああ。
「すみませんね。うちの子が。メリルはちゃんとやってますか?」
祖母の隣の祖父が聞いてきた。
「はい。聖女殿は民の為に率先して動いています。」
そんな風に言ってくれるのかと、私はびっくりしたが、とても嬉しかった。
「農業しかしてこなくて、色々とできないことも多いと思いますし、ご迷惑をおかけしてるかと思いますが、よろしくお願いいたします。」
そう母も頭を下げる。
「私だってちゃんと働いてるよ!昨日も魔物倒したよ。」
「あら、そんなことしてるのねぇ。気を付けてね。」
祖母が心配そうに言う。
「そういえば、魔物がここ最近多く出るようになったってギルドの人が言ってたね。それで、薬草の買取価格が上がったんだ。」
「えええ?!村は大丈夫なの?」
「そうだねぇ。ここは特にそんな感じもないけどね。町に行くまでに遭うこともないし。」
「ならよかった。」
村に魔よけの結界を張っているとはいえ、町の方に魔物が多くなってるなら心配だ。それに、ポーションの原材料価格が上がってしまう!
「ポーションの材料にしたくて定期的な買い付けをしたかったんだけど、それだと厳しいかなぁ。」
こちらの買取価格が上がるのは仕方ないが、町も必要とする薬草が減ったら困ってしまうだろう。
「町の方も様子を見た方がいいかもしれませんね。」
「そうだね。」
そんな話をしつつお茶を飲んでいると、三人が帰ってきた。
「聖女様!ここの薬草凄く質がいいですよ!さすがですね!!」
アマンダさんが興奮している。
まぁ、精霊王の指導の下、精霊王の水で育ててる薬草である。質もよかろう!!エッヘン!!
自分たちが丹精込めて作ってきたものを褒められ、全員がニッコニコだ。
「もう本当に喉から手が出るほど買い占めたいですが、周辺に卸してる事情も含め、買い付けの量を決めたいんですけど、調合でどの程度必要か教えていただきたいです。」
「はーい。」
一家も含めて話し合いをし、色々と決めていった。
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